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2.
しおりを挟む角を曲がると、居酒屋のんべえの看板が見えてきた。
「さて。今日は何人いるのかな、っと」
できるだけ店の出入口に近い場所に車を停めた。
酔っぱらいを連れて店から出てくるのも結構大変なのだ。
昔ながらの縄のれんをくぐり、引き戸を開けて店に入る。
店の奥の座敷に、見知った後姿があった。
「健司、お待た……」
呼び掛けは、最後までいう言うができなかった。
わっと囃し立てる歓声が上がっていたが、それすら莉子の耳には入らなかった。
莉子の視線の先で、健司が、隣に座った女性と、くちづけを交わしていた。
質の悪いゲームでする冗談のような軽いそれではない。
深い、深いキスだ。
ぬちゃぬちゃと音がする。
健司の大きな右手が女性の頭を後ろから抱え込み、左腕が腰に回されていた。
深く、深く。莉子の視線の先で、何度も角度を変える度に、赤い舌を絡みつけ合っているのが覗く。
口元が、お互いの唾で濡れそぼり、囃し立てる周囲が向けるスマホのストロボが当たって光る。
いつまでも誰も莉子を振り向かない。
まるでそこに存在していないかのように、莉子がそこにいることを無視していた。
「ぷはぁっ、もうっ。口元べとべとぉ。もうっ。胸元まで垂れてきちゃったじゃないのよ!」
軽く握り締めた拳で健司の肩を緩く叩いて注意を引くと、腕の中にいた女が、オフショルダーネックの薄手のニットを引っ張ってみせた。
その拍子に丸い胸の膨らみの谷間が露わになった。
「あはははは。でも、心恋ちゃんの負けだな」
「やーん。でもぉ、健ちゃんは、ココの魅力に夢中でぇ、いつだって勝てないじゃん?」
「そりゃなぁ、勝てる奴いないだろ」
「へへん。でっしょー?」
和気あいあいと話が弾んでいく。その最中も、健司の腕は心恋という女の肩に回されたままだった。
もう片方の手が、彼女の色の抜けたゆるく巻かれた髪を弄んでいた。
「んー、じゃあ、結婚しちゃおっか」
「わーい! するするー♬ ココは健ちゃんのおよめさんになるー!」
それはまるで幼子のように、どこか遊びめいたプロポーズだった。
「そりゃ目出度い!」「おめでとー」
店全体が、抱き合う2人へ祝いの言葉を投げかけた。
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