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囁き
「ロストさま……」
「ああ、待たせたなウェル。……だが、すまない。今お前も聞いての通り、少々急ぎの仕事が入ってしまった。一刻も早く終わらせてくれと頼まれてしまってな」
「えっ……そ、そうでしたか……」
もちろん嘘である。
セバスチャンから頼まれた内容は、俺の分は夕方までに終わらせればいいということだった。今、水時計は黄色の時を指している。ちょうど中天を過ぎた頃合いということだから、夕方までにはまだ三時間以上もある。書類の内容を見ても、ざっと一時間もあれば処理できる内容なので、ウェルを満足させてやってから取り掛かっても、充分に間に合うだろう。
だが、ウェルはそんなことは分からない。
先ほどのセバスチャンとの会話では「俺に急に急ぎの仕事が来た」という内容しか分からなかっただろうし、書類の内容がもしも見えていたとしても、それがどの程度の時間がかかるものかは判断できないだろう。
「……っ、分かりました。私の個人的な問題で、ロスト様のお手をわずらわせるわけにはいきません。どうぞ、私はもう充分ですから、お勤めを果たされてください。」
だから、ウェルはこう言うしかない。
ウェルはそう告げると、震える指先で自分の衣服を身に着け始めようとする。俺はそのウェルの手首をつかんで、自分の胸元へと引き寄せた。
「あっ、ロスト様……っ!」
「充分だって? 本当に、もう満足したのか?」
「ひぅっ! あ、だめ、だめです、まだそこが痒くて……ひぁっ!」
「嘘つき。まだ全然足りてないんだろう?」
開いた片手をウェルの腰にまわし、その後肛に指先をのばす。先ほどの焦らすような動きではなく、今度は指先でつつくようにしてくすぐると、俺の指の動きに合わせて、ウェルが身体がビクビクと俺の腕の中でふるえた。
「ァあっ! や、やめてください、ロストさまっ……ひっ、そこ、くすぐられると……今、すごく痒くて、うァッ!」
「ほら、全然治ってないじゃないか、ウェル。まだ痒いのが続いてるんだろう?」
「っ、はいっ……! そうです、まだ痒くて、痒くてたまらなくて……ひぅっ! んくぅっ、だから、お願いです、そこをくすぐらないでくださっ……!」
俺の指から逃れようと腰を振るウェル。だが、そんな抵抗なんてかわいいものだ。
俺はなおも執拗に後肛の入り口を指先でつんつんとつついてみたり、指先でコリコリとくすぐってみる。その度に後肛の入り口が、俺の指を誘いこむようにヒクヒクと震えていたが、指は決して入れてやらない。
そして、爪先にちょっと力をいれて入口の周りをカリカリと掻いてやると、ウェルが喉をのけぞらせて嬌声をあげた。
「あァぁっ! ロ、ロストさま、ごめんなさい、おれ、嘘ついてました……っ!」
「どんな嘘だ?」
「おれ、まだ痒いの、全然治ってないですっ……っう、後ろが痒くて痒くて、じんじんして、気持ちよくてっ……!」
「やっぱりな……ちゃんと正直に言わないとダメじゃないか、ウェル」
「ご、ごめんなさい……」
ウェルが正直に言ってくれたので、後ろのくすぐるのをようやく止めてやる。
ウェルは今や、涙で顔をぐっしょりと濡らしており、昼間にきりりとした護衛姿を見せていたのが幻だったのではないかと思えるほどだった。気がつけば、いつもは謝る時は「申し訳ございません」なのに、「ごめんなさい」に変わっている。強制的に発情させられ、痒みを植え付けられ、その痒みを掻くことも焦らされ続けているのだ。思考回路が麻痺状態になっているのかもしれない。
なら、このタイミングを逃す手はないよな!
「だが、俺はさっきも言った通り急ぎの仕事が入っていて、残念だがお前の相手はしていられない。早くて一時間ほどで終わらせられるとは思うが……だが、それまでこんな状態のお前を待たせるのも酷だな」
「ロスト様……そこまで私に気を遣って頂くわけには」
「だから、俺にいい考えがある」
俺はベッドに戻ってくる前、自分の執務机の引き出しからとってきたモノを、そっとウェルに手渡した。
「……? これは、一体……?」
「ああ、俺が発案した『歯ブラシ』というものでな。試作品で作った物なんだ」
「歯ブラシですか……これで歯を磨くのですか?」
さて、このリッツハイム魔導王国だが、歯磨きという習慣はあるものの、なんと『歯ブラシ』というものがなかったのだ。この国の歯磨きとは、歯を拭いたり磨くための専用の布があるので、食後にそれを用いて歯磨きをするのが一般的だったのである。貴族なんかはさらに、専用の爪楊枝のようなもので歯間を磨いたりするが、平民は布で磨くだけだ。
この国って魔導王国って名前の通り、なまじ魔法とかが発達してるから、みんな大抵のことは魔法で片付けちゃうんだよね。なので逆に、時々こういう技術的な文化が中世レベルだったり未発達のままだったりする。この歯ブラシ問題も、それの代表的なものだろう。
俺は前世の経験からこの国の歯磨き習慣にどうしてもなじめず、セバスチャンに言って、この『歯ブラシ』を共同開発したのである。ちなみに、量産がうまくいけば、これから貴族や富裕層を中心に売り出すつもりでもいる。
「ああ、これで歯を磨くんだ。セバスチャンと今、共同開発していてな。これはその試作品で、材料費にコストがかかりすぎるということで、お蔵入りになったんだ」
「そうなのですか……このようなものまで発明されてしまうとは、さすがロスト様です」
「で、これはもう使わないものだからな。今、ウェルが使うにちょうどいいだろうと思ったんだ」
「……私が、使う? それは、どういう……」
そこまで言って、ウェルもようやく俺が何を言わんとしているか分かったらしい。顔が、一気にぶわっと真っ赤になった。なんか、瞬間湯沸かし器を連想したぞ。
「まっ、まさか……こ、こんなことに、ロスト様の所有物を使用するわけにはいきません!」
え、そこ?
どんだけ真面目なんだ、ウェルは。いや、そこが可愛いんだけどね。
「でも、自分の指じゃ奥まで届かないだろう?」
「っ……!」
ウェルに顔をよせ、耳元でそっと囁く。
あー、ウェルの真っ赤になった耳が目の前にあると、なんか齧りたくなるなぁ。甘噛みしてやりたい。
「どうせもう使用しないものだからな、遠慮はいらないさ。俺が執務の間は、それで一人で慰めているといい。それで収まりがつかないようであれば、俺が終わったら改めて発作を鎮めるのを手伝ってやるから」
「っ……わ、わかりました。では、お、お言葉に甘えて、部屋に一度下がらせていただきます……」
「いや、部屋には戻るな」
「え?」
え?、じゃないよウェル!
お前が部屋に戻ったら、お前の痴態を俺が見られないだろうが!
いったい何を考えてるんだ?
「ここでしろ、ウェル」
「なっ……なぜです!?」
「お前の発作の経過を、俺が見られなかったらどうしようもないだろう? こんな症状は俺も初めて見るからな。どういった理由で症状が起こるのか、発作が治まるのか……あらゆる統計をとっておきたいんだ。それが、治療への第一歩になるからな」
なぜと聞かれて、「俺の趣味以外にどんな理由があると思うんだ?」と聞き返しそうになったが、それを抑えてもっともらしい理由をでっちあげて答える。
そんな俺にまんまと丸め込まれたのか、ウェルは反論をそれ以上してくることはなかった。
だが、やはりまだ躊躇いは捨てきれないようだ。
「で、でも……そんな、だって、ロ、ロスト様はここで執務をされるんですよね……?」
「それはそうだろう、ここは俺の部屋だぞ」
「そ、そんなロスト様のお傍の、あまつさえロスト様のベッドの上で、おれは一人で……これを使って、一人でしなくてはならないのですか?」
うーん、今回のウェルはかたくなだなぁ……。
どうしてこんなに頑固なんだろう? 仕事に精を出す上司の目の前で、一人で自慰まがいのことをするのが、そんなに嫌なのか? ……うん、俺も嫌だわ。改めて言葉にして考えてみると、ウェルがかたくなになる理由ももっともであった。
……けれどそれでも!
だからこそ、俺は見たいんだよ!
というわけで、かたくななウェルを素直にするため、俺はさらに魔眼の効果をアップさせた。
「ひぅっ!? ァッ……な、なんで」
ビクンと身体を跳ねさせ、もじもじと内腿をこすり合わせはじめたウェル。
俺が今行ったのは、痒みと快楽の効力の倍増だ。先ほどまでは理性でなんとか抑えられるレベルの痒みと快楽だった。だが、今では人目があろうがなかろうが、今すぐにでも後肛に指をいれて掻きまわしたい衝動に駆られているだろう。
倍増した痒みと快楽は、きっと娼婦ですら耐えきれる刺激ではない。俺のベッドを離れて自分の部屋に戻る、なんてことさえできない刺激だ。
その証拠に、
「くぅっ……あ、ふっ……かゆい、かゆいぃっ……かゆくて、じんじんする、なんで、いきなりこんなっ……!」
ウェルはたまらず自分の後肛に両方の指をまわし、俺の目の前だというのに、そこに指をうずめてしまった。くちゅ、くちゅ、と濡れた音が室内に響く。だが、今はウェルは座った体勢で腕を回しているというのもあり、充分な刺激をそれだけでは得られないようだった。
「ぁっ、かゆい、かゆいっ……んぁっ! か、かゆいのにっ……」
「自分の指だけじゃ、奥まで届かないだろう?」
「ロ、ロストさま……おれ……」
「大丈夫だ、お前が好きでそんなことをしてるわけじゃないって、俺は分かってるさ。これは仕方のないこと、ただの治療行為なんだ。そうだろう、ウェル?」
「……しかたの、ないこと……」
そう、仕方のないことなんだよウェル。
もう一度、ウェルの耳元でそっと囁いてやる。
さながら、前世でななめ読みをした本に出てくる、イブにリンゴをすすめた蛇の気分だ。楽園で暮らしていた純心な人間を堕落させたケダモノ。今の俺にピッタリではないだろうか。
そんなケダモノの言葉に促されるようにして、ウェルはしばらくしてから黙ったままこくんと頷くと、俺の手から歯ブラシを震える手で受け取ったのであった。
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