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ブレイダン
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商店街まで戻ってきたら、ブレイダンとばったり会った。
工房から出掛けてたのかな?
ブレイダンの表情は、晴れやかな笑顔だった。
「これはこれは、テツオ様。
先程、号外を拝見しました。
こんなにも早く貴族を粛清していただけるとは思いませんでした。
本当にありがとうございました」
ブレイダンが頭を下げて感謝する。
こんな紳士に頭を下げさせるとか、なんかもう罪悪感が半端ない。
「頭を上げて下さい、ブレイダンさん」
ブレイダンはスマートに頭を上げ、矢継ぎ早に次の話題をぶつけてくる。
「私の勘なんですが、早朝、大量に鉱石類の依頼を達成されたのは、もしやテツオ様ではありませんか?」
やはり、あれだけの量を一気に用意するのは目立つよね。
「すいません、それは私の仕業です」
「いえいえ、テツオ様が謝る道理はありません。
ですが、我々商売人の間では、とんでもないビッグニュースになってまして。
やはり、貴方は只者じゃなかったんですね」
物の相場を荒らしてしまったかもしれないな。
それよりも、さっきからブレイダンの背後にある建物の脇から、こちらをチラチラ見ている怪しい気配を感じる。
「ブレイダンさん、誰かがこちらを覗いています。
ご注意を……」
あっ、という顔をしてブレイダンが後ろに振り返り、隠れている謎の人影を手招きして呼んだ。
観念したのか、その人影がスッと姿を現す。
俺の心臓が、バクン!と跳ね上がり、喉から飛び出しそうになるほどの衝撃。
歌姫ナティアラだ!
生ナティアラだ!
相変わらずの小顔に印象的な射抜くような大きな瞳。
短めの赤いワンピースの裾を引っ張りながらもじもじしている。
顔ちっさ。首ほっそ。足ほっそ。
こんなに近くで見れて軽く感動だ。
ヤバい。
「ナティアラ、ご挨拶なさい。
こちらは……」
「知ってる。こいつがテツオなんだろ?」
ぶっきらぼうで失礼な態度。
呼び捨てにタメ語。
いいね!
申し訳ありません、と連呼しながら、ナティアラを窘めるブレイダン。
いつも冷静沈着な紳士が、あたふたしているのは珍しいし面白い。
礼儀作法やマナーは、冒険者だった父親が男手一つで育てた為、父親譲りでガサツなんだそうだ。
店でも歌わせるだけで、接客は一切させていないという。
歌姫なんてもんはワガママなくらいがちょうどいいんだよ。
「ど、ども…………」
年下の女の子にも、ろくに挨拶できない、いつもの俺。
だってこの子めっちゃ可愛い。
アイドルみたい。
「お前、貴族退治したんだってな」
そうだぞう。
恩に感じてくれていいんだぞう。
それにしても声可愛いな。
ブレイダンが、悪い貴族がいなくなって街が平和になったんだから、テツオ様に感謝しなさいと諭す。
更に、テツオ様が新しい貴族になったらよりよい街になるんだよ、と付け足す。
「こいつが次の悪い貴族にならない保証はどこにあるんだよ?」
ブレイダンが顎に手を当て、途方に暮れる。
相当、手を焼いてるみたいだな。
困り顔の紳士は滑稽でちょっと吹いてしまったが、咳でごまかす。
「貴族をやっつけたのはブレイダンさんに頼まれたのもあるが、俺はお前の歌が大好きなんだ。
お前を守る為に頑張ったんだ。
今後、お前を邪魔する奴が現れても、俺が絶対に許さないから安心しろ」
もちろん、アマンダお姉ちゃんの為でもあるんだぞ。
すると、ナティアラの態度が急変した。
チラチラと俺を見ながら、さっきみたいにワンピースの裾を握って、もじもじしだす。
色白の顔が真っ赤になっている。
そして一言。
「お前、俺の事好きなのか?」
女の子が自分の事、俺って……
父親の言葉使いそのまんまなのね。
声が可愛くなかったら、おっさんだ。
お前の歌が好きって言ったんだが、どこで間違ったのか告白と受け取られてしまった。
「お前の歌を聞いた時、一目惚れした」
「ほんとか?」
驚いたのか手を合わせて喜んでいる。
え?この子、自分の歌の凄さに気付いてないのか?
ナティアラがブレイダンに近寄り、こしょこしょと何かしら耳打ちをする。
そして次に、ブレイダンが俺の耳に小さな声で話し掛けてくる。
何の伝言ゲームなんだよ、これ。
「今夜空いてますか?
彼女が、ナティアラズ・バーでお礼の歌を披露したいそうです」
「ええっ?絶対行きます!」
やった!
またあの歌が、歌声が聴ける!
俺の大きい返事を聞いたナティアラが、ワンピースをひらひらとさせながら走り去ってしまった。
そんなに走ったらパンツ見えちゃうよ?
あ、白だ。
いいね!
ブレイダンといくつか雑談を交わした後、帰ろうとすると、
「そういえば、そちらのお召し物はどちらで買われたんですか?」
と、俺の服について聞いてきた。
ん?ブレイダン程の紳士でも気になるレベルの服だったのかな?
「この先の高級店が並ぶ一角の、アスティとかいう服屋で買いました」
「今、なんと?アスティ?」
アスティ裁縫店の外装や主人について詳しく説明するが、ブレイダンは心当たりが全く無いと言う。
なんだよ、新手のドッキリか?
白黒ハッキリさせる為、ブレイダンをアスティ裁縫店の前まで案内する。
現場に近づくにつれ、嫌な予感がしてドキドキしてきた。
店前に着くと、もうちびっちゃいそうになるくらいゾッとした。
お分かりいただけただろうか?
高級店は高級店なんだが、そこにあったのは高級果実店。
店の主人は、太ったおっさんだった。
あのノリと愛想のいいニコニコ顔の主人は一体誰だったんのだろうか……
というか、店自体違うって、もう心霊現象超えてない?
「そのお召し物はお幾らでしたか?」
5万ゴールドだったと言うと、失礼ではありますがと前置きしてから、5千ゴールドが相場でしょうとブレイダンが教えてくれた。
詐欺か!
いや、金銭感覚がおかしくなった俺にも責任がある。
詐欺られて当然だ。
俺は物の価値分からない。
「この場所は、数年間ずっと果実店です。
あの主人は詐欺を働くような人物ではありませんし、それ以前にここは街一番の繁盛店です」
お金なぞさしたる問題ではないが、もしかすると人を騙すような物の怪の類が、広いこの世の中にはいるのかもしれない。
俺がそんなに被害を感じていないのを見て、ブレイダンは今後注意しておきますと言って、工房へ帰っていった。
怪奇現象なんかより、ナティアラに会えた事が、夜招かれた事が嬉しくて、空を飛びたくなるくらい気持ちが舞い上がっている。
おっと、浮かれてて冒険者ギルドに行くのを忘れていた。
金等級の昇級手続きに行かないとな。
性欲だけじゃない楽しみってのも実際にあるんだと再認識しながら、ギルドへと向かった。
——サルサーレ・ギルド
ギルドに入ると、昼過ぎもあって人数はまばらで、受付所も空きがある。
俺に気付いたラーチェがこちらに向かってブンブンと手招きをしている。
いつも元気だな、彼女は。
「テツオ様ー、お待ちしてましたー!
金等級昇格おめでとうございまーす!」
ちょっ、声大きいってラーチェちゃん!
ほら、周りにいる冒険者達がざわつきだしたじゃない。
あれがテツオか、とか、あいつが貴族になるのか、とか、羨望と嫉妬の眼差しがギルド内に渦巻いている。
出来れば、敵を作りたくないんだよねぇ。
「手続きはこちらにサインだけでオッケーでーす。
さぁ、金等級の特典をお教えしますね。
着いてきてくださぁい」
ラーチェの指示に従い、後を着いていく。
て、事は?
「一気に三階まで行きますよー」
待ってましたぁ!ご褒美ターイム!
先に階段を登っていくラーチェの段差マジックで、彼女の下半身が俺の目の前に晒される。
三階までとは長い道程だ。
これは、録画保存しておこう。
スチャッと眼鏡を装着する。
スカート越しに引き締まった尻がプリプリと左右に揺れる。
触りたい。
少し歩を遅らせて、スカートから伸びる引き締まったラーチェレッグを眺める。
むしゃぶりつきたい。
更に歩を遅らせて、見えそうで見えないパンチラリズムを堪能する。
割れ目をなぞりたい。
階段てこんなに夢が溢れるホットスペースだったんだね。
痴漢や盗撮が世の中から無くならない訳だ。
いやいや、カメラが無いこの世界に盗撮はない。
三階に着くと、一本道の廊下に豪華な絨毯が敷かれ、左右各部屋に続く扉が見受けられる。
シンプルだ。
一人一部屋が与えられるという事で、俺に与えられた個室に入室する。
次からギルドに来る時はここへ転移しよう。
「三階は金等級の方のみ入る事が出来ます。
テツオ様の担当だった私が、これからサポートする事となります。
ジャクハイモノですが、どうかヨロシクお願いします!」
ラーチェが慣れない言葉を使って挨拶をする。
サポートとはどういった事でしょう?と聞いてみた。
「テツオ様がこれから先、依頼を円滑に進める為に、武器防具の手入れ全般、街のギルド施設への利用手続き、雑務全般をサポートします。
サポート費用は、当ギルドが全額負担しますのでご安心を」
ギルドは金等級しか受けれない高額な依頼を完遂させる為に、全力でバックアップしてくれるようだ。
実際、金等級まで登りつめる程の冒険者は金に困っていないから、面倒な手続きや金管理などの雑務をギルドに押し付けるのだろう。
ソニアみたいに団長をしているなら街やギルドに常駐するかもしれないが、殆どの金等級冒険者は、高難度な依頼で旅立ち、数ヶ月もしくは何年も戻らない事が多いらしい。
この街の金等級は俺を含めて九人。
貴重な最高戦力を重宝するのは当たり前だろう。
ラーチェに、他に金等級の冒険者を担当しているのか聞くと、俺が初めてだったようだ。
金等級の担当になると、お給金が増えますと喜んでいる。
ラーチェの給料いくらなんだろ?
倍出すから、俺の女にしたいくらいだ。
「あのぉ、一つお聞きしたいんですがいいですか?」
改まってなんだろうか聞いてみると、どうやら俺が貴族になっても、冒険者を続けてくれるのか気になっていたらしい。
「もちろん続けますよ。
ラーチェさんのサポート期待してます」
俺の言葉に、ラーチェはホッとした表情で胸を撫で下ろした。
「良かったです。
あともう一つあるんですが、……聞きますか?」
ラーチェの目がキョロキョロと泳ぎだした。
なんだろう?
めっちゃ気になる。
聞かせてくださいと言うと、顔が一気に赤くなり、視線が横へ流れたまま、単語を一つずつ口にする。
「金等級の……冒険者さんが……求めたら……出来るだけ……応えること……です」
そう言ってラーチェは両手で顔を覆った。
は?
要点が分からない。
求めたら応えるとは、何を指すのだろう?
「どういう事ですか?」
誤解の無いようにしっかりと確認しておく。
性的な意味じゃないのに、うっかり手を出そうものなら捕まってしまうからね。
「もう!いじわるですっ!
私の身体を自由にしていいって意味ですよ!」
握りこぶしを横に作り、内側に両膝を曲げて叫ぶラーチェ。
顔は真っ赤っかだ。
自暴自棄になってる可能性もある。
「そんな規則おかしいです。
ラーチェさんが無理に従う必要は無いですよ。
嫌でしょ、好きでもない男に抱かれるとか」
すると、ラーチェがツカツカと歩いてきてベッドの上にボフッと座る。
柔らかい布団から羽毛が数本舞い上がる。
ラーチェが俯いたまま語り出す。
「テツオ様は自分の凄さが分かってません!」
何か怒ってない?
「ラーチェさん、落ち着いて下さい」
ラーチェは今座ったばかりなのに、スクッと立ち上がると、俺に向かって人差し指を立てて迫ってくる。
「落ち着けません!
貴方は私の前にいきなり現れて、銀等級になったと思ったら、すぐ悪いクランをやっつけちゃうし!
相談も無しに、急に金等級なっちゃうし!
そしたら、悪い貴族全部捕まえちゃうし。
いきなり、新しい貴族になっちゃいそうだし!
私、一生懸命サポートしようとして、計画書とか色々作成してたのに、全部空回りで。
もう、貴方は全てがカッコ良すぎるんですっ!」
その怒涛の勢いに後退せずにいられない。
とうとう壁に背中がぶつかるまで追い詰められてしまった。
ど、どうなるの?
工房から出掛けてたのかな?
ブレイダンの表情は、晴れやかな笑顔だった。
「これはこれは、テツオ様。
先程、号外を拝見しました。
こんなにも早く貴族を粛清していただけるとは思いませんでした。
本当にありがとうございました」
ブレイダンが頭を下げて感謝する。
こんな紳士に頭を下げさせるとか、なんかもう罪悪感が半端ない。
「頭を上げて下さい、ブレイダンさん」
ブレイダンはスマートに頭を上げ、矢継ぎ早に次の話題をぶつけてくる。
「私の勘なんですが、早朝、大量に鉱石類の依頼を達成されたのは、もしやテツオ様ではありませんか?」
やはり、あれだけの量を一気に用意するのは目立つよね。
「すいません、それは私の仕業です」
「いえいえ、テツオ様が謝る道理はありません。
ですが、我々商売人の間では、とんでもないビッグニュースになってまして。
やはり、貴方は只者じゃなかったんですね」
物の相場を荒らしてしまったかもしれないな。
それよりも、さっきからブレイダンの背後にある建物の脇から、こちらをチラチラ見ている怪しい気配を感じる。
「ブレイダンさん、誰かがこちらを覗いています。
ご注意を……」
あっ、という顔をしてブレイダンが後ろに振り返り、隠れている謎の人影を手招きして呼んだ。
観念したのか、その人影がスッと姿を現す。
俺の心臓が、バクン!と跳ね上がり、喉から飛び出しそうになるほどの衝撃。
歌姫ナティアラだ!
生ナティアラだ!
相変わらずの小顔に印象的な射抜くような大きな瞳。
短めの赤いワンピースの裾を引っ張りながらもじもじしている。
顔ちっさ。首ほっそ。足ほっそ。
こんなに近くで見れて軽く感動だ。
ヤバい。
「ナティアラ、ご挨拶なさい。
こちらは……」
「知ってる。こいつがテツオなんだろ?」
ぶっきらぼうで失礼な態度。
呼び捨てにタメ語。
いいね!
申し訳ありません、と連呼しながら、ナティアラを窘めるブレイダン。
いつも冷静沈着な紳士が、あたふたしているのは珍しいし面白い。
礼儀作法やマナーは、冒険者だった父親が男手一つで育てた為、父親譲りでガサツなんだそうだ。
店でも歌わせるだけで、接客は一切させていないという。
歌姫なんてもんはワガママなくらいがちょうどいいんだよ。
「ど、ども…………」
年下の女の子にも、ろくに挨拶できない、いつもの俺。
だってこの子めっちゃ可愛い。
アイドルみたい。
「お前、貴族退治したんだってな」
そうだぞう。
恩に感じてくれていいんだぞう。
それにしても声可愛いな。
ブレイダンが、悪い貴族がいなくなって街が平和になったんだから、テツオ様に感謝しなさいと諭す。
更に、テツオ様が新しい貴族になったらよりよい街になるんだよ、と付け足す。
「こいつが次の悪い貴族にならない保証はどこにあるんだよ?」
ブレイダンが顎に手を当て、途方に暮れる。
相当、手を焼いてるみたいだな。
困り顔の紳士は滑稽でちょっと吹いてしまったが、咳でごまかす。
「貴族をやっつけたのはブレイダンさんに頼まれたのもあるが、俺はお前の歌が大好きなんだ。
お前を守る為に頑張ったんだ。
今後、お前を邪魔する奴が現れても、俺が絶対に許さないから安心しろ」
もちろん、アマンダお姉ちゃんの為でもあるんだぞ。
すると、ナティアラの態度が急変した。
チラチラと俺を見ながら、さっきみたいにワンピースの裾を握って、もじもじしだす。
色白の顔が真っ赤になっている。
そして一言。
「お前、俺の事好きなのか?」
女の子が自分の事、俺って……
父親の言葉使いそのまんまなのね。
声が可愛くなかったら、おっさんだ。
お前の歌が好きって言ったんだが、どこで間違ったのか告白と受け取られてしまった。
「お前の歌を聞いた時、一目惚れした」
「ほんとか?」
驚いたのか手を合わせて喜んでいる。
え?この子、自分の歌の凄さに気付いてないのか?
ナティアラがブレイダンに近寄り、こしょこしょと何かしら耳打ちをする。
そして次に、ブレイダンが俺の耳に小さな声で話し掛けてくる。
何の伝言ゲームなんだよ、これ。
「今夜空いてますか?
彼女が、ナティアラズ・バーでお礼の歌を披露したいそうです」
「ええっ?絶対行きます!」
やった!
またあの歌が、歌声が聴ける!
俺の大きい返事を聞いたナティアラが、ワンピースをひらひらとさせながら走り去ってしまった。
そんなに走ったらパンツ見えちゃうよ?
あ、白だ。
いいね!
ブレイダンといくつか雑談を交わした後、帰ろうとすると、
「そういえば、そちらのお召し物はどちらで買われたんですか?」
と、俺の服について聞いてきた。
ん?ブレイダン程の紳士でも気になるレベルの服だったのかな?
「この先の高級店が並ぶ一角の、アスティとかいう服屋で買いました」
「今、なんと?アスティ?」
アスティ裁縫店の外装や主人について詳しく説明するが、ブレイダンは心当たりが全く無いと言う。
なんだよ、新手のドッキリか?
白黒ハッキリさせる為、ブレイダンをアスティ裁縫店の前まで案内する。
現場に近づくにつれ、嫌な予感がしてドキドキしてきた。
店前に着くと、もうちびっちゃいそうになるくらいゾッとした。
お分かりいただけただろうか?
高級店は高級店なんだが、そこにあったのは高級果実店。
店の主人は、太ったおっさんだった。
あのノリと愛想のいいニコニコ顔の主人は一体誰だったんのだろうか……
というか、店自体違うって、もう心霊現象超えてない?
「そのお召し物はお幾らでしたか?」
5万ゴールドだったと言うと、失礼ではありますがと前置きしてから、5千ゴールドが相場でしょうとブレイダンが教えてくれた。
詐欺か!
いや、金銭感覚がおかしくなった俺にも責任がある。
詐欺られて当然だ。
俺は物の価値分からない。
「この場所は、数年間ずっと果実店です。
あの主人は詐欺を働くような人物ではありませんし、それ以前にここは街一番の繁盛店です」
お金なぞさしたる問題ではないが、もしかすると人を騙すような物の怪の類が、広いこの世の中にはいるのかもしれない。
俺がそんなに被害を感じていないのを見て、ブレイダンは今後注意しておきますと言って、工房へ帰っていった。
怪奇現象なんかより、ナティアラに会えた事が、夜招かれた事が嬉しくて、空を飛びたくなるくらい気持ちが舞い上がっている。
おっと、浮かれてて冒険者ギルドに行くのを忘れていた。
金等級の昇級手続きに行かないとな。
性欲だけじゃない楽しみってのも実際にあるんだと再認識しながら、ギルドへと向かった。
——サルサーレ・ギルド
ギルドに入ると、昼過ぎもあって人数はまばらで、受付所も空きがある。
俺に気付いたラーチェがこちらに向かってブンブンと手招きをしている。
いつも元気だな、彼女は。
「テツオ様ー、お待ちしてましたー!
金等級昇格おめでとうございまーす!」
ちょっ、声大きいってラーチェちゃん!
ほら、周りにいる冒険者達がざわつきだしたじゃない。
あれがテツオか、とか、あいつが貴族になるのか、とか、羨望と嫉妬の眼差しがギルド内に渦巻いている。
出来れば、敵を作りたくないんだよねぇ。
「手続きはこちらにサインだけでオッケーでーす。
さぁ、金等級の特典をお教えしますね。
着いてきてくださぁい」
ラーチェの指示に従い、後を着いていく。
て、事は?
「一気に三階まで行きますよー」
待ってましたぁ!ご褒美ターイム!
先に階段を登っていくラーチェの段差マジックで、彼女の下半身が俺の目の前に晒される。
三階までとは長い道程だ。
これは、録画保存しておこう。
スチャッと眼鏡を装着する。
スカート越しに引き締まった尻がプリプリと左右に揺れる。
触りたい。
少し歩を遅らせて、スカートから伸びる引き締まったラーチェレッグを眺める。
むしゃぶりつきたい。
更に歩を遅らせて、見えそうで見えないパンチラリズムを堪能する。
割れ目をなぞりたい。
階段てこんなに夢が溢れるホットスペースだったんだね。
痴漢や盗撮が世の中から無くならない訳だ。
いやいや、カメラが無いこの世界に盗撮はない。
三階に着くと、一本道の廊下に豪華な絨毯が敷かれ、左右各部屋に続く扉が見受けられる。
シンプルだ。
一人一部屋が与えられるという事で、俺に与えられた個室に入室する。
次からギルドに来る時はここへ転移しよう。
「三階は金等級の方のみ入る事が出来ます。
テツオ様の担当だった私が、これからサポートする事となります。
ジャクハイモノですが、どうかヨロシクお願いします!」
ラーチェが慣れない言葉を使って挨拶をする。
サポートとはどういった事でしょう?と聞いてみた。
「テツオ様がこれから先、依頼を円滑に進める為に、武器防具の手入れ全般、街のギルド施設への利用手続き、雑務全般をサポートします。
サポート費用は、当ギルドが全額負担しますのでご安心を」
ギルドは金等級しか受けれない高額な依頼を完遂させる為に、全力でバックアップしてくれるようだ。
実際、金等級まで登りつめる程の冒険者は金に困っていないから、面倒な手続きや金管理などの雑務をギルドに押し付けるのだろう。
ソニアみたいに団長をしているなら街やギルドに常駐するかもしれないが、殆どの金等級冒険者は、高難度な依頼で旅立ち、数ヶ月もしくは何年も戻らない事が多いらしい。
この街の金等級は俺を含めて九人。
貴重な最高戦力を重宝するのは当たり前だろう。
ラーチェに、他に金等級の冒険者を担当しているのか聞くと、俺が初めてだったようだ。
金等級の担当になると、お給金が増えますと喜んでいる。
ラーチェの給料いくらなんだろ?
倍出すから、俺の女にしたいくらいだ。
「あのぉ、一つお聞きしたいんですがいいですか?」
改まってなんだろうか聞いてみると、どうやら俺が貴族になっても、冒険者を続けてくれるのか気になっていたらしい。
「もちろん続けますよ。
ラーチェさんのサポート期待してます」
俺の言葉に、ラーチェはホッとした表情で胸を撫で下ろした。
「良かったです。
あともう一つあるんですが、……聞きますか?」
ラーチェの目がキョロキョロと泳ぎだした。
なんだろう?
めっちゃ気になる。
聞かせてくださいと言うと、顔が一気に赤くなり、視線が横へ流れたまま、単語を一つずつ口にする。
「金等級の……冒険者さんが……求めたら……出来るだけ……応えること……です」
そう言ってラーチェは両手で顔を覆った。
は?
要点が分からない。
求めたら応えるとは、何を指すのだろう?
「どういう事ですか?」
誤解の無いようにしっかりと確認しておく。
性的な意味じゃないのに、うっかり手を出そうものなら捕まってしまうからね。
「もう!いじわるですっ!
私の身体を自由にしていいって意味ですよ!」
握りこぶしを横に作り、内側に両膝を曲げて叫ぶラーチェ。
顔は真っ赤っかだ。
自暴自棄になってる可能性もある。
「そんな規則おかしいです。
ラーチェさんが無理に従う必要は無いですよ。
嫌でしょ、好きでもない男に抱かれるとか」
すると、ラーチェがツカツカと歩いてきてベッドの上にボフッと座る。
柔らかい布団から羽毛が数本舞い上がる。
ラーチェが俯いたまま語り出す。
「テツオ様は自分の凄さが分かってません!」
何か怒ってない?
「ラーチェさん、落ち着いて下さい」
ラーチェは今座ったばかりなのに、スクッと立ち上がると、俺に向かって人差し指を立てて迫ってくる。
「落ち着けません!
貴方は私の前にいきなり現れて、銀等級になったと思ったら、すぐ悪いクランをやっつけちゃうし!
相談も無しに、急に金等級なっちゃうし!
そしたら、悪い貴族全部捕まえちゃうし。
いきなり、新しい貴族になっちゃいそうだし!
私、一生懸命サポートしようとして、計画書とか色々作成してたのに、全部空回りで。
もう、貴方は全てがカッコ良すぎるんですっ!」
その怒涛の勢いに後退せずにいられない。
とうとう壁に背中がぶつかるまで追い詰められてしまった。
ど、どうなるの?
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