17 / 47
継続★美少女騎士団長
5.許すまじき傲慢
しおりを挟む
■
「ちがう。……先ほど交わした会話が、すべて軍のことだの筋肉に通じていくから、ちょっとだけ、そんな気がしただけに違いないんだ」
ラザルが敬愛して止まない上司。
大王至上主義の筋肉馬鹿と言っても過言ではない猪突猛進な騎士団長のことを、ラザルはずっと尊敬していた。
貴族としては不適格とされるかもしれないが、裏表のまるでない性格。
豪快な性格そのままの強さは、筋肉が付きにくいことで悩んでいたラザルにとって憧れそのものだった。
『筋肉は、強さにおけるひとつの形態にすぎない。お前はお前なりの強さを見つければいい』
まだラザルが新人騎士だった頃、誰よりも強くなりたいとどれだけ願い努力を積み重ねても結果が見えずにくじけそうになっていたラザルに、ゴルドが掛けてくれた言葉だ。
その教えに天啓を受けたラザルは、どちらかといえば騎士学校では座学が得意であったこともあり軍師を目指すことにした。それと、細かい雑事や書類仕事が苦手なゴルドに代われるように務めた。その結果が副団長の地位に繋がった。
赤い悪魔と呼ばれるようになったゴルドのために生きる。
副官として支えることこそがラザルの喜びであり、この世に生まれてきた意義だと信じていた。
(しかし、お傍にいることが叶わなかった戦で、あの方は主君のために命を捧げてしまわれた)
悲しいし悔しくもあるが、そのこと自体は、ラザルには納得できた。
ゴルド・ドルバガという男ならそうする。それくらい当然のようにやってのけるだろう。そう信じられた。
しかし、その後がいけない。
彼の死を利用して聖女の価値を高めようとする大王と聖女の傲慢さだけは、ラザルには許せなかった。
何故、尊い彼の死を踏みつけるような真似ができるのか。
聖女が為した神の御業だけで功績は十分ではないか。何故、ゴルド団長の過去の功績まで掠めとることが必要なのか。
自分よりずっと背の高いアレクサンドルを見上げ、銀の長い髪を揺らしながら話す声はまるで鈴を転がすように愛らしい。
その声を紡ぐ唇はさくらんぼのように赤くふっくらとしているし、その頬はどこまでも透き通ってまるで陶器で出来た人形のようだった。
しかし彼女は間違いなく、血の通った人間だ。それも恐ろしく顔が整っている。
なのに、口調は、赤い悪魔と呼ばれた上司そのものだ。会話の運びも内容も。すべて。
ラザルと菓子談義を行っている時の瞳のきらめきが、筋肉トレーニングについて語る敬愛する上司と重なって、慌てて頭を振った。
先ほど掴み上げた腕の細さ。その乙女のやわらかな腕を捩じ上げてしまった事実に、忸怩たる思いが湧きあがってきたが、それもラザルは否定した。
敬愛する上司ゴルド・ドルバガの名誉を守る為、ふたりの行為の真意を問い質し、主君と聖女の行いを改めさせるために、ラザルは今こうしてここに立っている。
だというのに。
「いいや、対戦はしますぞ。これは男と男の名誉のための戦いですからな」
「ゴルド、今のお前は乙女なのだ。戦いは男の俺に任せて貰ってもいいのだぞ」
「いいえ。これは俺の戦いです」
「お前の戦いは、婚約者である俺の戦いでもある。お前の名誉は、俺が守ろう」
「イチャイチャするなぁ! 俺を、無視してイチャイチャイチャイチャし続けるなぁ!」
ついに黙っていられなくなったラザルが叫んだ。
どれだけ故人となったゴルドの扱いに不満を持とうと、主君である大王に対する言葉としてあまりにも不適切なその言葉は、しかし周囲の使用人たちの心の声そのものだった。
「『お前の身体は、もうお前ひとりのものではないのだぞ』ですってぇ!」
「まだ婚姻前なのに。まぁオメデタイ事ではあるけど……ねぇ?」
「さすが俺たちの大王様! 中身がゴルド騎士団長でも関係ない!」
「百発百中! そこに痺れる憧れるぅ!」
「ちがーう! 俺は今の大王様には、痺れたり憧れたりしない! ゴルド様の名誉に掛けて、私との対戦、受けて下さいますね?」
「ちがう。……先ほど交わした会話が、すべて軍のことだの筋肉に通じていくから、ちょっとだけ、そんな気がしただけに違いないんだ」
ラザルが敬愛して止まない上司。
大王至上主義の筋肉馬鹿と言っても過言ではない猪突猛進な騎士団長のことを、ラザルはずっと尊敬していた。
貴族としては不適格とされるかもしれないが、裏表のまるでない性格。
豪快な性格そのままの強さは、筋肉が付きにくいことで悩んでいたラザルにとって憧れそのものだった。
『筋肉は、強さにおけるひとつの形態にすぎない。お前はお前なりの強さを見つければいい』
まだラザルが新人騎士だった頃、誰よりも強くなりたいとどれだけ願い努力を積み重ねても結果が見えずにくじけそうになっていたラザルに、ゴルドが掛けてくれた言葉だ。
その教えに天啓を受けたラザルは、どちらかといえば騎士学校では座学が得意であったこともあり軍師を目指すことにした。それと、細かい雑事や書類仕事が苦手なゴルドに代われるように務めた。その結果が副団長の地位に繋がった。
赤い悪魔と呼ばれるようになったゴルドのために生きる。
副官として支えることこそがラザルの喜びであり、この世に生まれてきた意義だと信じていた。
(しかし、お傍にいることが叶わなかった戦で、あの方は主君のために命を捧げてしまわれた)
悲しいし悔しくもあるが、そのこと自体は、ラザルには納得できた。
ゴルド・ドルバガという男ならそうする。それくらい当然のようにやってのけるだろう。そう信じられた。
しかし、その後がいけない。
彼の死を利用して聖女の価値を高めようとする大王と聖女の傲慢さだけは、ラザルには許せなかった。
何故、尊い彼の死を踏みつけるような真似ができるのか。
聖女が為した神の御業だけで功績は十分ではないか。何故、ゴルド団長の過去の功績まで掠めとることが必要なのか。
自分よりずっと背の高いアレクサンドルを見上げ、銀の長い髪を揺らしながら話す声はまるで鈴を転がすように愛らしい。
その声を紡ぐ唇はさくらんぼのように赤くふっくらとしているし、その頬はどこまでも透き通ってまるで陶器で出来た人形のようだった。
しかし彼女は間違いなく、血の通った人間だ。それも恐ろしく顔が整っている。
なのに、口調は、赤い悪魔と呼ばれた上司そのものだ。会話の運びも内容も。すべて。
ラザルと菓子談義を行っている時の瞳のきらめきが、筋肉トレーニングについて語る敬愛する上司と重なって、慌てて頭を振った。
先ほど掴み上げた腕の細さ。その乙女のやわらかな腕を捩じ上げてしまった事実に、忸怩たる思いが湧きあがってきたが、それもラザルは否定した。
敬愛する上司ゴルド・ドルバガの名誉を守る為、ふたりの行為の真意を問い質し、主君と聖女の行いを改めさせるために、ラザルは今こうしてここに立っている。
だというのに。
「いいや、対戦はしますぞ。これは男と男の名誉のための戦いですからな」
「ゴルド、今のお前は乙女なのだ。戦いは男の俺に任せて貰ってもいいのだぞ」
「いいえ。これは俺の戦いです」
「お前の戦いは、婚約者である俺の戦いでもある。お前の名誉は、俺が守ろう」
「イチャイチャするなぁ! 俺を、無視してイチャイチャイチャイチャし続けるなぁ!」
ついに黙っていられなくなったラザルが叫んだ。
どれだけ故人となったゴルドの扱いに不満を持とうと、主君である大王に対する言葉としてあまりにも不適切なその言葉は、しかし周囲の使用人たちの心の声そのものだった。
「『お前の身体は、もうお前ひとりのものではないのだぞ』ですってぇ!」
「まだ婚姻前なのに。まぁオメデタイ事ではあるけど……ねぇ?」
「さすが俺たちの大王様! 中身がゴルド騎士団長でも関係ない!」
「百発百中! そこに痺れる憧れるぅ!」
「ちがーう! 俺は今の大王様には、痺れたり憧れたりしない! ゴルド様の名誉に掛けて、私との対戦、受けて下さいますね?」
10
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
ある日、私は聖女召喚で呼び出され悪魔と間違われた。〜引き取ってくれた冷血無慈悲公爵にペットとして可愛がられる〜
楠ノ木雫
恋愛
気が付いた時には見知らぬ場所にいた。周りには複数の女性達。そう、私達は《聖女》としてここに呼び出されたのだ。だけど、そこでいきなり私を悪魔だと剣を向ける者達がいて。殺されはしなかったけれど、聖女ではないと認識され、冷血公爵に押し付けられることになった。
私は断じて悪魔じゃありません! 見た目は真っ黒で丸い角もあるけれど、悪魔ではなく……
※他の投稿サイトにも掲載しています。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~
しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。
豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。
――食事が、冷めているのだ。
どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。
「温かいごはんが食べたい」
そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。
地下厨房からの高速搬送。
専用レーンを爆走するカートメイド。
扉の開閉に命をかけるオープナー。
ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!?
温かさは、ホッとさせてくれる。
それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。
冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、
食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ!
-
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる