28 / 47
教会の手
3.アレクサンドルとゴルドちゃん
しおりを挟む
■
「えぇい、いい加減にしろ。この俺を誰だと思っている。教会騎士ゲラーシー・ダヴィトキンであるぞ。教会からの馬車を門前払いしようとは。この国は、教会から破門を受けたいと言うのか!」
「誰がなんと仰られようと無理です。ここは王城。我が国の要です。王から事前の許可を得ていない馬車を入城させることはなりません」
長く伸ばした、いっそ銀に見えるほど色素の薄い金髪を振り乱して教会騎士が門番に対して脅しをかけていた。
教会の教義では、髪には神聖なる力が宿っているとされていたはずだ。きっと教会騎士の中でも身分が高いのであろう。他の教会騎士たちとは違い白い団服の袖口や襟元に金糸の刺繍が施されていた。
彼ら教会騎士たちは、敵であろうと神の前で血を流すことを許さないという教義の下、剣を持たない。特殊な聖なる祝福を受けた長い棒、聖杖で戦う。
実際にリーチの長いしなやかな棒で強かに打たれれば骨は砕け、顔に当たれば流血まじりの抜け落ちた歯が飛び散り、腹をに突きを受ければ内臓が破裂して吐血する。
棒、といっても木製ではないのだから、当然だ。
ごくごく初期は、確かにただの木の棒で戦っていたというが今は違う。
聖銀で作られた美しい装飾でぐるりと包み込まれた棒の芯に、しなやかな木材が使われている、と表現するべきだろう。
そもそも聖銀は他の金属に比べて非常に軽く、尚且つ丈夫だ。粘りのある素材なので木の芯材との相性もいい。
槍や戦斧よりずっと取り回しも良い聖杖は、相手の攻撃を弾くことも容易であり、木の棒というには、あまりにもエゲツナイ破壊力を持った武器である。
だからこそ教会騎士を敵に回すと厄介だと言われている。
「まぁ、俺たちの敵じゃないがな」
アレクサンドルは今、状況を確認するため屋根の上から覗いていた。
ぎゃんぎゃん騒ぐ教会騎士と決められた言葉を冷静に告げる門番の騒ぎをどこからか聞きつけたのか、遠くから駆けてくる姿があった。
細くてちいさくて。長い髪を丁寧に編んで巻きつけられているせいか頭だけ大きい。少しバランスが悪い気もするが、子供のようでもあり、いっそ愛らしい。
頭でっかちな身体を無駄に横に揺らすことのない体幹の良さに、日々の努力が垣間見えて、アレクサンドルは微笑んだ。
すっかりトレードマークになってしまった赤い靴をせわしなく動かして、アレクサンドルの婚約者が諍いを止めるべくやってきたのだ。
「足おっそ。騎士団長にしては可愛らしすぎるんだよなぁ」
それでもその小さな身体に宿る魂は、アレクサンドルの右腕、赤い悪魔、ゴルド・ドルバガその人のものだ。
アレクサンドルが誰より信じ、頼りにしてきた男だ。
今や男ではなくなってしまったし、とんでもない美少女になってあんなに細い身体になった今もアレクサンドルとこの国、いや世界を守っている。
「あの見た目を上手く使えるような性格なら、問題ないどころか完全無敵なんだろうが。ゴルドだしなぁ」
そんな器用な真似ができる筈がないのだ。
一国一城の主として、受けた恩以上のモノを返さなければ、恥である。
「さて。俺も行くか」
この王城で教会ごときに好き勝手に振舞われるのも気に入らない。
婚約者を守るため、アレクサンドルは城門へ移動した。
***
「ん、どこだ? なんの騒ぎだろうか」
ゴルドがその騒動に気が付いたのは、たまたまだった。
仲のいい侍女たちが新しい乗馬服を仕立ててくれたのが嬉しくて馬場へ向かっている途中にある柱廊を通りかかった時、遠くから怒鳴り声が聞こえてきたのだ。
その会話の内容から相手を推測することは、ゴルドには容易だった。
耳をすませば、どうやら最近ずっとしつこい手紙を寄越してくる相手が、約束もなしに押し掛けてきて王城への入門を押し通そうと騒いでいるのだということがすぐに分かった。
「ほう。手紙を捨てろと言ってから放置していたが。そうか直接迎えに来たというのか」
神の御遣い特典なのか、遠くからでも聞き取りたいなと思う音や会話だけが聞こえるようになったのだ。便利である。
普段は騎士たちがサボっている場所を特定することにしか使ったことはない。だが、便利だ。
ゴルドは、馬場に行くのとは反対方向へと走り出した。
「それにしても何故前触れを出さない。いや、俺宛の書状が前触れだったのか? だが返事も出していないのだから、どちらにしろあり得ぬ態度だ。それで押し掛けてくるとは、いやはや神の遣いという者どもは、どこでも傍若無人だ」
ぶつぶつと文句を言いつつ走ると、更に怒りが湧いてくる。
書状の内容自体がムカつく。徹頭徹尾最初から最後まで全部ムカついて仕方がなかった。だから破いて捨てたし、以後教会からの書状は俺の手元に届けることなくそのまま捨てるようにとラザルへ指示を出したのだ。
返事をしないことが返事。それで終わったと思っていたのに。
門の方角から聞こえてくる門番への態度がどんどん不穏なモノになっていく。
「アレクサンドル様の居城で、なんと無礼な。絶対に許さぬ」
本当ならば階段などというまどろっこしいモノは、一段抜かしどころか天辺から飛び降りてしまいたいところなのだが。
「この身体では、如何ともしがたい。まったくもって不便なものだ」
足が遅すぎる。
小さな赤い靴で、一段ずつしっかりと踏みしめながら可能な限り急ぎ駆け下り、騒動真っ最中の門へと駆けた。
「えぇい、いい加減にしろ。この俺を誰だと思っている。教会騎士ゲラーシー・ダヴィトキンであるぞ。教会からの馬車を門前払いしようとは。この国は、教会から破門を受けたいと言うのか!」
「誰がなんと仰られようと無理です。ここは王城。我が国の要です。王から事前の許可を得ていない馬車を入城させることはなりません」
長く伸ばした、いっそ銀に見えるほど色素の薄い金髪を振り乱して教会騎士が門番に対して脅しをかけていた。
教会の教義では、髪には神聖なる力が宿っているとされていたはずだ。きっと教会騎士の中でも身分が高いのであろう。他の教会騎士たちとは違い白い団服の袖口や襟元に金糸の刺繍が施されていた。
彼ら教会騎士たちは、敵であろうと神の前で血を流すことを許さないという教義の下、剣を持たない。特殊な聖なる祝福を受けた長い棒、聖杖で戦う。
実際にリーチの長いしなやかな棒で強かに打たれれば骨は砕け、顔に当たれば流血まじりの抜け落ちた歯が飛び散り、腹をに突きを受ければ内臓が破裂して吐血する。
棒、といっても木製ではないのだから、当然だ。
ごくごく初期は、確かにただの木の棒で戦っていたというが今は違う。
聖銀で作られた美しい装飾でぐるりと包み込まれた棒の芯に、しなやかな木材が使われている、と表現するべきだろう。
そもそも聖銀は他の金属に比べて非常に軽く、尚且つ丈夫だ。粘りのある素材なので木の芯材との相性もいい。
槍や戦斧よりずっと取り回しも良い聖杖は、相手の攻撃を弾くことも容易であり、木の棒というには、あまりにもエゲツナイ破壊力を持った武器である。
だからこそ教会騎士を敵に回すと厄介だと言われている。
「まぁ、俺たちの敵じゃないがな」
アレクサンドルは今、状況を確認するため屋根の上から覗いていた。
ぎゃんぎゃん騒ぐ教会騎士と決められた言葉を冷静に告げる門番の騒ぎをどこからか聞きつけたのか、遠くから駆けてくる姿があった。
細くてちいさくて。長い髪を丁寧に編んで巻きつけられているせいか頭だけ大きい。少しバランスが悪い気もするが、子供のようでもあり、いっそ愛らしい。
頭でっかちな身体を無駄に横に揺らすことのない体幹の良さに、日々の努力が垣間見えて、アレクサンドルは微笑んだ。
すっかりトレードマークになってしまった赤い靴をせわしなく動かして、アレクサンドルの婚約者が諍いを止めるべくやってきたのだ。
「足おっそ。騎士団長にしては可愛らしすぎるんだよなぁ」
それでもその小さな身体に宿る魂は、アレクサンドルの右腕、赤い悪魔、ゴルド・ドルバガその人のものだ。
アレクサンドルが誰より信じ、頼りにしてきた男だ。
今や男ではなくなってしまったし、とんでもない美少女になってあんなに細い身体になった今もアレクサンドルとこの国、いや世界を守っている。
「あの見た目を上手く使えるような性格なら、問題ないどころか完全無敵なんだろうが。ゴルドだしなぁ」
そんな器用な真似ができる筈がないのだ。
一国一城の主として、受けた恩以上のモノを返さなければ、恥である。
「さて。俺も行くか」
この王城で教会ごときに好き勝手に振舞われるのも気に入らない。
婚約者を守るため、アレクサンドルは城門へ移動した。
***
「ん、どこだ? なんの騒ぎだろうか」
ゴルドがその騒動に気が付いたのは、たまたまだった。
仲のいい侍女たちが新しい乗馬服を仕立ててくれたのが嬉しくて馬場へ向かっている途中にある柱廊を通りかかった時、遠くから怒鳴り声が聞こえてきたのだ。
その会話の内容から相手を推測することは、ゴルドには容易だった。
耳をすませば、どうやら最近ずっとしつこい手紙を寄越してくる相手が、約束もなしに押し掛けてきて王城への入門を押し通そうと騒いでいるのだということがすぐに分かった。
「ほう。手紙を捨てろと言ってから放置していたが。そうか直接迎えに来たというのか」
神の御遣い特典なのか、遠くからでも聞き取りたいなと思う音や会話だけが聞こえるようになったのだ。便利である。
普段は騎士たちがサボっている場所を特定することにしか使ったことはない。だが、便利だ。
ゴルドは、馬場に行くのとは反対方向へと走り出した。
「それにしても何故前触れを出さない。いや、俺宛の書状が前触れだったのか? だが返事も出していないのだから、どちらにしろあり得ぬ態度だ。それで押し掛けてくるとは、いやはや神の遣いという者どもは、どこでも傍若無人だ」
ぶつぶつと文句を言いつつ走ると、更に怒りが湧いてくる。
書状の内容自体がムカつく。徹頭徹尾最初から最後まで全部ムカついて仕方がなかった。だから破いて捨てたし、以後教会からの書状は俺の手元に届けることなくそのまま捨てるようにとラザルへ指示を出したのだ。
返事をしないことが返事。それで終わったと思っていたのに。
門の方角から聞こえてくる門番への態度がどんどん不穏なモノになっていく。
「アレクサンドル様の居城で、なんと無礼な。絶対に許さぬ」
本当ならば階段などというまどろっこしいモノは、一段抜かしどころか天辺から飛び降りてしまいたいところなのだが。
「この身体では、如何ともしがたい。まったくもって不便なものだ」
足が遅すぎる。
小さな赤い靴で、一段ずつしっかりと踏みしめながら可能な限り急ぎ駆け下り、騒動真っ最中の門へと駆けた。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
ある日、私は聖女召喚で呼び出され悪魔と間違われた。〜引き取ってくれた冷血無慈悲公爵にペットとして可愛がられる〜
楠ノ木雫
恋愛
気が付いた時には見知らぬ場所にいた。周りには複数の女性達。そう、私達は《聖女》としてここに呼び出されたのだ。だけど、そこでいきなり私を悪魔だと剣を向ける者達がいて。殺されはしなかったけれど、聖女ではないと認識され、冷血公爵に押し付けられることになった。
私は断じて悪魔じゃありません! 見た目は真っ黒で丸い角もあるけれど、悪魔ではなく……
※他の投稿サイトにも掲載しています。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~
しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。
豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。
――食事が、冷めているのだ。
どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。
「温かいごはんが食べたい」
そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。
地下厨房からの高速搬送。
専用レーンを爆走するカートメイド。
扉の開閉に命をかけるオープナー。
ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!?
温かさは、ホッとさせてくれる。
それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。
冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、
食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ!
-
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる