異世界にログインしたらヤンデレ暗殺者に執着された

秋山龍央

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SIDE:???ノイン

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「ちっ、うるせぇ犬ッコロだなぁ……あー、待っててカナトちゃん! 俺、あいつブッ殺してくるから、その後でまた話しよー。そこでいい子にして待っててねぇ~」

 図体はデカイが、その分、あの黒狼の動きは早くない。

 もしくは、あまり目がよくないのだろう。自分のナイフを避けられなかったのがその証拠だ。

 そもそも、狼系のモンスターが厄介なのは、広いフィールドですぐに仲間を引きつれてこちらを包囲しにかかるからだ。仲間もおらず、四方を壁に囲まれた神殿内で戦うなら、そこまでビビるような敵ではない。

 俺は黒狼の真正面に躍り出ると、その鼻先を目がけて投げナイフを飛ばした。

「GUGUGU!」

 だが、黒狼は顔を横に振ることで、なんなくナイフを弾いた。
 そして、先ほどの手は通用しない、と言わんばかりに俺を睨みつけてくる。どうやら、そこまでバカじゃないらしい。

「へぇ、いいじゃん。面白くなってきた」

 自然と、自分の顔にニヤリとした笑いが浮かんだ。

「でも悪いけど、カナトちゃんを、お前なんかに殺されるのはもったいないから、さっさと始末させてもらうねぇ」

 それに、カナトちゃんを見つけたのは、俺が先だし。
 後から出てきたくせに、俺の獲物を横取りしようってのは腹が立つ。

「ほらよっ!」

 左手で投げナイフを投擲しながら、右手で短剣を抜いた。
 そして、黒狼の右側面に回り込むと、その腹部を短剣で切り付ける。

「GUGGGU!」

 ナイフに気を取られた黒狼は、俺の短剣を避けることはなかった。

 しかし、予想以上にその毛皮が固い。
 まるで針のように尖った毛皮のせいで、俺の短剣はたいしたダメージは与えなかった。

「あららー、そう来ちゃう?」

 こうなれば、もう片方の目を潰して、黒狼の視界を完全に塞ぐしかない。
 もしくは、腹側に潜り込んで毛皮が薄いところを狙えば、あるいは致命傷を与えることができるかもしれないが……いかんせん、それはリスクが高すぎるか。

「GUGUGUGU!」

「っ!」

 次の手に迷い、一瞬足を止めた俺。
その隙を逃さず、黒狼はその巨体に似合わぬ素早さで身体を反転させる。そして、その巨体でもって俺に体当たりをしかけてきた。

「ぐっ……!」

 慌ててバックステップで回避をとったものの、攻撃はかわしきれなかった。
 身体全体を打ち付けられ、俺の身体は大きく吹っ飛ばされてしまう。そして、神殿の隅に積み上がった瓦礫に、背中から身体をぶつけることになってしまった。

「か、ハっ……」

 積み上がった瓦礫に当たった背中がじんじんと痛む。けれど、不幸中の幸いか、手足はなんとか動く。
動く、けれど……やばい、これはちょっとマズったかも。

「GUGUGU……」

 唸り声と共に、視界が暗くなる。目の前の地面に、ボタボタと水滴が落ちてくる。

 顔を上げれば、黒狼が俺を見下ろしていた。その裂けた口から、だらだらとヨダレが零れている。
そして、黒狼ががばりと大きく口を開けた。

真っ赤な口腔と、ギザギザに並んだ乱杭歯。そして、黒狼は俺にかぶりつこうと――

「GAINNNN!?」

 だが、黒狼は俺の頭を丸かじりする前に、のけぞって悲鳴をあげた。
 ハッと見れば、いつの間にか、その黒狼の背にフードローブを纏った騎士の姿があった。

「ノイン、今のうちに!」

 カナトちゃんは両足で黒狼の背にのり、その剣の切っ先を、黒狼の脳天へと突き立てていた。
 俺は慌てて身体を起こし、黒狼から距離を取る。

「GUAAAANNN!」

「くっ!」

 黒狼はバタバタと身体を暴れさせて、無理やりにカナトちゃんを弾き飛ばした。
 カナトちゃんもおれと同様に、地面に投げ出されて、派手な音を立てて瓦礫に突っ込む。

「カナトちゃん!」

 慌ててカナトちゃんの元に駆け寄る。

 もしもカナトちゃんが死んでしまったら――あの綺麗な瞳が、失われてしまったらどうしよう。

 ああ、あんな奴に殺されるくらいなら、あんな神様の話なんか後にして、カナトちゃんを殺しておけばよかった。

 ああ、でも違う。俺は、別にカナトちゃんを殺したいんじゃないんだった。
 なんて言うんだろう、こういう気持ち。

 カナトちゃんの、あのきらきらした黒曜石みたいな瞳を、ずっと手元に置いておきたい。
ずっと傍で眺めていたい、こういう気持ちは……なんて名前なんだっけ……?

「けほっ、げほっ」

「カナトちゃん、大丈夫? 怪我してない? 目は平気?」

「ああ、大丈夫だ」

 瓦礫に突っ込んだカナトちゃんは、俺の不安をよそに、擦り傷のみの軽傷だった。
 やはり、彼の装備はなかなか良い代物のようだ。

「カナトちゃん、アイツ、物理攻撃耐性があるっぽい。俺とカナトちゃんの武器じゃ、全然ダメージ通らないよ」

「ノインもか。俺の剣も、脳天に食らわせたはずなのに、全然通らなかった」

「マトモにダメージ入んないなら、魔法使いでもいないと無理だよ~。悪いことは言わないからさぁ、ここはいったん引こうよ」

「…………」

「カナトちゃん?」

 カナトちゃんは地面に膝をついたままのため、俺から顔が見えない。

「……ノインの投げナイフは片目に刺さった。それはちゃんと攻撃が通ったのに、毛皮に覆われた場所は腹部も頭も通らなかった……でも、おれが脳天に剣を刺した時の苦しみようは本物だった。つまり、毛皮の薄い場所によってダメージが通りやすい部分とそうでない部分があるってことか」

「えーっと……カナトちゃん? 俺の話聞いてる?」

 ぶつぶつと呟く言葉は、誰に聞かせるわけでもなく、完全な独り言だった。

 「ノインの投げナイフが刺さったのを見ても、毛皮に覆われてない場所はダメージが通る。じゃあ、そう考えると口内なら大ダメージが狙いやすいのか? でも、それだとこっちもかなりHP持っていかれそうだな……最悪、一発で瀕死まで持っていかれそうだ」

「あ、これは聞こえてないね? おーい、カナトちゃん?」

 矢継ぎ早に独りごちるカナトちゃんのフードを覗き込む。

 しかし、彼の顔を見た瞬間、ドキリ、と鼓動が高鳴って、俺は何も言えなくなってしまった。

「そうなると、やっぱり相手の攻撃をかわしつつ、属性攻撃と魔法攻撃で毛皮の薄い部分を狙っていくって感じかぁ……はははっ、いいじゃないか! かなり楽しめそうだ!」

 カナトちゃんは、笑っていた。
 あの時、町の露店を眺めていた時よりもずっと、瞳を宝石みたいにきらきらと輝かせて――とても楽しそうに、笑っていた。

「っ……」

 全身に戦意と昂揚感をみなぎらせて笑う彼の姿は、凄絶だった。
 その姿に、俺は、自身が属している組織のボス――かつて物乞いだった俺を拾った男――に、言われたことを思い出していた。

『――いいか、ノイン。この世にはな、裏社会でも表社会でも、絶対に関わっちゃいけねェ奴らがいる。
その一つが――戦うことに愉悦を見出している奴だ。

 冒険者でも戦士でも、あるいはオレ達のような闇ギルドの使いっぱしりのギャングでもな、戦いってのは目的のための「手段」に過ぎない。だが、中には、それがひっくり返って「戦うことこそが目的」になっちまった奴がいる。

 こういう手合いは、大抵、アタマの螺子がどっかにぶっ飛んでやがる。
 見栄も面子も関係なく、金にも女にも見向きせず、ただひたすら自分が強くなるためだけに、戦うための戦いを永遠に繰り返す。こういう手合いにあったら、全力で逃げろ。絶対に、関わりを持つんじゃねェぞ。そういう奴らは敵にしても味方にしても厄介だ』

 戦うために、戦う――。

 話を聞いた時には、ふーんと思っただけで、内容はまるで理解できなかった。
 でも、今ようやく分かった。

 今、俺の目の前にいるのが、そうなのだ。

 相手の攻撃は通るのに、こちらの攻撃はろくに通らない。たとえ勝利したとしても、一金貨の儲けにもなりやしない。名誉が得られるわけでもない。

 そんな相手を前にして――なおも戦意を衰えさせず。それどころか、楽しそうな笑顔さえ浮かべている男。

「……あははっ! なにそれ、そんなの、めっちゃ面白いじゃん……!」

 いつしか気が付けば、俺もカナトちゃんと同じような笑みを浮かべていた。

 ああ、まさかこの世間知らずそうな騎士姿の青年が、こんな本性をその身の内に隠していたなんて! こんなの、面白すぎる!

 俺はドキドキと高鳴る自分の心臓の上に、服の上からそっと手を置いた。
 こんなに胸がドキドキして、たまらない気持ちになったのは、生まれてから今日が初めてかもしれない。

 もう一度、傍らにいるカナトちゃんの戦意に満ちた笑みを見つめる。その、きらきらと輝く明るい瞳を見つめる。

 本当に、なんてきれいな目だろう。
 いや、目だけじゃない。戦いの場にあって心底楽しそうな表情も、挫けない心も、何もかもがきれいだ。

 欲しいと、何よりも強く思った。
 瞳だけじゃなくて、この男が丸ごと欲しい。
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