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第一章 ヒロイン視点 悪役令嬢の断罪
13.わんわん君、ケンカを売ってくる
しおりを挟む今日の授業も、家で全部勉強してることだった。
ふぅ、と、教科書を目で追いながら、さすさすと戻ってきた机を撫でて過ごした。
置物になっている時間はようやく終わって、帰ろうとした時。
あの、わんわん君が声をかけてきた。
「おい、お前、ちょっと来い」
は?なんで?
私は無視して道具を片付け、鞄にしまい込む。
「強いんだろ。証明してみせろ!」
私は睨んだ。その子を。
あ、初めてちゃんと顔を見た。茶色い大きな目に、茶色いくるくるの巻き毛。
痩せてるけど、丸顔。
本当にわんこみたいだ。なんだ、かわいいじゃん。
「ふふっ、暴力はよくないわ。ここ、教会ですわよね?」
わざと丁寧に言ってやった。さっき殴っただろお前という意味を、たっぷりと大盛りで乗せてやった。
「わんわん君って、悪口だろ。それはいいのかよ!
俺は人間だ。犬じゃねえ!!」
ぶはっ。吹き出してしまった。
あ、ちょっと他の子も笑ってる。
わんこ君の顔は真っ赤だ。
そのわなわなした顔を見て、黒いどろどろは、またちょっと大人しくなった。
「あ、うん、それはごめん。でも、机を捨てるのも悪いことだよね?どっちが悪いのかな?」
ぐっ、と、言葉に詰まったわんこ君。
黒いものは喜んでいた。
うん、そうだね。うまく遊んでみたら楽しいかも。
「ちょっと、机の上に腕を乗せて」
「なんだよ、それ」
「冒険者達の遊び。わん…ごめん、ええと、カイル君だっけ。うでずもうっていうんだよ。
こうして、向かい合って手を繋いで、相手の手を机につけた方が勝ち」
「俺はお前と戦いたいんだ!」
また赤くなって怒る。
どうしても私に正式に勝ちたいらしい。
ふふ、無理だよわんこ君。
「私は剣術コースをとってないからそっちでは勝負できないんだよ。それ以外で戦ったら、ただのケンカでしょ?
これで冒険者は勝ち負けを決めること、けっこうあるんだけど。賭け事になったりもする、正式な勝負だよ」
ちょっと嘘だ。ただのお遊びだ。
でもわんこ君にはわからないだろう。
大人になって気づいた時にちょっとイラっとしなさい。
それが仕返しってことで許してあげる。
「わかった!絶対勝つからな!!」
机の前に立ち、どん、と肘を置き、お互い利き腕の右を握る。いやほんとは私左利きなんだけど。
周りに、ギャラリーが集まってくる。主にお祭り好きの男子だ。
あれ、ロザリーがいない。ほかの主犯格の女の子達も。帰るの早いな。
ふふ、恐れをなしたか。そうだ。怖がれ、私を。
私は、つよいんだ。
相手は、普段から体を鍛えている男の子。
私は、普段からお皿を運んでいる給仕の女の子。
誰が見ても、勝敗は明らか。
明らか、なんだけどね。
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