時間を戻して異世界最凶ハーレムライフ

葛葉レイ

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ティム

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 俺の名は、ティム。

 この街の名はニース。
 あろうことか【大食洞窟グーラケイブ】といわれる危険地帯デッドゾーンの真上に存在する街だという。
 それにも関わらず、街には活気があり、異常なほど賑わっている。
 危険なのは洞窟内だけで、街は大勢の冒険者がいるから安全だと、住民は口を揃えてそう言う。
 この街には、大きなクランが二つあり、更には別の街からも、二つのクランから腕に覚えのある冒険者達が遠征し、長期滞在している。計四つものクランが街にいる限り、安全だと言いたいのだろう。
 この街にいる金等級ゴールド冒険者の数は、計三十人。
 銀等級シルバーならば百人は下らない。
 たった一つの街が抱える冒険者の数としては、破格の戦力である。
 けれども、冒険者の殆どは、日夜洞窟内へ潜り、現在進行形で攻略中だ。
 なので実際、街にいる冒険者の数は、その四分の一程度だろう。

 かくいう俺も、ダンジョンに入り浸っている一人だ。

 街に戻ってきた時には、レストラン【大鷲のギフト】へ必ず訪れる。
 特にここのオムレツが衝撃的に美味く、これを食べれば疲れがたちまち吹き飛ぶ程だ。
 そして今日も、朝食を取りにやってきた。
 街にいる時の食事はほぼここにしている。
 既に店は混み合っていた。

「あら、ティム。またいつもの?」

「ああ、頼むよ」

「あの席空いたから、今片付けるわね」

 彼女は、美人ウェイターで評判のアメリア。俺より一歳年下の十七歳だ。
 彼女の父親は、俺が所属するクランの金等級ゴールド冒険者であり、彼女にちょっかいをかけた何人もの若い男が、ボコボコに叩きのめされたという噂があった。
 常連になってからは、ちょくちょくオマケをくれるようになったので、うっかり勘違いしちゃいそうだが、ボコボコにはされたくない。
 パーティを組んでる冒険者達は、テーブルでちんたら無駄話をしているようだが、ソロの俺は、最高の朝食を素早くカウンターで済ませ、酸味のキツい柑橘系ジュースで流し込んでから、颯爽と退店し、急ぎ冒険者ギルドへ向かった。

 ————冒険者ギルド・ニース支部

 ボルストン国内にある全てのギルド館は、ほぼ同じ構造なのだと、アイアン・ヴィルが教えてくれた。
 そして、銀等級シルバー以上にならないと、二階以上の階へは上れないルールがある。
 そこでしか、入手出来ない情報もあるという。
 そもそも、【大食洞窟グーラケイブ】においては、銀等級シルバー以上の冒険者だけが、各階に設置された転移装置を利用する事が出来る。
 低級冒険者を、いきなり危険な階層へと行かせない為の措置だが、銅等級ブロンズのままじゃ、毎回一階からスタートしなければいけないし、戻る時だって一苦労だ。

 兎にも角にも、早く銀等級シルバーにならなければいけない。
 幸い、昇級条件の殆どが【大食洞窟グーラケイブ】内でのクエストになっている。
 俺は、掲示板に貼られた依頼書の羊皮紙を持ち、受付のギルド職員へと渡した。

「おはようございますティムさん。
 今日も火吹きトカゲの討伐ですね」

「お願いします」

 彼女は、ギルド職員で一番の美女と名高い受付嬢のフレデリカだ。
 銀等級シルバーに上がる為の昇級クエストを担当してもらっている。
 今回、俺が受けたのは、火吹きトカゲの外皮採取、報酬2万ゴールドだ。
 このクエストを達成出来れば、銀等級シルバー昇級に必要な獲得累計20万ゴールドにようやく到達する。
 それ以外の銀等級シルバー昇級条件は、ギルド指定モンスター討伐やクラン代表の推薦などだ。

「また、ソロで行かれるのですか?」

「あ、はい」

「くれぐれも気をつけて下さいね。いつも、心配してるんですから」

 彼女は、仕事とはいえ、いつも顔を赤らめつつ優しい言葉を掛けてくれる。
 うっかり勘違いしちゃいそうだが、女性慣れしてない俺は、この沈黙の間が恥ずかしくて、とても耐えきれず、会釈をするので精一杯だった。

 ギルドを出て、ダンジョンへと向かう。

 街の中心部には大聖堂があり、その内部に【大食洞窟グーラケイブ】への入り口があった。
 聖堂内には、聖魔法の使える神官と、警護にあたる冒険者が従事している。
 その昔、洞窟内から地上へ魔物が湧き出てくるイレギュラーがあったので、それ以降、対応措置で聖堂という形の要塞が建設されたらしい。
 今では冒険者の出入りが頻発なので、そのようなイレギュラーは十年以上起こっていない。
 聖堂外では、屋台や出店が開かれ、美味しそうな匂いが漂い、宣伝や呼びかけで連日騒がしい。
 人混みを掻き分け、階段を上がり、聖堂内に入ると、外よりはある程度静かになる。
 ここへは、冒険者しか入れないからだ。

「ティム…………」

 珍しく俺を呼ぶ声がした。
 アリスさんだ。
 俺が目標にしている憧れの冒険者。その戦い方は、舞うように美しく、そして残酷なまでに強い。
 俺とは、同じ村出身で幼馴染らしいけど、残念ながら幼少期の記憶を、俺はほとんど喪失している。
 銅等級ブロンズの俺に何の用だろうか?まさか、荷物運びとか?

「これから、…………行くの?」

「え?あ、はい」

 アリスさんは会話中に沈黙の時間が多く、話がなかなか進まない。

「えっと…………」

 アリスさんが話そうとした時、同じパーティメンバーが、塞がるように前に出た。
 三人とも金等級ゴールドであり、しかも容姿端麗で、女性にかなり人気のある冒険者だ。

「俺達はこれから十九階層へ向かう」
「アリス、気を引き締めろ。銅等級ブロンズなんかに構ってる暇は無いぞ」
「君さぁ、幼馴染かなんか知んないけどが、邪魔しないでくれる?」

「えっ?何だよ、それ」

「何がだ?」

 金等級ゴールドの三人が一斉にギロリと睨む。息苦しさを感じた。銀等級シルバーのダニエルとは比べ物にならない圧力だ。
 そうだ、うちのクランの規則では、金等級ゴールドに対して敬意を払わなければいけない。

「いえ、邪魔をしてすいませんでした。
 皆さんのご武運を祈ります」

「ティム…………、ごめん、ね」

 アリスさんは俯き加減で悲しい表情を浮かべ、俺に謝った。

「いえ、アリスさんが謝る必要はありません。失礼します!」

 悔しさを隠すように俺は急いで、洞窟入り口へと走った。
 彼女はクランの絶対的エース。俺が気安く話していい相手ではない。
 でも、いつか、俺も!
 肩を並べる日が来ると信じて。

 ————————

 ————大食洞窟グーラケイブ

 一階層。
 洞窟内は、一面灰色の岩壁で構成され、まるで迷路のような構造をしている。
 先人の冒険者達が、洞窟内に棲息する周囲の魔力を取り込み、光る性質を持つ魔光虫を、壁の至るところに配置してくれたお陰で、十分な明るさが確保されていた。
 もちろん、携帯用魔石灯や松明も常備しているので、暗くなっても問題無いが、道中は、正解のルートを示すように、捕縛された魔光虫が吊るされているので、迷う事は無い。

 ここに発生ポップする魔物は、虫系が多い。
 先程の魔光虫をはじめ、突進攻撃をする突甲虫や、鋏のような顎を持つ牙ムカデなど。
 ハッキリ言って弱いし、採れる素材もショボい。初心者向けの魔物であると言える。
 いちいち相手にしていると時間が勿体無いので、さっさと駆け足で二階層へ向かう者が殆どだ。
 冒険者達の間では、ウォーミングアップの為のランニングコースと呼ばれていた。

 戦闘中の駆け出し冒険者を邪魔しないように、距離を取りつつ駆け足で通り抜けていく。
 それくらいには、洞窟内の通路は十分に広い。

 二階層。
 長い階段を降り、二階層へ到達。
 有志による魔光虫の案内は未だ健在。

 ここでは、虫系モンスターに加え、乏しき知能を持つ魔物、小鬼コボルトが発生ポップする。
 頭に小さな角を生やし、獣のような顔をした人型モンスター。
 身長は大きい個体でも1メートル強。
 四つ脚で駆けた時などはかなりの素早さを発揮するが、攻撃力自体は貧弱で、まだまだ銅等級ブロンズでも倒せる強さに留まる。
 これ以降も特別苦戦する敵がいないので、四階層まで一気に進んだ。

 五階層。
 ここまでで既に二時間が経過していた。
 一階層降りる毎に、ダンジョンが広くなり、罠の数も増え、進行に時間が掛かる。
 地上では既に昼近くだろうか。
 銅等級ブロンズの限界地点とも言われる五階層に到着した。
 ここで発生ポップする魔物は、コボルトより知性が高い人型モンスター、ゴブリンと、鋭い爪が凶悪な火吹きトカゲが追加される。
 洞窟内では、魔物同士でも縄張り争いや、捕食の為に戦闘する。
 ゴブリンは、その知性を使い、徒党を組み、冒険者や他の魔物を襲う大変危険な魔物だ。
 それでも、ずば抜けた戦闘力をもつ火吹きトカゲには、好戦的なゴブリンであっても手を出さない。

 ティムは松明に火を点けた。
 五階層からは一気に暗くなる。
 壁に設置された魔光虫を、ゴブリンが軒並み取り除いてしまうからだ。
 魔光虫自体を食べる習性に加え、生粋のハンターであるゴブリンは、冒険者を襲う為に、至るところに罠を仕掛けている。
 残念ながら、僅かな明かりさえあれば気付けるお粗末な罠ではあるが。

 携帯に適した魔石灯を選ばず、わざわざ片手が塞がる原始的な松明を灯した理由は、ゴブリンの罠を見破る目的では無く、標的である火吹きトカゲを誘き出す為だ。
 火吹きトカゲは、視力が著しく低い代わりに、敏感に熱を捉える優れた感覚器官を持つ。
 そして、火吹きトカゲを恐れるゴブリンは、決して火には近寄らない。
 これは、ティム独自の理にかなった狩りの方法なのだ。

 ティムは、迷路のように似通った通路の連続を、右へ左へすいすいと突き進んでいく。
 何度も来ているので、五階層の地図は全て頭に入っているのだ。
 一時間もかからず、少し開けた袋小路へと到着した。この空間には、中央に沼があり、そこから火吹きトカゲが定期的に這い出てくるのを何度も目撃している。

 今日はタイミングが良かったのか、火吹きトカゲが一体発生ポップしていた。

 この沼がどこに繋がっているのか、どういう理屈でトカゲが湧くのか、今のところ何の興味も無いが、一つ言える事は、発生ポップしたばかりの個体は、弱いと言う事だ。

 ティムは、懐から鉄の剣アイアンソードを取り出すと、火吹きトカゲに向かって走った。
 視力の弱い火吹きトカゲは、赤ん坊のようにぬたりぬたりと不器用に歩いている。
 こちらの存在には気付いているみたいだが、まだ闘争本能に乏しいのか、攻撃はしてこない。

 アイアン・ヴィルとの稽古を思い出す。

「武器の性能はそのまま攻撃力に繋がる。
 しかし、武器の性能に頼りきっていては、武器を失った時が、命を失う時になるじゃろう」

 ヴィルが木の剣で、岩石を斬り、更には鉄の棒を斬る。

「これは、魔法では無い。あらゆる武器を使い熟し、極地へ辿り着いた戦士の技法じゃ。
 木の枝ですら武器と化す」

 ————————

 ヴィルが示した極地へは余りにも遠い。
 それでも、いつか俺もその高みへ。

 振り下ろされる鉄の剣アイアンソードが仄かに光を帯び、トカゲの脳天に突き刺さった。

「ギギーッ!」

 闘争本能はまだ未熟でも、生存本能は非常に高い。
 突然の攻撃に驚いたトカゲは、身体を回転させながら、尻尾でティムを弾き飛ばして距離を取り、息を大きく吸い込む。
 火を吹く構えだ。

 ティムは素早く起き上がり、松明を反対方向へと放り投げた。
 まだ感覚の鈍いトカゲは、松明に向け、口から一直線の火柱を吹く。
 ティムはその隙をついて、見事、バックスタブを決める。

 致命的な一撃を浴びた火吹きトカゲは、ヒューと弱々しい息を吐いた後、呆気なく絶命した。
 ティムは、銀等級シルバーですら苦戦する敵を、ソロで倒し切ったのだ。

「やった…………
 これで銀等級シルバーだ」


 ————これを機に、彼の人生は大きく変化していく。


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