104 / 147
南の森③・赤帯
しおりを挟む赤帯を走り続け、三時間経過。
その道中、冒険者の装備や荷物が、乱雑に放置されている現場を発見。
死体などは無かったが、エンブレムから以前森に放ったドローンで確認した【白金の輝き】の団員達のものだろう。
いくら金等級冒険者であっても、装備無しで進めるほど赤帯はぬるくない。
恐らく何かトラブルがあったのだ。
大事な証拠として、装備一式をきっちり回収しておいた。
その後、装備の持ち主である三人が宙吊りになって現れた。
暗くてはっきりとは見えないが、恐らく植物の蔓に絡め取られているのだと分かるのは、アルラウネの仕業だと想起できるからだ。
まだ息があるのかどうかまでは、ここからじゃ距離が遠くて分からない。
馬の脚を止め、大声を張り上げ警戒を高める。
「気を付けろ!これはきっと罠だ!ここは俺に任せろ!」
もしアルラウネだったら、いや十中八九アルラウネに間違いない。
リリィに任せてしまうと、一瞬で倒してしまう恐れがある。
それは絶対に阻止しなくてはいけない。
アルラウネはこの手で絶対ゲットしたい。
【幻鉱石の剣】
取り出した剣を片手に前へ出る。
「さぁ、出て来い!醜い化け物よ!」
関心が無いアピールは大事。
「会いたかったぞ」
暗闇の何処かから、不気味な声が響く。
え?今、会いたかったって言った?
アルラウネさん、俺の事知っててくれてる?
え?もしかして、魔物界隈にまで俺の魅力が届いちゃってるの?
「俺も会いたかったぞ!さぁ、出て来」
「テツオッ!」
【時の回避】
いきなり【自動魔法】が発動。
一瞬で首を斬られたらしく、既に死に至る直前なので、諦めてそのまま死を受け入れた。
首が熱くて痛くて辛い。
死を迎える苦しみは他に表現のしようがなく、とてつもない喪失感で心が壊れそうだ。
そのまま意識が朦朧としていく。
死んで即発動する【時間遡行】にて、死ぬ前に時が戻り、俺を殺した声の主に呼びかける。隙は見せない。
「カルロス!いるんだろ?出て来いよ」
銀色の重鎧に身を包み、巨大なハンマーを持った強面が、枯れたデビルプラントの洞から姿を表した。
樹洞を隠れ蓑にしていた訳か。
そして、こいつは確か、ジョンテ領でロナウドと共に革命軍を率いていた男。
だが、こんな奴ごときに俺を殺す程の力は無かった筈だ。
何があった?
「隙を狙おうと隠れていたが、流石は魔王殺し。よくぞ見抜いたな」
「魔王殺し、だと?」
「動揺したなっ!」
なんと、カルロスの目が銀色に光った!
俺はこの目を知っている。
そうだ、貴族に化けていた悪魔。
アンドラスだ。
超スピードで鋭い衝撃波を放ってきたので、すかさず【転移】しようとしたが、何故か【転移】出来ず、また首を刎ね飛ばされてしまった。
「テツオーッ!」
リリィの悲痛な叫びを聞きながら、また意識が遠のいていく。
二度も死んで申し訳ない。
【時間遡行】
【時間遅行】
時が戻ってすぐに時を遅くするクロノスコンボ。
————現状を整理しよう。
声の正体は、カルロスの姿をした悪魔アンドラス。
魔王程ではないにせよ、前よりかなり強くなっているのは間違いない。
そして、森の影響なのかアンドラスの能力なのかはまだ分からないが,何故か【転移魔法】が使えなくなっている。
それでも【時間魔法】は使えるので、魔法全てに制限が掛かっている訳では無い。
本当に悪魔ってヤツはいちいち面倒臭いなぁ。
「おい、アンドラス出て来いよ」
「驚いた。まさか見破られているとは」
カルロスの見た目をしたアンドラスが、闇の中から姿を現す。
これ以上不意打ちを食らうわけにはいかない。
「リリィ、こいつは悪魔だ。
サシで戦ってみるか?」
時間を遅くしたままなら、難なく倒せるだろうが、リリィはこの悪魔の動きがしっかりと見えていた。
悪魔と戦う機会を与えるなら今だ。
「ええ、任せて!」
リリィは剣を抜いて身構え、アンドラスを見据えた。
少し緊張しているようだが、大丈夫か?
「何だとっ!俺は貴様を殺したいんだっ!
こんな雑魚とやれってのか?」
「俺を殺りたいなら、まずはこいつを倒してみろよ」
「ふざけやがって…………
フン、まぁいい。大事な女の死体にズボズボハンマーぶち込んで、後悔と絶望に歪んだ貴様の顔を見るのも気分がいいだろぉなぁ、ゲヒヒ」
これは酷い。カルロスは良くも悪くも戦士らしい無骨な性格をしていた。
こいつはやはり貴族に化けていた悪魔アンドラスに間違いない。
「やってみなさいよ!」
リリィの鋭い剣閃がビームとなって放たれる!
アンドラスは重装備を物ともせず、最小限の動きで回避し、お返しとばかりにリリィに向かって黒い衝撃波を放つ。
【闇の刃】
この魔法で、俺の首はあっさり飛ばされたのか。
森が暗くて視認しにくいなんて反則だ。
リリィの周りに、何枚もの羽が具現化し浮かび上がった。
【羽の盾】
羽根にある丸い円盤が、金色に輝きながら回転を早める。
計四枚に増えた光る羽が、高速でリリィの周りを飛びかい、敵の魔法を次々と弾いていく。
前から不思議に思っていたが、それ一体何なんだ?
「チッ、面倒だな。サッサト終わらすか」
魔法攻撃が届かないとみるや、アンドラスは魔力を高める。
見た目カルロスだった頭部が、丸ごと梟に変化し、魔力が大きく跳ね上がる。
これまで対峙してきた魔王にすら匹敵する威圧に、見ているだけの俺まで恐怖で身が竦む。
リリィの膝がガクリと崩れ落ちた。
まずい!怖がりのリリィじゃ精神が保つ訳ない。
「人の子デアル以上、この恐怖ニハ逆らえまイ」
嘴をカツカツ鳴らして話す梟頭は、銀の眼を光らせ、リリィ目掛けて距離を一気に詰めた。
炎を纏う巨大な斧が、リリィの細い首目掛けて、今まさに振り下ろされる。
「リリィ!」
メルロスが叫ぶ。
ここまでか。
「時の……」
「負けないわ!」
英雄の奮起!
それは選ばれし英雄に降り注ぐ天使の加護なのか。
羽の盾が更に四枚現れ、八枚全てが重なり、斧を受け止める。
リリィは間髪入れず、胴体へ剣撃を叩き込んだ。
「何…………だと?」
激しく切り刻まれていくアンドラス。
出血してはいるが、どういう訳か硬すぎて致命傷を与えるまでには到らない。
「ソンなんじゃ俺ハ倒せねぇゾッ!」
「テツオと私のぉ!」
リリィの叫びに呼応し、刀身が火と風と水を纏いだす。
「あれは精霊の加護?」
メルロスが大きく目を見開いている。
火と水と風のエネルギーで大きく膨れ上がったその剣を、リリィは悪魔目掛けて思い切り振り抜いた。
「邪魔しないでぇーっ!」
「ダニィッ?」
何本もの光線が、大きな波動の束となって迸る。
あれだけ暗かった森が、真昼の太陽に照らされたように明るくなり、その光帯に巻き込まれたアンドラスの胴体は、何の抵抗も出来ずに掻き消えた。
下半身だけになったアンドラスの足元に、頭部が鈍い音を立て落ちる。
「た、倒した…………」
「カハーッ!こんな雑魚に遅レをとるなンテッ!」
【氷の拘束】
「動くな。お前には聞きたい事がある」
氷漬けにされた梟頭の目が、テツオを睨む。
「…………アア、貴様を殺シタカッタナァ。
オット、俺を殺スナヨ?コノ身体ノ持ち主ダッタ兵士モおっ死ぬゾ?」
カルロスか。果たしてこの状態からカルロスは復活できるのだろうか?
カルロスが死んだら、ロナウドは悲しむのかな?
「お前の魔玉は俺が持っている。何故、また顕現できたんだ?」
「答エル必要ガネェ。クククク、自身ノ無知ヲ悔メ」
むかつくな。悪魔の事情を俺が知るかよ。
まぁ、その辺りは今度グレモリーに聞けばいい話だが。
「では,次の質問だ」
「キヒヒ、何モ答エネェヨ」
ガゴン!
砕け散った赤い氷の破片が、キラキラと宙を舞う。
「ムカつくヤローだ…………あっ」
怒りに任せて、つい魔力を解き放ってしまった。
恐る恐る振り返ると、リリィとメルロスが無言で立っている。
責められた気持ちになるのは、俺にやましい心があるからだろうか?
「カルロース!くそっ、悪魔めっ!狡猾っ。そう狡猾過ぎるっ!こうなるよう誘導されたッ!」
「誰も責めてないわよ…………あ、あれれ?」
突然、脚の力が抜けたように、その場でへたり込むリリィ。
メルロスが慌てて駆け寄り、介抱する。
「人間が三精霊の力を同時に行使するなど、考えられません。無茶が過ぎます。もう……」
言葉は相変わらずキツいが、リリィを見つめる目や、頭を撫でる仕草からは、優しさが見て取れた。
【回復魔法】をかけても起き上がれないところを見ると、相当身体に支障をきたしているようで、しばらく休息が必要らしい。
メルロスがノムラさんと治癒に専念するという。
…………さてと。
デビルプラントの樹洞内部から、何かの反応を捉えたので、それを調査する必要がある。
簡易テントを展開し、周囲にリザードマンを配置する。
「お前ら、ここは死んでも守れ。いいな?」
「御意」
ちゃんと伝わっているのか釈然としないが、逸る気持ちに背中を押され、いざ樹洞へ。
【光魔法】で視界を確保し、細く曲がりくねった路をぐるぐると進む。
トラップめいた植物の妨害に見舞われる度に、アルラウネへの想いがだんだんと募っていく。
長い通路を抜けると、古びてボロボロの洋館があった。
樹木の内部に建造物があるという不思議。
怪しい気配はその二階建ての館から漂っている。
中は想像以上にしっかりした造りだった。
入ってすぐにエントランスホールがあり、そのまま正面の豪華な扉を開けると、そこはゲストルームだろうか。
大きなテーブルとたくさんの椅子があり、テーブルの上には、人間の食事とは思えないぶきみな肉片や奇妙な植物片が並んでいた。
腐臭が鼻腔を強く刺激する。
床に横たわる八つの死体から臭うのだ。
血で汚れているが、その衣装は貴族のもの。
廃棄族か?
死体は養分が吸い取られたかのように皺々になっていて、まるでミイラだ。
そう言えば、ディビット卿の顔を俺は知らない。
これは、アルラウネの仕業か?
そう考えると怖いな。そもそも会話通じるのか?ただの化け物かもしれないしな。
警戒しながら一階を見回るが、貴族の腐乱死体しかなかった。
残るは二階か。
エントランスへ戻り、階段を登っていると、天井から蔓がにょろにょろ伸びてきて、目の前で蕾がフワリと開く。
その花弁から、甲高い女の声が聞こえてきた。
「ニンゲン、ここには何も無い。カエレ!」
この声はアルラウネ!話す知能、ある!
「死体があるのを見過ごして、このまま帰る訳にはいかないなぁ」
うふふ、君に会いに来たんだよ?
「殺したの、ワタシじゃない」
「信じると思うか?」
「知らない。カエレ!」
蔓がギュンと伸び、首にしゅるりと巻き付いた。
かなりの締め付けだが、アンドラス程のパワーは感じない。
巻き付かれたんじゃない、あえて巻き付かせたのだ。
これが俺とアルラウネの赤い糸ってね。
おもむろに蔓を掴み、魔力を込めて引っ張った。
館の天井が崩れ、瓦礫と共にアルラウネが落ちてくる。
若く綺麗な女性の姿形!
見事なプロポーションをあられも無く露出し、胸の谷間や脚、括れは丸見え。
だが、色彩豊かな花々が身体中に巻き付いているせいで、肝心な場所が隠れ、見えそうで見えない。でも、それがまたエロい。
人間の嗜好を知っててやってるとしたら、その罪は深いぞ。
そのまま引っ張りハンティングで抱きついてやろうと思ったら、蔓を切断され、一気に上昇していった。
「逃げられると思ったか!」
空へと逃げようとするアルラウネのキュッと引き締まった細い足首を掴む。
「ひゃうっ!」
うひょ、可愛い声!
つるつるしてるぅ、ムラムラするぅ。
「はーなーせぇー!」
やっと,見つけたんだ!離すもんか!
すると、衣装に見えていた花弁から、ボフッと花粉が噴き出し、顔に直撃した。
「しまった!」
更に、手のひらにチクリと痛みが走る。
綺麗な花には棘がある、もとい綺麗な花は棘を出す、か。
身体が痺れ、頭がくらくらする。
駄目だ、思考能力が低下していく…………
————そこで意識が途切れた。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる