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大蛇(オロチ)舞う
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地下から膨大な力が迫って来た。
神事の時の、あれだ。あれがくる。
大蛇が──。
ものすごい質量を持ったそれは、私と蓮君の体を通り抜け天に昇っていく。
「くっ……ぁぁぁぁ!」
体を乗っ取られそう………というより、こちらから明け渡したくなる。
──ああ、そうよこの感じ。
神事の時に身体を満たした、あのエクスタシーが再び……。
その絶頂に似たエネルギーは天空で大きくうねり、向きを変え引き返してくる。
そして、黒い瘴気の前で口を大きく開けた。
──バクンッ!
「大蛇が、ゴンベエナマズを喰らった」
唇を離して、蓮君はそう言った。
「今度は上から来ますよ」
え……二回目!? 弛緩していた私の体が、フワリと浮いていた。彼が軽々と持ち上げたのだ。
「大丈夫。俺に、しっかりひっついてください」
言われた通り、私は彼の首に腕を回し、脚を持ち上げて胴体にしがみついた。
冷たくなった私のお尻を、蓮君は温かい大きな手で支えてくれる。
まるで木に止まるセミみたい。でも密着することで、蓮君の体温をより強く感じ、ほうっと息をついた。
これほどの安心感はない。私は目を閉じて、次の衝撃に備えた。
「ごめんね、力を貸してください。もっと」
耳元で囁かれた低い声に、胸が震える。その直後──膨大な熱量が体の芯を突き抜けた。
「────っ!?」
全身が跳ね上がり、声が喉でつまる。
蓮君は私を抱きしめたまま、蛇石を高く放り投げた。
大蛇はそれを合図に、龍のように火を噴きながら落下する。
「あっあっぁぁぁぁぁ──っ!」
悲鳴を吸い取るように、今度は蓮君から唇が重ねられた。
まるで落雷だった。先ほどの比ではない衝撃に、意識が真っ白になる。
オロチの長い胴が、私たちの中を荒々しく通り抜けていく。
頭から尾の先まで──体の奥がきしむように震えた。
やがて大蛇は通り過ぎ、地下深くへ沈んでいった。
蓮君は名残惜しそうに唇を離し、感極まった震える声で囁いた。
「また……ひとつになれましたね」
そして静かに、長い長い祝詞を紡ぎだす。
今までの昂りが嘘のような、落ち着いた、透き通るような声だった。
「今日の夕日の降の 大祓に祓へ給ひ清め給ふ事を 諸々聞食せと宣る」
全て唱え終わると、周囲の空気が真冬のようにキンッと引き締まる。
気づけば日の沈んだ白訪湖の景色は、銀色の月を映し、本来あるべき美しい姿に戻っていた。
私は弛緩した身体で蓮君に寄りかかり、ただその景色を見つめるだけだった。
蓮君はそんな私を抱えなおし、スマホを出してどこかに連絡する。
「大蛇が喰らった。あとのことは頼むね」
次に蓮君は、離れて調伏を見ていたサーヤに命じた。
「俺たちを屋敷へ。茜さん、風邪ひいちゃうよ」
サーヤがフンッと鼻を鳴らし、不機嫌な声で反抗する。
「ごめんだわねっ! 一日に何度もできないわよ、しかも二人でしょ」
「大丈夫、お前が一緒に飛ばなきゃいけるでしょ。それに、俺とあかねさんは今、二人で一人分だから」
私はとろんとした目で、蓮君を見返した。まだ降臨の余韻が消えず、恍惚としていたからだ。
蓮君は息を呑んで私を見つめ、痛々しいほど切羽詰まった声でサーヤに言う。
「マジで……早く、頼む」
「私も混ざりたい。夢の3ピ──」
「それはダメ。いいから早くしろ、憑神家の血において命じる」
サーヤはカッカしながら、私たちに両手をかざした。
「何よ見せつけちゃって! 場所を間違えたって知らないんだからね!」
バサッと鳥の羽のようなものに包まれ、ようやく私は我に返った。
あ、これはテレポートの合図。
サーヤのこれ、鶴の羽なのかしら。
ぐるりんっと暗転して酔いそうになり、私は咄嗟に固く目を閉じていた。
次に目を開けると、そこは柳楽家ではなく──ラブホだった。
神事の時の、あれだ。あれがくる。
大蛇が──。
ものすごい質量を持ったそれは、私と蓮君の体を通り抜け天に昇っていく。
「くっ……ぁぁぁぁ!」
体を乗っ取られそう………というより、こちらから明け渡したくなる。
──ああ、そうよこの感じ。
神事の時に身体を満たした、あのエクスタシーが再び……。
その絶頂に似たエネルギーは天空で大きくうねり、向きを変え引き返してくる。
そして、黒い瘴気の前で口を大きく開けた。
──バクンッ!
「大蛇が、ゴンベエナマズを喰らった」
唇を離して、蓮君はそう言った。
「今度は上から来ますよ」
え……二回目!? 弛緩していた私の体が、フワリと浮いていた。彼が軽々と持ち上げたのだ。
「大丈夫。俺に、しっかりひっついてください」
言われた通り、私は彼の首に腕を回し、脚を持ち上げて胴体にしがみついた。
冷たくなった私のお尻を、蓮君は温かい大きな手で支えてくれる。
まるで木に止まるセミみたい。でも密着することで、蓮君の体温をより強く感じ、ほうっと息をついた。
これほどの安心感はない。私は目を閉じて、次の衝撃に備えた。
「ごめんね、力を貸してください。もっと」
耳元で囁かれた低い声に、胸が震える。その直後──膨大な熱量が体の芯を突き抜けた。
「────っ!?」
全身が跳ね上がり、声が喉でつまる。
蓮君は私を抱きしめたまま、蛇石を高く放り投げた。
大蛇はそれを合図に、龍のように火を噴きながら落下する。
「あっあっぁぁぁぁぁ──っ!」
悲鳴を吸い取るように、今度は蓮君から唇が重ねられた。
まるで落雷だった。先ほどの比ではない衝撃に、意識が真っ白になる。
オロチの長い胴が、私たちの中を荒々しく通り抜けていく。
頭から尾の先まで──体の奥がきしむように震えた。
やがて大蛇は通り過ぎ、地下深くへ沈んでいった。
蓮君は名残惜しそうに唇を離し、感極まった震える声で囁いた。
「また……ひとつになれましたね」
そして静かに、長い長い祝詞を紡ぎだす。
今までの昂りが嘘のような、落ち着いた、透き通るような声だった。
「今日の夕日の降の 大祓に祓へ給ひ清め給ふ事を 諸々聞食せと宣る」
全て唱え終わると、周囲の空気が真冬のようにキンッと引き締まる。
気づけば日の沈んだ白訪湖の景色は、銀色の月を映し、本来あるべき美しい姿に戻っていた。
私は弛緩した身体で蓮君に寄りかかり、ただその景色を見つめるだけだった。
蓮君はそんな私を抱えなおし、スマホを出してどこかに連絡する。
「大蛇が喰らった。あとのことは頼むね」
次に蓮君は、離れて調伏を見ていたサーヤに命じた。
「俺たちを屋敷へ。茜さん、風邪ひいちゃうよ」
サーヤがフンッと鼻を鳴らし、不機嫌な声で反抗する。
「ごめんだわねっ! 一日に何度もできないわよ、しかも二人でしょ」
「大丈夫、お前が一緒に飛ばなきゃいけるでしょ。それに、俺とあかねさんは今、二人で一人分だから」
私はとろんとした目で、蓮君を見返した。まだ降臨の余韻が消えず、恍惚としていたからだ。
蓮君は息を呑んで私を見つめ、痛々しいほど切羽詰まった声でサーヤに言う。
「マジで……早く、頼む」
「私も混ざりたい。夢の3ピ──」
「それはダメ。いいから早くしろ、憑神家の血において命じる」
サーヤはカッカしながら、私たちに両手をかざした。
「何よ見せつけちゃって! 場所を間違えたって知らないんだからね!」
バサッと鳥の羽のようなものに包まれ、ようやく私は我に返った。
あ、これはテレポートの合図。
サーヤのこれ、鶴の羽なのかしら。
ぐるりんっと暗転して酔いそうになり、私は咄嗟に固く目を閉じていた。
次に目を開けると、そこは柳楽家ではなく──ラブホだった。
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