異世界にログインしたらヤンデレ暗殺者に執着された

秋山龍央

文字の大きさ
29 / 44

第23話

しおりを挟む
「……変なの。今まで俺、誰かを殺すのが嫌だなん思ったこと、一度もなかったのに。なんでだろ……」

「ノイン……」

 おれの片足を下ろし、後肛から指を引き抜いたノインは、不思議そうな表情のままぶつぶつと呟く。

 どうにか身体の熱を理性で抑えつけると、おれはノインに向けて、なるべく彼を刺激しないように、穏やかな口調を心がけて尋ねた。

「なぁ。ノインは……別におれのことが嫌いになったわけじゃないんだな? 闇ギルドに所属している、って聞いたけれど、おれを殺そうとしているのは上からの命令ってだけで、別におれに殺意があるわけじゃないんだろう?」

「んー……個人的な殺意があったかどうかって言われると、そりゃ最初の頃はそういう気持ちもなくはなかったけれど」

「え”」

 さ、最初の頃って、出会った頃のことか?
 そこらへんをもっと詳しく聞きたい気持ちと、そっと蓋をしておきたい気持ちがせめぎ合う。

 しかし、今はこの行為を止めることが先決のため、前者をとることとした。

「そ、そうか。いや、でも、おれを嫌いになったから殺すってわけじゃないんだよな? な?」

「嫌いとか好きって話だったら、そりゃ、もちろんカナトちゃんのことは気に入ってるよ。上からの命令がなければ、カナトちゃんともっと冒険者稼業続けてたかったし。カナトちゃんを……」

 その言葉にホッとして、おれはノインの言葉を遮るようにして会話を続けた。

「なら、ノインはその闇ギルドの……ブラストって男には、自分の意思で仕えてるのか?」

 おれの質問に、ノインはふいっと顔を逸らす。顔をしかめて嫌そうな顔をしている。

「別に、好きであんなヤツの下にいるわけじゃないよ。ただ……孤児の俺を拾ったのはアイツで、そこからずっと汚れ仕事ばっかりやってきた俺が、今更、他の生き方なんてできるわけもないし。ブラストに逆らって命令をはねのけたところで、カナトちゃんには別の奴が暗殺に差し向けられるだけ。他の町に逃げても同じことだもん。こうなったら、もう俺が殺すしかないじゃん?」

「…………」

 なるほど。

 断片的にしか分からなかった状況が、だんだんと見えてきた。

 どうやら、今までにちょくちょくと名前の出ていたブラストという男は、闇ギルド内のノインの上司であるらしい。
 それに加え、孤児だったノインを拾ったというから、ノインとは公私にいたって長い付き合いであるようだ。

 そのブラストという男を通し、ノインはおれの暗殺を命ぜられた。依頼人は、どうやら冒険者として目立ち始めたおれを邪魔に思った者たち――同じ冒険者だそうだ。

 ……しかし、暗殺ねぇ?

 いや、確かにおれは初日にブラックフェンリルの素材を持ち込んだりして目立った覚えはあるけれど、それ以降はそんなに派手なコトはした覚えがないんだけどな……?

 そりゃ、他のランクの冒険者と比べれば、おれの方が討伐率やクエスト達成率は高いだろう。

 けれど、逆に言えば「その程度」のことだ。

 その程度のやっかみで、同業者に暗殺依頼を出していたら、そいつはキリがないんじゃないか?

 ノインはブラストから命ぜられた依頼に従っておれを殺しにきたと言うけれど――なんか、おれからしたら、その依頼はおかしな点がいくつもあるように感じるんだが……

「はぁ~……なんでだろ。俺、今までこんな気持ちになったことないのになぁ」

 考えを巡らせていると、不意に、ノインがおれの方に倒れこんできた。

 ノインの全体重がおれの身体の上にのしかかる。だが、この『God's Garden』では痛みを感じることはないため、ただノインの身体の重さや服の感触、体温を感じるだけだ。

「俺さー、今まで誰を殺しても後悔とかしたことねーし、罪悪感とか感じたことないのに……でも、これからカナトちゃんを殺すんだって考えたら、すげぇ気分落ち込んできちゃった……なんなんだろ、コレ。おかげでさっきまでビンビンだった俺のちんこもすっかり萎えちゃったし……。カナトちゃんを殺すってなったら、もっと興奮するかと思ったのになぁー……」

 そう言って、おれの胸元にすりすりと頬をすりつけるノイン。

 ちょっ……あ、あまりそうされると、さっきまでノインにいじくられてた乳首が髪と擦れて、痛気持ちよくなっちゃうんだけど……!

「ノ、ノイン。それは当たり前のことじゃないか?」

「え?」

 快感から気を逸らそうとノインに声をかける。
 すると、彼は不思議そうな顔で、おれの胸から顔をあげた。

「おれはノインのこと、大事な仲間――大切な友人だと思ってるよ。ノインだって、そう思ってくれてたんじゃないか?」

「……友人?」

「そうだよ。いくら上からの命令でも、友達を殺したくないって気持ちになるのは当たり前だろう?」

 なるべく優しく聞こえるように、ノインに話しかける。
 だが、ノインはおれの予想に反して、どこか嘲るような笑みを浮かべた。

「ハッ、友達ねぇ……カナトちゃん、俺にこんなコトされて、まだそんな台詞が出てくるんだ。すごいねぇ」

「っ、ノ、ノイン……?」

 ノインがおれの顔を覗き込んでくる。
 その彼のオッドアイの瞳の奥には、暗く、濁った淀みのようなものが揺らめいていた。

「……なんで俺がカナトちゃんにこんなに惹かれるのか、今、ようやく分かったよ」

 今までの調子とは一転して、自嘲交じりの笑みを浮かべるノイン。
 はじめて見る彼の表情に、おれは唖然としたまま言葉が出てこない。

「カナトちゃんはさー、子供の頃、親父に目ん玉潰れるまで殴られたコトとかないでしょ?」

「え?」

「道路の端っこに座って、物乞いとかやったことはある? 物乞いでようやく手に入れたお金を、同じ物乞いのガキに盗まれて逃げられたことは?」

 驚きに目を見開く。

 ――それは、まさかノインの子どもの頃の話なのか……?

 今までおれは、ノインの片目が失明していたわけを聞いたことは一度もなかった。
 だって……彼のことを、ただのゲームのNPCだと思っていたからだ。

 けれど、今は……

「ふふ、聞かなくても分かるよ。カナトちゃんは、俺なんかとは生まれ方も生き方も、まるで違うでしょ? 誰かに理不尽に殴られて罵倒されたこともないし、自分の手を汚したことだって、ないんでしょ?」

 ノインはくすくすと笑った。
 そして、かつておれが治した方の片目の瞼にそっと指をあてて、独り言ちるように言葉を続ける。

「カナトちゃんみたいなきれいな生き方をしてきた人間って……本当なら、絶対に俺の手には届かないところにいるもんなんだけど。でも、どういうわけか、そんな奴がふらふらっと俺の目の前に無防備にあらわれたからさー……だから、手を伸ばしたくなったんだ」

「ノイン……おれは、その」

「ああ、誤解しないでね。別に、カナトちゃんを責めてるわけじゃないよ」

 うすら寒い笑みを浮かべるノイン。けれど、その目は笑っていない。

「ただ、おれとカナトちゃんじゃあ、絶対に友達にはなれないってだけの話だから」

「…………」

「あれ、傷ついちゃった? ふふ、ほんっとカナトちゃんって、お人よしのお馬鹿さんだよねぇ。俺なんかに友達になるのを断られて、そんな顔するの、カナトちゃんくらいだよ……」

 空虚な笑みを一転させて、いつもの彼らしい声音に戻ったノイン。

 そんな彼の指が、おれの頭に伸びてくる。そして、指先で髪をすくようにして、ゆっくりと頭を撫でられた。
 いつか、おれが彼の頭を撫でた時と同じ撫で方だった。

「そういう初心なとこ、すっげぇ可愛い……あー、やっぱり殺したくないなぁ。どうにかして、俺のものに……ん?」

 おれの頭を撫でながらぶつぶつと呟いていたノインが、その動きを停止させる。
 そして、何かを思いついたように目を輝かせた。

「――そうだよ! カナトちゃんを、俺のものにすれば殺さなくて済むじゃん!」

 …………はい?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。 これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。 無自覚両片想いの勇者×親友。 読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。

処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます

ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。 しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。 ——このままじゃ、王太子に処刑される。 前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。 中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。 囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。 ところが動くほど状況は悪化していく。 レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、 カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、 隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。 しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。 周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり—— 自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。 誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う—— ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。

悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで

二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

処理中です...