時間を戻して異世界最凶ハーレムライフ

葛葉レイ

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デカス山脈③

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 ちょいちょいちょいー!
 なんだよなんだよー?
 なんなんだよー!

 リリィを抱いた事実は、記憶消去、記録消去、両方バッチリしたのに何で気付いてんの?
 マジ焦るわー。

 間違いなく処女に戻ってるよ?
 記憶上書きまでしなかった事がまずかったか?

 まぁ、いつも通り平然としてれば問題ないだろう。
 気持ちを切り替え山頂を目指そう!

 小屋から出たら早速鳥が襲ってきた。
 このストレスを全部ぶつけてやろう。

【解析】
 アイアンウィング
 LV:55
 HP:2100
 MP:200

 強っ!
 リリィよりレベルは低いが、生命力がエゲツないな。
 魔力も高い。

 試しに【火球ファイアボール】を何発か撃ち込んでみる。

 それを感じ取ったアイアンウィングは、逆に急降下しながら火球に向かってくる。
 それが生み出した風圧により、火球が逸れていき爆散した。

 やるじゃない。
 強い魔法も当たらなければ、どうという事もないとでも言いたいのか?

 鳥といえども流石はレベル55。
 戦い慣れている。

「リリィ、援護するから迎撃しろ」

「分かったわ!」

風魔法の加護ウィンドエンチャント

 リリィに風を纏わせ、【風の装置ウィンドデバイス】で、空中に複数の魔法陣を創り出し、風の効果を最大限に活かしていこう。

「空中にある魔法陣を足場にするんだ!」

 リリィが魔法陣に向かいジャンプし、足が着いた瞬間、その増幅装置から突風が巻き起こる。

 青白い風に包まれたリリィが、閃光となって鳥に目掛けて飛んでいく。

 二つの光線が上空にて交差。

 その瞬間、リリィは三つの斬撃を放つ。
 圧倒的な剣速に鳥はなすすべなく全てをその身にくらう。

 アイアンウィングと名を冠するだけあって、鉄の如く硬い羽に阻まれ、ギィンギィンと金属音と共に激しい火花が舞い散る。

 飛んだままリリィは次の魔法陣に足場を移す。
 魔法陣から、更に強い風が巻き起こる。

 これは風の増幅装置だ。
 魔法陣から魔法陣へと反復移動する度に、どんどん風の勢いが強くなっていく。

「そうだ!それでいい!
 ジャンプを繰り返せ!」

 リリィが発する閃光が、激しいピンボールの如く反射を繰り返す。
 鳥は旋回を繰り返すが、どんどん早くなるスピードについていけなくなり、いまさら逃げようにも逃げれない。
 光の鳥籠状態だ。

「やぁっ!」

 ズバッ!

 リリィの渾身の斬撃が、アイアンウィングを捉える。
 首を羽ごと切り落とされ、無残にも胴体と共に雪原に落下した。

「よくやった!リリィ」

「魔法の加護のお陰よ」

 この鳥の魔力の高さはなんだったのか?
 遅れてリリィが着地する。

「上空から見えたけど、さらに向こうの山頂に、祠の様な物が見えたわ」

「おお、よくやった!」

 山を【探知】した際、不思議な気配を感じてはいたのだ。
 それが無ければわざわざ山頂を目指したりはしなかっただろう。
 祠が何かとても気になる。

 向こう側の山頂に向けて稜線を縦走するには、かなり鋭く細い岩場を通らなければいけない。

「よし、このまま魔法陣であそこまで飛ぶぞ!」

「わ、わかったわ!」

 震えた声が気になり、リリィをよく見ると全身が震えている。
 氷点下近い気温の中での空中戦で、風に散々煽られ冷え切ったのだろう。

火魔法の加護ファイアエンチャント

「暖かい…………ありがとう」

「今までどうやって自然相手に冒険してたんだ?」

「雪山に行くって分かってたらそれなりに準備したわよ!
 まさかこんなとこまで来るなんて……」

 ブツブツうるさくなってきたので、さっさと魔法陣で跳躍する。

「無視しないでよー!」

 上空から祠周辺を【探知】すると、明らかに異質な魔力を感じる。

「何かいるぞ」

「えっ?」

 と言ったものの、見たところ雪と岩しかない。
 祠の中にいるのか。
 だが祠には、地蔵が一体入る程度の大きさしかない。

 着地して周囲を伺うが、気配は消えていない。
 生命反応は感じないんだが、どういう事だろう?
 首を傾げながら祠に近付くと、祠の中から緑色の光が漏れ出し、同時に地響きが起こる。

 ブゥン、ゴゴゴゴゴ……

「嫌な予感がするわ」

 ガクンと足元が揺れ、岩の塊が地面から雪を掻き分けるように迫り出してきた。

「これはまさか!」

 後ろに距離を取るように、飛んで離れるリリィ。
 真剣な目でその岩を見ている。

「なんだよ?トラップって事か?」

「いいえ、罠では無いわ。
 ううん、罠の意味もあるのかも。」

 リリィがなぞなぞを出してくる。
 上級者向けなら勘弁してほしい。

 岩がみるみる盛り上がり、二つの腕、二つの足、緑光を発する祠が顔の様に見えてくる。
 こいつアレだ。
 何て言ったっけ?

「ゴーレムよ!」

「思い出した!ゴーレムだ!」

「…………」

 さてと、

【解析】
 デカスゴーレム
 LV:70
 HP:3200
 MP:100

 さっきの鳥より更にレベルが高い。
 魔力は少ないが体力がべらぼうに多いな。

「ゴーレムと戦った事あるか?」

「あるにはあるけど、訓練用の人形だし。
 こんなに大きいのは初めてだわ」

 こんなに大きいのは初めて、というワードに敏感に反応してしまう。
 そんな場合ではない。
 今まさに、俺目掛けて巨大な岩の腕が迫ってきているのだ。

火壁ファイアウォール

 ゴーレムの腕が叩き付けられるが、火の壁の強度に耐え切れず、壊れて四散する。
 腕だった岩石が、音を立てて崖下へ落ちていった。
 こんな狭い足場で、こんな大きい岩石の塊が暴れたら、山が崩れてしまいそうだ。
【火壁】の魔法が、効力を失い掻き消えていく。
 それほど強い一撃だったのか。
 戦い方を変えよう。

風の空域ウィンドフィールド

 対象ゴーレムを中心に、山頂を囲むように魔法陣を四方八方に展開する。
 風の壁に囲まれた縦横20メートルくらいの空間が、俺とリリィの対ゴーレム戦域バトルフィールドだ。

「これで岩が飛び散る事は無い。
 ヤバいと思ったら逃げろよ!」

「逃げないわ!」

 話してる間に、ゴーレムが周りの岩を吸い上げ、腕が再生していく。
 そんなんありか?
 しかも、さっきより巨大になってるぞ?
 まるで、山そのものが敵となって迫ってくるような錯覚を感じる。

 再生中の隙をつき、リリィが足元へ飛び込み脚部分へ斬り込む。
 斬撃では相性が悪いのか、斬っても斬ってもすぐさま再生してしまい、ダウンも取れない。
 なんだこいつ~。

「ゴーレムって弱点なんかないのか?」

「ゴーレムの動力源は魔力だから、魔力が切れれば止まるし、完全に倒すならコアを破壊する事ね」

 コアか。
 恐らくは、祠だった頭の部分がコアだと思うが、力試しでもう少し戦ってみたい気もする。
 HP3000超えってヤツを、体感してみたい。

「ここは俺一人で戦う。
 リリィは離れてろ」

 リリィを上空に創った魔法陣に強制【転移】させ、ゴーレムに向き直る。

土魔法:水晶槌クリスタルハンマー

 水晶で出来た電柱の様な円柱が二本、俺の頭上に浮かび上がった。

 そこへ、3メートルはあろうゴーレムが、大きく膨らんだ両腕を振りかぶって、ゴリラの如く突っ込んでくる。

 迫り来るゴーレムにタイミングを合わせ手を翳すと、そのジェスチャーに合わせ、鐘撞きの様にハンマーが、高速で両腕に衝突した。
 轟音が響き渡り、両腕が木っ端微塵に吹き飛び、ゴーレムの動きが鈍る。

「所詮、岩の寄せ集め。
 さっきの蜘蛛と同じでより硬い物質の前には何もできぬ証明よ」

 上機嫌でいると上空でリリィが何やら叫んでいるようだ。
 俺の強さを讃えているのだろう。
 万雷の拍手を送るがよい。

「後ろよ!うーしーろー!」

 迫る影に気付き、後ろへ振り向く前に、地面から迫り出した腕が振り下ろされる。
 衝撃で雪が舞い上がり、辺り一面が白一色に覆い尽くされる。
 
「テツオ!!」

「なんだよ」

 リリィの背後でテツオの声がした。
 そうだ、この男には【転移】がある。
 振り返るともうゴーレムの背後に【転移】していた。

 ゴーレムの背後へと周り込みながら、ハンマーを高速で打ち込み続ける。
 成す術もなくゴーレムの体から、岩が次々と剥がれ落ちていく。
 遂には、頭部である祠だけになってしまった。
 これでどうだ!?

【解析】
 デブリゴーレム
 LV:70
 HP:100
 MP:100

 なんだよー。
 祠が残ってる限り倒せないんかよ。
 まぁ、でもこれがゴーレムかぁ、楽しかったな。
 使いたくなかったけど【転移】まで使っちゃったし。
 LV70は強い。

闇魔法:魔力吸収マジックドレイン

 祠の核から魔力を吸い上げる。
 MP100しかないから一瞬で吸い終わるな。
 祠から光が失われ、静寂に包まれた。

「貴方って一体どれだけ強いのかしらね?」

 いつのまにかリリィが降り立っていた。

「さぁなぁ。でも強かったぞ、こいつ」

「余裕だったじゃない?
 でも、何でここにゴーレムがいたのかしら?」

「どういう意味だ?」

「通常ゴーレムは守護者ガーディアンとして配置されるものなのよ。
 ここにいる何か理由があるはずなんだけど、ね」

「祠をもうちょい調べてみるか」

 祠を調べてみると何か玉の様な物がある。

「これが、ゴーレムのコアか」

 テニスボールくらいの玉を手に取ると、ボワンと鈍い音がした。

「え?何?これ……」

 リリィが何かに驚いてるので、手のひらから視線を上げると、目の前に全く違う世界が広がっていた。

 雪山の山頂に突如開いた大きな円。
 円の中は、例えるならば巨大で綺麗な森。
 木々に澄んだ水が降り注いでいる。
 奥には滝があり、光が反射して森を照らしている。
 その神々しい光景に心が奪われるようだ。

「どうする?」

「こんな面白展開、行くしかないだろ?」

 俺たちは森へと導かれるように入っていった。
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