公爵令嬢ジュスティーヌ・アフレは美しいモノが好き

喜楽直人

文字の大きさ
7 / 12

7.

しおりを挟む
「ここからについては、わたくしからご説明を申し上げますわ。今回の件は、側妃ゾルテ様から、『息子から高価で美しいドレスや宝飾品を贈られたなら、返礼をするのが常識というもの。貰うばかりなど、アフレ公爵家は礼儀というものを教えないのかしら』と家に対してまで含めての叱責を頂いたことに端を発します」

 さらりと自分が今着ているドレスを手で愛し気に撫で下ろした。

 ジュスティーヌの赤い瞳と同じ艶やかな赤い絹でできたドレスが、撫でた手に沿って虹色の光沢を生み微妙にその深い赤にニュアンスを与える。
 憂い顔で俯くジュスティーヌの艶やかに結い上げた髪を飾る繊細な金細工の髪飾りの中央で、ダイヤモンドが眩しくきらめく。

「ドレスも髪留めもなんと美しい」
「ドレスのあの色合い。素晴らしい生地だわ」
「染めの妙だな。どのような染料を使えばあの色合いが出せるのだろう」
「ダイヤモンドのあの輝き。私の持っている物とは格が違いますのね」
「土台となる金細工の、光を取り込むための細工が凄いんだよ」

「流石は王太子殿下が婚約者へ贈るのに相応しいものばかりだ」

 周囲がため息混じりに見惚れる。
 当然である。ジュスティーヌが身に着けている物は、どれも彼女に相応しい一級品ばかりだ。

 会場内からどれだけ賛辞の声が上がろうとも、ジュスティーヌの表情は晴れなかった。
 むしろ眉を寄せ困惑の表情を露わにする。
 公爵令嬢として未来の王太子妃として、厳しく躾けられてきたジュスティーヌには珍しいことだ。

「どれもこれも、わたくしが身に着けている物はすべてわたくしが選び、我がアフレ公爵家の予算で、我がアフレ公爵家の運営している工房で作らせた特別な品。わたくしに似合っていて当然ですが、そこに何故王太子殿下の意が混じる余地があるのでしょう」

 不本意極まりないとジュスティーヌが口にした不満に、周囲は驚きを隠せなかった。
 婚約者の女性へドレスや宝飾品を贈るのは当たり前のマナーであるだけではない。
 王族の婚約者へ贈り物はそのまま嫁入り時に持ち込まれ、国の資産となる。だからこその国家予算なのだ。
 その予算を使っておきながら、婚約者への贈り物はしたことがないなと、横領以外の可能性は、誰が考えてもゼロに等しい。

 批難の瞳が、鉄薔薇に拘束されたままの王太子へ向けられる。

「どれひとつ、王太子殿下から頂いた物はございません。そもそも贈り物を受け取ったことがございませんので、当然身に着けたこともございません。婚約してから十年。王太子殿下から頂いたものなど、『俺の代わりにこの書類の処理をしておけ』という命令と、『俺より前に出ようとするな』というお小言だけですわ。それを贈り物として返礼せよと仰せなのかと困ってしまって。父に相談したのです。その結果……」

「んんん-ん、んんんっんんーんん!(じゅすてぃーぬ、だまれ不敬だぞ!)」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子と婚約するのは嫌なので、婚約者を探すために男装令嬢になりました

Blue
恋愛
 ガルヴァーニ侯爵家の末娘であるアンジェリーナは困った事になっていた。第二王子が一方的に婚約者になれと言ってきたのだ。バカな上に女癖もよろしくない。しかも自分より弱い男に嫁ぐなんて絶対に嫌なアンジェリーナ。第二王子との婚約が正式に決まってしまう前に、自分より強い素敵な人を探すために、色々な人の力を借りて彼女は強い者たちが集まる場所に探しに行くことにしたのだった。

本の通りに悪役をこなしてみようと思います

Blue
恋愛
ある朝。目覚めるとサイドテーブルの上に見知らぬ本が置かれていた。 本の通りに自分自身を演じなければ死ぬ、ですって? こんな怪しげな本、全く信用ならないけれど、やってやろうじゃないの。 悪役上等。 なのに、何だか様子がおかしいような?

あなたをずっと、愛していたのに 〜氷の公爵令嬢は、王子の言葉では溶かされない~

柴野
恋愛
「アナベル・メリーエ。君との婚約を破棄するッ!」  王子を一途に想い続けていた公爵令嬢アナベルは、冤罪による婚約破棄宣言を受けて、全てを諦めた。  ――だってあなたといられない世界だなんて、私には必要ありませんから。  愛していた人に裏切られ、氷に身を閉ざした公爵令嬢。  王子が深く後悔し、泣いて謝罪したところで止まった彼女の時が再び動き出すことはない。  アナベルの氷はいかにして溶けるのか。王子の贖罪の物語。 ※オールハッピーエンドというわけではありませんが、作者的にはハピエンです。 ※小説家になろうにも重複投稿しています。

断罪される令嬢は、悪魔の顔を持った天使だった

Blue
恋愛
 王立学園で行われる学園舞踏会。そこで意気揚々と舞台に上がり、この国の王子が声を張り上げた。 「私はここで宣言する!アリアンナ・ヴォルテーラ公爵令嬢との婚約を、この場を持って破棄する!!」 シンと静まる会場。しかし次の瞬間、予期せぬ反応が返ってきた。 アリアンナの周辺の目線で話しは進みます。

婚約破棄イベントが壊れた!

秋月一花
恋愛
 学園の卒業パーティー。たった一人で姿を現した私、カリスタ。会場内はざわつき、私へと一斉に視線が集まる。  ――卒業パーティーで、私は婚約破棄を宣言される。長かった。とっても長かった。ヒロイン、頑張って王子様と一緒に国を持ち上げてね!  ……って思ったら、これ私の知っている婚約破棄イベントじゃない! 「カリスタ、どうして先に行ってしまったんだい?」  おかしい、おかしい。絶対におかしい!  国外追放されて平民として生きるつもりだったのに! このままだと私が王妃になってしまう! どうしてそうなった、ヒロイン王太子狙いだったじゃん! 2021/07/04 カクヨム様にも投稿しました。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

鈍感令嬢は分からない

yukiya
恋愛
 彼が好きな人と結婚したいようだから、私から別れを切り出したのに…どうしてこうなったんだっけ?

悪役令嬢、冤罪で一度命を落とすも今度はモフモフと一緒に幸せをつかむ

Blue
恋愛
 作り上げられた偽りの罪で国外追放をされてしまったエリーザ・オリヴィエーロ侯爵令嬢。しかも隣国に向かっている途中、無残にも盗賊たちの手によって儚くなってしまう。  しかし、次に目覚めるとそこは、婚約者であった第二王子と初めて会うお茶会の日に戻っていたのだった。  夢の中で会ったモフモフたちを探して、せっかく戻った命。今回は、モフモフと幸せになるために頑張るのだった。 『小説家になろう』の方にも別名ですが出させて頂いております。

処理中です...