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納得いかない
しおりを挟む実家から届いたばかりのどら焼きをひとつ差し出したら、サーヤは箱ごと奪って、どら焼きと引き換えに芦屋家の裏事情を全部ぶちまけてきた。
「……政治家が呪殺依頼って、しかもあの実直が売りのダースーが……」
「ダースーっていうか、官邸の危機管理判断よ。内調が首相暗殺計画を掴んで──」
「首相暗殺!?」
思わず声が裏返る私に、サーヤはどら焼きを頬張りながら平然と返す。
「うまっ! これ何処のどら焼き?」
スケールがでっかい話をしてるのに、緊張感ゼロ。神使って、こういうの慣れてるの?
「珍味堂の塩辛どら焼きよ」
もぐもぐしているサーヤに、お茶のお代わりを注いであげる。唇をすぼめてチュルチュル飲むところは、本来の姿──鶴を彷彿とさせた。
「呪禁師を使った霊的テロ。ただ証拠がなくて、黒幕の『はにかみ党』は立件できないのよ」
「でも、内調が動いたってことは、何かあったんじゃ──」
「総理、毎晩バッタの大軍に襲われる悪夢を見て、体調崩してたらしいわ。はにかみ党の呪禁師が、藁人形とか総理の名前を書いたノートでも持っていればねぇ」
……それ、証拠になるの?
「なるのよ~。でも芦屋の前当主の遺体に呪詛返しの痕が残っていたから、こちらから先に仕掛けたって状況証拠はばっちりなの」
うっ……リアルに想像したら吐きそう。
「ダースーは独断で依頼したってことにしたけど、実際は官邸の尻ぬぐい。ダースーから芦屋家に依頼が回ってきたのは、検察との落としどころってわけ」
「でも……その時圭太のお父さんが無くなったのに、また芦屋家に依頼するなんて……」
「バカね。芦屋の当主は二代続けて、危険を承知で引き受けたのよ。現政権に実力を示すチャンスだったんだから」
『──せやけど僕は、芦屋家の取り潰しだけは、防がなあかんねん──』
あの言葉が胸に刺さる。私は、彼らの覚悟も背負うものも、何も知らなかった。
……まあ、圭太が全部話してくれても、信じたかどうかは怪しいけど。
「考えてもごらん茜ちゅわん。失敗した芦屋家に、名誉挽回のチャンスよ? 芦屋の坊ちゃんが成功すれば、内閣府お抱え術師だったの……まあ、失敗したけどね」
そうよ、結局圭太は今ICUじゃない……。やっぱり柳楽家か一度断ったということは、ただの案件じゃなかったんだわ。
サーヤは三つ目のどら焼きを丸呑みして、目が潰れそうなほどデコられたスマホを取り出す。
「どんな霊的案件だったか知りたい? ネットじゃちょっと話題になってたわよ」
画面には「白訪市の怪異」のスレッド。
──森の枝に鳥とかリスが刺さってた
──庭の木にアライグマ、今日はウサギ
──俺んちの近くは鹿。鹿だよ?
──ばあちゃん曰く、白訪には生贄信仰があったらしい ……
──これ……そのうち人も刺さるんじゃ……
「………………」
私はスマホから顔を上げて、サーヤを凝視した。
「これ、本当のことなの?」
「動物が刺さってたのは本当よ。通報も何件もあったし。百舌の早贄にしてはサイズがね……」
ゾワッと鳥肌が立つ。
「顔、真っ青じゃなーい。大丈夫よ。古の神々じゃないし、土着神も国津神もちゃんと祀られてる。祟り神化してないわ」
「国津神って、日本神話の……?」
「そう。白訪大明神ね。でも最近は冬の『女神渡り』にも出てこないし、基本寝てるのよ」
寝てるって……神様よね?
「最後に話したの百年前かしら。『最近、息するのも面倒』って言ってたわ」
神様って息するの!?
「今も元気なのは、うちの憑神、オロチンくらいね。未だにビンビンよ!」
……得意げに言われても。
でも、頭から離れない。
──そのうち人も突き刺さるんじゃないの?
「心配なのは分かるわ。物理的に作用する悪霊って、もう霊じゃない。鬼や妖、あるいは神の類だから」
「だから蓮くんのお爺ちゃんは断ったの? 大蛇じゃ勝てないって?」
「違うわ。ウチの憑神も神よ? 問題はそこじゃない」
サーヤの目が、遠くを見透かすように細められる。
「過去にも白訪では、奇妙な事件があったの。湖に、逆さに突き刺さった身元不明の遺体が、何体も見つかった。始まりは、森の木々に動物が串刺しになる現象だったわ」
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