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第五章
シンディー嬢の誘い(エイベル視点)
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僕は廊下の壁に額を預け、自分を落ち着かせようとした。
まずいぞ。股間事情もだが、あのドレスをチョイスしたのはちょっと失敗だった。
どう見ても、洗練された大人のレディだ。しっとりした美しさが、学生のパーティーの中では目立ちすぎる。
皆が彼女の魅力に、気づいてしまうではないか!
焦りが募って、落ち着かなかった。盗られてしまうかも……。
そこで、ハタと首を傾げた。盗られるも何もないじゃないか。彼女は僕のものじゃないんだ。
僕たちは本物の恋人同士ではないのだから、彼女には他の男たちと自由にダンスを楽しむ権利がある。
それどころか今後は他の男を好きになり、他の男と付き合うことになるだろう。
あんなに素敵な人は、この世にいないわけだし、彼女さえ望めばどんな相手とだって──
シクシク痛む胃を押さえていた時だ。
「このドレスどう?」
背後から声をかけられた。
振り返った先にいた女子がシンディー嬢だと、すぐには気づかなかった。
いつもの中等部のような童顔ではなかったからだ。
張り切り過ぎたのか化粧がやたら濃く、ドレスの露出も激しい。年相応にも見えないどころか、街角で客引きしてそうじゃないか。
無理して背伸びすべきではない。大人の色気とは、内側から滲み出てくるものなのだ。委員長みたいに……。
もちろん、そんな失礼なことは言わない。彼女は妹のメイベルではないのだから。
「やあ、楽しんでいるかい? とっても素敵だよ。赤毛によく似合っている。クラスメイトにもパートナー希望の男子はいたようだけど、結局誰にしたんだい?」
「言ったでしょ? わたし、エイベル君以外の男子は怖いの。外部招待で兄のグレッグを連れてきたわ」
「そうか……。人見知りは治らなかったんだね」
彼女の兄は、自分の妹が社交的だと勘違いしている。学院生とここまで打ち解けていないなんて知ったら、きっとガッカリするだろう。
わざわざ短期入学したのに、卒業まで友人が出来なかったのは、僕も妹を持つ身として残念に思う。
「でも今夜こそ、運命の人に会えると思うわ」
「へー、そうだといいね」
その格好だと、どうだろう……。化粧はもう少し落とした方が──いや、彼女は僕の妹ではない。
「じゃ、僕はもう戻るから」
「ダンスパートナーは変えてもいいのよね?」
シンディー嬢は僕の腕に手を置いて、胸を押し付けてきた。
「ねえエイベル君、私と踊って?」
「ごめん。次の曲も、約束があるから」
爽やかに断った。そんな暇なんて無いよ、だって委員長と百曲踊らなきゃ。
じゃ、と片手を上げてからホールに戻ろうとした僕に、シンディー嬢の低くしゃがれた声がした。
「パートナーが居なかったら、わたしと踊ってね」
何を言ってるんだ? 後ろを見ると、唇の端を吊り上げたシンディー嬢が佇んでいた。
僕は首を捻りつつ、王宮の侍従が開いてくれた扉からホールに戻る。
しかし困った。ゆったりしたワルツの音楽が流れてきている。
これも密着するやつだ。せっかくチン静化した僕の股間がまた起立してしまう。
どうしたものか。
考えながらホールの休憩用ソファーに戻ると、そこではクラスメイトのヒューバートが自分のパートナーとイチャついていた。
「委員長は?」
僕は焦ってホールを見渡す。誰かが委員長をダンスに誘ったに違いない。ちょっと目を離しただけなのに!
「あ……委員長なら今しがた、イケメンとテラスに出たわよ」
ヒューバートの彼女が外を指差した。
礼すら言えたか分からない。呆気にとられる二人を残し、僕はテラスに飛び出していた。
早く委員長を取り返さないと! だって委員長は、僕のものだ。
まずいぞ。股間事情もだが、あのドレスをチョイスしたのはちょっと失敗だった。
どう見ても、洗練された大人のレディだ。しっとりした美しさが、学生のパーティーの中では目立ちすぎる。
皆が彼女の魅力に、気づいてしまうではないか!
焦りが募って、落ち着かなかった。盗られてしまうかも……。
そこで、ハタと首を傾げた。盗られるも何もないじゃないか。彼女は僕のものじゃないんだ。
僕たちは本物の恋人同士ではないのだから、彼女には他の男たちと自由にダンスを楽しむ権利がある。
それどころか今後は他の男を好きになり、他の男と付き合うことになるだろう。
あんなに素敵な人は、この世にいないわけだし、彼女さえ望めばどんな相手とだって──
シクシク痛む胃を押さえていた時だ。
「このドレスどう?」
背後から声をかけられた。
振り返った先にいた女子がシンディー嬢だと、すぐには気づかなかった。
いつもの中等部のような童顔ではなかったからだ。
張り切り過ぎたのか化粧がやたら濃く、ドレスの露出も激しい。年相応にも見えないどころか、街角で客引きしてそうじゃないか。
無理して背伸びすべきではない。大人の色気とは、内側から滲み出てくるものなのだ。委員長みたいに……。
もちろん、そんな失礼なことは言わない。彼女は妹のメイベルではないのだから。
「やあ、楽しんでいるかい? とっても素敵だよ。赤毛によく似合っている。クラスメイトにもパートナー希望の男子はいたようだけど、結局誰にしたんだい?」
「言ったでしょ? わたし、エイベル君以外の男子は怖いの。外部招待で兄のグレッグを連れてきたわ」
「そうか……。人見知りは治らなかったんだね」
彼女の兄は、自分の妹が社交的だと勘違いしている。学院生とここまで打ち解けていないなんて知ったら、きっとガッカリするだろう。
わざわざ短期入学したのに、卒業まで友人が出来なかったのは、僕も妹を持つ身として残念に思う。
「でも今夜こそ、運命の人に会えると思うわ」
「へー、そうだといいね」
その格好だと、どうだろう……。化粧はもう少し落とした方が──いや、彼女は僕の妹ではない。
「じゃ、僕はもう戻るから」
「ダンスパートナーは変えてもいいのよね?」
シンディー嬢は僕の腕に手を置いて、胸を押し付けてきた。
「ねえエイベル君、私と踊って?」
「ごめん。次の曲も、約束があるから」
爽やかに断った。そんな暇なんて無いよ、だって委員長と百曲踊らなきゃ。
じゃ、と片手を上げてからホールに戻ろうとした僕に、シンディー嬢の低くしゃがれた声がした。
「パートナーが居なかったら、わたしと踊ってね」
何を言ってるんだ? 後ろを見ると、唇の端を吊り上げたシンディー嬢が佇んでいた。
僕は首を捻りつつ、王宮の侍従が開いてくれた扉からホールに戻る。
しかし困った。ゆったりしたワルツの音楽が流れてきている。
これも密着するやつだ。せっかくチン静化した僕の股間がまた起立してしまう。
どうしたものか。
考えながらホールの休憩用ソファーに戻ると、そこではクラスメイトのヒューバートが自分のパートナーとイチャついていた。
「委員長は?」
僕は焦ってホールを見渡す。誰かが委員長をダンスに誘ったに違いない。ちょっと目を離しただけなのに!
「あ……委員長なら今しがた、イケメンとテラスに出たわよ」
ヒューバートの彼女が外を指差した。
礼すら言えたか分からない。呆気にとられる二人を残し、僕はテラスに飛び出していた。
早く委員長を取り返さないと! だって委員長は、僕のものだ。
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