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第7話
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なるほど。
どうやらこの神殿に行くイベントは、この世界とプレイヤーの役割を説明しつつ、初戦闘を体験させるチュートリアルだったらしい。
おれはオルフェ様に頷くと、神殿の中央にあらわれた巨大な黒狼と向き直った。
すると、隣から声がかけられた。
「えー、カナトちゃん、あれと戦う気なの?」
見ると、ノインは顔をしかめて、億劫そうな顔でおれと黒狼に交互に視線をやった。
そういえば、さっきオルフェ様には仲間認定されてたけれど、ノインとは別にパーティー登録をしたわけでもなんでもないんだよな。
それに、HUD表示がないこの視界では、ノインのレベルがどの程度なのか、どんなクラスなのか、そもそも戦えるNPCなのかさっぱり分からない。
おれはもう一度、ノインに尋ねることにした。
「ノインは、本当にプレイヤーじゃないんだよな?」
「違うって言ってんじゃん。つーか、さっきからそのプレイヤーってなに? 誰かの名前?」
面白くなさそうに唇をとがらせるノイン。
ここまで言うなら、やっぱりノインは、プレイヤーではないようだ。なら、戦闘に参加させるわけにはいかないか。
プレイヤーなら死んでも、アイテムや所持金のロストだけで済むと書いてあった。
しかし、NPCが死んだ時はどうなるかは分からない。オルフェ様か、下級神スレイルに聞いておけば良かったんだけれど……
ともかく、NPCが死んだ際にリスポーンするかどうか不明な状態で、安易にノインを戦闘に参加させるのは躊躇われた。
こんなにリアルな造り込みをしているゲームなら、NPCを死亡させた場合、NPCが生き返らないとか、または好感度が下がるとか、そういった設定を盛り込んでいる可能性だって充分に考えられる。
「いや、ただの確認だ。……ノイン、ここまで案内してくれてありがとう。おれはアイツと戦闘を始めるから、ノインは安全なところへ避難していてくれ」
そう告げると、なぜかノインはますます顔を歪めて、不機嫌そうな表情へと変わった。
いや、本当になんで?
「えー、マジかよぉ……そりゃ、神サマの加護がもらえるっつー話は面白そうだけどさぁ……でも、あんな面倒くさそうな相手とヤるんなら、もういいじゃん。全部放って帰ろうよー、カナトちゃん」
「いや、さすがにそれは……」
それをやったら、ストーリーが永遠に始まらないだろ!?
「もしもカナトちゃん、アイツにヤられて負けちゃったらどうすんの? 死んじゃうよ? 多分さぁ、生きたままバリバリバリ~って食べられちゃうよぉ? めっちゃ苦しい死に方だよ~?」
や、やなこと言うなぁコイツ!
「まぁ、死んだらそれまでだろう。どの道、あいつに勝てなければ、他の神殿の力場を開放するのだって無理だろうからな。おれはやるしかないんだ」
でも言って、チュートリアル戦闘なんだし、そこまで難しくはないと思うけどねー。
しかし、おれの言葉を聞いたノインが、突如としてすっと顔から表情をなくした。
「――はぁ?」
冷たい声音に、思わず、ぞくりと背筋に寒気が奔る。
「……ノイン?」
「なにそれ……死んでもいいとか、なにそれ。アイツなんかに殺される気なの、カナトちゃん?」
いや、普通に勝つつもりでいるけど?
むしろ、チュートリアル戦闘なんだから苦戦しないでしょー、くらいの気分でいたんだが?
っていうか、そもそも死んでも実際に死ぬわけじゃないしなぁ。
オートセーブだから、この神殿に入る前くらいからやり直しになるのかな?
「えー、そんなんずるい。それなら俺のもんになってよ、カナトちゃん!」
「はっ!?」
しかし、おれが答える前にノインが叫んだ言葉の内容が、あまりにも衝撃的だった。
思わず変な声が出る。
「お、お前、なに言って……!?」
あまりにも藪から棒の言葉に、身体をのけ反らせる。
しかし、ノインがおれの腕を掴んできたので、距離を取ることはできなかった。
「あんなヤツに殺されてもいいって思ってんならさ、俺に殺されてよ! ……ん? いや、違うな。別に俺、カナトちゃんを殺したいわけじゃないな。んー……? なんだろ、こういう気持ちはなんて言うんだろ……? 解体させてほしい……?」
「……待て、ノイン。お前、一体なにを……」
なに、何の話してんのコイツ?
首を傾げていると、おれのすぐ傍から、低い唸り声が聞こえた。首をそちらに回せば、先ほどの黒犬がじれったそうな表情で唸り声を上げている。
そ、そうだ。今はこんなことを話している場合じゃない。
どうやら戦闘は始まっているみたいだし、まずはアイツと戦わないと――!
「GURURURURR!」
唸り声を上げて、一直線に黒狼が突っ込んでくる。
おれが慌てて、腰に佩いた剣を抜いた瞬間だった。隣にいたノインが、舌打ちをすると、その右手を素早く振ったのだ。
「邪魔!」
「GURURAAA!?」
苦痛の悲鳴を上げる黒狼。
見れば、その片目には深々と投げナイフが刺さっていた。瞳を失った苦痛に、黒狼はおれ達から距離をとる。
「GUGUGU……!」
ヨダレをだらだらと零しながら、残った目でノインを睨む黒狼。
そんな黒狼に対し、ノインの方はとくに緊張した様子もなく、自然体のままだ。
「今さー、俺、カナトちゃんと大事な話してんのよ。分かる?」
「GUGUGGG!」
「あー、もう、うるせぇ犬ッコロだなぁ……あー、待っててカナトちゃん! 俺、あいつブッ殺してくるから、その後でまた話しよー。そこでいい子にして待っててねぇ~」
「ノ、ノイン!?」
おれの制止を待たず、ノインは地面を蹴って、まっすぐに黒狼へ駆けだしていった。
ちょつ、ちょっと待って、ノイン!?
さっきまであんなに戦うのを面倒くさがってたじゃん!? っていうか、そもそもの主旨を忘れてないか!?
これ、おれの初戦闘なんですけどーーーー!?
どうやらこの神殿に行くイベントは、この世界とプレイヤーの役割を説明しつつ、初戦闘を体験させるチュートリアルだったらしい。
おれはオルフェ様に頷くと、神殿の中央にあらわれた巨大な黒狼と向き直った。
すると、隣から声がかけられた。
「えー、カナトちゃん、あれと戦う気なの?」
見ると、ノインは顔をしかめて、億劫そうな顔でおれと黒狼に交互に視線をやった。
そういえば、さっきオルフェ様には仲間認定されてたけれど、ノインとは別にパーティー登録をしたわけでもなんでもないんだよな。
それに、HUD表示がないこの視界では、ノインのレベルがどの程度なのか、どんなクラスなのか、そもそも戦えるNPCなのかさっぱり分からない。
おれはもう一度、ノインに尋ねることにした。
「ノインは、本当にプレイヤーじゃないんだよな?」
「違うって言ってんじゃん。つーか、さっきからそのプレイヤーってなに? 誰かの名前?」
面白くなさそうに唇をとがらせるノイン。
ここまで言うなら、やっぱりノインは、プレイヤーではないようだ。なら、戦闘に参加させるわけにはいかないか。
プレイヤーなら死んでも、アイテムや所持金のロストだけで済むと書いてあった。
しかし、NPCが死んだ時はどうなるかは分からない。オルフェ様か、下級神スレイルに聞いておけば良かったんだけれど……
ともかく、NPCが死んだ際にリスポーンするかどうか不明な状態で、安易にノインを戦闘に参加させるのは躊躇われた。
こんなにリアルな造り込みをしているゲームなら、NPCを死亡させた場合、NPCが生き返らないとか、または好感度が下がるとか、そういった設定を盛り込んでいる可能性だって充分に考えられる。
「いや、ただの確認だ。……ノイン、ここまで案内してくれてありがとう。おれはアイツと戦闘を始めるから、ノインは安全なところへ避難していてくれ」
そう告げると、なぜかノインはますます顔を歪めて、不機嫌そうな表情へと変わった。
いや、本当になんで?
「えー、マジかよぉ……そりゃ、神サマの加護がもらえるっつー話は面白そうだけどさぁ……でも、あんな面倒くさそうな相手とヤるんなら、もういいじゃん。全部放って帰ろうよー、カナトちゃん」
「いや、さすがにそれは……」
それをやったら、ストーリーが永遠に始まらないだろ!?
「もしもカナトちゃん、アイツにヤられて負けちゃったらどうすんの? 死んじゃうよ? 多分さぁ、生きたままバリバリバリ~って食べられちゃうよぉ? めっちゃ苦しい死に方だよ~?」
や、やなこと言うなぁコイツ!
「まぁ、死んだらそれまでだろう。どの道、あいつに勝てなければ、他の神殿の力場を開放するのだって無理だろうからな。おれはやるしかないんだ」
でも言って、チュートリアル戦闘なんだし、そこまで難しくはないと思うけどねー。
しかし、おれの言葉を聞いたノインが、突如としてすっと顔から表情をなくした。
「――はぁ?」
冷たい声音に、思わず、ぞくりと背筋に寒気が奔る。
「……ノイン?」
「なにそれ……死んでもいいとか、なにそれ。アイツなんかに殺される気なの、カナトちゃん?」
いや、普通に勝つつもりでいるけど?
むしろ、チュートリアル戦闘なんだから苦戦しないでしょー、くらいの気分でいたんだが?
っていうか、そもそも死んでも実際に死ぬわけじゃないしなぁ。
オートセーブだから、この神殿に入る前くらいからやり直しになるのかな?
「えー、そんなんずるい。それなら俺のもんになってよ、カナトちゃん!」
「はっ!?」
しかし、おれが答える前にノインが叫んだ言葉の内容が、あまりにも衝撃的だった。
思わず変な声が出る。
「お、お前、なに言って……!?」
あまりにも藪から棒の言葉に、身体をのけ反らせる。
しかし、ノインがおれの腕を掴んできたので、距離を取ることはできなかった。
「あんなヤツに殺されてもいいって思ってんならさ、俺に殺されてよ! ……ん? いや、違うな。別に俺、カナトちゃんを殺したいわけじゃないな。んー……? なんだろ、こういう気持ちはなんて言うんだろ……? 解体させてほしい……?」
「……待て、ノイン。お前、一体なにを……」
なに、何の話してんのコイツ?
首を傾げていると、おれのすぐ傍から、低い唸り声が聞こえた。首をそちらに回せば、先ほどの黒犬がじれったそうな表情で唸り声を上げている。
そ、そうだ。今はこんなことを話している場合じゃない。
どうやら戦闘は始まっているみたいだし、まずはアイツと戦わないと――!
「GURURURURR!」
唸り声を上げて、一直線に黒狼が突っ込んでくる。
おれが慌てて、腰に佩いた剣を抜いた瞬間だった。隣にいたノインが、舌打ちをすると、その右手を素早く振ったのだ。
「邪魔!」
「GURURAAA!?」
苦痛の悲鳴を上げる黒狼。
見れば、その片目には深々と投げナイフが刺さっていた。瞳を失った苦痛に、黒狼はおれ達から距離をとる。
「GUGUGU……!」
ヨダレをだらだらと零しながら、残った目でノインを睨む黒狼。
そんな黒狼に対し、ノインの方はとくに緊張した様子もなく、自然体のままだ。
「今さー、俺、カナトちゃんと大事な話してんのよ。分かる?」
「GUGUGGG!」
「あー、もう、うるせぇ犬ッコロだなぁ……あー、待っててカナトちゃん! 俺、あいつブッ殺してくるから、その後でまた話しよー。そこでいい子にして待っててねぇ~」
「ノ、ノイン!?」
おれの制止を待たず、ノインは地面を蹴って、まっすぐに黒狼へ駆けだしていった。
ちょつ、ちょっと待って、ノイン!?
さっきまであんなに戦うのを面倒くさがってたじゃん!? っていうか、そもそもの主旨を忘れてないか!?
これ、おれの初戦闘なんですけどーーーー!?
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