異世界転生したけど眷属からの愛が重すぎる

秋山龍央

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眷属

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――小鳥の囀る声。枝葉の隙間からこぼれる柔らかな光。

「……夢、じゃなかったのか」

自分にしてはやけに内容のしっかりした夢を見たものだと、最初に目を覚ました時に思った。けれど、やっぱりあれは夢ではなかったらしい。その証拠に、おれの視界に飛び込んできたあたたかな木漏れ日は、おれの住むコンクリートジャングルでは久しくお目にかかれていないものあった。

おれは倒れていた身体を起こし、ゆっくりと起き上がる。
やわらかな草の上で寝転がっていたが、あまり服は汚れていない。
最後の記憶を元に、おれは腹部や胸元を触ってみるが、そこにも傷跡は見当たらなかった。服が破れている形跡もない。あのイっちゃってる男の持つ折りたたみナイフが何度もクリティカルヒットをした場所は、今はもう跡形もなくなっていた。

……そういや、あの女子大生はどうしたかなぁ。
おれの家族はもうすでに縁が切れているから、特に悲しみはしないだろうけど。でも、あの女子大生の子のことだけちょっと心配だな。トラウマとかになってないといんだけど。

「――あ! ご主人ちゃん、目が覚めたの?」

と、そんな風に考え事をしていたおれの耳に、よく知らない男の声が響いた。
明るく澄んだ声だが、しかし、どことなく軽薄そうな浮ついた声だった。
おれは不思議に思って振り返ると――そこには、何とも形容しがたい青年が立っていた。

……髪の色は干した藁のような明るい金髪。陽光にあたってきらきらと輝く様はきれいだ。
顔のパーツは整っているので充分イケメンの類だ。切れ長の瞳にシャープなラインの顔立ち。そして、よく日焼けした褐色の肌と、しなやかについた筋肉は、充分女の子にモテるだろう。背丈もおれより多分、10センチくらいは高い。

「……えっと、誰?」

そんな正体不明の青年に、おれは思わずそう尋ねた。

いやだって、全然知らない人だし。
というか、おれの所属しているインドア系の人種とは明らかに全然別の人というか。

印象としては、イケメンなのに、全体的に軽薄そうというか、チャラい。人付き合いは良さそうだが情には薄そうな、ナンパ系のパーリーピーポーという感じ。
漫画で例えると、それこそチャラい系のモブ男というか……。

……ん? モブ男?

おれはもう一度、正体不明のチャラ系青年をまじまじと見つめた。
よく見ると、この髪型も顔立ちも、来ている黒いVネックのTシャツや色褪せたジーンズも、見覚えがある。ありすぎる。
おれと目が合うと、青年はにっこりと人懐っこそうな笑みを浮かべた。

「神様から聞いてない? オレ、ご主人ちゃんの護衛役の眷属なんだけど」
「じゃ、じゃあ、やっぱりお前……!」
「そう!ご主人ちゃんの描いた漫画の『モブ男』だよ」

――――やっぱりか!?

当たってほしくなかったが、おれの予想は的中してしまった。なんでだ!
よりによって、おれの眷属がモブ男……!?

「な、なんでだ……神様は、おれがよく描いている漫画のキャラクターから一名を眷属にするって」

混乱したままおれは思わずそう呟き、そして、自分の呟いた言葉の内容でハッとあることに気がついた。

活動ジャンルが変われば、同人誌で描かれるヒロインもまた変わる。それは当たり前だ。
けれど、どんなにジャンルが変わっても、変わらないものがある。

そう――それはモブ男の存在だ。

時には脅迫まがいのことをしてヒロインの弱みを握り、ヒロインを主人公から寝とり、最終的にヒロインをズルズルとメス落ちさせる存在……それがモブ男の存在だ。
おれの描く同人誌はヒロイン寝取られ系メス落ち傾向のもの。つまり、全ての同人誌の中で描いている回数がトータルで高い登場人物は、確かにモブ男である。

「っていうか、女の子のキャラクターはご主人ちゃんが産み出したキャラクターじゃなくて借り物じゃん? 二次創作なんだから」
「うっ!」

重ねて、言われてみればその通りだった。
不思議そうに告げるモブ男の言葉に反論する余地はない。そう、おれは所詮は二次創作活動の同人作家。
だから、自分のオリジナルヒロイン――自分で創作したオリジナルキャラクターなんて持っていないのだ。

「マ、マジかよ、神様……!」

異世界で目覚めて十分も経たないというのに、おれはさっそく頭を抱えた。

まさか、モブ男とか……。てっきり可愛いヒロインが眷属になってくれるものだと思いこんでいたから、まさかのモブ男という展開に、おれは落胆を抑えきれなかった。
大体、こんな見知らぬ世界でモブ男に護衛役に来られても……本当にこのモブ男は戦えるのか? 見た感じ、ただのチャラ男だし。そりゃまぁ、結構なイケメンではあるけど……。
ああ、おれが一次創作作家だったら……! あの時、神様にもうちょっとよく確認しておけばよかった。今更こんなコト言っても後の祭りだが……。

「うーん……ごめんね。ご主人ちゃんは俺だとあんまり嬉しくなかった?」

頭を抱えてうんうん唸るおれに、遠慮がちな声がかけられて顔を上げる。
顔を上げた先で、モブ男と名乗ったチャラい系の青年は、困ったような苦笑いを浮かべていた。

「えっ、いや、そんなことは、全然」
「そう? まぁ、ご主人ちゃんは女の子の方が良かったかな。俺でごめんね?」
「いや、あの、そんなことは全然ないから本当!」

おれの言葉に、ホッとしたような、でもどこかちょっと傷ついたような顔で青年が小首を傾げる。
し、しまった。態度で思いっきりガッカリ感を出してしまっていた……。

「オレ、ご主人ちゃんの役に立つよう頑張るからね」

気を遣ってくれたのか、空気を変えるようにニッコリと笑顔を向けてくれる青年。
しまった。出会い頭そうそう、めちゃくちゃ悪いことをしてしまったな……。
今はとりあえず笑顔を向けてくれてはいるが、きっと彼の心の中ではおれに対する悪印象で一杯に違いない。
あの真っ白な世界で、眷属にどんな子が来ても相手を尊重するようにって決めたばかりなのに……。さっそくやってしまった……。なんて最悪な奴なんだ、おれは……。

「じゃあご主人ちゃん、これからよろしく」
「あ、ああ……これからよろしく……」

おれは罪悪感と後悔でいっぱいになりながら、金髪褐色の青年――チャラい系のモブ男が差し出してきた手を取り、どうにか握手を交わしたのだった。
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