死刑宣告を受けた王宮魔術師、最後の夜に暗殺者に攫われる

秋山龍央

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プロローグ

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 ――王都の中心部にある、魔術塔セリュエ。
 王国中の魔術師の憧れと権威の象徴としてそびえる白亜の塔は、たんに魔術研究を行う研究機関というだけではなく、王都を守護する重大な魔術結界の要でもある。

 そんな見目麗しい白銀の魔術塔の中心――大理石でできた広々とした裁定場に、おれは“被告人”として立たされていた。

「王宮魔術師ユウリ・アマギ! 貴様の罪状、もはや弁明の余地なしと判断する!」

 王宮魔術師団の団長から告げられた声は鋭く、一切の反論を許さない冷たさがあった。
 それでもおれは、必死に背筋を伸ばして、向かいに立つ上司――上級魔術師のヴェルナー様へむかって悲鳴に近い声でさけんだ。

「な、何度も言っているように、おれは無実です! カリス殿下を害そうなどと思ったことはありません!」

 だが、ヴェルナー様は鼻で笑うと、口元に薄く笑みを浮かべて言った。

「しらじらしい。では、暗殺に使われた魔道具に残っていた貴様の魔力は、どう説明するつもりなのかね?」

「そ、それは……!」

 おれは焦る。けれど、焦るほどに口がうまくまわらなくなる。

 このままではまずい――なにか言わないと……!

 ことの始まりは、一週間前に起きた第二王子の誕生祝いの晩餐会での出来事だ。
 宴の最中、第一王子であるカリス殿下が突如として血泡をふいて倒れた。なんとか一命はとりとめたものの、いまだに意識は戻られていない。
 毒殺未遂と判断され、魔術塔セリュエの王宮魔術師たちが事件の捜査を担当することになった。

 とはいえ、おれは魔術塔セリュエの末席も末席――上級魔術師のヴェルナー様の補佐役の下級魔術師にすぎない。
 おれは今この時まで、毒殺事件のことも、その事件の捜査のことも、詳しいことはほとんど何も知らなかった――そう、この裁定場に連れてこられるまでは。

 自身の研究室にいたおれは、いきなり他の王宮魔術師たちによって、引きずられるようにしてこの場に連れてこられた。
 そして、事態が呑み込めず目を白黒させるおれに対し、こう告げてきたのだ。

 このおれ――ユウリ・アマギが、カリス殿下の毒殺未遂を企てた犯人である、と。

 王宮魔術師たちは捜査で、晩餐会でカリス殿下に毒を仕込んだとされる魔道具を、城のゴミ捨て場から発見した。その魔道具を調べたところ、微量ながらも、使用した人物の魔力の残滓が発見されたのだという。その魔力を照合したところ――なんと、魔術塔セリュエに登録されていたおれの魔力と一致したというのだ。

 前世の常識に照らして言うなら――殺人に使われた包丁に、おれの指紋がべったり残っていた、そんな状況に近い。

「ま、魔道具に残っていた魔力の残滓だって、誰かが改ざんした可能性もあります! それにおれは――」

「あくまでも罪を認めぬというか!」

 怒声が飛び、魔術師団長の持つ魔術杖が大理石の床を打った。
 瞬間、バチンッと稲妻の走るような音が立って空間が歪み、おれの足元に黒々とした魔法陣があらわれる。反射的に魔法陣から逃れようとするが、足はびくりとも動かない。

「証拠品は残留魔力だけではない! 先ほど上級魔術師のヴェルナーが、貴様の部屋から、毒殺につかわれた魔道具の部品を見つけたのだ!」

「なっ……!?」

 おれは唖然としてヴェルナー様を見つめた。
 だが――彼は彫刻のように整った顔に憂いを浮かべ、おれを見つめ返すだけだった。

「残念だよ、ユウリ。だが、これだけの証拠が見つかれば言い逃れはできないだろう。大人しく罪をみとめたまえ」

「そ、そんな、ヴェルナー様……!?」

 まるで雛が巣から落ちていくのを見届けるような――非情な笑みと答えだった。

 おれは愕然と立ち尽くした。足元の床がガラガラと崩れ落ちていくような感覚に襲われる。

 もう、最後の頼みの綱は切れた。
 この裁定場には他の魔術師たちも――普段から親交のあった友人もいたけれど……みんな、おれの共犯と思われることを恐れているのか、俯いたまま言葉を発しようとしない。

 この間にも、足元で光る魔法陣からは魔力のうねりが蛇のような形となり、おれの身体へと巻きついてきた。

「ユウリ・アマギ! 貴様の罪は明らかだ。ゆえにこの瞬間をもって王宮魔術師の称号を剥奪し――明朝、絞首刑とする!」

 無慈悲な宣告とともに、おれの右胸についていた蒼の紋章――王宮魔術師である証は、ひとりでに燃え、瞬く間に灰となった。
 おれは震える指先で、燃え落ちた後のわずかな灰を取った。しかし、それもすぐに空気にさらされて消え失せてしまう。

 ……ここまできて、おれはようやく、この裁判が形ばかりものだということを悟った。

 これは結論ありきの裁判だったのだ。
 最初から、おれに弁明の機会なんて残されていなかった。
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