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第三章

提督と女海賊3

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 アーヴァインが胸元に手を伸ばしてきた。

 室内に布地の裂ける音が響き渡る。乱暴に絹を裂かれ、カティラは悲鳴をあげた。

 何か逆鱗に触れてしまったようだが、カティラには訳がわからなかった。

「おまえが今さら愛だと? 笑わせるな。先ほどのおまえは、まるで雌犬だった」

 そう。彼に安眠を許さないほど乱れ、男達を虜にした。

 その扇情的な姿は、アーヴァインをも強く魅了したのだ。

 あれは娼婦の顔だ。誇りなど持たぬ娼婦。

 カティラは耳を塞いだ。

「やめてっ」
「覚えていないのか? いや、そんなはずないな。その未だに火照った身体が、あの情交を克明に覚えている。男達に前から後ろからぶち込まれ、おまえはひいひいよがっていたんだぞ?」

 早口で罵りながら、アーヴァインはどんどんカティラのドレスを裂いていく。



 自分で自分が止められなかった。

 これはナーリャじゃない。怒る理由なんてないのに。

 カティラは藍色の瞳に大粒の涙を浮かべながら、責めるように軍人を睨み付けるが、大柄な男に抵抗できるほどの体力は残されていなかった。

 虚しく身をよじっても、それがかえって男を興奮させている。ついに薄い布地は万力でほとんどが剥ぎ取られてしまった。

「いやだぁっ」

 乱暴な軍人に与えられる痛みと恐怖に耐えられず泣き叫ぶカティラを、アーヴァインは無情にもじっくりと観察した。

 申し訳程度にしか乳房を覆っていない残った絹、都で流行っているTバックのパンティ。そしてリボンガーターで繋いである編みタイツ。

 選んで持ってきたのは提督専用の召使いだが、どストライクのチョイスだ。


「参ったな」

 アーヴァインは、自分の短い前髪を掴んで息をついた。

 多くの女を抱いてきたが、ここまで彼を魅了した女は……もしかすると、妻も含めていなかったかもしれない。

 ナーリャはペチャパーーもっと華奢だった。それに、どこか少女めいた純真さがあった。当然だ、自分が抱くまで処女だったのだから。

(この女は元性奴隷)

 しかしーー不思議だ。凛としていて、なぜか品もある。

 エルグランが、仲間を裏切ってまで自分のものにしたがったのも頷けた。

 見た目の美しさだけではない。

 この女は、天性のフェロモンを振りまいているのだ。

「よく、海賊船になんて乗っていられたよ」

 彼女が仲間達を統率できていたのは、ゲルクの陰の圧力があったからだろう。

 実際、もし先代の首領やゲルクが目を光らせていなければ、とっくに乗組員たちの肉人形にされていた。


 心を奪われてはいけない。アーヴァインは驚異を感じた。

 ナターリア以外の女はただの肉便器だ。

 しかもこの女は奴隷上がりの海賊。

 俺は惚れてはいない。

「性奴隷はしょせん、一生性奴隷だ。そういう生き物なんだよ」

 吐き捨てられ、カティラは屈辱の涙を流した。視線で殺せるなら、アーヴァインをこの場で引き裂いてやったのに。

「……そんな顔で見るな」

 アーヴァインはちょっと余裕を取り戻し、微笑を浮かべた。

 妻に似た女が、仇への熱烈な想いを告白するから、一瞬タガが飛んでしまったじゃないか。

 きっとそうだ。落ち着け。

 深呼吸をすると、サイドテーブルから何かを取り出す。カティラはそれを見て息を止めた。

「安心しろ。飲ませるわけじゃない」

 取り出した『天使の涙』の瓶の蓋を開けると、アーヴァインは手の平に少しこぼした。

「あっ!?」

 編みタイツを履いた形のいい両足が、強引にこじ開けられる。

 カティラは膝に力を入れて必死に閉じようとした。

 しかし、男の力には敵わない。

 細い足首を掴んだアーヴァインは、軽々と女海賊に屈辱的な恰好をさせた。

 露になった秘部はTバッグの下着の布地では隠しきれていない。

 ピンク色の花びらが覗いている。

 アーヴァインは、布地の隙間から手を入れると『天使の涙』の液体を、カティラの薔薇の中心に塗りつけた。

「駄目っ、何故こんなことをっ!?」

 そんなことをしたら、一体どうなってしまうのだろう。

 恐怖に強張った顔で、アーヴァインを見つめる。

 懇願するような表情が気に入った。

 生意気な女を屈服させ、誇りを踏みにじってただのメス犬する、最高じゃないか。

「俺はゆっくり眠りたいんだ。おまえを抱き、このたぎる下半身を静かにしてやらなきゃならん」

 アーヴァインは凍り付いているカティラから離れると、自分の軍服とシャツを脱ぎ捨てた。

 日に焼けたたくましい身体が、ランタンの明かりの中に現れる。

 それはしなやかで美しく、カティラの股間をうずかせた。

(うそ……どうなってるの?)

「始まったか」

 アーヴァインは、カティラの変化に気づき、微笑んだ。

 ベッドの上で、急に身をよじり出したのだ。

 片手で下腹部を押さえ、もう片方の腕で自分を抱きしめ、息を荒くしている。

 アーヴァインはベッドの隅に腰掛け、彼女を観察しながら話し出した。

「『天使の涙』は飲むだけの薬じゃない。飲ませれば思考までとろかせる媚薬だが、局部に塗付すれば、身体だけが反応する」

 カティラは全身に鳥肌を立てながら、何かを堪えているようだった。

「俺はね、お嬢さん。薬で我を忘れた女を抱いても、満足できないんだ」

 そして、人差し指で自分のこめかみを突付く。

「ここは正常じゃないとね。君のような矜持の高い女には、最高の罰だろう」
「ひ……どい……」

 カティラは自分の身体を強く強く両腕で抱きしめる。

 身体が熱い。

 どうしようもなく昂ぶっていく自分に、恐怖を感じた。

 アーヴァインは、そんな彼女をただ見守っているだけだった。

 よく引き締まったアーヴァインの上半身には、薄明かりの中でも分かる大小さまざまな傷跡が浮かび上がっている。

 そんな彼に、カティラは強く男を感じた。

(見ないで)

 カティラはアーヴァインから視線を逸らした。

 唇を噛み締め、眉をきゅっとひそめて必死に込み上げる衝動を堪えているカティラを、アーヴァインは冷静な視線でじっと観察している。

 視姦ーー。

 ねっとりと纏いつくような視線に、カティラの身体がカッと熱くなる。

(どうして何もしないの?)

 カティラはそう思った瞬間ぞっとした。

 まずい。

 彼が欲しくなっている。

 何かして欲しいと思っている。

「あ……あああああぁ」

 仰け反り、ついにはベッドの上で仰向けに倒れて一人で身をくねらせ始めたカティラ。

 秘部に自分の手が伸びるのを、もう片方の手が止める。

(冗談じゃない。この男にそんなところを見せるなんて)

 一分と耐えられなかった。

 細く長い指が、自分の太腿の間に伸びる。

 紐のように細い下着をずらすと、肉の花びらを広げた。

(駄目。駄目よ、やめなさいっ)

 冷静な頭がそれを拒む。

 しかし、指は頭からの命令を無視した。

 肉の芽を自分の指がつついた。

「ひぃっ……あぁぁん」

 悩ましげな声が口から漏れる。

 頭が冷静なぶん、その恥ずかしさに身悶えしそうになる。

 憎き敵に、自慰を見られているのだ。

 それでも、手を止めることはできなかった。

 転がすように何度も芯を攻める。腰は自然に浮き上がっていた。

 もう片方の手が、僅かに胸を覆っていた布地を下げると、鬱血痕の残る真っ白で大きめの乳房がこぼれるように現れる。

 ピンク色の乳首が、既にぷっくり尖っていた。

 カティラは震える指でそれをつまみ、こすりあげた。

「ひぁあああっ」

 一瞬脳天にしびれが走り、その後、とろけるような快感がカティラを襲った。

 無意識にガクガクと腰が動くのを止められない。

 うっすらと目を見開くと、食い入るように見つめるアーヴァインの姿が目に入る。

「……み、見ないでぇっ」

 掠れた声で叫ばれ、アーヴァインは苦笑した。

 見るなと言われても無理だ。

 全裸でないだけによけいエロティックで、アーヴァインは自分のモノが痛いほど反りあがっているのを意識する。

「そんなことより、他に言うことは無いのか?」

 からかうように尋ねる軍人に、カティラは歯噛みした。彼女がどう感じているか知り尽くしているのだ。

(駄目、言っちゃ駄目よっ)

 カティラの冷静な頭が、必死にそれを拒絶する。

 しかし美しい唇は、彼女の意志を裏切り、言葉をつむごうと半開きになる。

(いやっ、絶対言っちゃ駄目)

 再び閉じられた唇に、温かいものが触れた。

 アーヴァインが指でなぞっているのだ。

「強情な女め。さあ、言ってみろ」

 首筋に息を吹きかけるようにして囁かれ、カティラは悲鳴まじりの叫び声をあげていた。

「抱いてっ、めちゃくちゃにしてっ」

 瞬間、アーヴァインは激しく彼女を引き寄せていた。

 強く抱きしめてその髪をまさぐりながら可愛らしい耳たぶを噛み、そしてそっと囁いた。

「はい、よく出来ました」


 彼も我慢の限界だった。

 ぷるんっとはみ出している乳房を掴むと、ごつい手で、何度も何度も揉みしだいた。

 もう片方の乳房は布地の上から舐めてやる。乳首が屹立し、絹を押し上げる。

(完璧な肉体だ)

 この乳。

 男の手によくなじむ大きさで、つんと上を向き、理想の形をした乳房だった。

 何よりも、手の平に吸い付くようなしっとりとしたもち肌に、アーヴァインは感激した。

 かっぷりと口に含み、よく味わった。

「なんて柔らかい。でも、ここだけ硬いな」

 指でピッピッと唾液で濡れた先端を弾かれ、カティラは身を震わせた。

 ぶるっと乳房を震わす。

 髪を振り乱し、アーヴァンの身体に抱きつく。

 色も硬さも違う二つの身体が絡み合う。

 自分の匂いを付けるかのように身体をすりつけてくるカティラを、アーヴァインは本気で愛し始めていた。

「おまえは、可愛い。なんて可愛いんだ」

 耳元で何度も囁かれ、カティラは動揺する。

(そんなこと言わないで)

 Tバックのせいでよけいにせり出した尻に手をやると、アーヴァインは、カティラの身体を、その膝が顔に付くくらい、折り曲げた。

「やだっ、こんな恰好!」

 股間を露にされて、もがく。

 秘部が、アーヴァインの無精ひげの生えてきた顔に、くっつきそうだ。

 暴れる両足を掴み肩に担ぐと、もっと彼女の尻を自分に引き寄せた。

 黒い編みタイツに包まれた腿と、真っ白な尻へと続く肌の境目を美味しそうに舐める。

 やがてじょじょに秘部に向かって舌を這わせていく。

――ピチャピチャ

 犬が水を飲むような音が響き渡る。

「あっぁああああ」

 恥ずかしさと快感に、どうかなりそうになる。

 きゅっとシーツを掴み、両足を突っ張って達しそうになるのを堪えた。

「駄目っ、お願い一人でイかせないで!!」

 それこそ恥ずかしくて死んでしまう。

 アーヴァインは、それを無視して舌を彼女の裂け目に挿入させる。

 出し入れするたびに、アーヴァインの抱え込んだ彼女の腰が痙攣した。

「あぁぁああああッ……お願いっ! お願いよっ」

 アーヴァインはカティラの下の口への接吻をやめると、その苦しげに歪めた顔を見つめた。

「何をお願いしたい?」

 カティラは絶望的な気分でむせび泣いた。

「そんなこと言わせないで……んぁぁあああっ」

 指を入れられ、腰が反り返る。

「ちゃんと言わなきゃ駄目だ」

 カティラはぽろぽろと涙を流し、かすれた声で囁いた。

「お願い……貴方のをください」

 アーヴァインは首を振った。

「小さくて聞こえんなぁ」

 カティラはとうとう切羽詰った声で叫んだ。

「入れてっ! ぶちこんでぇぇええ!!!」

 待っていましたとばかりに、アーヴァインはカティラを横に転がしていた。

 うつぶせにさせると、覆い被さって後ろから乳をもみしだく。

 より屈辱的な体勢で犯すことを決めたのだ。

 洪水のようになった秘所に自分のモノをあてがうと、一気に貫いた。

「あぁぁあああああああああああっ」

 挿入された時カティラが放った獣のような絶叫は、明らかに喜悦のものだった。

 これほど硬く、大きなものは初めてだった。

 その頬は紅潮し、目はうっとりと閉じられる。アーヴァインは激しく攻めるように何度も突き上げた。

 スパンスパンスパンという肉と肉のぶつかり合う音が響き、カティラはその度にポロポロと歓喜の涙を流した。

 特注の吊り寝台が、嵐の航海にも負けじと揺れる。

 乳をやわやわと攻められながら、背後から突かれると、愛液は止まることを知らなかった。

 羽枕を口にくわえ、きゅっと噛み付き、必死に達するのを堪える。

 アーヴァインは長かった。

 絶対先に達したくない。負けるのは嫌だ。

(あれだけ輪姦されていながら、なんて締め付け具合だっ)

 アーヴァインもそろそろ限界だった。

 こんな名器に出会ったことは無い。

 今や治安警備艦隊の司令官としてではなく、個人的にこの獲物を自分のものにしたくなっていた。

「あぁぁあっっいっちゃう!」
「俺もだっ」

 二人は同時に痙攣し、ぐったりとシーツの上に倒れこんだ。



 どれくらい、そのまま倒れこんでいただろう。

 隣ではすっかり満たされて眠ってしまったアーヴァインの姿があった。

 カティラは、脱力感とともに、襲ってきた後悔に身悶えしていた。

(私は強姦されたんじゃない。求めてしまったんだ)

 仲間を殺した憎き仇なのに。

 ……しかも、隣で穏やかに眠っている彼の寝顔を見て、愛しいとさえ、思えてしまうのだ。

 その感情に、カティラはすさまじい恐怖を覚えた。

 この男は危険。

 羽枕に顔を押し付け、嗚咽を漏らす。いけない。

 早く彼の呪縛から逃れなければ。

 ここから逃げなければ。

 一度達したせいか、下腹部のうずきは収まった。

 しかし先ほどの行為の記憶と、今の彼女の気持ちは果たして消えることはあるのだろうか。

(冗談じゃない)

 カティラは身を起こすと、涙で汚れた顔をぬぐう。

 そして、無表情にアーヴァインを見つめた。

 この気持ちはあの媚薬のせい。この軍人は仲間たちの仇。

 殺すべき男なのだ。

 ためしに殺気をみなぎらせてみても、彼は起きない。

 これほどの男がこんなに無防備でいるなんて、信じられない。

 まるで彼女を信頼しているかのようだ。

 カティラはため息をつくとそっと告げた。

「さよなら」

 カティラはアーヴァインの太い首に、両手をかけた。

    
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