15 / 68
俺だって、付き合いたくはないです
しおりを挟む「ささ、乗ってください。次は茜さんの魔除けの更新だ」
駐車券を精算した柳楽君は、いそいそと車の扉を開け、有無を言わせず私を押し込む。
そのまま運転手に指示して、車をすぐに発進させた。
「俺、気分いいですよ茜さん! 仕事はちゃちゃっと終わったし、疲れてないし──それに今日は、茜さんが素直に車に乗ってくれたんだもん」
顔を覗き込みながら、柳楽君はニコニコ笑う。
素直かな……勢いに押された結果なんだけど。
「正直、終電逃してたから助かったわ。でも、さっきのは何? 原科君に誤解されるじゃない」
私が憤慨しながら言うと、柳楽君は急に真顔になった。
「え、なに? 彼に誤解されたら困るような仲なんですか?」
ううう、そういう意味じゃないけどさぁ。深くため息を吐く。なんだろう、柳楽君も圭太っぽい。
ん? これって、マーキングされてるのかしら。
「魔除け、本当にしてくれるんでしょうね?」
「もちろん」
いくらかかるか聞こうとしたところで、眠気が急激に押し寄せてきて、目を擦る。瞼が重い。
柳楽君の呆れ声がした。
「まったく……信じられない。酔ってなくても車で寝ちゃうんですか?」
重たい瞼を持ち上げると、柳楽君が覗き込んでいた。
「それとも運転手がいるから安心してる?」
彼の瞳の色が、スッと深く陰った気がした。
「だって最近寝不足だったし、今日も残業だったし──」
言いかけたところで、フラフラと吸い寄せられるように、彼が唇を近づけてきた。
私は一気に目が覚め、両手で柳楽君の胸を押して阻止する。
「ちょっと! どういうつもりなの?」
除霊の時だって、勝手にキスしたでしょ!
「私、そんなに軽く見える?」
ちぇっと舌打ちして、柳楽君は身を引いた。
「俺、さっきので寝不足が一気に解消されたから、茜さんもどうかなーって……それに──」
彼の口調が、皮肉な響きを帯びる。
「合コンにいたってことは、男が欲しいんでしょ?」
むっかぁあ!
「合コンなんて、軽い気持ちで誰でも行くわよ。出会いは大事なんだから!」
そう、寂しかったのもある。圭太が薄まるように、新しい何かが……誰かが欲しかった。
でも分かったのは──無駄だったってことだけ。
「言っとくけど、よく知らない柳楽君と、いきなり付き合いたいなんて思ってないからね!」
「俺だって、付き合いたくはない」
即答されて、開いた口が塞がらない。
「じゃ、じゃあ何でキスしたのよ!?」
ヤリモク確定じゃん。ていうか、そこまでハッキリ言う!?
「キスするに決まってるでしょ? 茜さん、隙だらけなんだからさ。よく知らない俺を、簡単に部屋に入れたりするし」
ううう、それは確かに男からしたらイケる! と思うのかもしれないけど!
「あれはたまたまですっ! 普段は隙なんてないわよ。言っとくけど、職場での私のあだ名『女史』だからね?」
ブフッと吹き出した柳楽君は、おもむろに私の顔に手を伸ばす。
警戒して身を引くと、私の眼鏡を外して矯めつ眇めつ眺めた。
「スクエア型の銀縁かぁ……これが原因じゃないんですか?」
何よ。圭太がこれがいいって言ったんだもん。自分がいない時もあるし、少しでもガード固くしとこうねって……。
「てかあのボロアパート、築何年ですか?」
「仕方ないでしょ、都内は家賃が高いんだから」
柳楽君はまた手を伸ばし、今度は耳たぶを持ち上げた。
「……きれいさっぱり消えてる」
あの時のことを思い出して、顔が一気に熱くなる。
耳裏のキスマーク、しばらく隠すの大変だったんだから。
私はツンケンしながら言い返す。
「部屋に入れたくて入れたわけじゃないしっ、あの夜は飲み過ぎていただけだしっ!」
たしかに圭太とのお付き合いは、道端でナンパに引っかかったのが始まりだった。
他人から見たら軽率なのかもしれないけど、出会いは出会いだ。
「付き合いたくないっていうのは、別にいいのよ。私だってあなたなんて御免だし。でも、付き合ってもない人と、どうこうなる気もないからね!」
気持ちは分からないでもない。
アラサーと付き合うのは面倒そうだから、あわよくばセックスだけしたいんでしょうけど。
「私、柳楽君が思ってるような大人じゃないから。割り切れる都合のいい関係なんて無理。なのに、私がぼーっとしてるのいいことに、あんなふうにキスして」
私がカッカしながら文句を言っても、柳楽君はどこ吹く風。
「報酬を前払いで頂いただけですってば」
ハッとして、彼の顔を見る。報酬──?
柳楽君は口の端を上げて、にっと笑った。
「危なかったですね。茜さんの部屋、どんよりしてきたでしょ? 今日やらないと手遅れだ」
54
あなたにおすすめの小説
【完結】クズ男と決別した私の未来は輝いている。
カシスサワー
恋愛
五年間、幸は彼を信じ、支え続けてきた。
「会社が成功したら、祖父に紹介するつもりだ。それまで俺を支えて待っていてほしい。必ず幸と結婚するから」
そう、圭吾は約束した。
けれど――すべてが順調に進んでいるはずの今、幸が目にしたのは、圭吾の婚約の報せ。
問い詰めた幸に、圭吾は冷たく言い放つ。
「結婚相手は、それなりの家柄じゃないと祖父が納得しない。だから幸とは結婚できない。でも……愛人としてなら、そばに置いてやってもいい」
その瞬間、幸の中で、なにかがプチッと切れた。
【完結】身代わりとなります
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
レイチェルは素行不良の令嬢として悪名を轟かせている。しかし、それはレイチェルが無知ゆえにいつも失態をしていたためで本人には悪意はなかった。
レイチェルは家族に顧みられず誰からも貴族のルールを教えてもらわずに育ったのだ。
そんなレイチェルに婚約者ができた。
侯爵令息のダニエルだ。
彼は誠実でレイチェルの置かれている状況を知り、マナー講師を招いたり、ドレスを作ってくれたりした。
はじめは貴族然としている婚約者に反発していたレイチェルだったがいつのまにか彼の優しさに惹かれるようになった。
彼のレイチェルへの想いが同情であっても。
彼がレイチェルではない人を愛していても。
そんな時、彼の想い人である隣国の伯爵令嬢フィオラの国で革命が起き、彼女は隣国の貴族として処刑されることが決まった。
そして、さまざまな思惑が交錯する中、レイチェルは一つの決断を下し・・・
*過去と未来が行ったり来たりしながら進行する書き方にチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんがご了承ください。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「結婚したらこっちのもんだ。
絶対に離婚届に判なんて押さないからな」
既婚マウントにキレて勢いで同期の紘希と結婚した純華。
まあ、悪い人ではないし、などと脳天気にかまえていたが。
紘希が我が社の御曹司だと知って、事態は一転!
純華の誰にも言えない事情で、紘希は絶対に結婚してはいけない相手だった。
離婚を申し出るが、紘希は取り合ってくれない。
それどころか紘希に溺愛され、惹かれていく。
このままでは紘希の弱点になる。
わかっているけれど……。
瑞木純華
みずきすみか
28
イベントデザイン部係長
姉御肌で面倒見がいいのが、長所であり弱点
おかげで、いつも多数の仕事を抱えがち
後輩女子からは慕われるが、男性とは縁がない
恋に関しては夢見がち
×
矢崎紘希
やざきひろき
28
営業部課長
一般社員に擬態してるが、会長は母方の祖父で次期社長
サバサバした爽やかくん
実体は押しが強くて粘着質
秘密を抱えたまま、あなたを好きになっていいですか……?
押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました
cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。
そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。
双子の妹、澪に縁談を押し付ける。
両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。
「はじめまして」
そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。
なんてカッコイイ人なの……。
戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。
「澪、キミを探していたんだ」
「キミ以外はいらない」
叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する
花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家
結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。
愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。
【完結】あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―
七転び八起き
恋愛
『借金を返済する為に働いていたラウンジに現れたのは、勤務先の副社長だった。
彼から出された取引、それは『専属』になる事だった。』
実家の借金返済のため、昼は会社員、夜はラウンジ嬢として働く優美。
ある夜、一人でグラスを傾ける謎めいた男性客に指名される。
口数は少ないけれど、なぜか心に残る人だった。
「また来る」
そう言い残して去った彼。
しかし翌日、会社に現れたのは、なんと店に来た彼で、勤務先の副社長の河内だった。
「俺専属の嬢になって欲しい」
ラウンジで働いている事を秘密にする代わりに出された取引。
突然の取引提案に戸惑う優美。
しかし借金に追われる現状では、断る選択肢はなかった。
恋愛経験ゼロの優美と、完璧に見えて不器用な副社長。
立場も境遇も違う二人が紡ぐラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる