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食い下がる柳楽君
しおりを挟む「あいにく、私、明日は用事があって」
「えっ」
柳楽君が目を丸くした。
「右京、左京、どういうことだ」
しゅるっと顔が二つ、座卓の上に浮いた。なんか、もう慣れてしまったので、いちいち驚かない自分に驚いている。この神使とやらには、伊達眼鏡なんて効かないのね。
「彼女のスケジュールを隅々まで調べあげろって言っただろう。明日は何の予定もないって言っていたじゃないか」
「いや、本当っすよ! その女、嘘ついてます」
左京黙れ! あと雌って言うな。
すると、柳楽君が目に見えて肩を落とし、はーっと息を吐きながらぼやいた。
「そうか……俺の家族、非常識だし失礼だったし……だから」
「柳楽君、そうじゃないのよ」
私は慌てて周囲を見渡す。こちらを凝視していた親族全員が、ばつが悪そうに視線を外した。
ご家族の前で、私がディスってるみたいなこと言うんじゃない!
「あと柳楽君って言われても、ここにいる全員柳楽だからさ、茜さん」
「あ、うん」
「蓮って呼んでください」
しれっと名前を呼ばせようとしている!?
私が何も言えずに固まっていると、再びしょんぼりする柳楽君だ。
「茜さんって、もしかして俺のこと嫌いなんじゃ? そうだよね。霊能者の一家って怪しいですもんね。俺もさ、初めて親友ができてはしゃいじゃって、なんか図々しかったし……」
絶望したような息を吐かれ、私は自分の眉毛がヒュンッと垂れるのが分かった。
「いや、そういう意味じゃなくて、柳楽く──」
また親族全員がこちらを見た。柳楽君が咳払いする。
「蓮」
「うぅうう蓮君、ほら、私たちって友達というほどの仲ではないでしょ? 少なくとも私は、親族の大事な集まりに居ていい存在ではないわ」
蓮君が上目遣いで私を窺う。捨てられた犬……いや、キツネ。
こういう情けない子に弱いのよ、私……。負けないわよ。睨み返してやらなきゃ──。
「あーあー、やっぱ茜さんに嫌われちゃったかぁ。そりゃそうだよね、魔除けの施し方もキモいし、キツネに似てるし。こんな家業だから、昔から誰も近づかなかったしなぁ。友達百人作るの夢だったのに」
ブツブツ呟いている。私は彼を必死に宥める。
「あのね、キモくもないし、嫌ってなんかないわ。ただ、許嫁のサヤ子さんは嫌な気分になると思──」
「そうよ! 私の蓮なんだから取らないでよね!」
突然、蓮君の真後ろから、そのサヤ子さんが顔を出した。
いたの!?
首にしがみつかれ、苦しそうにもがく蓮君。どうにかその手をもぎ離し、彼はきっぱり言いきった。
「こいつは勝手に許嫁を名乗っているだけで、茜さんが気にすることじゃないんですってば」
と、言ってもなぁ……。肌ピチピチだし、正直若さが眩し──
「いや気にするも何も、普通に私関係ないから!」
もし私が本当に親友だったとしてもよ? 明らかに蓮君に気のある女子の前で、出しゃばってるように見られるのが嫌なの!
異性の親友ポジって、ヤバいからね? 男と女の間に純粋な友情は無いと思ってる派ですから!
しかも彼女、今にも私を刺しそうな目で睨んでくるし。
「とりあえず、飲みましょうか」
蓮君は、話を強引に逸らした。
さらに抗議しようとした私を遮るように、彼は目の前にドンッと瓶を置く。
「──??」
「せっかく信州に来たんです、ぜひ飲んでほしいんですよね地酒。本当は明日、酒蔵巡りもしたかったんです。好きでしょ? 日本酒。それとも焼酎の方が好きですか?」
長野の地酒! だ、だけど……。
「……ダメって言われていて」
「え?」
私はもじもじしてしまう。
「圭太に、飲んじゃダメって……」
蓮君の目がすっと細まり、声が尖った。
「俺の気持ち、たぶん知ってるんでしょ? 俺、分かりやすくない?」
分かるわよ。狙われてるのは、なんとなく分かる!
自意識過剰かもとは思ったけど、この年齢でそこまでバカになれない。
「だったら、私の気持ちだって知ってるじゃない」
そうよ、私は圭太を引きずっている。
「友達になるのは、無理よ」
「じゃあ、友達にならなくていいですよ。その先に行ければ」
さらっと言われたけど、私はブンブン首を横に振った。セフレなんて地獄のズルズルコース、ごめんだわ!
だいたいね、たとえ私が割り切った付き合いができる大人の女だったとしてもよ? 絶対に既婚者や彼女持ちとは、あり得ないからね!
許嫁のいる蓮君となんて、とんでもないっ!
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