聖女さま、御降臨~元ガチムチ騎士団長は美少女聖女さまにTS中♡

喜楽直人

文字の大きさ
1 / 25

プロローグ

しおりを挟む



 ――神よ。何故、これほど偉大な王を我らから奪おうとするのか。

 魔族の襲撃を受けるようになって二年。
 人間同士で争っている場合ではないと連合を組んで戦うようになって半年が経っていた。
 その中心となり、王でありながら誰よりも数多くの魔族を倒し、武勇を誇るアレクサンドル。

 無骨な鎧に包まれているはずの彼の胸から背中に向かって、いま、魔族の腕が生えている。

 ずぼっと湿った音がして、アレクサンドルの血で染まった腕を引き抜いた魔族が、雄たけびを上げる。

「Wooooo!!!」

 胸を張り腕を掲げた魔族の前で、アレクサンドルの大きな身体が、ゆっくりと傾げた。


「嘘だと言って下さい! 目を、目をお開け下さい、我が君!」
「あぁ、人はもう終わりだわ! 魔族に蹂躙されて、この世界は闇の手に墜ちるのよ!」
「ようやく魔族との戦いを互角に持ち込めたというのに。英雄であり偉大なる大王アレクサンドル様が身罷られてしまったら、この世は一体どうなってしまうというの?!」 


 神よ、あなたの子供である人の子の嘆くこの声が、あなた様には届いていないのでしょうか。

 大王アレクサンドルは、我ら人間すべての、希望の光。
 この偉大なる御方を失って、我らはこれ以降、どうやって魔族の手を退けることができましょう。

「俺が、おれが守るはずだったのに……」

 がしゃん、と音を立て、膝をつく。
 騎士団長として、誰よりも大王の傍で、お守りするはずだった。

『お前が俺の背中を守っているのだろう? ならば、そこが最も安全な場所だ』

 最前線へと立つアレクサンドルを諫める度に、笑顔で言い切られる言葉に、高揚しない訳がない。

 誉れに高鳴る胸を張り、『応』と答えてきた。 
 命を懸けて、お守りすると誓っていたのに。


「うぉぉおおぉぉぉおおぉぉ!!!」

 纏わりつく魔族を一気に薙ぎ払う。
 
 誰よりお強いと信じてきた。
 王に敵う者はなく、そのお背中を預かることを許された自分は果報者だと信じてきた。
 鍛錬を重ね、研鑽を積んできた。
 この剣を捧げるに相応しい主と巡り合えた幸運に感謝してきた。


 それなのに!!!


 何故、神は我らへ救いの手を伸ばして下さらないのか。

 それとも神などいないのか。

 唯一の主と見定めた大王アレクサンドルの命が尽きようとしている今、何故自分はまだ生きているのだろうか。

 神よ、どうか、我らが王をお救い下さい

 神の御業、そのすべを持つ者を、今すぐ我が王の下へ

 偉大なる大王アレクサンドルの命を助けて頂けるならば

 俺は今すぐ、この身を、この命を捧げることすら厭わないのに!!


 


≪≪それほどの想いがあるならば≫≫

「え? は? う、うわあぁぁっ!」

 滂沱で顔を濡らした男の足元から突然の光が生まれる。
 その光は強さを増し、ついには男の身体すべてを覆い尽くした。

 真っ白になった視界の中で、男はその声を聴いた。


≪≪お前自身が、それを為すが良い≫≫


 倒れた王の後ろで、頽れ祈りを捧げていた男を見ている者など、誰もいなかった。

 男だけではない。誰もが、今にもその命が尽きようとしている偉大なる王、アレクサンドルを見つめ、神へと祈りを捧げていたのだから。

 誰もが、抵抗することすら諦めてしまった。
 魔族の持つ得物により弾き飛ばされ、腕を失い、尊敬する大王と共に、神へと召されようとする者も、いた。

 そんな中、男だけが突然自分の足元へ現れた不思議な強い光に驚いている時、男にだけ、その声は聞こえた。


≪≪我、今こそその力を貸し与えん≫≫

「?!」

 光が収束した場所に立っていたのは、ひとりの少女だった。

 神々しく輝く銀色の髪が、足元まで流れている。
 その髪の向こう側から、夜明け前の空のような濃い藍色に金色の星が飛ぶ美しい瞳が見返してきていた。

 そう。そんなことはあり得ないのに、その場にいる全ての者が、少女と目が合ったと確信した。

 そうして、ピンク色をした花弁のような唇から鈴を転がしたような澄んだ声が聞こえてきても、それが人の発した声だと認識もできずに、ただただ恍惚として見ていた。

完全防護壁パーフェクトシールド

 少女が呪文を唱えると、光の壁が生まれ、魔族をその外へと弾きだした。

 あっけに取られて動けなくなっている兵士たちの中を、少女が進む。

 さらりと、少女が着ていた薄衣が靡き、ちいさな裸足の足が前へと動く。

 一歩、一歩。

 人々は少女の動きを遮ることもせず、偉大なる王へ近づいていく様子を見守った。

 本来であるならば、誰何するべきであるし、なにより誰も知らない人物がいきなり王へ近付くことなど許される筈もない。王の傍に寄る前に、取り押さえられるべきである。

 しかし。誰も彼もが、少女を驚かさないように、息をする事すら慎重に、音をたてないよう緊張しながらその動きを見守っていた。

 そうしてついに、少女が王のすぐ横へと歩み寄って、その華奢な手を翳して何か知らない言語を唱えた。

全回復パーフェクトヒーリング

 少女の手から清廉なる光が降り注ぐ。

 その柔らかな光は、命尽き果てようとしていたアレクサンドルの全身を優しく包み込んだ。

 そうして、骨が砕かれ肉が潰れた右腕が指の先まですっかり元の姿を取り戻し、欠損していた左足が生え、抉れていた両の眼球を包む涼やかな瞼がゆっくりと開かれていく。

 胸元へ大きく開いた穴すら、塞がっている。

「……俺は、死んでいなかったのか?」

 呆然とした様子で半身を起こした偉大なる王アレクサンドルの姿に、人々は神への感謝を叫んだ。


「あなたは、聖なる神の御遣いか」

 ざわざわざと、辺りから「聖女さま」「聖女様だ」と声が上がった。

 気が付けば、光の壁の外にも魔族の姿はなかった。


「……俺達は、たすかった、のか」
「すごい! すごいすごい! ありがとうございます、聖女様!!」

 聖女様、聖女様、と滂沱の涙を流しながら兵士たちが少女の足元へと跪く。

「神の御遣いであらせられる聖女様に、心からの感謝を」

 大王アレクサンドルまでもが少女の足元へ跪き、頭を垂れた。

 …………。

「いや待て、待って。ナニソレ、聖女ってどういうことです?」

 ──?

「えぇ、なにこの長い髪! うわっ、俺の手、ちっちゃ! つか細い? ナニコレなにこれナニコレえぇぇぇ!!!」

 鈴を転がしたような声で少女は叫ぶと、そのまま白目を剥いて気絶した。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される

柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。 だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。 聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。 胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。 「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」 けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。 「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」 噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情―― 一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...