本編開始前に悪役令嬢を断罪したらうちでバイト始めた

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第一章 ヒロイン視点 悪役令嬢の断罪

5.朝の終わりと、夜の始まり

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やっぱり、私の朝は夕方に始まる。

お料理をはこんで、カウンターに戻るついでに空いたテーブルを片づける。
お皿が足りなくなりそうなタイミングを見計らって、お皿を洗って、足りなくなった水をくみに行く。
またお料理をはこんで、お会計をする。

作業をしている時は、自分が何かちがう生き物になったみたいな気持ちになる。
どんな用事を先にするか。次はどう動くか。
くふうして、もっとたくさんおしごとができないか。

体の全部で、考える。
お店の入り口の鈴の音、お客さんの表情やしぐさ、お肉が焼けるにおい、大きな水がめの中の見えないお水の残りぐあい、たくさん、感じるものがある。

打ち込むものがあるって、本当にいいよね。

それでほめられるなら、なおさらだ。


久しぶりのお客さんにあいさつする。

冒険者は遠くにえんせいすることもある。常連さんだった人が何ヶ月も急に来なくなることも珍しくない。
そんなお客さんに再会できた時の、ほっとする感じは、胸があったかくなる感じは、大好きだ。

無事で、よかった。
なでてもらって、どんな冒険だったのか聞いてみるのも、楽しみのひとつ。


もちろん毎日のように来ているお客さんへのサービスも忘れない。
注文を言われなくてもいつもの飲み物を出す。

へへ、あたり?
にやにやしてお客さんの顔を見ていると、そっと微笑まれる。やっぱり。
ぽんぽんと頭をなでられる。


そんなやりとりを見守っていてくれる、大好きなお父さんとお母さんがいる。
大好きな時間。

日付が変わる頃、私の1日は終わる。



そしてまた、お昼過ぎに、教会でひらかれている平民むけの学校に行く。

みんなは朝におうちのお手伝いがあることが多いから、学校はお昼からだ。
私のお手伝いは学校が終わってからだけどね。


まだ私の一日は始まらない。
だって置物になりに行くだけだから。



石畳の道を、下を見ながらひたすら歩く。
何人かのクラスの人たちが、早足で私の横をとおりすぎる。

あ、またきた。ねむくないのかな。つかれているのに。やすめばいいのに。よるのおしごと、とてもたいへんだものね。くすくすくす。

そんな声を、聞きながら。


そりゃ、大変だよ。あなたたちのおうちのお手伝いとおんなじでね。
おんなじなんだよ。そんな、笑われるようなことじゃ、ない。ないのに。


どろりとした黒い気持ちが、ひろがっていく。


くそ、まけるな。まけない。
私は、つよい。つよいんだから。

どろどろどろ。黒いものが、私を満たしていく。


あれ。でも。なんだか今日は、ひとが少ないような。


そう。気づいた時に、何か変だとは思ったんだ。



教会に着いて、教室になっている大きな部屋のとびらを開ける。

私の席は、いちばん前だ。
少し高い場所にある先生の机の、すぐそば。


そこに、ぽっかり、空間が空いていた。

くすくすくす。わらいごえが、きこえる。



その日は。

私の机が、なかった。

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