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第20話
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「……はぁ」
自室に戻ったおれは、思わず重い溜息をこぼした。そして、ベッドにふらふらと歩み寄ると、そのまま真正面からぼすりとシーツの海にダイブする。
「……まだドキドキしてる」
先ほど――螺旋階段でヴァンが不意に、間近に迫ってきて。それは、お互いの吐息がかかるほどの、ほとんど密着と言っていい距離だった。
あんな風にヴァンと接近したのは、あの夜以来のことかもしれない。
「っ……!」
あー、もう! 何を考えてるんですかね、ヴァンさんは!
ベッドの上で思わず足をじたばたさせ、枕に顔をぐりぐりと押し付ける。
……今日あんまり考えないようにしてたけど、おれはヴァンのことが……その、好きだと思う。どういう種類の好きかは自分でもよく分かってないんだけれど。でも、ヴァンと話しているとすごく楽しいし、何も話していなくても、ただ、そばにいるだけでも心地良い。
やっぱり、きっかけはあの夜だと思う。
性行為に近いコトをしたから錯覚しているだけと言われたら、もしかするとそうなのかもしれない。でも、それだけじゃないのだ。あの時、おれのことを真剣に心配してくれた手付きや、囁きかける低い声の優しさに、どうしようもなく胸を打たれた。
あの行為の後で……ヴァンはおれに「惚れた」なんてことを言っていたけれど。
でも、そう言ってきた割にはヴァンはおれに答えを求めるようなことや、あの夜のことについて言及してくることはついぞなかった。だから、きっとあれは彼のリップ・サービスで、場を和ますための軽いジョークなんだろうと結論づけて、おれもあの時のことを蒸し返そうとはしなかった。
なのに――今日、なんでいきなり、あんなコトをしてくるんですかね……!
「……勘違い、しそうになるよな」
まったく、キスでもされるのかと思ったよ。あんな風に真っ直ぐ見つめられて、近づいてこられて。
ヴァンがいきなりどうしてあんな行動に及んだのか、具体的な理由はよく分からなかったけれど……もしかして、おれの身体に虫でもついていたのだろうか? なんか「抑えがきかなかった」って言ってたもんな。一刻も早く払い除けたいほど、我慢ならない害虫がおれに付着していたとかか?
ったく……どんな理由があるにせよ、勘違いしそうになるから、やめてほしい。
……思わず、期待とかしてしまいそうになるし。
おれはベッドから身体を起こすと、壁に背中を預けて足を投げ出すように座った。
瞼を閉じて、部屋の外の気配を窺ってみる。キッチンやリビングから物音などはしない。明日は第三部隊の仕事だし、夜ももう遅いから、きっとヴァンも自室に戻ったんだろう。
おれは息を大きくゆっくりと吸い込むと、そろそろと下肢に手を伸ばした。そして、ズボンを下着ごとすり下げる。
おれのそこは、わずかにゆるく頭をもたげていた。先程、螺旋階段でヴァンに密着された時から実はずっとこうだったのである。まるで、ヴァンから熱が移ったみたいだった。
「……最近、してなかったからな」
一人でしたのはこの世界に来る前だ。ヴァンにしてもらったあの夜からも、だいぶ日が経っている。
もしかすると、ヴァンへの思いがこんなに昂ぶっているのも、溜まっているせいもあるかもしれないなと思いつつ、おれはそこにそっと指をあてがった。
「んっ……」
久しぶりに自分でするからか、おれの陰茎はちょっと触れただけですぐに頭をもたげた。真っ赤に染まった先端に、思わず顔が火照る。自分の自室とはいえ、同じ家の中ではヴァンが今頃眠りについているんだと思うと、恥ずかしさと罪悪感、そしてちょっぴりの興奮が入り混じったような心持ちになる。
そろそろと、右手で真っ赤になったそこを握る。親指と人差し指、中指の三本指で亀頭の表面を這うように撫でると、久しぶりの快楽にびくりと腰が揺れた。
「っ……ふ、ッ……!」
声が出そうになり、慌てて唇を噛み締める。
しばらくそこを指でなぞっていると、鈴口から透明な先走りがこぼれ始めた。三本指に透明な雫をまとわせると、亀頭に塗りつけるようにして触っていく。
「ぁ………んっ」
人差し指で尿道口から裏筋にかけてゆっくりと擦り上げると、抑えなければいけないのに、思わず声がこぼれてしまった。
けれど、手は止められなかった。熱く、そして張り詰め始めた幹を、右手で包み込む。張り詰めた皮膚からは、どくどくと脈打つような血潮の熱さが手の平に伝わってきた。
ゆっくり、力を込めすぎないようにして、手首を回してそこを刷り上げる。瞬間、腰から背筋にかけてぞくぞくとした快楽が奔った。思わず、耐えきれず腰を引いてしまう。
……っ、どうしよう。
やり始めたのはいいけど、少し誤算があった。あんまり強く刺激を与えると、声が出そうになってしまうのだ。自室にいるはずのヴァンに聞こえることはないだろうけど、緊張のあまり、快楽に集中しきれなくて、ビミョウに気持ちがそぞろになるのだ。
しかも最大の問題が……あまり、気持ちよくないということだ。
いや、一応は気持ちいいんだよ? いいんだけどさ……おれがこの世界に来て、お酒の強すぎる強壮効果に当てられちゃった時は、ヴァンが処理を手伝ってくれたのだ。
何が言いたいかというと。あの時の快楽の記憶が強すぎて、自分でやっても全然気持ちよくないということなんだ。
記憶がというか、あの時のヴァンさんの手付きが上手すぎたというか、テクニシャンすぎて、なんかおれの稚拙な手付きだと今いち物足りない……。
まいったな……どうしよう、これ。中途半端にいじったから収まりもつかないし。
ヴァンに相談してみるか?
「へい、ブラザー! あの夜の快感が忘れられないんだ。何かいいアドバイスないかな?」
…………おれがヴァンの立場だったら「気でも狂ったのか?」って聞き返すな。
うん、ヴァンに相談するのは絶対に却下だな。
他の方法だと……この世界ってオカズみたいなアダルト雑誌とか売ってるのかなぁ?
元の世界だと、パソコンで見た動画とか、雑誌でヌいてたけど。そういうオカズがないのも、イマイチ快楽に没頭しきれない原因なんだよな……。
うーん、オカズっていうと……やっぱりこの前の、ヴァンとのコトかなぁ。
前回のヴァンの手付きを思い出して、もう一回やってみようかな。あの手付きを真似すれば、快楽のとっかかりになるかもしれないし。
おれは再び自分の陰茎の亀頭部分に指を這わせた。
脳裏に、この前のヴァンの滑らかな手付きを思い浮かべながら、指先で鈴口をぐいと押し拡げる様に擦る。痛いぐらいの快感だったが、でも、今までの中で一番良かった。
身体をぶるりと震わせ、のたうつように腰を動かしながら、カリ首の部分を指でこする。
「ふぅ……んっ、っあ、ヴァン……ッ」
紺色の瞳に射抜かれるように見つめられた、螺旋階段での刹那を思い起こす。
いつしか、自然と瞳に涙が滲んでいた。それが快楽のせいなのか、胸がつまるような苦しさのせいなのかはよく分からない。
ただ、その涙は瞬時に引っ込むことになった。
それというのも、おれの部屋のドアがノックされ「ヤマト、入ってもいいか?」と声がかけられたからである。
「……っ!?」
――言わずもがな、ヴァンさん当人である。
えっ、ちょっ!?
ヴァン、まだ起きてたの!?
おれは慌ててズボンを下着と一緒にたくし上げ、シーツで手を拭き取ると、ベッドから転がるようにしてドアに向かった。
「ヴァ、ヴァン。いや、その、今は少し……」
「入るぜ、ヤマト」
今は少し待って欲しいと言おうとしたおれの言葉は、ヴァンがドアを開けて入ってきたので尻切れトンボになって終わった。
え、ちょっ。なんでヴァン入ってきたんだ、まだいいって言ってないのに……!
いつもならこんなに強引に入ってくることなんかないのに、珍しいな。何か急用だろうか?
「……どうした、ヴァン?」
「…………」
ヴァンは着替えてからおれの部屋に来たようで、先程着ていた私服とは違う格好になっていた。寝巻き代わりのやわらかそうな、光沢のあるシャツと、ゆったりとした黒いズボンを履いている。ズボンと同色のシャツは前開きの釦が半分ほどしか留められておらず、見事な胸筋があらわになっていた。
「ヴァン……?」
ヴァンはじっとおれを見つめる。
とても静かな表情だった。けれど、その紺色の双眸からは、とてつもない熱量が伝わってくるようだ。先程、螺旋階段の所で見せた以上の熱さでもって、おれを静かに見つめている。
首を傾げていると、ヴァンは静かにおれの肩を引いて、ベッドに導いた。そして、そのまま無言でベッドの縁に座らせられる。ヴァンはやはり無言のまま、おれの隣に腰掛けた。しかも、シャツ越しにほとんど身体が触れ合うような距離である。
え? なにこれ?
自室に戻ったおれは、思わず重い溜息をこぼした。そして、ベッドにふらふらと歩み寄ると、そのまま真正面からぼすりとシーツの海にダイブする。
「……まだドキドキしてる」
先ほど――螺旋階段でヴァンが不意に、間近に迫ってきて。それは、お互いの吐息がかかるほどの、ほとんど密着と言っていい距離だった。
あんな風にヴァンと接近したのは、あの夜以来のことかもしれない。
「っ……!」
あー、もう! 何を考えてるんですかね、ヴァンさんは!
ベッドの上で思わず足をじたばたさせ、枕に顔をぐりぐりと押し付ける。
……今日あんまり考えないようにしてたけど、おれはヴァンのことが……その、好きだと思う。どういう種類の好きかは自分でもよく分かってないんだけれど。でも、ヴァンと話しているとすごく楽しいし、何も話していなくても、ただ、そばにいるだけでも心地良い。
やっぱり、きっかけはあの夜だと思う。
性行為に近いコトをしたから錯覚しているだけと言われたら、もしかするとそうなのかもしれない。でも、それだけじゃないのだ。あの時、おれのことを真剣に心配してくれた手付きや、囁きかける低い声の優しさに、どうしようもなく胸を打たれた。
あの行為の後で……ヴァンはおれに「惚れた」なんてことを言っていたけれど。
でも、そう言ってきた割にはヴァンはおれに答えを求めるようなことや、あの夜のことについて言及してくることはついぞなかった。だから、きっとあれは彼のリップ・サービスで、場を和ますための軽いジョークなんだろうと結論づけて、おれもあの時のことを蒸し返そうとはしなかった。
なのに――今日、なんでいきなり、あんなコトをしてくるんですかね……!
「……勘違い、しそうになるよな」
まったく、キスでもされるのかと思ったよ。あんな風に真っ直ぐ見つめられて、近づいてこられて。
ヴァンがいきなりどうしてあんな行動に及んだのか、具体的な理由はよく分からなかったけれど……もしかして、おれの身体に虫でもついていたのだろうか? なんか「抑えがきかなかった」って言ってたもんな。一刻も早く払い除けたいほど、我慢ならない害虫がおれに付着していたとかか?
ったく……どんな理由があるにせよ、勘違いしそうになるから、やめてほしい。
……思わず、期待とかしてしまいそうになるし。
おれはベッドから身体を起こすと、壁に背中を預けて足を投げ出すように座った。
瞼を閉じて、部屋の外の気配を窺ってみる。キッチンやリビングから物音などはしない。明日は第三部隊の仕事だし、夜ももう遅いから、きっとヴァンも自室に戻ったんだろう。
おれは息を大きくゆっくりと吸い込むと、そろそろと下肢に手を伸ばした。そして、ズボンを下着ごとすり下げる。
おれのそこは、わずかにゆるく頭をもたげていた。先程、螺旋階段でヴァンに密着された時から実はずっとこうだったのである。まるで、ヴァンから熱が移ったみたいだった。
「……最近、してなかったからな」
一人でしたのはこの世界に来る前だ。ヴァンにしてもらったあの夜からも、だいぶ日が経っている。
もしかすると、ヴァンへの思いがこんなに昂ぶっているのも、溜まっているせいもあるかもしれないなと思いつつ、おれはそこにそっと指をあてがった。
「んっ……」
久しぶりに自分でするからか、おれの陰茎はちょっと触れただけですぐに頭をもたげた。真っ赤に染まった先端に、思わず顔が火照る。自分の自室とはいえ、同じ家の中ではヴァンが今頃眠りについているんだと思うと、恥ずかしさと罪悪感、そしてちょっぴりの興奮が入り混じったような心持ちになる。
そろそろと、右手で真っ赤になったそこを握る。親指と人差し指、中指の三本指で亀頭の表面を這うように撫でると、久しぶりの快楽にびくりと腰が揺れた。
「っ……ふ、ッ……!」
声が出そうになり、慌てて唇を噛み締める。
しばらくそこを指でなぞっていると、鈴口から透明な先走りがこぼれ始めた。三本指に透明な雫をまとわせると、亀頭に塗りつけるようにして触っていく。
「ぁ………んっ」
人差し指で尿道口から裏筋にかけてゆっくりと擦り上げると、抑えなければいけないのに、思わず声がこぼれてしまった。
けれど、手は止められなかった。熱く、そして張り詰め始めた幹を、右手で包み込む。張り詰めた皮膚からは、どくどくと脈打つような血潮の熱さが手の平に伝わってきた。
ゆっくり、力を込めすぎないようにして、手首を回してそこを刷り上げる。瞬間、腰から背筋にかけてぞくぞくとした快楽が奔った。思わず、耐えきれず腰を引いてしまう。
……っ、どうしよう。
やり始めたのはいいけど、少し誤算があった。あんまり強く刺激を与えると、声が出そうになってしまうのだ。自室にいるはずのヴァンに聞こえることはないだろうけど、緊張のあまり、快楽に集中しきれなくて、ビミョウに気持ちがそぞろになるのだ。
しかも最大の問題が……あまり、気持ちよくないということだ。
いや、一応は気持ちいいんだよ? いいんだけどさ……おれがこの世界に来て、お酒の強すぎる強壮効果に当てられちゃった時は、ヴァンが処理を手伝ってくれたのだ。
何が言いたいかというと。あの時の快楽の記憶が強すぎて、自分でやっても全然気持ちよくないということなんだ。
記憶がというか、あの時のヴァンさんの手付きが上手すぎたというか、テクニシャンすぎて、なんかおれの稚拙な手付きだと今いち物足りない……。
まいったな……どうしよう、これ。中途半端にいじったから収まりもつかないし。
ヴァンに相談してみるか?
「へい、ブラザー! あの夜の快感が忘れられないんだ。何かいいアドバイスないかな?」
…………おれがヴァンの立場だったら「気でも狂ったのか?」って聞き返すな。
うん、ヴァンに相談するのは絶対に却下だな。
他の方法だと……この世界ってオカズみたいなアダルト雑誌とか売ってるのかなぁ?
元の世界だと、パソコンで見た動画とか、雑誌でヌいてたけど。そういうオカズがないのも、イマイチ快楽に没頭しきれない原因なんだよな……。
うーん、オカズっていうと……やっぱりこの前の、ヴァンとのコトかなぁ。
前回のヴァンの手付きを思い出して、もう一回やってみようかな。あの手付きを真似すれば、快楽のとっかかりになるかもしれないし。
おれは再び自分の陰茎の亀頭部分に指を這わせた。
脳裏に、この前のヴァンの滑らかな手付きを思い浮かべながら、指先で鈴口をぐいと押し拡げる様に擦る。痛いぐらいの快感だったが、でも、今までの中で一番良かった。
身体をぶるりと震わせ、のたうつように腰を動かしながら、カリ首の部分を指でこする。
「ふぅ……んっ、っあ、ヴァン……ッ」
紺色の瞳に射抜かれるように見つめられた、螺旋階段での刹那を思い起こす。
いつしか、自然と瞳に涙が滲んでいた。それが快楽のせいなのか、胸がつまるような苦しさのせいなのかはよく分からない。
ただ、その涙は瞬時に引っ込むことになった。
それというのも、おれの部屋のドアがノックされ「ヤマト、入ってもいいか?」と声がかけられたからである。
「……っ!?」
――言わずもがな、ヴァンさん当人である。
えっ、ちょっ!?
ヴァン、まだ起きてたの!?
おれは慌ててズボンを下着と一緒にたくし上げ、シーツで手を拭き取ると、ベッドから転がるようにしてドアに向かった。
「ヴァ、ヴァン。いや、その、今は少し……」
「入るぜ、ヤマト」
今は少し待って欲しいと言おうとしたおれの言葉は、ヴァンがドアを開けて入ってきたので尻切れトンボになって終わった。
え、ちょっ。なんでヴァン入ってきたんだ、まだいいって言ってないのに……!
いつもならこんなに強引に入ってくることなんかないのに、珍しいな。何か急用だろうか?
「……どうした、ヴァン?」
「…………」
ヴァンは着替えてからおれの部屋に来たようで、先程着ていた私服とは違う格好になっていた。寝巻き代わりのやわらかそうな、光沢のあるシャツと、ゆったりとした黒いズボンを履いている。ズボンと同色のシャツは前開きの釦が半分ほどしか留められておらず、見事な胸筋があらわになっていた。
「ヴァン……?」
ヴァンはじっとおれを見つめる。
とても静かな表情だった。けれど、その紺色の双眸からは、とてつもない熱量が伝わってくるようだ。先程、螺旋階段の所で見せた以上の熱さでもって、おれを静かに見つめている。
首を傾げていると、ヴァンは静かにおれの肩を引いて、ベッドに導いた。そして、そのまま無言でベッドの縁に座らせられる。ヴァンはやはり無言のまま、おれの隣に腰掛けた。しかも、シャツ越しにほとんど身体が触れ合うような距離である。
え? なにこれ?
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