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「ここからについては、わたくしからご説明を申し上げますわ。今回の件は、側妃ゾルテ様から、『息子から高価で美しいドレスや宝飾品を贈られたなら、返礼をするのが常識というもの。貰うばかりなど、アフレ公爵家は礼儀というものを教えないのかしら』と家に対してまで含めての叱責を頂いたことに端を発します」
さらりと自分が今着ているドレスを手で愛し気に撫で下ろした。
ジュスティーヌの赤い瞳と同じ艶やかな赤い絹でできたドレスが、撫でた手に沿って虹色の光沢を生み微妙にその深い赤にニュアンスを与える。
憂い顔で俯くジュスティーヌの艶やかに結い上げた髪を飾る繊細な金細工の髪飾りの中央で、ダイヤモンドが眩しくきらめく。
「ドレスも髪留めもなんと美しい」
「ドレスのあの色合い。素晴らしい生地だわ」
「染めの妙だな。どのような染料を使えばあの色合いが出せるのだろう」
「ダイヤモンドのあの輝き。私の持っている物とは格が違いますのね」
「土台となる金細工の、光を取り込むための細工が凄いんだよ」
「流石は王太子殿下が婚約者へ贈るのに相応しいものばかりだ」
周囲がため息混じりに見惚れる。
当然である。ジュスティーヌが身に着けている物は、どれも彼女に相応しい一級品ばかりだ。
会場内からどれだけ賛辞の声が上がろうとも、ジュスティーヌの表情は晴れなかった。
むしろ眉を寄せ困惑の表情を露わにする。
公爵令嬢として未来の王太子妃として、厳しく躾けられてきたジュスティーヌには珍しいことだ。
「どれもこれも、わたくしが身に着けている物はすべてわたくしが選び、我がアフレ公爵家の予算で、我がアフレ公爵家の運営している工房で作らせた特別な品。わたくしに似合っていて当然ですが、そこに何故王太子殿下の意が混じる余地があるのでしょう」
不本意極まりないとジュスティーヌが口にした不満に、周囲は驚きを隠せなかった。
婚約者の女性へドレスや宝飾品を贈るのは当たり前のマナーであるだけではない。
王族の婚約者へ贈り物はそのまま嫁入り時に持ち込まれ、国の資産となる。だからこその国家予算なのだ。
その予算を使っておきながら、婚約者への贈り物はしたことがないなと、横領以外の可能性は、誰が考えてもゼロに等しい。
批難の瞳が、鉄薔薇に拘束されたままの王太子へ向けられる。
「どれひとつ、王太子殿下から頂いた物はございません。そもそも贈り物を受け取ったことがございませんので、当然身に着けたこともございません。婚約してから十年。王太子殿下から頂いたものなど、『俺の代わりにこの書類の処理をしておけ』という命令と、『俺より前に出ようとするな』というお小言だけですわ。それを贈り物として返礼せよと仰せなのかと困ってしまって。父に相談したのです。その結果……」
「んんん-ん、んんんっんんーんん!(じゅすてぃーぬ、だまれ不敬だぞ!)」
さらりと自分が今着ているドレスを手で愛し気に撫で下ろした。
ジュスティーヌの赤い瞳と同じ艶やかな赤い絹でできたドレスが、撫でた手に沿って虹色の光沢を生み微妙にその深い赤にニュアンスを与える。
憂い顔で俯くジュスティーヌの艶やかに結い上げた髪を飾る繊細な金細工の髪飾りの中央で、ダイヤモンドが眩しくきらめく。
「ドレスも髪留めもなんと美しい」
「ドレスのあの色合い。素晴らしい生地だわ」
「染めの妙だな。どのような染料を使えばあの色合いが出せるのだろう」
「ダイヤモンドのあの輝き。私の持っている物とは格が違いますのね」
「土台となる金細工の、光を取り込むための細工が凄いんだよ」
「流石は王太子殿下が婚約者へ贈るのに相応しいものばかりだ」
周囲がため息混じりに見惚れる。
当然である。ジュスティーヌが身に着けている物は、どれも彼女に相応しい一級品ばかりだ。
会場内からどれだけ賛辞の声が上がろうとも、ジュスティーヌの表情は晴れなかった。
むしろ眉を寄せ困惑の表情を露わにする。
公爵令嬢として未来の王太子妃として、厳しく躾けられてきたジュスティーヌには珍しいことだ。
「どれもこれも、わたくしが身に着けている物はすべてわたくしが選び、我がアフレ公爵家の予算で、我がアフレ公爵家の運営している工房で作らせた特別な品。わたくしに似合っていて当然ですが、そこに何故王太子殿下の意が混じる余地があるのでしょう」
不本意極まりないとジュスティーヌが口にした不満に、周囲は驚きを隠せなかった。
婚約者の女性へドレスや宝飾品を贈るのは当たり前のマナーであるだけではない。
王族の婚約者へ贈り物はそのまま嫁入り時に持ち込まれ、国の資産となる。だからこその国家予算なのだ。
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「んんん-ん、んんんっんんーんん!(じゅすてぃーぬ、だまれ不敬だぞ!)」
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