異世界転生したけど眷属からの愛が重すぎる

秋山龍央

文字の大きさ
14 / 24

しおりを挟む
翌日。おれとアレクは朝食を食べた後に宿屋を出ると、街へ向かうこととした。

ミドロさんに相談して仕事の斡旋をしてもらおう計画を実行する前に、このドローレスの街へ行って散策をし、この世界の知識を得ようと話し合ったのだ。

それと何より、服だ。
おれの白Tシャツの上にチェック柄のシャツを羽織り、ジーパンとスニーカーというスタイル。対するアレクは、黒いVネックのTシャツに色褪せたジーンズとサンダルだ。
町中をすれ違う人達が着ている服は、茶色や灰色の地味な色が多く、おれ達は悪い意味で目立っていた。昨日も冒険者の人たちやミドロさんは口に出さなかったものの、おれ達の服装を珍しそうに見てきていたしなぁ……。

「でもアレク、服を買おうにもおれ達は何も金がないだろ?」
「今、俺達が着ている服を売ればいいんだよ。こっちでは珍しい素材だろうから、相手の様子見つつなるべく高く買い取ってもらおう」
「おお、なるほど……!」

アレクの頼もしい言葉に、おれは感嘆の声を上げる。
すごいな、おれ一人だったらそんな事は思いつきもしなかった。

「さすがだなぁ、アレク。おれ一人じゃきっと餓死してたよ」
「あはは、まだどうなるかは分かんないけどね。でも、これが失敗しても他にも考えはあるから安心して。……俺もご主人ちゃんからご褒美欲しいし?」
「っ!」

隣を並んでいたアレクは、最後の言葉だけをおれだけに聞こえるようにひそやかな声で告げた。
そして、アレク側にあったおれの右手の甲に、自分の手の甲を触れさせる。
かすかに触れただけで、それはすぐに離れていってしまったが、それだけでおれは顔が真っ赤になった。

「ア、アレク……その、外であまりそういう事は言うなよな……」
「室内だったらいいんだ?」
「外でも室内でも、あんまりおれをからかわないでくれ、頼むから」
「からかってないよ。俺、本気なんだけどなー」

そんなプチハプニングもあったものの、けれど、アレクとこうして二人で異世界の街を並んで歩くのはとても楽しかった。

東側のエリアの道路の石畳は、ガタガタとした凹凸の目立つ道だったが、南側に近づくほどにだんだんと綺麗な道になっていった。とはいえ昨日も感じた通り、日本での基準と比べるとどうしてもどんぐりの背比べレベルの違いでしかないが。
けれど、南側のエリアに入ると、道路には紫やピンクの花をつけた街路樹が等間隔で植わっており、見た目にも鮮やかで楽しかった。
それに加え、石造りの家の前で小さな椅子を出して談笑をしている壮年の男性達をよく見かけるようになった。まだ仕事前なのか、それとも小休止中なのかは分からないけれど、雰囲気からしてこのドローレスの街は比較的平和で、外敵に脅かされているわけでもないのだろう。
その和やかな光景に、おれはホッとすると同時に、ほんの少し切なくなった。

……元の世界、日本での暮らしを思い出してしまったからだ。

おれは両親とはずっと疎遠で、友人だってオンライン上の人がほとんどだ。趣味は漫画と小説にゲーム、同人誌制作と根っからのインドア派で、人と会話しないで1日が終わる時さえあった。
それでも、あの暮らしを気に入っていたし、自分なりに愛していたのだ。
オンライン上の友人だってかけがえのない人達だったし、読みたい漫画や小説だっていっぱいあったし、同人誌で描きたいネタだっていっぱいあった。
……神様と取引したことを後悔したわけじゃないし、あの状況では取引するしかなかったんだけれど……でもやっぱり寂しいな。

そんなことを考えていたおれの手を、するりと温かいものが包んだ。
ぎょっとして隣を見ると、アレクが気づかわしげな表情でおれを心配げにじっと見つめていた。
……ああ、そっか。多分、アレクは察したのだろう。おれが何を考えていたか。

「あー……ごめん。別に、落ち込んでたわけじゃないんだ。ただちょっと、元の世界のこと思い出してただけだから……その……」
「うん、分かってるよ」

アレクは水色の瞳を細め、そっと指先に力を込めておれの指を握り返した。
……誰かに手を繋いでもらうなんて、小さい頃以来だ。

あたたかな温度が指先から伝わってくる。
それで、胸の内の寂しさや切なさがなくなるわけではなかったけれど、アレクの優しさに心が解きほぐされるようだった。

「……あ。あそこの店は服屋じゃないか?」

少し先に、店の前に靴下やらズボン、シャツを無造作に掲げている店があった。
ここらへんの店はどこも看板を出しておらず、店の前に商品の一部を並べたり飾ったりして客を呼び込むのが主流のようだ。

「おっ、そうだね。幸先いいし、試しに行ってみようか!」

おれの指差した店に目を留めると、アレクは繋いだ手をぱっと離してしまった。そして、おれよりも一歩先に出て、店の方へと先んじて歩き出す。
おれは思わずアレクの方に手を伸ばしかけたが、すぐにハッと気づいて慌てて手を引っ込めた。

「ん? どうかした、ご主人ちゃん」
「な、なんでもない。入ってみようか」

あ、あぶねー……。
思わずアレクの服を掴んで引き留めそうになってしまった。
何やってんだ、自分。いや、でもアレクがいきなり手を離すのが悪……いやいやいや、それこそ何考えてるんだよ自分!
それじゃあ、おれの方がまるで、アレクと手を繋いでたかったみたいじゃないか……!

「……本当に大丈夫? なんか百面相してるけど」
「だ、大丈夫。本当に気にしないでくれ」

アレクはいまだに訝しげな表情であったものの、おれが強く否定したたためか、それ以上は突っ込んでこなかった。

……今のは、きっと一時の気の迷いだ。
多分、元の世界のことを思い返したからちょっとセンチメンタルな気分になっただけ。センチな気分に引きずられただけだ。うん、きっとそうだ。

「すみません、少し見せてもらっていいですか?」
「いらっしゃい」

アレクがにこやかな笑顔を浮かべながら服屋の中に入ると、店の奥に座っていた壮年の男性がぶっきらぼうな声音で答えた。
店の中は、木製のハンガーラックのようなものが所狭しと並べられ、そこに無造作に服がかかっていた。男女別、そして上着とズボンぐらいは分けられているようだが、サイズの統一感はなくバラバラだ。そして見た感じ、服にはかすかに傷みや、着古した痕も窺える。恐らく中古の服の取り扱いをしている店なのだろう。

おれとアレクが服を物色する間も、店の奥のおじさんがぶすっとした顔で頬杖をついているだけで、何も言ってこない。
……ショップ店員に話しかけられるとビビるおれとしては嬉しいけれど、ずっと黙ってられるのも不安になるな……。

「ここは中古の服屋みたいだな」
「そうだねー。あまりいいものはなさそうだし、出ちゃおっか」
「いいのか?」
「あまり変な格好していっても、好感度下げそうだしね。それならまだこの服の方がいいかなって」
「そうか……じゃあ行こうか」

おれがそう言うと、アレクはこくりと頷く。そしてにこやかな笑顔で「ありがとうございました」と店の奥のおじさんに告げると、おれの肩を抱いてさっと店を出た。
そして、店を出てしばらく歩いた先でおれの肩からそっと手を離すと、顎に手を当てて考え込む表情になった。

「どうしようかねぇ。南側の次に栄えてるエリアが東側なんだっけ? でも、東側でもこの程度の服しか置いてないなら、南側に行くしかないかな」
「でもさ、街を歩いている人達もそこまで綺麗な服を着てるわけじゃないし。ミドロさんは小綺麗な格好をしてたけど、あれはやっぱりミドロさんが富裕層の人間だからじゃないか?」
「そうだね……じゃあさっきの中古の服屋が、この街の一般人が普通に買うレベルなのか。でも、あれが普通なら俺らの服ってそれなりの高値になりそうだし……ここら辺の店で無理して売るのも勿体ないな。ていうか、フツーに足元見られそう」

通行人の邪魔にならないように二人で道路の脇に寄ると、アレクがブツブツと小さな声で呟きながら考え込み始めた。
そうしてしばらく経った後、ようやくアレクは考えがまとまったようで、ぱっと顔を上げておれを見た。

「よし! ご主人ちゃん。作戦変更しよう!」
「変更?」
「これからこのままあの商会に行こう。で、これから概要をざっと説明しておくから、ご主人ちゃんは俺の話に合わせてくれない?」
「い、いいけど……」

元より、おれはアレクの提案に心から唯々諾々と従うだけなのだ。反論などあるはずもない。

……これじゃあどっちが主人でどっちが従者なのか、まったく分からないな!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで

二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

冷酷無慈悲なラスボス王子はモブの従者を逃がさない

北川晶
BL
冷徹王子に殺されるモブ従者の子供時代に転生したので、死亡回避に奔走するけど、なんでか婚約者になって執着溺愛王子から逃げられない話。 ノワールは四歳のときに乙女ゲーム『花びらを恋の数だけ抱きしめて』の世界に転生したと気づいた。自分の役どころは冷酷無慈悲なラスボス王子ネロディアスの従者。従者になってしまうと十八歳でラスボス王子に殺される運命だ。 四歳である今はまだ従者ではない。 死亡回避のためネロディアスにみつからぬようにしていたが、なぜかうまくいかないし、その上婚約することにもなってしまった?? 十八歳で死にたくないので、婚約も従者もごめんです。だけど家の事情で断れない。 こうなったら婚約も従者契約も撤回するよう王子を説得しよう! そう思ったノワールはなんとか策を練るのだが、ネロディアスは撤回どころかもっと執着してきてーー!? クールで理論派、ラスボスからなんとか逃げたいモブ従者のノワールと、そんな従者を絶対逃がさない冷酷無慈悲?なラスボス王子ネロディアスの恋愛頭脳戦。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます! 婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。 知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。 花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。 十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。 寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。 見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。 宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。 やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。 次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。 アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。 ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。

【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

処理中です...