67 / 68
ドライブデート
しおりを挟む
蓮君が助手席のドアを開けると、革張りのシートの上に子狐が二匹、へそ天で寝ていた。
彼は無言で二匹を外に追い出し、シートに残った毛をパタパタ払ってから「どうぞ」と私に手を添えた。
右京と左京だ。モフれる! シートに収まった私は胸を高鳴らせ、膝に乗せるために両腕を広げた。
しかし、子狐たちが嬉々として飛び込んでこようとした瞬間、蓮君が助手席のドアをすっと閉めてしまう。
窓に顔面から張り付いた方は、多分左京さんだな……。間が悪いから。
蓮君は運転席に座ってエンジンをかけたが、すぐには車を出さず、ハンドルに腕を預けてそこに顎を乗せた。
相変わらず胡散臭い笑みを浮かべ、どこか遠くを見つめている。
ショピングセンターの入口は、夕方の買い物客で少し混んできた。
「蓮君……?」
「明日せっかくの休みなのに、すみませんね。ギリギリまで一緒にいたいです」
ため息混じりに言われる。どうやら、笑っていたわけじゃなくて、考え込んでいたのね。けれど言われた私の方が、つい苦笑してしまった。
「圭太……圭介……えと雁助さんのね」
名前が面倒臭いな! でも、その名を口にしても、もう傷つくことは無かった。
「結婚式は、柳楽の代表で出るんでしょ?」
陰陽師の結婚式と聞いて、最初は晴明神社かなと思った。しかし新婦側の都合で、場所は京都ではなく都内のホテル椿峰荘らしい。
政治家のお爺ちゃんたちが大量に出席する、大きな式になるのだとサーヤから聞いた。
圭太、緊張しないのだろうか。
「祖父は、白訪湖の事後処理で忙しいようですから。それより……俺、茜さんと一緒に出たかったな」
もちろん、元カノの私を式に招待するなんて普通はあり得ないし、私だって行きたいとは思わない。
お相手の女性に刺されそうだもの。血のウェディング一直線だ。
「あ、明日念のためサヤ子を呼び寄せておこうかな。茜さんがいつでも俺のところに飛んで来られるように」
「いや、それはやめた方がいいわ」
「ですよねぇ。あいつ、式の真っ最中に圭介さんの隣へ、茜さんをテレポートしそうで怖い」
やりそう。青ざめた私の顔に気づいてか、蓮君は話を切り上げ、車を発進させた。
いつも運転手付きだったので、ペーパードライバーかと思っていたが、運転は手慣れたものだ。
要領が良くて、何でもそつなくこなすタイプらしい。
首都高に入り、車は横浜方面へ向かう。
ビルの谷間を抜けていく中、私は紙袋を取り出し、膝に置いた。蓮君が横目で私の膝に視線を落とす。
「──それ、なに?」
「式の後、圭太と会う機会があるなら、渡してもらった方がいいかなと思って。一応持って来たの。……圭太のシャツよ。ちゃんとクリーニングに出しておいた」
蓮君が押し黙る。
いや、勝手に捨てたら悪いじゃない? これのおかげで、しばらく生き延びてきたわけだし。
あれ……蓮君拗ねた?
「……やっぱりダメよね。ハレの席だもん。どうしよう、郵送にした方がいいかしら? それとも、処分しちゃっていいかな」
蓮君はまだ黙ったままだ。その空気に焦った私は、急いで言い足した。
「そ、それでね、蓮君のシャツをもらえるかな? 前のはほら、蓮君に引き裂かれちゃったし。今着てるのでもいいし、洗っていないのがほしいの」
その瞬間、車が少しスピードを落とした。前方の渋滞に気づいたようだ。蓮君は前を向いたまま、頬をぽりっと掻いた。
良かった。不機嫌な訳ではなさそうだ。
「もしですよ……俺があの時力任せに引きちぎらなかったら、ずっとアレを着ている気だったんですか? ……洗わないで」
聞かれた私は、恥ずかしさのあまり俯く。
「だって、お守りになるし……くるまって寝ると落ち着くから」
「茜さんの下着、今穿いてるやつでいいからくれる? お守りになるし、頭に被ると落ち着くから」
「へ、変態っ!!」
「でしょ?」
蓮君は片手で口元を覆い、笑いを必死に堪えている。そうね、同じよね。私も変態だわ。
「正直、圭介さんのは汚な……って思ったけど、俺のは嬉しいですよ。何枚でも、脱ぎたてホヤホヤサイン入りシャツあげるから。ちゃんとマメに洗ってくださいね」
そして、からかうように付け加える。
「またすぐ俺に破かれちゃうだろうし」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
※次回で完結です!
寂しい……😢
彼は無言で二匹を外に追い出し、シートに残った毛をパタパタ払ってから「どうぞ」と私に手を添えた。
右京と左京だ。モフれる! シートに収まった私は胸を高鳴らせ、膝に乗せるために両腕を広げた。
しかし、子狐たちが嬉々として飛び込んでこようとした瞬間、蓮君が助手席のドアをすっと閉めてしまう。
窓に顔面から張り付いた方は、多分左京さんだな……。間が悪いから。
蓮君は運転席に座ってエンジンをかけたが、すぐには車を出さず、ハンドルに腕を預けてそこに顎を乗せた。
相変わらず胡散臭い笑みを浮かべ、どこか遠くを見つめている。
ショピングセンターの入口は、夕方の買い物客で少し混んできた。
「蓮君……?」
「明日せっかくの休みなのに、すみませんね。ギリギリまで一緒にいたいです」
ため息混じりに言われる。どうやら、笑っていたわけじゃなくて、考え込んでいたのね。けれど言われた私の方が、つい苦笑してしまった。
「圭太……圭介……えと雁助さんのね」
名前が面倒臭いな! でも、その名を口にしても、もう傷つくことは無かった。
「結婚式は、柳楽の代表で出るんでしょ?」
陰陽師の結婚式と聞いて、最初は晴明神社かなと思った。しかし新婦側の都合で、場所は京都ではなく都内のホテル椿峰荘らしい。
政治家のお爺ちゃんたちが大量に出席する、大きな式になるのだとサーヤから聞いた。
圭太、緊張しないのだろうか。
「祖父は、白訪湖の事後処理で忙しいようですから。それより……俺、茜さんと一緒に出たかったな」
もちろん、元カノの私を式に招待するなんて普通はあり得ないし、私だって行きたいとは思わない。
お相手の女性に刺されそうだもの。血のウェディング一直線だ。
「あ、明日念のためサヤ子を呼び寄せておこうかな。茜さんがいつでも俺のところに飛んで来られるように」
「いや、それはやめた方がいいわ」
「ですよねぇ。あいつ、式の真っ最中に圭介さんの隣へ、茜さんをテレポートしそうで怖い」
やりそう。青ざめた私の顔に気づいてか、蓮君は話を切り上げ、車を発進させた。
いつも運転手付きだったので、ペーパードライバーかと思っていたが、運転は手慣れたものだ。
要領が良くて、何でもそつなくこなすタイプらしい。
首都高に入り、車は横浜方面へ向かう。
ビルの谷間を抜けていく中、私は紙袋を取り出し、膝に置いた。蓮君が横目で私の膝に視線を落とす。
「──それ、なに?」
「式の後、圭太と会う機会があるなら、渡してもらった方がいいかなと思って。一応持って来たの。……圭太のシャツよ。ちゃんとクリーニングに出しておいた」
蓮君が押し黙る。
いや、勝手に捨てたら悪いじゃない? これのおかげで、しばらく生き延びてきたわけだし。
あれ……蓮君拗ねた?
「……やっぱりダメよね。ハレの席だもん。どうしよう、郵送にした方がいいかしら? それとも、処分しちゃっていいかな」
蓮君はまだ黙ったままだ。その空気に焦った私は、急いで言い足した。
「そ、それでね、蓮君のシャツをもらえるかな? 前のはほら、蓮君に引き裂かれちゃったし。今着てるのでもいいし、洗っていないのがほしいの」
その瞬間、車が少しスピードを落とした。前方の渋滞に気づいたようだ。蓮君は前を向いたまま、頬をぽりっと掻いた。
良かった。不機嫌な訳ではなさそうだ。
「もしですよ……俺があの時力任せに引きちぎらなかったら、ずっとアレを着ている気だったんですか? ……洗わないで」
聞かれた私は、恥ずかしさのあまり俯く。
「だって、お守りになるし……くるまって寝ると落ち着くから」
「茜さんの下着、今穿いてるやつでいいからくれる? お守りになるし、頭に被ると落ち着くから」
「へ、変態っ!!」
「でしょ?」
蓮君は片手で口元を覆い、笑いを必死に堪えている。そうね、同じよね。私も変態だわ。
「正直、圭介さんのは汚な……って思ったけど、俺のは嬉しいですよ。何枚でも、脱ぎたてホヤホヤサイン入りシャツあげるから。ちゃんとマメに洗ってくださいね」
そして、からかうように付け加える。
「またすぐ俺に破かれちゃうだろうし」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
※次回で完結です!
寂しい……😢
52
あなたにおすすめの小説
【完結】クズ男と決別した私の未来は輝いている。
カシスサワー
恋愛
五年間、幸は彼を信じ、支え続けてきた。
「会社が成功したら、祖父に紹介するつもりだ。それまで俺を支えて待っていてほしい。必ず幸と結婚するから」
そう、圭吾は約束した。
けれど――すべてが順調に進んでいるはずの今、幸が目にしたのは、圭吾の婚約の報せ。
問い詰めた幸に、圭吾は冷たく言い放つ。
「結婚相手は、それなりの家柄じゃないと祖父が納得しない。だから幸とは結婚できない。でも……愛人としてなら、そばに置いてやってもいい」
その瞬間、幸の中で、なにかがプチッと切れた。
ワイルド・プロポーズ
藤谷 郁
恋愛
北見瑤子。もうすぐ30歳。
総合ショッピングセンター『ウイステリア』財務部経理課主任。
生真面目で細かくて、その上、女の魅力ゼロ。男いらずの独身主義者と噂される枯れ女に、ある日突然見合い話が舞い込んだ。
私は決して独身主義者ではない。ただ、怖いだけ――
見合い写真を開くと、理想どおりの男性が微笑んでいた。
ドキドキしながら、紳士で穏やかで優しそうな彼、嶺倉京史に会いに行くが…
押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました
cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。
そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。
双子の妹、澪に縁談を押し付ける。
両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。
「はじめまして」
そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。
なんてカッコイイ人なの……。
戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。
「澪、キミを探していたんだ」
「キミ以外はいらない」
結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「結婚したらこっちのもんだ。
絶対に離婚届に判なんて押さないからな」
既婚マウントにキレて勢いで同期の紘希と結婚した純華。
まあ、悪い人ではないし、などと脳天気にかまえていたが。
紘希が我が社の御曹司だと知って、事態は一転!
純華の誰にも言えない事情で、紘希は絶対に結婚してはいけない相手だった。
離婚を申し出るが、紘希は取り合ってくれない。
それどころか紘希に溺愛され、惹かれていく。
このままでは紘希の弱点になる。
わかっているけれど……。
瑞木純華
みずきすみか
28
イベントデザイン部係長
姉御肌で面倒見がいいのが、長所であり弱点
おかげで、いつも多数の仕事を抱えがち
後輩女子からは慕われるが、男性とは縁がない
恋に関しては夢見がち
×
矢崎紘希
やざきひろき
28
営業部課長
一般社員に擬態してるが、会長は母方の祖父で次期社長
サバサバした爽やかくん
実体は押しが強くて粘着質
秘密を抱えたまま、あなたを好きになっていいですか……?
【完結】泡になった約束
山田森湖
恋愛
三十九歳、専業主婦。
夫と娘を送り出し、静まり返ったキッチンで食器を洗う朝。
洗剤の泡が立っては消えるその繰り返しに、自分の人生を重ねながら、彼女は「ごく普通」の日常を受け入れている。
愛がないわけではない。けれど、満たされているとも言い切れない。
そんな午前中、何気なく出かけたスーパーで、背後から名前を呼ばれる。
振り返った先にいたのは、かつて確かに愛した男――元恋人・佐々木拓也。
平穏だったはずの毎日に、静かな波紋が広がり始める。
悪女と呼ばれた王妃
アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。
処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。
まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。
私一人処刑すれば済む話なのに。
それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。
目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。
私はただ、
貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。
貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、
ただ護りたかっただけ…。
だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ ゆるい設定です。
❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる