約束の、破滅の日

喜楽直人

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第二章:誰がために鐘は鳴る

7.婚姻




 慌ただしく準備されたウェディングドレスは、それでも十分すぎるほど豪華だった。
 内側から光を発しているような練り絹をたっぷりとつかい、沢山の花を模ったレースと花の中央へ縫い付けられた宝石。

 100人以上の職人が昼夜を押して縫い上げたドレスを見に纏ったその日のピアは、まるで春の妖精のようだった。

 大聖堂に敷かれた赤い絨毯の上を、ゾール侯爵に手を引かれて私の下まで歩いてくるその姿に胸が高鳴る。

 私が望み求めた、唯一人の女性ピア。
 私の手を取るためにつらい日々を共に乗り越えてくれた愛しいひと。

 ピア・ポラス子爵令嬢改め、ピリア・ゾール侯爵令嬢は、今日から私の妻となり、ピリア・ゲイル王太子妃となる。

 私は嫋やかな彼女の手を受け取ると、バージンロードの途中で立ち止まっていたゾール侯爵と参列席で感無量という表情でこちらを見つめていたポラス子爵夫妻へ向かって、敬意をこめて頭を下げた。

 今日、今この時から、ピアは私と共に歩いていく。

「綺麗だ。最高に可愛いよ、ピリア」
「アルフェルト殿下も。とても、お素敵です。きっとこの子も、そう思ってます」

 そういってピアはまだ平らにしか見えない腹部を優しく撫でた。

「ピリア?! それって」

 恥ずかしそうにこくりと頷いたピアは、小さな声で教えてくれる。

「昨日、お医者様に教えて戴きました。殿下には私の口から、お教えしたかったのです」

 最愛の妻を娶っただけでなく、愛する人との子まで授かれた私は、天にも昇る気持ちだった。
 たしかに順番としては正しくないのかもしれない。
 けれど、王族、それも国王となる私には、次代を継ぐ嫡子が必要だった。

 子に恵まれるかどうかは、運次第。神のみぞ知ることだという。

 その幸運にこれほど早く恵まれたことは喜ばしい。

「きっと私達の結婚は、運命だったんだ。神がお互いの手を取るようにと定めたふたりだったんだよ」
「えぇ。そうですね。きっとそう」

 仮令《たとえ》、その誕生の切っ掛けが誰に誇れるようなものでなかったとしても。
 私はこの子を幸せにするために、生きていこう。

「あぁ、ピア。いいや、ピリア。今日という日は、私にとって人生最良の日だよ!」

 周囲からの祝福の中で、愛しい人と永遠の愛を誓い合った。



 多分、あの日が私アルフェルトにとって本当に、人生最良の日だったのだ。

 あの日から、なにかが変わった。おかしくなっていった。


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