アラサー失恋女子、合コンで年下御曹司(25)にロックオンされる〜タワマン25階住みでも、怪しい壺なんて買いません!〜

世界のボボブラ汁(エロル)

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職場にお迎え

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 定時で帰ろうとした私を、ちょうどロッカー室から出てきた真奈美ちゃんが呼び止めた。

「日下部さん、今日はお洒落してる!」

 え……と、いつものパンツスーツを見下ろす。

「そんなことないけど」
「リップがいつもより濃い!」

 目ざといな。ほっといてちょうだいよ。

「最近、あの冷たそうな銀縁眼鏡もかけなくなったし、もしかして彼氏できました? あの霊能者とか?」

 私は曖昧に笑って、逃げるように従業員出口へ向かう。わりと足早に歩いたのに、小走りで真奈美ちゃんが追いついてきた。

 ……今日は振り切りたいんだけど。

「お、日下部さん! お疲れ様です!」

 原科君が警備室の受付窓口に張り付き、目を輝かせる。

「俺ももう上がりなんで、今日こそは二人で飯──」

 ずいっと、真奈美ちゃんが私と原科君の間に割り込んだ。

「原科君ってぇ、ほんっと年増が好きなんだねぇ」

 と、と、年増ですと!? さすがに頭にきたが、まあ彼女の年齢からしたらそうなのだろうか。

「年増じゃないですよ! エッチなお姉さんです!」

 焦って喚く原科君。それでフォローしているつもりか!

「ごめん、原科君。私、彼氏ができたから二人きりはちょっと。皆でだったら、今度ね」
「そうそう、日下部さんは変な霊能者と──」

 真奈美ちゃんは私が言った言葉をようやく理解し「えぇええええっ」と叫び声をあげた。

「やっぱり付き合うことになったんですね!」

 そんなぁ……と、警備室で立ち尽くす原科君を置いて、私は競歩並みの速さで真奈美ちゃんを引き離そうとする。

「マジですかぁ? はぁっはぁっ、じゃあ、真奈美が恋のキューピットってこと? はぁっはぁっ」

 身長差があるのに、息を荒げながら追いかけてくるんだもん。真奈美ちゃんのファイトに負けて、私は速度を緩めた。

「まあ……そうね。きっかけを作ってくれてありがとう、真奈美ちゃん」

 彼女が誘ってくれたから、蓮君と出会えたわけだし──。

「でもでもぉ、真奈美責任感じちゃう。さすがにヤバいですってば。本当にカモにされちゃいますよ。一人暮らしの寂しいお局を狙う、イケメン年下霊能者なんて」
「心配はご無用よ」
「まあ騙されてる人って、だいたい認めたがらないからぁ」

 ニマニマしながら、真奈美ちゃんは私の顔を覗き込んでくる。

 もうっ、しつこいな! いつまでもついて来ないでほしいんだけど。

「こっちは駐車場よ?」
「実はぁ、私も今日、デートなんですよ! 彼氏が車でお迎えなんです」

 ぐ……まずいわね、これでは鉢合わせしてしまう。

「私の彼ね、○○グループの役員の息子なの」
「そ、そうなんだ」

 私は辺りをキョロキョロ見渡した。えーと、Bの3は……。さすがに車を停めてる場所は別よね?

 もしばったり会っちゃったら、蓮君の前で本人をバカにしそうで怖いわ。どうにかして撒けないかしら……。じっとり冷や汗がにじむ。

「茜さん」

 なんてこと、あちらから見つけてきたわ。蓮君が、すぐ近くの駐車スペースからひょこっと顔を出し、手を挙げている。

 案の定、真奈美ちゃんがプッと吹き出す。

「やっだぁマジだわ! あの時の霊能者と付き合ってるとか、ウケるんだけどぉ。日下部さん、今日はどんな霊感グッズ買わされるんですか?」
「いいかげんにして」

 私もちょっと前までは、霊能者を頭から疑っていた。彼女がそう思うのは別にかまわない。でもお願いだから、蓮君には聞こえないように言ってちょうだい。

 ゲッソリしている私の横で、今度は驚いたような真奈美ちゃんの声がした。

「あ、大夢ひろむくん」

 蓮君の隣に、柄シャツに金のチェーンのネックレスをした男の人が立っていた。

「……知ってる人?」
「真奈美の彼です」

 ちょっとビビる。チンピラ風なんだけど……。

 二人に近づいてから、真奈美ちゃんは訝しげに尋ねる。

「霊能者の人が、どうして大夢ひろむ君と一緒に居るの?」

 真奈美ちゃんの彼氏は、蓮君の顔を窺いながらしどろもどろに答えた。

「えと、そこの彼は……俺のトラブルを、その……いい感じに……ほら、解決してくれた方なんだよ。今日は、ここをブツの受け渡し場所に指定されて……真奈美の職場だったのは驚いたけど」

 その言い方、何かヤバい取引でもしてそうだけど!?

「ブツって?」

 真奈美ちゃんに追求され、彼氏はだいぶ歯切れが悪い。

「白い粉と光りもの──」
「清めの塩と破魔矢です」

 蓮君が控えめに訂正する。

 トラブル……そうか、彼の会社、NAGIRAコーポレーションの顧客なんだ。

「まさか魔除け?」

 真奈美ちゃんは、彼が持っている小さな破魔矢に視線を落とした。

「どういうこと? ヒロムンにまで高額な霊感グッズ買わせようとしてる?」

 までって言うな、私は買わされてません!

 真奈美ちゃんの問いに、柄シャツの男の人は目に見えて狼狽えだした。

「あ……いや、言っても信じないだろうけど、最近怪奇現象に悩まされていて……父から彼を紹介してもらって」
「きゃっはっはっ何それウケる~」

 いや、分かるけど、彼氏可哀想だよ。顔真っ赤にしてる。

 一方で、蓮君は気にした様子もない。

「今回は個人向けサービスです。○○グループさんにはお世話になっていますので。でも色情霊と女の生霊と水子霊は、ご依頼主の素行が悪いからなので、今後はきっちり清算してから──」
「わぁあああわぁあああ!」

大夢ひろむ君とやらは、真奈美ちゃんに聞こえないように、蓮君の言葉をかき消す。

 え? 何よ、なんなの? と蓮君と自分の彼氏を見比べる真奈美ちゃんに一礼し、蓮君は私の手を握った。

「では、お互いデートを楽しみましょう」

 まだこっちを見ている真奈美ちゃん達に背を向け、自分の車を停めたスペースに私を促す。

 しまった、運転手付きのデカいセダンを見られたら何か言われそう。あれはいかにもインチキ臭いものね……。

 私は車に乗るところを見られずに帰れないか、あれこれ模索した。いったん施設の中に入って買い物をして、真奈美ちゃんたちが行っちゃってからっていうのはどうかしら──。

 蓮君が私の挙動不審に気づいた。

「今日は、橘さんの運転する車じゃないけどいい? 俺の運転で横浜までドライブ行きましょう」

 そう言って案内してくれた駐車スペースには、銀色のポルシェ──私の額にじっとり汗が浮かぶ。

「なんか……悪どいことしてきた成金に見られそう」

 蓮君がきょとんとする。いや、彼は詐欺師じゃないもん。困った人を助ける、真っ当な仕事だし。

 そういうのは、私だけが知っていればいいか。

「いいなー! 大夢くん、どうしてポルシェじゃないのぉおお」

 背後で、彼氏を責める真奈美ちゃんの声がした。蓮君はチラッと振り返って、不安そうに私に聞いた。

「国産の方が良かったですか? 二十五歳の誕生日プレゼントにNSX-R GTを譲ってもらったんですが」
「私、車分からないから、なんでもいい」

 金銭感覚が違うのは、早く慣れなきゃ。

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