ヤバい男に捕まった

喜楽直人

文字の大きさ
7 / 11

7.

しおりを挟む


「なんで俺まで?」
「なんでだと思います?」

 呟かれた疑問に、八幡から疑問が投げ返された。

「……」
「莉子さんが来る前に言っていた話、聞こえてましたよ」

 何のことだと訝しむ莉子を励ますように、重ねられた八幡の手に力が込められた。
 すべてを任せて守らせてくれと言われた気がした。

「あなた方が共謀して、莉子さんのカードから勝手に他の客の飲み代まで引き落とししていたそうですね。カード会社に利用状況の確認をさせて貰いますね。店が勝手に客のカードから金額の確認もさせずに引き落とすなんて。犯罪です」

 八幡の告発に、莉子は息を吞んだ。
 そういえば、この店で立て替えた金額が幾らなのか、確認したことはなかった。酔っぱらった健司たちを車まで連れていくのに必死だったし、その後も何処まで送っていけばいいのか聞き出すのにも一苦労で、そればかりが頭にあった。

 なにより、「頼りになる嫁さんでいいな」と持ち上げられるだけで、有頂天になっていた。
 口先ひとつでいいように扱われていたのだと知った今、莉子は恥ずかしさに身が竦む思いだった。

 先ほどまでとはまるで違う意味で身体が震え出した莉子をなだめるように、優しいキスが額へと落とされた。
「大丈夫。僕に任せて」
 莉子に対しては“僕”で、健司たちに対しては“私”なのかと、些細なことに気が付いて、頬が熱くなった。

 ちいさく温かな想いを交わす2人とは裏腹に、目の前の男たちは醜い罪の擦り付け合いを交わしていた。

「支払いは、健司から許可されて」
「やめてくださいよ、俺を巻き込まないでくれ」
「うるさい。巻き込まれたのは俺の方だろうが」

「カードの名義は莉子さんのもので、勿論、支払っているのも、彼女だという認識は、店側にあったんですよね」
「お、おう。それは、まぁ」
「そしてそのカードを使う許可は、元婚約者の健司さんが行なっていた。それを受けて店は毎回の支払いを莉子さんのカードで受け付けていた」
「おう」

「では、元婚約者の健司さんも共犯ということですね」
「ちがっ。そ、それは、あれだ。莉子に立て替えて貰うって約束したんだ。ちゃんと返すさ」

 莉子は、八幡から目隠しはしていても、耳を塞がれている訳ではない。
 この場の会話について、しっかりと聞こえていた。
 だから八幡から「本当ですか?」と確認された時、きちんと肯いてみせた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

9時から5時まで悪役令嬢

西野和歌
恋愛
「お前は動くとロクな事をしない、だからお前は悪役令嬢なのだ」 婚約者である第二王子リカルド殿下にそう言われた私は決意した。 ならば私は願い通りに動くのをやめよう。 学園に登校した朝九時から下校の夕方五時まで 昼休憩の一時間を除いて私は椅子から動く事を一切禁止した。 さあ望むとおりにして差し上げました。あとは王子の自由です。 どうぞ自らがヒロインだと名乗る彼女たちと仲良くして下さい。 卒業パーティーもご自身でおっしゃった通りに、彼女たちから選ぶといいですよ? なのにどうして私を部屋から出そうとするんですか? 嫌です、私は初めて自分のためだけの自由の時間を手に入れたんです。 今まで通り、全てあなたの願い通りなのに何が不満なのか私は知りません。 冷めた伯爵令嬢と逆襲された王子の話。 ☆別サイトにも掲載しています。 ※感想より続編リクエストがありましたので、突貫工事並みですが、留学編を追加しました。 これにて完結です。沢山の皆さまに感謝致します。

婚約破棄、別れた二人の結末

四季
恋愛
学園一優秀と言われていたエレナ・アイベルン。 その婚約者であったアソンダソン。 婚約していた二人だが、正式に結ばれることはなく、まったく別の道を歩むこととなる……。

嘘からこうして婚約破棄は成された

桜梅花 空木
恋愛
自分だったらこうするなぁと。

処理中です...