始まりはよくある婚約破棄のように

喜楽直人

文字の大きさ
13 / 15
ミリアの知らないオレファンの過去編

宰相補佐オレファン・オリゴマーの日常・3




「お帰り、ミリィ。今日も一日お疲れ様」

 笑顔でオレファンが呟く。

「それ、聞こえて無いと思いますよ」
「聞こえたら怖がると思いますけどね」
「大丈夫でしょ、きっと。ミリア嬢、俺らよりずっと慣れてますもん」

 オレファンの側近A、B、Cもといケネス、ウォルター、カインが次々と突っ込みを入れていく。

 彼等の主たるオレファン・オリゴマー第二王子が駆けつけた先は、貴族学園ではない。
 オレファン最愛の婚約者ミリア・ファネス公爵令嬢の住む邸宅、その正門が辛うじて望遠鏡で見えるギリッギリの大通りの角である。
 そこに停めた、王家の紋章もなにも入っていない地味な黒塗りの返って怪しいんじゃないかと思われるような箱馬車の中から、ミリア嬢がきちんと邸宅へ帰り着いたかを確認するのがオレファンの日課だった。

「ずっと学園の生徒会になんか入らないで欲しいって絶対に阻止しようと思ってたけどさ、生徒会の仕事があるから、補佐の仕事が終わってからでもミリィの帰宅時間に間に合うんだもん。受け入れて良かったよ。やっぱり毎日ひと目は逢いたいよねー」

 ニコニコと気持ちの悪い言葉を悪い笑顔で告げる主に、ケネスがこめかみを揉んだ。
 主はご満悦である。
 しかし、あの箱馬車の中に必ず元気なミリア嬢がいるとは限らないのではないかと思うのだが、それを指摘すると更に面倒臭いことになりそうなので押し黙った。

 黙っていれば、美形なのに。勿体ないと思う。
 見目だけではない。学園を卒業してそろそろ一年。オレファンの仕事ぶりに関する評判は日々上がっていくばかりだ。

 ただしその後には、就業時間内に限る、という言葉が付く。

「何故、天はこの方に見目も能力も与えておきながら、肝心の良識だけは育むことを阻まれたのか」
「本当に残念だ。理解に苦しむ」
「この人を主に戴くということが、天が俺達に与えた試練なんだろうなぁ」

 すでにミリア嬢を乗せたと思わしき馬車は屋敷の門の奥へと消えている。

 にも拘らず、微動だにせず望遠鏡を離さずその先でも妄想するかのように見つめている姿が残念すぎた。

 オレファンが満足するまでの間こそこそと我が身を嘆き合った側近達を余所に、ようやく満足したのかオレファンがうっとりと長い息を吐いた。

「今日のミリィのリボン、見た? 三年前に僕が贈ったタティングレースのものだったよ。凄く似合ってた。うれしい」

 極々細い金糸にオレファンの瞳の色のクリスタルビーズを編み込んで作られたリボンは、まさにオレファンの色であり独占欲そのものだ。

 しかし、と側近たちは胡乱な顔をした。

「え、ミリア嬢、箱馬車から降りてこなかったよな」
「降りるどころか顔すら出してなかった」
「というか既に暗くて、馬車の家紋すら知らなかったら分からないレベル」

 …………。

 思わず三人揃って表情が消えた顔を見合わせる。

「はぁ、今日も可愛かったなぁ。僕のミリィ♡」

 主の何気ないひと言に、側近たちが心の中で呟いた『キモッ』という感想が綺麗にハモっていた事は、天のみぞ知る。




感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】仕方がないので結婚しましょう

七瀬菜々
恋愛
『アメリア・サザーランド侯爵令嬢!今この瞬間を持って貴様との婚約は破棄させてもらう!』 アメリアは静かな部屋で、自分の名を呼び、そう高らかに宣言する。 そんな婚約者を怪訝な顔で見るのは、この国の王太子エドワード。 アメリアは過去、幾度のなくエドワードに、自身との婚約破棄の提案をしてきた。 そして、その度に正論で打ちのめされてきた。 本日は巷で話題の恋愛小説を参考に、新しい婚約破棄の案をプレゼンするらしい。 果たしてアメリアは、今日こそ無事に婚約を破棄できるのか!? *高低差がかなりあるお話です *小説家になろうでも掲載しています

大好きな婚約者に「距離を置こう」と言われました

ミズメ
恋愛
 感情表現が乏しいせいで""氷鉄令嬢""と呼ばれている侯爵令嬢のフェリシアは、婚約者のアーサー殿下に唐突に距離を置くことを告げられる。  これは婚約破棄の危機――そう思ったフェリシアは色々と自分磨きに励むけれど、なぜだか上手くいかない。  とある夜会で、アーサーの隣に見知らぬ金髪の令嬢がいたという話を聞いてしまって……!?  重すぎる愛が故に婚約者に接近することができないアーサーと、なんとしても距離を縮めたいフェリシアの接近禁止の婚約騒動。 ○カクヨム、小説家になろうさまにも掲載/全部書き終えてます

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

「そうだ、結婚しよう!」悪役令嬢は断罪を回避した。

ミズメ
恋愛
ブラック企業で過労死(?)して目覚めると、そこはかつて熱中した乙女ゲームの世界だった。 しかも、自分は断罪エンドまっしぐらの悪役令嬢ロズニーヌ。そしてゲームもややこしい。 こんな謎運命、回避するしかない! 「そうだ、結婚しよう」 断罪回避のために動き出す悪役令嬢ロズニーヌと兄の友人である幼なじみの筋肉騎士のあれやこれや

【完結】アッシュフォード男爵夫人-愛されなかった令嬢は妹の代わりに辺境へ嫁ぐ-

七瀬菜々
恋愛
 ブランチェット伯爵家はずっと昔から、体の弱い末の娘ベアトリーチェを中心に回っている。   両親も使用人も、ベアトリーチェを何よりも優先する。そしてその次は跡取りの兄。中間子のアイシャは両親に気遣われることなく生きてきた。  もちろん、冷遇されていたわけではない。衣食住に困ることはなかったし、必要な教育も受けさせてもらえた。  ただずっと、両親の1番にはなれなかったというだけ。  ---愛されていないわけじゃない。  アイシャはずっと、自分にそう言い聞かせながら真面目に生きてきた。  しかし、その願いが届くことはなかった。  アイシャはある日突然、病弱なベアトリーチェの代わりに、『戦場の悪魔』の異名を持つ男爵の元へ嫁ぐことを命じられたのだ。  かの男は血も涙もない冷酷な男と噂の人物。  アイシャだってそんな男の元に嫁ぎたくないのに、両親は『ベアトリーチェがかわいそうだから』という理由だけでこの縁談をアイシャに押し付けてきた。 ーーーああ。やはり私は一番にはなれないのね。  アイシャはとうとう絶望した。どれだけ願っても、両親の一番は手に入ることなどないのだと、思い知ったから。  結局、アイシャは傷心のまま辺境へと向かった。  望まれないし、望まない結婚。アイシャはこのまま、誰かの一番になることもなく一生を終えるのだと思っていたのだが………? ※全部で3部です。話の進みはゆっくりとしていますが、最後までお付き合いくださると嬉しいです。    ※色々と、設定はふわっとしてますのでお気をつけください。 ※作者はザマァを描くのが苦手なので、ザマァ要素は薄いです。  

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

幼馴染み同士で婚約した私達は、何があっても結婚すると思っていた。

喜楽直人
恋愛
領地が隣の田舎貴族同士で爵位も釣り合うからと親が決めた婚約者レオン。 学園を卒業したら幼馴染みでもある彼と結婚するのだとローラは素直に受け入れていた。 しかし、ふたりで王都の学園に通うようになったある日、『王都に居られるのは学生の間だけだ。その間だけでも、お互い自由に、世界を広げておくべきだと思う』と距離を置かれてしまう。 挙句、学園内のパーティの席で、彼の隣にはローラではない令嬢が立ち、エスコートをする始末。 パーティの度に次々とエスコートする令嬢を替え、浮名を流すようになっていく婚約者に、ローラはひとり胸を痛める。 そうしてついに恐れていた事態が起きた。 レオンは、いつも同じ令嬢を連れて歩くようになったのだ。