聖女さま、御降臨~元ガチムチ騎士団長は美少女聖女さまにTS中♡

喜楽直人

文字の大きさ
38 / 47
教会の手

13.教会と聖女

しおりを挟む



「いいですか、処女性を必要とせず、子供を産んでも神の加護を失うことのない聖女。しかも産んだ子供は世界の平和を護る守護防壁の維持する力を受け継いでいる」

 手にした盃をぐいと飲み干して、ワシリーは空になった盃を前に差し出した。
 新たな酒が注がれていくのを眺めながら、ワシリーはうっとりと呟く。

「なんと素晴らしい神の恩寵。なんという僥倖だと思われませんか」

 目の前に座っている相手が頷いてみせた。だが、それを盃からまったく目を逸らそうとしないワシリーから見ているのかどうか。

「神の御力を世に知らしめるために、聖女は古世界へ降臨したのです!」

 盃の中身の香りを堪能すべく鼻をひくひくと蠢かせる。浅ましい姿を目の前の男だけでなくこの部屋にいる者たちすべてに向けて曝け出していることすら、もうワシリーは気付かない。

 そもそも、ベルターニャの王太子が引き連れてきた者たちに対する関心がないのかもしれないが。

「聖女の存在は、ひとつの国が管理できるようなものではない。神のしもべである私達教会こそが、その恩恵を世に広めるため管理すべきなのです!」

「ふざけるな。ゴルドさまを娼婦扱いしようとしていたのか、この腐れ教会の外道どもが。ゆるさん」

 ベルターニャの王太子の後ろにいたひとりが、憎々し気に吐き捨てた。

「あまり大きな声を出すな、ラザル。もうすぐ落ちる。せめてそれからにしろ」
「すみません」

「あぁ、でももう大丈夫かな」

 視線を移せば、ワシリーと毒見役の側付きのふたり揃って床に頽れていた。その瞳の焦点はふわふわと宙を彷徨い合っていない。

 “命の水”だけならば、ただの旨い酒だ。
 チョコレートだけでも、ただの旨い菓子だ。
 一緒に食べれば旨さが跳ね上がる、だけではない。

 興奮剤とは違う。自白剤でもない。高揚剤とでも言えばいいのだろうか。

 酒が入ればだれでも多少は口が軽くなるというが、その効果が絶大に発揮される。
 秘めておかねばならない秘密をぽろぽろと口に出し、それを駄目なことだと認識できなくなる。時も場所もなにも構わず、ただ本能の赴くまま、問われるままに滔々と語ってくれるようになる。

 ベルターニャ王家が、政敵の思惑を知るための奥の手だ。
 ただ自制を失わせることが目的のものなので、これまで副作用などは報告がない。後遺症が出たこともない。

 ただ、普段はこれほど多量には飲ませることはしないので、効き目としてもほんの少しいつもより口が軽くなる程度だ。それで十分だったからだ。
 だが今回はどうにも腹の虫がおさまらなかったデチモは容量も何もなく使ったのでもしかしたら副作用が出るかもしれない。だが、それでも構わなかった。

「それにしても、行き違いにならなくて本当に良かったよ」
「これも神のお導きかと」
「聖女さまだもんね、それもあるか」

 すっかり諦めてしまっていたアレクサンドルに見切りをつけたラザルは、ひとりベルターニャを目指して馬を走らせた。
 副騎士団長の権力でゴリ押しでその街で最も足の速い馬を借り受け乗り継いで国境まで来たところで、デチモの一団と遭遇できたのだ。

「ベルターニャから縁組の申し込みをするつもりだったんだ。式を挙げる前ならなんとか勝負になる気がして思いついたら居ても立ってもいられなくてね。それで飛び出してきたんだ。けれど、良かったよ間に合って」

 交渉に使えるかもしれないと用意してきた命の水も役に立った。
 すべてがギリギリのところで噛み合った形だ。

「えぇ、これは間違いなく神のお導きでしょう。……それで? 今のワシリー教皇の話を聞いて、如何ですか」

 無造作に扉へと近づいていったラザルが、扉を開けた。
 そこに所在なさげにして立っていた美しい少女を見つめ、尚も問い掛ける。

「ねぇ、ゴルド様?」

 ゴルドはしばらく躊躇った後、ぽつりと答えた。

「……俺は、残る」

 その回答に、ラザルは我慢することができなかった。思わず声を荒げて問い詰めた。

「! 聞いていたでしょう? 今の! ワシリーの話を!!」
「あぁ、大体想像していた通りの下種っぷりだったな」
「なら!」
 ぐっと掴んだ肩は細くて。目の前にいる少女こそ敬愛する上司であると分かっていても、視覚と手に掴んだ感触が、すべてがラザルの記憶と重なる物が無さ過ぎて、辛かった。

「なんであなたは、そこまで犠牲になろうとするんですか!」

 掴んだ肩を強く揺さぶった。
 ラザルが全力で挑もうと露ほども動かぬ筈の力強い巨躯の持ち主だったのに。
 今は嫋やかな百合の花のように揺れている。
 それが悔しくて、悲しくて。ラザルは慟哭した。

「なんでえぇぇぇ!!」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

ある日、私は聖女召喚で呼び出され悪魔と間違われた。〜引き取ってくれた冷血無慈悲公爵にペットとして可愛がられる〜

楠ノ木雫
恋愛
 気が付いた時には見知らぬ場所にいた。周りには複数の女性達。そう、私達は《聖女》としてここに呼び出されたのだ。だけど、そこでいきなり私を悪魔だと剣を向ける者達がいて。殺されはしなかったけれど、聖女ではないと認識され、冷血公爵に押し付けられることになった。  私は断じて悪魔じゃありません! 見た目は真っ黒で丸い角もあるけれど、悪魔ではなく…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~

しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。 豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。 ――食事が、冷めているのだ。 どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。 「温かいごはんが食べたい」 そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。 地下厨房からの高速搬送。 専用レーンを爆走するカートメイド。 扉の開閉に命をかけるオープナー。 ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!? 温かさは、ホッとさせてくれる。 それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。 冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、 食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ! -

処理中です...