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教会の手
15.聖女ゴルドは愛されている
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「まったく。せっかく平和になったのです。俺としては、アレクサンドル様だけでも、愛ある人生を送っていただきたかったというのに」
肩を下げてぼやくゴルドを、その場にいた男たちは皆、拍子抜けしたように見つめた。
「なんだゴルド。お前は、これから先の自分が、愛のない人生を送れるとでも思っていたのか?」
「?」
心底不思議そうな呆れた顔をして、アレクサンドルが笑う。
その横ではデチモが不機嫌そうな顔をしているし、ラザルは納得できないと言わんばかりだ。
「ですが、俺はゴルド・ドルバガなんですよ? 今はこんな形をしていますが、実際は赤い悪魔の異名を持った大男です。いつ神の御加護が切れて、元に戻るかもわからないんですよ? それこそ、閨の途中でだって! それなのに、誰がどう俺を愛してくれるというんですか」
言葉の最後は、涙目だった。こんな事を悩んでいること自体が、嫌だった。
思い至らないでいるからこそゴルドと結婚しようなどと考えているに違いないアレクサンドルに向かって告げることは、まるで身を切られるような羞恥を感じる。
けれど、指摘しないでいるのはフェアではない気がして辛かった。ゴルドにはこれ以上黙っていられなかったのだ。
叫んだゴルドは、俯き肩で息をした。この程度の告白で、これほど消耗してしまうことも嫌だった。
そんなゴルドの前に跪くと、デチモが手を差し出した。
「聖女さま。私はあなたにお約束致しました。あなた様がどんな状況であろうとも、
あなた様が助けを求められた時には必ず我らが手を伸ばしましょうと。その意味するところが伝わっていなかったことを残念に思います」
「デチモ殿下」
「聖女さまが求められているのは、男女としての愛であり、お呼びではないかもしれません。ですが私は、あなた様に家族としての愛情を捧げるとお伝えしたつもりです。養父になると立候補をしたのは、口先だけではありません」
「!」
ゴルドの実の両親は魔族との闘争で怪我はしたものの揃って健在だ。
今は傷ついた領地を立て直すべく奮闘中で、息子が圧倒的完璧美少女になったことも知らないままかもしれない。いや、手紙は書いたがなんの返答もないままなので、読んでいないのかもしれないが。
だから養父など必要はない。必要はないのだが。
「デチモ殿下は、俺を家族として迎え入れて下さると?」
「あの日、聖女さまにそうお伝えしたつもりですよ。嘘などではありません。今は、我が国で信頼できる実直な男の選定を始めているところです。見てくれよりも、きちんと内面を見ることができる男を探しております。私の娘として嫁に出すことも家族に説明済です。いつでも我がベルターニャ国へいらしてください。娘たちも聖女さまにお会いできることを楽しみにしておりました。家族そろって大歓迎です」
力強く言い切られて、目を瞬いた。
「えっと。本気、ですか?」
「勿論です!」
「言わせて頂ければ、私はゴルド様の一番傍でお仕えしてきました。そうしてこれからもずっとそうでありたいと思っております! 敬意と尊敬、敬愛を捧げております!!」
さすがに同盟国の王太子を押し退ける勇気はなかったラザルが、その後ろで両手をバタバタと広げ、声を張り上げ宣言している。
「ラザル」
「ずっとずっと尊敬しております、ゴルド騎士団長!」
一時はニセモノ扱いまでされていた副官のその言葉が、ゴルドの胸に染み渡る。
「おー、やっと来たか。さすがに馬車と徒歩だと遅っいな」
窓の外を見つめていたアレクサンドルが、くくくと笑った。
「なぁ、ゴルド。お前、自分が愛されてないなんてあいつ等の前で言えるのか?」
両開きの窓を開けて、アレクサンドルが晴れやかな笑顔になる。
「あれは──?」
『我らが聖女、我らがアイドル、神の御遣い、敬愛すべきゴルドおねえさまをを解放せよー!』
『ゴルドちゃんを返せー!』
『ゴルド様を自由にせよー!』
『おー!』
えいえいおー!
えいえいおー!
「こ、こら止めろ。此処をどこだと思っている」
『聖女ゴルドを不当に監禁し、監禁しようとしている悪徳教団め!』
「あ、悪徳教団だと?」
集まった女性たちから悪し様に言われて、門を守っていた教会騎士が声を震わせ怒っていた。
『魔族との戦いの時に、なにもしなかった癖に!』
『神様の御遣いであるゴルドちゃんの威光を奪おうとするなー!』
掛け声も、服装も、手にして振り上げている武器のような道具類も、着ている物だって年齢だって、どれひとつとして揃っていない。
だが、彼女等が求め訴えているのはただひとつ。
聖女ゴルドの解放。それだけだ。
『ゴルドさまはお前たちが好きにしていいような御方じゃないんだよぉ!』
『かわいくて、まじめで、どこか抜けてて』
『知らないことを恥だと思わずどんなことだって喜んでくれて』
『下女の仕事を当たり前だと馬鹿にしないで褒めてくれる』
『感謝の言葉をいっぱいくれるんだ』
青い空に向かって、戦いなどまるで知らないであろう女性たちの腕が、青い空の下で、何度も何度も付き上げられ揺れている。
遠くてよく見えない筈の女性たちの顔が、なぜかゴルドにはよく見えた。
「あれは……いつもおいしいケーキを山盛りにしてくれる食堂のセラさん。赤い靴を選んでくれたアーニャさんもいる。運動用の乗馬服についた汚れをピカピカにしてくれるジェンさんに、今朝、髪を結い上げてくれたメリッサさんもいる……」
そこにいるのは、ゴルドが今のこの身体になってから知り合った王宮で働く女性たちだった。
女性の体になって勝手の分からぬゴルドを、笑って支えてくれた女性たちばかりだ。
勿論、全員の名前を把握している訳ではない。だが確かにゴルドには、どの顔にも見覚えがあった。
お世話になってこそいるが、なぜゴルドのために慣れない拳を振り上げてくれているのか。
『アレクサンドル様の命のついでだろうと、この国を、世界を護ってくださったのは聖女ゴルド・ドルバガ! ゴルドおねえさまをお前たちのような自分の懐を潤す事しか考えていない下郎どもの手になど任せておけませんわ!!』
「クラウディア様まで……あぁっ!?」
女性たちの剣幕に我慢の限界がきたらしい教会騎士のひとりが聖杖を振り上げ「うるさい」と威嚇しているのが見えた。ゴルドは反射的に窓枠から飛び降りた。
声だけは勇ましいが、集まっているのは細腕の女性ばかりだ。
いや確かに食堂で働くセラや洗濯係の下女のジェンの腕は細くはない。だがそれでも戦うための筋肉はしていないのだ。教会騎士たちとは、鍛え方の種類が違い過ぎる。
「間に合え」
2階から飛び降りた衝撃を受け身を取って流し、走る。
しかし、遅い。訓練でかなり早くなってきたと自負していたし、距離だって長く走れるようになった。
けれど、自分の記憶の中の速度とは比べ物にならないほどの飛距離の短さや鈍足具合に、ゴルドは泣きたくなった。
けれど、泣くのは今ではない。懸命に足を前へと動かす。
そのゴルドの上を、黒い影が、飛び越していく。
バキィッ
『きゃーー!』
「ぐわぁあぁぁぁ」
ゴルドを飛び越えたその黒い影は、女性たちに向かって聖杖を振り上げていた教会騎士を蹴り飛ばした。
そのまま聖杖を握る手を踏みつけ、ゴルドを振り向く。
「こういう荒事は俺に任せて、婚約者殿は守られていればいい」
「アレクサンドル様!」
『ゴルドおねえさま! 御無事だったのですね!!』
涙でぐしょぐしょになったクラウディアに突進されて、ゴルドはそのままステンと尻もちをついた。
そのまま揉みくちゃにされるゴルドを助け起こしてくれたのも、やっぱりアレクサンドルだった。
さすがに大王を前にした女性たちは、ゴルドへの未練を感じさせながらも後ろへと下がった。
勿論、クラウディアは下がらないし頭を下げたりしなかった。それでも助け出してくれたのは間違いないからか、いつものような憎まれ口を叩くことはしなかった。アレクサンドルはまるで気にしていないが、恨めしそうにじっと恨めしそうに睨んでいる。
「面目ない」
「それで、どうだ? お前は愛されていると、理解できたか」
アレクサンドルの言葉に、ゴルドは自分を心配して集まってくれた女性たちを見回した。
どの顔も、涙で濡れていた。安心したのか声を上げて泣いている者もいる。
それでも誰もが晴れやかな顔をしていた。
「確かに、男女の愛だけが尊いということではありませんな」
ゴルドは強く頷いた。
手に入らないモノばかり見つめて悲観するのではなく、手にしている幸せを大切に生きていこうと。
それはとても素晴らしいことだと目が覚めた気持ちだった。
「この中に、今のお前に恋愛感情をもつ女性だっているかもしれないぞ」
「えっ。いや、そんなっ。でも今の俺は、女性の体で」
「いいじゃないか。お前は神の御遣いだ。女性同士でも子を為せるかもしれない」
「……いえ。子が為せるかどうかは俺一人の問題ではありません。お相手にとっても同じ。ならばできるかどうか賭けでしかない状態で永遠を誓うことはできません」
「真面目だなぁ。男女間でも、子ができるかどうかは運だろうに」
「それはそうです。でも、俺との間に子を儲けることは義務、いや使命に近い。……だから、あ、アレクサンドル様にも」
負担を掛けたくないのです、と続けようとしたゴルドに、アレクサンドルは笑いかけた。
「俺は王としてこの国の民を幸せにする義務がある。だから、この国の民のひとりであるお前のことも、俺が幸せにしよう」
「アレクサンドルさま」
「俺は、お前を誰より信頼している。お前には笑っていて欲しいし、幸せになって欲しいと願っている。それは男女の愛より、価値の低いものか?」
「!! いいえっ! いいえ!!」
頬を紅潮させて否定する。
敬愛する主君にここまで言われて、ゴルドは「本望だ」と、心からそう思った。
「まったく。せっかく平和になったのです。俺としては、アレクサンドル様だけでも、愛ある人生を送っていただきたかったというのに」
肩を下げてぼやくゴルドを、その場にいた男たちは皆、拍子抜けしたように見つめた。
「なんだゴルド。お前は、これから先の自分が、愛のない人生を送れるとでも思っていたのか?」
「?」
心底不思議そうな呆れた顔をして、アレクサンドルが笑う。
その横ではデチモが不機嫌そうな顔をしているし、ラザルは納得できないと言わんばかりだ。
「ですが、俺はゴルド・ドルバガなんですよ? 今はこんな形をしていますが、実際は赤い悪魔の異名を持った大男です。いつ神の御加護が切れて、元に戻るかもわからないんですよ? それこそ、閨の途中でだって! それなのに、誰がどう俺を愛してくれるというんですか」
言葉の最後は、涙目だった。こんな事を悩んでいること自体が、嫌だった。
思い至らないでいるからこそゴルドと結婚しようなどと考えているに違いないアレクサンドルに向かって告げることは、まるで身を切られるような羞恥を感じる。
けれど、指摘しないでいるのはフェアではない気がして辛かった。ゴルドにはこれ以上黙っていられなかったのだ。
叫んだゴルドは、俯き肩で息をした。この程度の告白で、これほど消耗してしまうことも嫌だった。
そんなゴルドの前に跪くと、デチモが手を差し出した。
「聖女さま。私はあなたにお約束致しました。あなた様がどんな状況であろうとも、
あなた様が助けを求められた時には必ず我らが手を伸ばしましょうと。その意味するところが伝わっていなかったことを残念に思います」
「デチモ殿下」
「聖女さまが求められているのは、男女としての愛であり、お呼びではないかもしれません。ですが私は、あなた様に家族としての愛情を捧げるとお伝えしたつもりです。養父になると立候補をしたのは、口先だけではありません」
「!」
ゴルドの実の両親は魔族との闘争で怪我はしたものの揃って健在だ。
今は傷ついた領地を立て直すべく奮闘中で、息子が圧倒的完璧美少女になったことも知らないままかもしれない。いや、手紙は書いたがなんの返答もないままなので、読んでいないのかもしれないが。
だから養父など必要はない。必要はないのだが。
「デチモ殿下は、俺を家族として迎え入れて下さると?」
「あの日、聖女さまにそうお伝えしたつもりですよ。嘘などではありません。今は、我が国で信頼できる実直な男の選定を始めているところです。見てくれよりも、きちんと内面を見ることができる男を探しております。私の娘として嫁に出すことも家族に説明済です。いつでも我がベルターニャ国へいらしてください。娘たちも聖女さまにお会いできることを楽しみにしておりました。家族そろって大歓迎です」
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「えっと。本気、ですか?」
「勿論です!」
「言わせて頂ければ、私はゴルド様の一番傍でお仕えしてきました。そうしてこれからもずっとそうでありたいと思っております! 敬意と尊敬、敬愛を捧げております!!」
さすがに同盟国の王太子を押し退ける勇気はなかったラザルが、その後ろで両手をバタバタと広げ、声を張り上げ宣言している。
「ラザル」
「ずっとずっと尊敬しております、ゴルド騎士団長!」
一時はニセモノ扱いまでされていた副官のその言葉が、ゴルドの胸に染み渡る。
「おー、やっと来たか。さすがに馬車と徒歩だと遅っいな」
窓の外を見つめていたアレクサンドルが、くくくと笑った。
「なぁ、ゴルド。お前、自分が愛されてないなんてあいつ等の前で言えるのか?」
両開きの窓を開けて、アレクサンドルが晴れやかな笑顔になる。
「あれは──?」
『我らが聖女、我らがアイドル、神の御遣い、敬愛すべきゴルドおねえさまをを解放せよー!』
『ゴルドちゃんを返せー!』
『ゴルド様を自由にせよー!』
『おー!』
えいえいおー!
えいえいおー!
「こ、こら止めろ。此処をどこだと思っている」
『聖女ゴルドを不当に監禁し、監禁しようとしている悪徳教団め!』
「あ、悪徳教団だと?」
集まった女性たちから悪し様に言われて、門を守っていた教会騎士が声を震わせ怒っていた。
『魔族との戦いの時に、なにもしなかった癖に!』
『神様の御遣いであるゴルドちゃんの威光を奪おうとするなー!』
掛け声も、服装も、手にして振り上げている武器のような道具類も、着ている物だって年齢だって、どれひとつとして揃っていない。
だが、彼女等が求め訴えているのはただひとつ。
聖女ゴルドの解放。それだけだ。
『ゴルドさまはお前たちが好きにしていいような御方じゃないんだよぉ!』
『かわいくて、まじめで、どこか抜けてて』
『知らないことを恥だと思わずどんなことだって喜んでくれて』
『下女の仕事を当たり前だと馬鹿にしないで褒めてくれる』
『感謝の言葉をいっぱいくれるんだ』
青い空に向かって、戦いなどまるで知らないであろう女性たちの腕が、青い空の下で、何度も何度も付き上げられ揺れている。
遠くてよく見えない筈の女性たちの顔が、なぜかゴルドにはよく見えた。
「あれは……いつもおいしいケーキを山盛りにしてくれる食堂のセラさん。赤い靴を選んでくれたアーニャさんもいる。運動用の乗馬服についた汚れをピカピカにしてくれるジェンさんに、今朝、髪を結い上げてくれたメリッサさんもいる……」
そこにいるのは、ゴルドが今のこの身体になってから知り合った王宮で働く女性たちだった。
女性の体になって勝手の分からぬゴルドを、笑って支えてくれた女性たちばかりだ。
勿論、全員の名前を把握している訳ではない。だが確かにゴルドには、どの顔にも見覚えがあった。
お世話になってこそいるが、なぜゴルドのために慣れない拳を振り上げてくれているのか。
『アレクサンドル様の命のついでだろうと、この国を、世界を護ってくださったのは聖女ゴルド・ドルバガ! ゴルドおねえさまをお前たちのような自分の懐を潤す事しか考えていない下郎どもの手になど任せておけませんわ!!』
「クラウディア様まで……あぁっ!?」
女性たちの剣幕に我慢の限界がきたらしい教会騎士のひとりが聖杖を振り上げ「うるさい」と威嚇しているのが見えた。ゴルドは反射的に窓枠から飛び降りた。
声だけは勇ましいが、集まっているのは細腕の女性ばかりだ。
いや確かに食堂で働くセラや洗濯係の下女のジェンの腕は細くはない。だがそれでも戦うための筋肉はしていないのだ。教会騎士たちとは、鍛え方の種類が違い過ぎる。
「間に合え」
2階から飛び降りた衝撃を受け身を取って流し、走る。
しかし、遅い。訓練でかなり早くなってきたと自負していたし、距離だって長く走れるようになった。
けれど、自分の記憶の中の速度とは比べ物にならないほどの飛距離の短さや鈍足具合に、ゴルドは泣きたくなった。
けれど、泣くのは今ではない。懸命に足を前へと動かす。
そのゴルドの上を、黒い影が、飛び越していく。
バキィッ
『きゃーー!』
「ぐわぁあぁぁぁ」
ゴルドを飛び越えたその黒い影は、女性たちに向かって聖杖を振り上げていた教会騎士を蹴り飛ばした。
そのまま聖杖を握る手を踏みつけ、ゴルドを振り向く。
「こういう荒事は俺に任せて、婚約者殿は守られていればいい」
「アレクサンドル様!」
『ゴルドおねえさま! 御無事だったのですね!!』
涙でぐしょぐしょになったクラウディアに突進されて、ゴルドはそのままステンと尻もちをついた。
そのまま揉みくちゃにされるゴルドを助け起こしてくれたのも、やっぱりアレクサンドルだった。
さすがに大王を前にした女性たちは、ゴルドへの未練を感じさせながらも後ろへと下がった。
勿論、クラウディアは下がらないし頭を下げたりしなかった。それでも助け出してくれたのは間違いないからか、いつものような憎まれ口を叩くことはしなかった。アレクサンドルはまるで気にしていないが、恨めしそうにじっと恨めしそうに睨んでいる。
「面目ない」
「それで、どうだ? お前は愛されていると、理解できたか」
アレクサンドルの言葉に、ゴルドは自分を心配して集まってくれた女性たちを見回した。
どの顔も、涙で濡れていた。安心したのか声を上げて泣いている者もいる。
それでも誰もが晴れやかな顔をしていた。
「確かに、男女の愛だけが尊いということではありませんな」
ゴルドは強く頷いた。
手に入らないモノばかり見つめて悲観するのではなく、手にしている幸せを大切に生きていこうと。
それはとても素晴らしいことだと目が覚めた気持ちだった。
「この中に、今のお前に恋愛感情をもつ女性だっているかもしれないぞ」
「えっ。いや、そんなっ。でも今の俺は、女性の体で」
「いいじゃないか。お前は神の御遣いだ。女性同士でも子を為せるかもしれない」
「……いえ。子が為せるかどうかは俺一人の問題ではありません。お相手にとっても同じ。ならばできるかどうか賭けでしかない状態で永遠を誓うことはできません」
「真面目だなぁ。男女間でも、子ができるかどうかは運だろうに」
「それはそうです。でも、俺との間に子を儲けることは義務、いや使命に近い。……だから、あ、アレクサンドル様にも」
負担を掛けたくないのです、と続けようとしたゴルドに、アレクサンドルは笑いかけた。
「俺は王としてこの国の民を幸せにする義務がある。だから、この国の民のひとりであるお前のことも、俺が幸せにしよう」
「アレクサンドルさま」
「俺は、お前を誰より信頼している。お前には笑っていて欲しいし、幸せになって欲しいと願っている。それは男女の愛より、価値の低いものか?」
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