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9 抜けてきた薬と羞恥
下半身が重い。脚の間に何かが挟まっているような、変な感じだ。体が二つに裂けるようにズキズキ痛む。
おそらく宮殿の客室のベッドだろう。そこで目を覚ましたアニエスは、横になったまま昨夜のことを思い出し、うわぁぁぁあっ! と顔を覆った。
「わたくし、消えてしまいたい」
恐れ多くも王太子の御前であんな醜態を……きっと嫌われてしまっただろう。
いつも完璧な淑女を演じていたのに、あれでは淫乱雌豚と呼ばれても仕方がない。
(淫乱雌豚……)
じゅぷっと股間が潤った。
「えぇぇ?」
なんで濡れちゃうの? 情けなさから涙がこぼれ落ちる。
「まだ、薬が切れていないのかな?」
低い声が聞こえ、ビクッとするアニエス。
完璧な貴公子が、涼しい顔で客室に入って来た。
「王太子殿下」
ベッドで半身を起こす。彼の姿を見ただけで、痛いはずの股間が違う意味で疼いた。
「そのまま。寝ていてくれ。君が飲んだのは、国外では死人が出ているほど強力な媚薬なんだ」
危険な目に遭わせてしまった、と悲しげに呟き、王太子はベッドのわきに椅子を持ってきて座る。
「議会でも問題になっていた。君はひと口しか飲まなかったから正気に戻れたが……本当に焦ったよ。原料だけなら、ただの麻酔薬なのに……すまなかった」
「なぜ殿下が謝るのですか?」
「君は巻き込まれたんだよ」
「え?」
「セニエ伯爵には、カルナック侯爵家の調査に協力してもらっていた。婚約者の実家なら、探りやすいだろうからね」
(それで父は、放蕩ぶりで有名なディオン様に縁談を申し込んだのね)
──他に話が来なかったわけでは、なかった。
「まさか、グライス男爵令嬢が宮廷内で……しかも陛下の御前で使用するとは思わなかった。僕の落ち度──」
「ではやはり、殿下のせいではございません」
アニエスは凛とした口調でそう断言し、しかしすぐに唇を噛んで、顔を背けた。
「ただわたくしは、あんな姿をクロード殿下の前にさらしてしまったことが、恥ずかしいのです。あまつさえ、殿下に助けていただいて──」
王太子は困ったように俯く。
「君は、誇り高いものね」
どこか寂しそうに微笑む。
それから、真顔になって衝撃的な言葉を吐いた。
「だけど、助けるのは当然なんだ。君は僕の婚約者なんだから。王太子妃となる覚悟を決めてほしい」
アニエスは自分の耳を疑った。
「わ、わたくしが王太子妃!?」
「あの場に居合わせた近衛騎士たちは信用できる者ばかりだし、君と顔を合わせることがないよう、陛下の専属に昇進させる」
アニエスは沈黙したまま、王太子を見つめ返すことしかできなかった。
「それに、ヴァネッサとかいう雌豚は牢獄だ。出所したら娼館で働いてナンバーワンになってやる、と息巻いてるから、MDMAを分けてやることにした」
本当に彼女が望んだのだろうか。
「それに、君の元婚約者とも顔を合わせる機会は無くなる。あの豚野郎は、これから平民として生きるからね。鉱山での働き口を紹介したら喜んでいた。なんでも、筋肉を鍛えることに目覚めたらしい」
淡々と語る、王族特有の無慈悲な表情を見て、アニエスはぞっとした。
「あの婚約破棄についても、陛下から招待客に説明があった。全部、春の舞踏会を盛り上げるための余興──『嘘』だとね」
王太子はアニエスの手をしっかり握りしめる。
「だから、僕と結婚してほしい」
おそらく宮殿の客室のベッドだろう。そこで目を覚ましたアニエスは、横になったまま昨夜のことを思い出し、うわぁぁぁあっ! と顔を覆った。
「わたくし、消えてしまいたい」
恐れ多くも王太子の御前であんな醜態を……きっと嫌われてしまっただろう。
いつも完璧な淑女を演じていたのに、あれでは淫乱雌豚と呼ばれても仕方がない。
(淫乱雌豚……)
じゅぷっと股間が潤った。
「えぇぇ?」
なんで濡れちゃうの? 情けなさから涙がこぼれ落ちる。
「まだ、薬が切れていないのかな?」
低い声が聞こえ、ビクッとするアニエス。
完璧な貴公子が、涼しい顔で客室に入って来た。
「王太子殿下」
ベッドで半身を起こす。彼の姿を見ただけで、痛いはずの股間が違う意味で疼いた。
「そのまま。寝ていてくれ。君が飲んだのは、国外では死人が出ているほど強力な媚薬なんだ」
危険な目に遭わせてしまった、と悲しげに呟き、王太子はベッドのわきに椅子を持ってきて座る。
「議会でも問題になっていた。君はひと口しか飲まなかったから正気に戻れたが……本当に焦ったよ。原料だけなら、ただの麻酔薬なのに……すまなかった」
「なぜ殿下が謝るのですか?」
「君は巻き込まれたんだよ」
「え?」
「セニエ伯爵には、カルナック侯爵家の調査に協力してもらっていた。婚約者の実家なら、探りやすいだろうからね」
(それで父は、放蕩ぶりで有名なディオン様に縁談を申し込んだのね)
──他に話が来なかったわけでは、なかった。
「まさか、グライス男爵令嬢が宮廷内で……しかも陛下の御前で使用するとは思わなかった。僕の落ち度──」
「ではやはり、殿下のせいではございません」
アニエスは凛とした口調でそう断言し、しかしすぐに唇を噛んで、顔を背けた。
「ただわたくしは、あんな姿をクロード殿下の前にさらしてしまったことが、恥ずかしいのです。あまつさえ、殿下に助けていただいて──」
王太子は困ったように俯く。
「君は、誇り高いものね」
どこか寂しそうに微笑む。
それから、真顔になって衝撃的な言葉を吐いた。
「だけど、助けるのは当然なんだ。君は僕の婚約者なんだから。王太子妃となる覚悟を決めてほしい」
アニエスは自分の耳を疑った。
「わ、わたくしが王太子妃!?」
「あの場に居合わせた近衛騎士たちは信用できる者ばかりだし、君と顔を合わせることがないよう、陛下の専属に昇進させる」
アニエスは沈黙したまま、王太子を見つめ返すことしかできなかった。
「それに、ヴァネッサとかいう雌豚は牢獄だ。出所したら娼館で働いてナンバーワンになってやる、と息巻いてるから、MDMAを分けてやることにした」
本当に彼女が望んだのだろうか。
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淡々と語る、王族特有の無慈悲な表情を見て、アニエスはぞっとした。
「あの婚約破棄についても、陛下から招待客に説明があった。全部、春の舞踏会を盛り上げるための余興──『嘘』だとね」
王太子はアニエスの手をしっかり握りしめる。
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