異世界にログインしたらヤンデレ暗殺者に執着された

秋山龍央

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第6話

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『――ああ、よくぞここまでたどり着きました。この世界の調律者たる者よ……』

 祭壇の上に浮かび上がった半透明の人物。
 そのたおやかな声の人物は、ほっそりとした体躯に、やわらかな薄衣を重ねて羽織った、髪の長い女性だった。

 肌はあわい金色に輝き、その顔は息を呑むほどに美しい。

『私は癒しの神、オルフェ。貴方の来訪をずっと待ちわびていましたよ、カナト』

 その女性の声は、おれの頭の中に直接わんわんと響いてきた。だが、嫌な感じはちっともしない。その『癒しの神』の名前通り、声を聴いているだけで、心が癒されていくようだ。

「オルフェ様……」

 思わず、様づけで呼んでしまう。
 だが、そんなおれとは正反対に、はしゃいだような大きな声が傍らからあがった。

「うわー、なにこれすごっ!? えっ、おねーさん、マジで癒しの神のオルフェ様なのぉ?」

 目を真ん丸に見開いているノイン。だが、委縮している様子はちっともない。
 か、仮にも神様を目の前にしているのに、すごい豪胆な……

『うふふ、そちらはカナトの仲間でしょうか? 元気な方ですね。さっそく、パーティーを見つけることができたようで何よりです。』

 幸い、オルフェ様は怒った様子はなかった。
 むしろ、面白がるような様子で口元に手を当ててころころと笑っている。

「うわぁ、すごいねぇ~。俺、神様なんて初めて会ったよ」

『うふふ、たいていの人間はそうでしょうねぇ』

「でも、カナトちゃんは驚いてないね。カナトちゃんの名前はそっちも知ってるみたいだし……カナトちゃんって、知り合いに神様がいるの? すごくね?」

「ノイン、あまり滅多な口をきかないでくれ。……申し訳ございません、オルフェ様」

『いいのですよ、カナト。久しぶりに楽しいおしゃべりができて嬉しいです』

 あまりにもノインがくだけた様子なので、一緒にいるおれがハラハラしてしまう。

 いや、NPCの行動で、クエストが中止されるなんてことはないだろうけどさ。
 でも、このゲームのNPCはまるで本当に生きているみたいだから、不安になってしまうのだ。

『もっと貴方たちと喋りたいところですが……あまり時間がありませんから、簡潔に説明しましょう。カナト、貴方はこの世界のこと……そして、貴方の使命についてはどこまでスレイルから聞いていますか?』

「まだ、ほとんどは」

『では、そこから説明しましょう。貴方の仲間にも、貴方の使命について理解してもらった方がよいでしょう』

別にノインはおれの仲間じゃない。

だが、否定する前に、オルフェ様が話を始めてしまった。

『――この世界は、かつて十二の大神が作り上げました。

主神イド、
光の神ルミリス、
闇の神スルード、
酒と豊穣の神ゴドル、
私こと癒しの神オルフェ、
戦神オラグ、
愛と欲望の神フェリア、
死と生を司る神アオ、
雷と太陽の神グノウェ、
風と樹の神エリュナ、
水の魔神ディノゴ、
炎の聖神イノグーです』

「ふむ……おれが会った、下級神スレイルはどうなんだ?」

『私達にはそれぞれ部下として中級神と下級神が眷属にいます。貴方が「時の湖」で会ったスレイルは、主神イドの眷属です』

 つまり、大神には、中級神と下級神という部下がいるのか。

『私達はこの世界を造り上げた後、この世界の営みを見守ってきました。……しかし、ここ数十年ほどの間に、一部の人間が自分達の利益を保持するために、偏った信仰を作り上げてしまいました』

「あ、それってもしかしてルミリス教会の奴らのこと?」

 どうやらノインは心当たりがあるらしい。

『ええ、そうです。一部の人間たちがルミリス教会を作り上げ、その他の神々への信仰はすべて邪教という烙印を押してしまったのです。この教会も、このように、ルミリス教会の者の手によって打ち壊され、このような有様になってしまいました……』

 しゅんと肩を落とすオルフェ様。
 この神殿がこのように廃墟と化しているのは、そのルミリス教会の人間たちの仕業だったようだ。

『この世界は、十二の大神が平等に神力を注ぎ込むことで、均衡を保っていました。ですが、今や光の神以外への信仰は弾圧され、神殿は次々に打ち壊されてしまい、私達がこの世界に神力を注ぎ込むことはできなくなってしまいました。このまま世界の均衡が崩れれば、さまざまな影響が出てしまいます』

「影響というと、たとえば?」

『そうですね……具体的に言えば、モンスターの発生率が上がったり、疫病が流行ったり、地震や洪水が各地で多発したり、でしょうか』

「思った以上に洒落にならない事態だな」

「モンスターの発生率が上がるのは面白そうだからいいけどさー、疫病やら天災は俺もちょっと勘弁かも」

 うげぇ、と顔を顰めるノイン。

「……モンスターの発生率が上がるのはいいのか……?」

 もしかしてコイツ、おれが思ってる以上に戦闘派のNPCだったりする?

『そうです。このままでは、人々の営みが崩壊してしまいます。そこで、私達は世界の均衡を保つための調律者として、その資格のあるものを呼び寄せることにしました』

 そう言って、オルフェ様がにっこりと笑っておれを見つめた。

『そう――貴方です、カナト。厳正なる審査の結果、貴方が見事当選されました!』

「あ、ありがとうございます」

『貴方の使命は、この世界にある各地の廃神殿を訪れ、神殿が打ち壊されてしまったことにより、閉ざされた神々の力場を解放することです。力場を開放することで、貴方たちには、神々の加護が与えられます。取得しているクラスとは異なるスキル、「アビリティ」ですね』

「アビリティ、ですか」

『このアビリティスキルは最初は一つしか装備できませんが、レベルを上げることにより、アビリティポイントを獲得できます。そのポイントが多いほど、装備できるアビリティも数が増えます。頑張ってくださいね』

「なるほど、分かりました」

 ようは、この世界は神々の箱庭なのだ。
 
 ゲームのタイトルである「God's Garden」の名前の通り、神々が手塩にかけて育てている庭園なのである。

 庭の環境をよりよく保つためには、水が多すぎても、草が増えすぎても、微生物が増えすぎても駄目なのだ。だが、今ではその環境が崩れつつあるらしい。このままでは、庭がしっちゃかめっちゃかになってしまう。

 だから、その壊れかけた環境を整えるのが、おれことプレイヤーの役割なのだ。なるほどなるほど。

「はいはーい、女神様! 二つ、気になることがあるから質問していい?」

 おれがふんふんと頷いていると、傍らのノインが大きく手を上げた。

『はい、なんでしょう?』

「神サマの加護っていうのが貰えるのは面白そうだけどさー、それがルミリス教会の奴らにバレたら、カナトちゃんが面倒なことになるんじゃないの? ステータスカードに記載されちゃうんでしょ?」

『大丈夫ですよ。ステータスカードにアビリティは記載されますが、アビリティの記載表示は本人が任意で指定できるようになっています』

「ふぅん……あとさー、ルミリス教会の奴らのせいで、この世界がヤバいことになるっつーんならさ、アンタたちが直接ルミリス教会の神官共に注意してくれりゃーいいんじゃねぇの? 神託とか使ってさ、パパっと言ってくれればいいじゃん」

「おい、ノイン。あまりオルフェ様にめったな口をきくな」

 NPCの言動だとは分かってるけれど、あまりにぞんざいな口調なのでこっちがハラハラしてしまう。

『確かに、その質問はもっともです。ですが、我々はこの世界に直接、干渉することはできないのですよ。私達がむやみやたらに神託を下し、この世界に強い影響を与え続ければ、それでも同様に世界は崩壊してしまいます。だからこそ……この世界の理の外にいる、貴方の力を貸してもらいたいのです、カナト』

 にっこりとおれに微笑むオルフェ様。

 よかった。ノインの口調のせいで、クエストがお流れになることはなさそうだ。

『この世界に住んでいる人間が、その見に多重の加護を受ければ、それも同様に世界の均衡を崩すことになってしまいます。ですが、理の埒外にいる貴方は別です。貴方ならばどれほど多重神の加護を授かろうとも、世界の均衡を脅かすことはありません』

「わかりました、オルフェ様。全力であたらせていただきます。……して、おれは具体的に何をすれば? 力場の解放、というのは……?」

「はい。それというのはですね――……ああ、ちょうど来たようですね」

 オルフェ様の言葉と同時に、おれ達の背後からグルル、という唸り声が聞こえた。
 ハッと振り返ってみる。傍らのノインも、険しい面持ちで、そこに現れたそいつを見つめていた。

「GURURRURU……」

 それは、体長は5メートルほどもあろうかという大きな黒狼だった。

 しかし、その口先はアリクイのように尖っている。その口からだらんと垂れる舌は赤黒く、ボタボタと床にヨダレが垂れていた。そして、目をらんらんと光らせて、おれとノインを見つめている。

「うっわ、なにアレ。なんかめっちゃこっち見てない? つーか、俺らを今日の昼飯に決定してるっぽいんだけど」

「オルフェ様、あれは一体?」

『あれは「力の澱み」が意思をもったものです。本来ならば、神殿には私たちの神力をこの世界に散布する働きを担っていました。ですが、ルミリス教会の神官たちが神体と神殿を破壊したことにより、それが滞ってしまったのです……結果、散布されずに溜まり続けた神力は澱んでしまい、力自身が意思を獲得し、あのような危険なモンスターと変化しました』

「じゃあ、つまり……」

『はい。貴方たちには、あれを倒していただきたいのです。倒すことによって、この神殿の力場が解放されます』
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