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第五章
グレッグさんとの再会
しおりを挟むソファーに座ると、目をつぶってエイベル君の体温を思い出していた。筋肉質の硬い体も……。
私が受験した戦略情報分析科以外の士官コースには、現場の指揮官となるためのカリキュラムが組まれていて、入試科目にも魔物と戦うための実技試験がある。
つまりエイベル君は、勉強の合間にも常に鍛えおかなければならず、胸筋がカッチカチなのだ。
なんだか下半身までカッチカチだった気がするが、あんなところにまで筋肉は付くのだろうか。
シャツの中はどんな感じなのかな。思わず妄想し、下腹部がキュンキュンしてしまう。
私、最低だわ。こんなエッチなこと考えていることがバレたら、きっと気持ち悪がられる。
他の女子たちのように、顔や態度に出ないから良かったものの、この無表情の下で彼の裸を想像しているなんて、不埒もいいところだ。
深いため息をついた時、シャンデリアの光が遮られ、前が翳った。
「え……君、ルシール嬢かい?」
見上げると、逆光ながら元お見合い相手──グレッグさんであることがすぐに分かった。
一緒にいるはずの妹が見当たらない。
「お久しぶりです。シンディーさんは?」
やけに密着して隣に座ってきたので少し離れたが、また詰めてきた。眉を顰めた私の手に、自分の手を重ねてくる。
「妹から聞いたよ。君の気持ちは痛いほど知っている」
「は……?」
「申し訳ないけど、今日は直接断ろうと思っていたんだ。でも……信じられない、こんなに化けるなんて」
なんのこと? 私が戸惑っていると、食い入るようにこちらを凝視していた彼は、私の手を取って立ち上がり、促した。
「踊ろう……君のような女性が、壁の花になっていることはない」
私は首を振った。王宮のダンスホールは広いため、ここに居てと言われた場所にいないと、中々合流できないと思ったからだ。
「ごめんなさい。踊るのに疲れたので、休んでいるの」
「そうか……なら外で休憩しよう」
私はふるふる首を振る。
彼は少し考えた後、ひょいと胸元から封筒の束を出す。何かしら?
「今日はこれを突き返そうと思って持ってきた。ここで読み上げられたくないだろう? 俺の声は大きいから、君が恥をかく」
私は眉間に皺を寄せた。ますます何のことだか分からない。
「まあどちらにしろ、音楽がうるさいからね。中庭のベンチに行こう。この返事をさせてくれ」
強引に腕を引っ張られ、私はテラス側に開かれた掃き出し窓から外に連れていかれた。
夜の王宮の庭園は、月明かりに照らされて美しかった。真っ白に塗られた金属製のベンチは、どれもパートナーを連れた若者たちで埋め尽くされている。
「空いていないな」
仕方なく、グレッグさんは庭の隅の芝生の上に座り、隣にハンカチを敷いた。
「どうぞ」
私は音楽が流れてくる宮殿の中を気にしつつ、少しならと座った。
「今ここで、君に返事をしよう」
「あの……なんの話か分からないのだけど」
「シンディーに手渡しただろう? 何通も何通も送られてきた、警察に通報しようかと思ったくらいだよ。忘れたとは言わせないぞ、読んであげよう」
彼がなめらかに読み上げた文面に、私は仰天した。
「グレッグ、街で偶然会ったあなたのことが忘れられないの。どうか卒業パーティーのダンスパートナーを受けてください。あなたの愛するルシールより」
はぁあああ????
「これがね、どんどんエスカレートしていくんだ」
彼は顔をしかめて続けた。
「グレッグ、どうして返事をくれないの? 私毎晩あなたを夢に見るの。私の股間はびちょびちょで、あなたを受け入れる準備はできているのよ」
とんでもない内容の文面を、次々に読み上げていく。
「グレッグもう我慢できない。あなたとキスしたい。私の口にあなたの舌を入れて。私もあなたの全身を舐めまわしたい。あなたの股間のグレッグを私のお口に含んで、ぷりぷりの亀頭をこの舌でペロペロと嬲りたいの。可愛らしいその金玉を転がしたら、あなたはどんな風に啼くのかしら? 豚みたいにブヒブヒ言うの? うふふ、冗談よ、私あなたを醜い豚になんてしない。その代わり、馬にしてあげる。あなたは駄馬ではないわ。サラブレットよ。あなたをハムみたいに縛り上げて、あなたのグレッグの上に乗って、ハイヨー! パカラッパカラッって乗りこなしてあげる、それから私の膣筋であなたのグレッグを締め上げて──」
気持ち悪っ! あと、まだ続くのソレ!?
そんな卑猥な手紙を読み上げられても、なお無表情のままのこの鉄仮面が憎い。
彼は胸が悪くなるような文面を読み上げるのをやめ、私をしげしげと眺めた。
「こんなのが何通も届いたんだ。あのお下げ地味眼鏡が書いていると思うと、本当……恐怖で股間が縮みあがったよ」
お下げ地味眼鏡じゃなくても気持ち悪いわよ。
そう言おうとした時、視界が反転した。私は月を見上げていた。わぁ、満月綺麗……じゃなくて──
「え?」
月が見えなくなったのは、グレッグさんの顔が上から覗き込んできたからだ。
「でも、こんな綺麗な子だったら歓迎さ。俺、地雷系は好きだから」
グレッグさんの顔が近づいてくる。
私はモテたことがない。
今まで生きてきて、男性から性的な目で見られたことがなかった。
見たまんまのまっさらなおぼこい生娘で、キスだって、エイベル君がしてくれたあの時の偽のキスだけだ。
だから、自分が女性として危機にあることにしばらく気づけなかった。
グレッグさんの顔が近づいてくる。
んんん?? こ、これは……これはキス?
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