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継続★美少女騎士団長
4.敬愛する上司
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■
「だから、俺がゴルドだって」
呆れて物も言えないとばかりに、ゴルドはラザルに言い聞かせようとした。
しかし、その言葉はラザルの怒りをより激しく燃え上がらせただけだった。
「そんな茶番に騙されるような奴はいません! いいじゃないですか、なんで聖女ルーの名で活動するだけでは駄目なんですか。なぜゴルド騎士団長の名誉を傷つけるような真似ができるんですか。それでなにが手に入るっていうんですか?!」
聖女ルーの話を聞いてからずっと、胸に痞えていた気持ちをラザルが吐き出した。
彼は、本気だった。ラザルは、ゴルドが神の御業を揮うために美少女の身体にされてしまったなど、まるで信じていなかった。
敬愛する上司の名誉を取り戻すためならば、主君に抗う覚悟を持ってここに立っている。
ゴルド本人の申告をあっさりと否定したラザルの盲信っぷりに、主従はお互いに顔を見合わせて肩を竦めた。
「うーん。どうすればいいかなぁ」
「乙女となった今のゴルドでは、剣で語り合う訳にもいくまい」
「アレクサンドル様ならともかく、このラザルが相手では手合わせは成立しないでしょうなぁ」
アレクサンドルは、乙女となったゴルドに合わせてくれる余裕があった。
上級者として、初心者に怪我をさせないように、技のみを競ってくれたのだ。
だが、今のラザルが相手ではむしろ嬉々としてゴルドを打ちのめして喜びの声を上げるだろう。ゴルドが本来の姿であればともかく、乙女となった今のゴルドでは、どちらかが怪我をする可能性はとても高かった。
ふたりは顔を見合わせて悩んだ。
しかし、ゴルドはこのままでは言い争うばかりになるだろうと腹をくくる。
「よし、ラザル。3日後に俺と対戦しろ。それで俺が勝ったら、事実として受け入れろ」
***
「対決って……大食い対決ですか!」
呼び出された騎士団の訓練所にやってきたラザルは、そこに用意されていた会場を見上げて吠えた。
中央のテーブルの上には、多種多様のケーキが山のように用意されていた。
生クリームのケーキ。濃厚なチョコレートのケーキ。果物たっぷりのタルト。何層も折り重ねて作られた繊細なパイ。ひと口サイズのチョコレート。カラフルなマカロン。カスタードクリームがいっぱい詰まっているシュークリーム。
ラザルが名前を知らない遠い国の甘い団子やスパイスがまぶされた揚げ菓子まで、まさに多種多様に揃えられていた。
「しかも、ケーキでだと。ふざけているのか! お前がゴルド騎士団長を名乗るなら、それこそ剣でこそ決着をつけるべきだ」
ラザルは額に青筋を立てて不満を言い立てた。
しかし、ゴルドは冷静に指摘する。
「ラザルなぁ、今の俺に剣で勝って嬉しいか? 今の俺は、非力な小娘なんだぞ」
「……大人しく、ゴルド騎士団長の名前を返すという選択肢を選べばいいじゃないですか」
ゴルドからあっさりと正論を返されて、ラザルは拗ねた口調で言い返した。しかし、正論しか言われていないことで若干心が折れかかっているのか、声がちいさい。
「お前は馬鹿なのか。俺が、俺の名前を手離す訳ないだろ」
胸を張って堂々と言い返したゴルドに、ラザルは目を瞠った。
そのままゴルドの顔をまじまじと見つめたかと思うと、何度も首を振る。
「うーん?」
「どうした?」
「いやいや、そんな馬鹿な。……まぁいい。いつまで意地を張っていられるか見ものだな。不正などしようとしないことだ。俺は見逃したりしないぞ。……それと、俺は甘い物は苦手だ。肉と酒を要求する」
ラザルは勝負について変更を要求すると、ゴルドは大きく頷いて笑顔で受けた。
「肉と酒は了承した。それと、不正を見逃さないというのは望むところだ。俺も見逃したりしないからな」
「ルールは簡単。各自、テーブルから自分の好きな食事を好きなだけ皿に盛りつけ、審判席にある量りで計量を済ませてから食べる。お皿の変更はナシ。俺もお前も、味が混ざるとかどうとか気にしないだろ。時間終了時点で、それまでの累計から皿と残ったデザートの重量をを引いた残り、つまり実際に食べたモノの総重量が多い者が勝者だ。いいな?」
「菓子と肉が同等扱いだということに関しては、ハンデとしておいてやろう」
感謝しろとばかりに、したり顔をしたラザルが居丈高に言い放つ。
しかしそれに対してもゴルドは真顔で訂正を入れた。
「舐めるな、ラザル。たとえば、そこにあるチョコレートひと粒は、赤身肉のステーキと同じだけのカロリーがある」
「こんなちいさなひと粒が?!」
「あぁ。しかし本当のことだ」
「俺の姉はこれを美容のためとか言って、毎日バターをたっぷり塗って焼いたパンと一緒に食べてますよ?!」
チョコレートには食欲を抑える効果があるとされている。ただし、チョコレートはカカオ成分が高く砂糖の使用をギリギリに押さえた特殊な製法をされたものに限るし、食事の前に摂ることが必須だが。
「それは……すごいな。バターの脂質も馬鹿にはならないからな。というか、バターは脂そのものだ。姉上の仰る美容はきっと皺防止とかそういうものではないかな」
「……姉上の口癖は、『痩せたい☆ でも食べたーい♡』です」
「……それは、是非訂正した方がいいな。うむ」
「そうします」
「更に、その隣にあるフルーツタルトは同じ重さの赤身肉ステーキのほぼ倍のカロリーがある。飾りのクリームも合わせて、脂肪や糖の塊だ」
大豆やナッツを轢いた粉を使ったタルト台も、卵とチーズと生クリームを使ったフィリングも、そこに混ぜ込んだ砂糖漬けになった果物も。どれもこれもハイカロリーという点ではとても優秀だった。
「そんな馬鹿な! 女たちは、山盛り食べているじゃないですか」
ラザルが、ゴルドが指したカラフルなフルーツタルトを手に取り目を剥いた。
ラザルがひと口で食べきれるサイズのそれはとても軽かった。
「ホントだよなぁ、なにが『お肉なんて食べたら太っちゃう』だ」
「見た目に騙されてたんですね。私も、姉上も!」
「いや、お前の姉上は知ってたかもなぁ」
ゴルドの最後の呟きに、ラザルは気が付いていなかった。
目の前の菓子から目を離せなくなっているようだ。呆然としたまま、「嘘でしょう」と呟いている。
「菓子の方がよほど簡単に太れるんだよ。運動前に食べればすぐにエネルギーとなるものばかり。日持ちや携帯する方法さえ解決できれば兵糧にしたいくらいだ」
「マジですか」
多種多様の菓子の山を前に、ふたりは顔を突き合わせて話し込む。会話は弾み、お互いに肩を叩き合うなど和気あいあいとした空気が生まれた。
「なんだ。和解したのか。対決は無しで交歓会でもするか」
声がした後ろの方へ、ゴルドが身体ごと顔を向けた。
そこに、来る筈のなかった婚約者の姿を見つけて驚きの声を上げて駆け寄る。
「アレクサンドル様! お忙しいのではなかったですか」
「俺の婚約者の一大事だぞ。いや、晴れ舞台か。来るに決まっているだろう」
にやりと笑って、流れるような仕草でその手を取りくちづける。
「わははは。婚約者と言っても中身は俺ですからなぁ。そのような厚遇はせずともよろしいのですぞ」
口ではそう言いつつも、聖女は王からのエスコートと婚約者としての扱いを受けること自体を拒むことなく受け入れている。ラザルは知らず眉を顰めた。
そうして一瞬後に、自分が不機嫌になっていることに気が付いて、慌てて眉の間を指で擦る。
改めてよく観察してみれば、すらりとしていて背が高く黒髪の大王と、長い銀の髪をした小柄な聖女が並んで笑いあっている様子は一幅の絵のように似合っていた。
その姿に、不思議と重なるはずのない相手の姿が重なる。
「だから、俺がゴルドだって」
呆れて物も言えないとばかりに、ゴルドはラザルに言い聞かせようとした。
しかし、その言葉はラザルの怒りをより激しく燃え上がらせただけだった。
「そんな茶番に騙されるような奴はいません! いいじゃないですか、なんで聖女ルーの名で活動するだけでは駄目なんですか。なぜゴルド騎士団長の名誉を傷つけるような真似ができるんですか。それでなにが手に入るっていうんですか?!」
聖女ルーの話を聞いてからずっと、胸に痞えていた気持ちをラザルが吐き出した。
彼は、本気だった。ラザルは、ゴルドが神の御業を揮うために美少女の身体にされてしまったなど、まるで信じていなかった。
敬愛する上司の名誉を取り戻すためならば、主君に抗う覚悟を持ってここに立っている。
ゴルド本人の申告をあっさりと否定したラザルの盲信っぷりに、主従はお互いに顔を見合わせて肩を竦めた。
「うーん。どうすればいいかなぁ」
「乙女となった今のゴルドでは、剣で語り合う訳にもいくまい」
「アレクサンドル様ならともかく、このラザルが相手では手合わせは成立しないでしょうなぁ」
アレクサンドルは、乙女となったゴルドに合わせてくれる余裕があった。
上級者として、初心者に怪我をさせないように、技のみを競ってくれたのだ。
だが、今のラザルが相手ではむしろ嬉々としてゴルドを打ちのめして喜びの声を上げるだろう。ゴルドが本来の姿であればともかく、乙女となった今のゴルドでは、どちらかが怪我をする可能性はとても高かった。
ふたりは顔を見合わせて悩んだ。
しかし、ゴルドはこのままでは言い争うばかりになるだろうと腹をくくる。
「よし、ラザル。3日後に俺と対戦しろ。それで俺が勝ったら、事実として受け入れろ」
***
「対決って……大食い対決ですか!」
呼び出された騎士団の訓練所にやってきたラザルは、そこに用意されていた会場を見上げて吠えた。
中央のテーブルの上には、多種多様のケーキが山のように用意されていた。
生クリームのケーキ。濃厚なチョコレートのケーキ。果物たっぷりのタルト。何層も折り重ねて作られた繊細なパイ。ひと口サイズのチョコレート。カラフルなマカロン。カスタードクリームがいっぱい詰まっているシュークリーム。
ラザルが名前を知らない遠い国の甘い団子やスパイスがまぶされた揚げ菓子まで、まさに多種多様に揃えられていた。
「しかも、ケーキでだと。ふざけているのか! お前がゴルド騎士団長を名乗るなら、それこそ剣でこそ決着をつけるべきだ」
ラザルは額に青筋を立てて不満を言い立てた。
しかし、ゴルドは冷静に指摘する。
「ラザルなぁ、今の俺に剣で勝って嬉しいか? 今の俺は、非力な小娘なんだぞ」
「……大人しく、ゴルド騎士団長の名前を返すという選択肢を選べばいいじゃないですか」
ゴルドからあっさりと正論を返されて、ラザルは拗ねた口調で言い返した。しかし、正論しか言われていないことで若干心が折れかかっているのか、声がちいさい。
「お前は馬鹿なのか。俺が、俺の名前を手離す訳ないだろ」
胸を張って堂々と言い返したゴルドに、ラザルは目を瞠った。
そのままゴルドの顔をまじまじと見つめたかと思うと、何度も首を振る。
「うーん?」
「どうした?」
「いやいや、そんな馬鹿な。……まぁいい。いつまで意地を張っていられるか見ものだな。不正などしようとしないことだ。俺は見逃したりしないぞ。……それと、俺は甘い物は苦手だ。肉と酒を要求する」
ラザルは勝負について変更を要求すると、ゴルドは大きく頷いて笑顔で受けた。
「肉と酒は了承した。それと、不正を見逃さないというのは望むところだ。俺も見逃したりしないからな」
「ルールは簡単。各自、テーブルから自分の好きな食事を好きなだけ皿に盛りつけ、審判席にある量りで計量を済ませてから食べる。お皿の変更はナシ。俺もお前も、味が混ざるとかどうとか気にしないだろ。時間終了時点で、それまでの累計から皿と残ったデザートの重量をを引いた残り、つまり実際に食べたモノの総重量が多い者が勝者だ。いいな?」
「菓子と肉が同等扱いだということに関しては、ハンデとしておいてやろう」
感謝しろとばかりに、したり顔をしたラザルが居丈高に言い放つ。
しかしそれに対してもゴルドは真顔で訂正を入れた。
「舐めるな、ラザル。たとえば、そこにあるチョコレートひと粒は、赤身肉のステーキと同じだけのカロリーがある」
「こんなちいさなひと粒が?!」
「あぁ。しかし本当のことだ」
「俺の姉はこれを美容のためとか言って、毎日バターをたっぷり塗って焼いたパンと一緒に食べてますよ?!」
チョコレートには食欲を抑える効果があるとされている。ただし、チョコレートはカカオ成分が高く砂糖の使用をギリギリに押さえた特殊な製法をされたものに限るし、食事の前に摂ることが必須だが。
「それは……すごいな。バターの脂質も馬鹿にはならないからな。というか、バターは脂そのものだ。姉上の仰る美容はきっと皺防止とかそういうものではないかな」
「……姉上の口癖は、『痩せたい☆ でも食べたーい♡』です」
「……それは、是非訂正した方がいいな。うむ」
「そうします」
「更に、その隣にあるフルーツタルトは同じ重さの赤身肉ステーキのほぼ倍のカロリーがある。飾りのクリームも合わせて、脂肪や糖の塊だ」
大豆やナッツを轢いた粉を使ったタルト台も、卵とチーズと生クリームを使ったフィリングも、そこに混ぜ込んだ砂糖漬けになった果物も。どれもこれもハイカロリーという点ではとても優秀だった。
「そんな馬鹿な! 女たちは、山盛り食べているじゃないですか」
ラザルが、ゴルドが指したカラフルなフルーツタルトを手に取り目を剥いた。
ラザルがひと口で食べきれるサイズのそれはとても軽かった。
「ホントだよなぁ、なにが『お肉なんて食べたら太っちゃう』だ」
「見た目に騙されてたんですね。私も、姉上も!」
「いや、お前の姉上は知ってたかもなぁ」
ゴルドの最後の呟きに、ラザルは気が付いていなかった。
目の前の菓子から目を離せなくなっているようだ。呆然としたまま、「嘘でしょう」と呟いている。
「菓子の方がよほど簡単に太れるんだよ。運動前に食べればすぐにエネルギーとなるものばかり。日持ちや携帯する方法さえ解決できれば兵糧にしたいくらいだ」
「マジですか」
多種多様の菓子の山を前に、ふたりは顔を突き合わせて話し込む。会話は弾み、お互いに肩を叩き合うなど和気あいあいとした空気が生まれた。
「なんだ。和解したのか。対決は無しで交歓会でもするか」
声がした後ろの方へ、ゴルドが身体ごと顔を向けた。
そこに、来る筈のなかった婚約者の姿を見つけて驚きの声を上げて駆け寄る。
「アレクサンドル様! お忙しいのではなかったですか」
「俺の婚約者の一大事だぞ。いや、晴れ舞台か。来るに決まっているだろう」
にやりと笑って、流れるような仕草でその手を取りくちづける。
「わははは。婚約者と言っても中身は俺ですからなぁ。そのような厚遇はせずともよろしいのですぞ」
口ではそう言いつつも、聖女は王からのエスコートと婚約者としての扱いを受けること自体を拒むことなく受け入れている。ラザルは知らず眉を顰めた。
そうして一瞬後に、自分が不機嫌になっていることに気が付いて、慌てて眉の間を指で擦る。
改めてよく観察してみれば、すらりとしていて背が高く黒髪の大王と、長い銀の髪をした小柄な聖女が並んで笑いあっている様子は一幅の絵のように似合っていた。
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