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聖女爆誕
1.神との邂逅
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■
≪≪ゴルド・ドバルガ≫≫
「ウソだ、嘘だ。鍛え上げた俺の身体があんなに無力な女子供のような細身になる訳がない」
≪≪ゴルド、ゴルド・ドバルガ≫≫
「ありえないったらあり得ない。俺は、大王アレクサンドルの騎士、ゴルド・ドルバガ。栄えある大帝国の騎士団長を務める猛者。なのに……うーん、う゛うーん」
≪≪ゴルド、ゴルド・ドバルガ。いい加減、現実を受け入れなさい≫≫
「ううん。これは夢だ現だ幻だ。俺はきっとアレクサンドル様の盾となって、神の国へと召される最中……」
≪≪ゴルド・ドバルガ。あなたの覚悟は口先だけだったのですか。敬愛する王の命より、自身が研鑽して得た肉体が惜しいのならば返してあげましょう、いますぐにでも、王の命と引き換えに≫≫
「わぁ! 待って待って。ちょっと待ってくださいよ。衝撃が大きすぎただけです。すみません。神さま、それだけは、アレクサンドル様のお命だけはお許しください!!」
≪≪ならば最初からそう態度に表すべきでしょう。さぁ、我に感謝の祈りを捧げなさい≫≫
「ははっ。此度は、我が拙き祈りにお応え頂きありがとうございます。唯一の主と決めた我が王アレクサンドルの命を救って頂いたこと、まことに、真に感謝いたします」
不思議な空間だった。
35年生きて来て、一度も知らない、見たことも無い広い空間。
明るいのに、先は見通せず、自身の姿すらはっきりとは見えない。
ただ、目の前で輝く光が、ゴルドの求めた奇跡を与えてくれた存在だということだけは、分かった。
感謝の言葉を捧げ、ゴルドは光の前に跪いた。
固い大地がある訳でもない足元はどこか頼りなく、けれどもゴルドはそれを怖いとも不快だとも思わなかった。
この足元の下に、地獄があっても構わなかった。
一瞬後に、そこへと落されようとも、覚悟はできていた。
魔族に身を裂かれ、今にも消えてしまいそうな王の命と引き換えたのだ。
魔族の毒に身を焼かれ、四肢を捩じ切られる責め苦を永遠に追うことになろうとも、本望である。
「あの防護壁がいつまで保てるのか分かりませんが、アレクサンドル王の命が続く限り、人間は魔族に対してこれからも抵抗を続けることができます。そうしていつかきっと、平和な世界を取り戻して下さるはずです」
ずっとお傍で、そのための協力ができなくなったことだけは、悲しいとも辛いとも思う。
けれど、彼の命を救えるならば、なんということもない。
「神の助力に、感謝します。この身は、神の随意に」
姿勢を正し、光へ向かって額づく。
ゴルドの心は、凪いでいた。
≪≪貸し与えただけとはいえ、私の力を使ってお前が成した完全防護壁が、そうやすやすと消える訳がないでしょう。アレはお前が、お前の血筋が、この世界の平和を祈り続ける限り消えません≫≫
「で、では。世界の平和は、すでに?」
≪≪そうですね。人の世の平和は、お前の献身により為されました≫≫
「!! 神よ、感謝いたします」
がばりと頭を上げたゴルドが、すごい勢いで再び額づいた。大理石の床であったなら、額が割れていたであろう勢いだ。
≪≪……お前、この場所であるから怪我はせぬが、現世に戻ったら、気を付けよ。我が御業を具現化するため、お前は自身を贄とし捧げた。故に、これまでのお前とはまるで違う見目形へとお前は生まれ変わる必要があった≫≫
「? 私は、このまま神に召されるのでは?」
≪≪聞いていなかったのか。あの防護壁は、お前か、お前の血筋の者の祈りが続く限り消えない、と。つまり、お前の血筋が、あの世界に続くよう務めるのが、お前に課された使命≫≫
「おぉ! では私はまだアレクサンドル様のお傍にいることが叶うのですか」
≪≪えぇ。勿論です≫≫
にゅっ、と。
それまで光の中に溶け込んで見えずにいたその人の顔が、ゴルドのすぐ目の前まで近付けられた。その髪の色も肌の色も、顔の造りすら、光り輝いていて判別はできない。
眩しすぎて目が眩み、思わず身体を後ろへ引いた。
瞬間、その光り輝く神々しい存在が、どこか人を食ったような、ここから先の成り行きを面白がっているような人の悪い笑みを浮かべているような気がして、ゴルドの身内を怖気立つような悪寒が駆け抜けた。
「?」
身体に感じる己の感覚と、神と相対しているのだという頭で考える感覚の差異に困惑するゴルドを余所に、神の姿が遠くなっていく。
≪≪長年の鍛錬で手に入れた己というすべてを差し出してまで叶えた願い。その意味を深く心に刻み、決して忘れることの無きよう≫≫
「あっ」
光が遠ざかっていく。
自分の覚醒が近いのだと、わかった。
最後に、遠ざかっていく神へ向けて声を張り上げた。
「ありがとうございました! 神のご厚情とお言葉、努々忘れることなく、誠心誠意務めて参ります」
最後に一瞬だけ、あの意地の悪い視線が、こちらを向いた気がした。
≪≪ゴルド・ドバルガ≫≫
「ウソだ、嘘だ。鍛え上げた俺の身体があんなに無力な女子供のような細身になる訳がない」
≪≪ゴルド、ゴルド・ドバルガ≫≫
「ありえないったらあり得ない。俺は、大王アレクサンドルの騎士、ゴルド・ドルバガ。栄えある大帝国の騎士団長を務める猛者。なのに……うーん、う゛うーん」
≪≪ゴルド、ゴルド・ドバルガ。いい加減、現実を受け入れなさい≫≫
「ううん。これは夢だ現だ幻だ。俺はきっとアレクサンドル様の盾となって、神の国へと召される最中……」
≪≪ゴルド・ドバルガ。あなたの覚悟は口先だけだったのですか。敬愛する王の命より、自身が研鑽して得た肉体が惜しいのならば返してあげましょう、いますぐにでも、王の命と引き換えに≫≫
「わぁ! 待って待って。ちょっと待ってくださいよ。衝撃が大きすぎただけです。すみません。神さま、それだけは、アレクサンドル様のお命だけはお許しください!!」
≪≪ならば最初からそう態度に表すべきでしょう。さぁ、我に感謝の祈りを捧げなさい≫≫
「ははっ。此度は、我が拙き祈りにお応え頂きありがとうございます。唯一の主と決めた我が王アレクサンドルの命を救って頂いたこと、まことに、真に感謝いたします」
不思議な空間だった。
35年生きて来て、一度も知らない、見たことも無い広い空間。
明るいのに、先は見通せず、自身の姿すらはっきりとは見えない。
ただ、目の前で輝く光が、ゴルドの求めた奇跡を与えてくれた存在だということだけは、分かった。
感謝の言葉を捧げ、ゴルドは光の前に跪いた。
固い大地がある訳でもない足元はどこか頼りなく、けれどもゴルドはそれを怖いとも不快だとも思わなかった。
この足元の下に、地獄があっても構わなかった。
一瞬後に、そこへと落されようとも、覚悟はできていた。
魔族に身を裂かれ、今にも消えてしまいそうな王の命と引き換えたのだ。
魔族の毒に身を焼かれ、四肢を捩じ切られる責め苦を永遠に追うことになろうとも、本望である。
「あの防護壁がいつまで保てるのか分かりませんが、アレクサンドル王の命が続く限り、人間は魔族に対してこれからも抵抗を続けることができます。そうしていつかきっと、平和な世界を取り戻して下さるはずです」
ずっとお傍で、そのための協力ができなくなったことだけは、悲しいとも辛いとも思う。
けれど、彼の命を救えるならば、なんということもない。
「神の助力に、感謝します。この身は、神の随意に」
姿勢を正し、光へ向かって額づく。
ゴルドの心は、凪いでいた。
≪≪貸し与えただけとはいえ、私の力を使ってお前が成した完全防護壁が、そうやすやすと消える訳がないでしょう。アレはお前が、お前の血筋が、この世界の平和を祈り続ける限り消えません≫≫
「で、では。世界の平和は、すでに?」
≪≪そうですね。人の世の平和は、お前の献身により為されました≫≫
「!! 神よ、感謝いたします」
がばりと頭を上げたゴルドが、すごい勢いで再び額づいた。大理石の床であったなら、額が割れていたであろう勢いだ。
≪≪……お前、この場所であるから怪我はせぬが、現世に戻ったら、気を付けよ。我が御業を具現化するため、お前は自身を贄とし捧げた。故に、これまでのお前とはまるで違う見目形へとお前は生まれ変わる必要があった≫≫
「? 私は、このまま神に召されるのでは?」
≪≪聞いていなかったのか。あの防護壁は、お前か、お前の血筋の者の祈りが続く限り消えない、と。つまり、お前の血筋が、あの世界に続くよう務めるのが、お前に課された使命≫≫
「おぉ! では私はまだアレクサンドル様のお傍にいることが叶うのですか」
≪≪えぇ。勿論です≫≫
にゅっ、と。
それまで光の中に溶け込んで見えずにいたその人の顔が、ゴルドのすぐ目の前まで近付けられた。その髪の色も肌の色も、顔の造りすら、光り輝いていて判別はできない。
眩しすぎて目が眩み、思わず身体を後ろへ引いた。
瞬間、その光り輝く神々しい存在が、どこか人を食ったような、ここから先の成り行きを面白がっているような人の悪い笑みを浮かべているような気がして、ゴルドの身内を怖気立つような悪寒が駆け抜けた。
「?」
身体に感じる己の感覚と、神と相対しているのだという頭で考える感覚の差異に困惑するゴルドを余所に、神の姿が遠くなっていく。
≪≪長年の鍛錬で手に入れた己というすべてを差し出してまで叶えた願い。その意味を深く心に刻み、決して忘れることの無きよう≫≫
「あっ」
光が遠ざかっていく。
自分の覚醒が近いのだと、わかった。
最後に、遠ざかっていく神へ向けて声を張り上げた。
「ありがとうございました! 神のご厚情とお言葉、努々忘れることなく、誠心誠意務めて参ります」
最後に一瞬だけ、あの意地の悪い視線が、こちらを向いた気がした。
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