約束の、破滅の日

喜楽直人

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第二章:誰がために鐘は鳴る

12.エストの真実

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 なんということだろう。夜会のシーズンでもないのに夫婦揃って馬車の事故にあった不可解な理由に愕然とした。
 そしてなにより。
 あの、彼女がまだ王宮で治療を受けていたあの日。
 見舞いへと部屋にきたエストが見せた奇妙な表情。あれは、自分の罪を代わりに背負ったまま自害しようとした妹への嘲りだったのかと得心した。
 出来の良い妹に罪をなすりつけることに成功した喜びと、いつ目を覚まして無実を叫ぶかと思う怯える心。そのまま黄泉の国へ身代わりとなったまま持っていってくれと願う心と、勉学というものに彼女が取りつかれ優秀であると世間に見せつける前まではそれなりに仲の良い兄妹であったという、その妹の死を願う兄という立場。
 それらが頭の中で渦巻いていたからこその、あの表情だったのだ。

「大体、エスト様は私を愛して結婚したのではないのです。私との婚姻で手に入れられる持参金、それが目当てなだけの男だったのです」
「そんな馬鹿な。ふたりはあんなに仲睦まじかったではないか」
 私の言葉を鼻で嗤ってカロラインは言葉を続ける。
「その証拠に、私の持参金は、エスト様が預かると言われたその日のうちに、右から左へ、借金の相手へと返済金として支払われておりました」
 言われたその日の日付けにあった金銭のやりとりの欄に記入されたその金額の莫大さに眩暈がした。
 嫁の持参金をすべて返済に充て一度は無くなった筈の借財が、たったひと月で元に迫る勢いで増えていた。
 本当に持参金目当てだったというのだろうか。
 それも、賭博で作った借財を返す為の婚姻だと。

「そんなことにも気が付かないで! 愛されていると信じて全てを捧げた馬鹿女だと哂って戴いて構いませんわ!」
 ぎらぎらとその瞳を自ら指摘した事実によって傷つけられ涙を流しながら、カロライン夫人が叫ぶ。
 その痛ましい様子に、アルフェルトは哀れになった。

「違法な賭博場で作った負債については取り締まりを強化して胴元を捕まえれば無くすことができるだろう。しかし金を取り返せるかと聞かれたら、すまないが私には答えることはできない」
 押収が成ったとしてもその金庫に残された額がどれほどあるかもわからないし、そもそも胴元の手元に集めた資金が残されている可能性も低い。
 しかし、アルフェルトに出来る事と言えば、それ位だろう。

「ありがとうございます。それと…もし私が離縁を望んだ時には、どうか今日のことについて証人となって戴けないでしょうか。図々しいお願いをしている自覚はありますが、今の私が頼りにできる相手は、殿下のみなのです」
 王太子妃とはいえ、今のピアでは確かに役に立たない。
 商人でしかない実の両親も、ゾール侯爵家に嫁入りするために養子縁組したポラス家も子爵の位でしかないため侯爵家であるゾール家との諍いにおいて歯止めとなることはできないだろう。
 確かに、自分にはゾール家への負い目がある。ピアを迎え入れるに当たっては養女に取ってもらうなど世話にもなった。
 しかし、だからといって一人のか弱い女性を貶めるようなことを許してはいけない。
「あぁ。その時は必ず力になろう」
 祈るように組み合わされた手に、そっと自らの手を重ねた。
「ありがとう、ございます」
 触れたその手に、カロライン夫人の泣き濡れた頬が、そっと寄せられた。

「では、その裏帳簿を渡してくれないか。王宮の政務官に調査を依頼して、領地経営についても正常化を図るべきだと思う」
 その提案に、カロラインは少し躊躇ってみせながらも結局はその管理監督について任せた。
 念のため他に怪しい物はないかゾール侯爵家の執務室内をふたりで探し、この後の対応策を相談した。終わった頃には日はとっぷり暮れていた。


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