転生先は猫でした。

秋山龍央

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番外編・後(ロディ×クロ)

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ベッドに押し倒されて、見上げるロディの顔は、なんだかいつもと違って見えた。
いつもベッドで見るロディは顔を赤らめて、恥ずかしそうにおれを見つめているのが常なのに、今日のロディはなんだかぎらぎらした目でおれを見下ろしている。

「クロ……」

大きく分厚い掌がおれの頬に触れてくる。
そして、そっと唇が重ねられた。

「んっ、ふ……」

だが、ロディからのキスというのは、普段からのことだったのでこれは特に違和感はなかった。
思えば、キスの時もロディが積極的におれに仕掛けてくることも多かったなぁ。普段のロディがすごく可愛いからすっかり忘れがちだったけど、そういやロディも男だもんなぁ、うん。

ロディは唇を重ね、おれの腔内に舌を甘く絡ませながら、するりと肌に手を滑らせてきた。
そして、そっと、何か壊れ物でも扱うような手付きでゆっくりと胸や腹を触っていく。それは、焦れったいとも思えるぐらいに優しい触れ方だった。
ロディの丁寧な触り方に、おれの緊張もだんだんと解きほぐされていく。こうやって優しく触られているだけなら、マッサージでもされているみたいで心地よかった。正直、このままウトウトと眠ってしまいそうなぐらいの心地よさだ。

けれど、ロディの指先がおれの胸の上に触れると、一気に意識が引き戻された。

「っ……」
「す、すまない。痛かったか?」
「いや……大丈夫。ちょっと、びっくりしただけ」

おれが身じろぎをすると、ロディはパッとそこから手を離し、気遣うようにおれの顔を覗き込んできた。
あまりにも過敏な様子に苦笑いを浮かべながら、おれはこのまま進めていいとロディに告げる。

「じゃあ……その、痛かったり嫌だったりしたら、いつでも言ってくれよ、クロ」
「ん、ありがとう」

しかし、おれが本当に「嫌だ」「痛い」とか言ったら、ロディはめちゃくちゃ落ち込みそうだな……。
というか、それでロディが自信喪失して、また勃起不全を再発させたらどうしよう?

……さっきはロディのお願いに思わず首肯してしまったが、思った以上におれ、後先ない状況だな。

ロディを見れば、彼は真剣な表情で恐る恐る、おれの胸の上に指先を触れさせるところだった。
そして、とうとう指先が乳首をふにりと触った。

「んっ……」
「クロ……大丈夫か?」
「だ、大丈夫……っ」
「この触り方はどうだ? 気持ちいいか? その、俺は同性を抱くのは初めてだから……何か変なことをしていたら遠慮なく言って欲しい」
「っ、あ、だ、大丈夫だから。ちゃんと気持ちいいから……」

両方の乳首をふにふにと、ロディの人差し指と親指につままれて優しく揉み込まれる。
そこから生まれる感覚は、身体を突き抜けるような快楽ではないものの、まるでじりじりと低音の炎に炙られているような快楽があった。

「そうか、なら良かった。こっちはどうだ?」
「んっ……き、気持ちいいよ」
「じゃあ、こういう触り方はどうだ? 爪だと痛すぎるか……?」
「っあ、んっ……!」

ロディはおれの乳輪をやわやわと指で揉み込んだかと思えば、今度は爪先で軽くおれの乳首を引っ掻くようにして弄ってきた。
そして、与える刺激を変える度に、おれの顔を覗き込んでは「大丈夫か? ちゃんと気持ちいいか?」と尋ねてくるのだった。
そのため、おれはその度に「気持ちいい」と答えなければいけない羽目になっていた。

「爪だと痛いか? さっきの指で揉んだ方が気持ちよかったか?」
「っ……! だ、大丈夫……っ、さっきの爪でされたのも、指で揉まれたのも、どっちも気持ち良かったから……っ」
「そうか、良かった……ああ、そう言えば君はよく俺にする時は、左右で弄り方を変えるよな。君もそっちの方が気持ちいいのか?」
「ひ、ァっ!」

ああああああぁ、なんだコレ!
めちゃくちゃ恥ずかしすぎるんですけど!!!

なにこれ、新手の言葉責めプレイ? なにが楽しくて、自分がどれだけ感じてるかを自己申告しないといけないんですかね!?
思わずロディにそういう趣向があったのかと問い詰めようかと思ったが、彼の表情はいたって真剣なものだったので、おれは言葉を飲み込んだ。
飲み込むしか、なかった。

ああ、そうだよね……ロディは真面目だもんな。
悪気はゼロなんだろうね、うん……じゃあおれは何も言えないよね……。

そういやまだロディと恋人同士じゃなかった頃に、治療の名目で肌を重ねた時も、こういう風にロディに色々聞かれながら触れられた覚えがあるな……。そうか、真面目な人柄が今、裏目に出てるんだなぁ……。

おれはちらりとロディの下肢の方に目をやると、ロディの陰茎はすっかり勃起していた。
正直、おれの痴態なんかで勃起してくれるかどうかは半信半疑だったのだが、ロディはこの状況にちゃんと興奮してくれているらしい。

「ん……ロディ」
「どうした、クロ?」

おれはベッドに仰向けで寝転んでいた体勢から身体を起こすと、ぐるりと身体を反転させて、ロディに背中を向ける態勢になった。
そして、ベッドの上で四つん這いになりながら、首だけでロディを振り返る。

「ク、クロ?」

どぎまぎしたような顔を真っ赤にしているロディは大変可愛い。
だが、真面目なロディに付き合って、これ以上の自己申告的言葉責めプレイに付き合っていたら、おれが羞恥心のあまりに死んでしまう。

「もう……胸の方はいいからさ、こっち触ってくれよ」
「っ……!」

四つん這いになりながら、おまけに片手で自分の尻たぶに手をかけてそこを割り開きつつ見上げれば、ロディはごくりと唾を飲み込んで、おれのそこに釘付けになった。

「クロっ……!」

おれの狙い通り、ロディはがっついたようにがしりとおれの腰を掴んだ。
だが幸い、そこを慣らさなければいけないという理性は保っていてくれたらしい。
自分の人差し指を唾液で濡らすと、濡れた指をゆっくりとおれの後孔につぷつぷと沈ませ始めた。

「んっ、ふ……!」

初めて他者の指を受け入れる感覚に、びくりと背筋が震える。
未知の感覚に、思わず腕を伸ばしておれは目の前にあった枕を抱え込むと、そこに顔を押し付けた。

――しかし、それは悪手だった。

「ク、クロ。すまない、痛かったか?」

はっとして首だけでロディを振り返る。
ロディは予想通り、いや、予想以上に情けない顔でおれを労しげに見つめていた。後孔に埋めた指も、それ以上は進むことなく動きを止めている。

「だ、大丈夫。ちょっとビックリしただけだから……」
「そうか? すまなかった、つい興奮して……その君が俺を求めてくれたのが嬉しくて」

ロディはおれの応えにホッとした顔になったものの、いまだに瞳は労しげな光を宿している。
し、しまった。あんな風に柄にもない真似をしたのは、ロディが色々とおれに尋ねてくるのを止めるためだったのに……!
これでまたロディの理性がリセットされてしまった!

「クロ……ゆっくり進めるからな。気持ち悪かったら言ってくれ」
「う、うん。その、とりあえずもっと深くまでいれてくれて、平気だから……」
「そうか……じゃあ、入れるぞ」

ロディの人差し指がずぶずぶとおれの胎内に沈んでいく。
初めて受け入れる異質物と逆流の感覚に、若干の違和感はあったものの、幸い痛みはなかった。

「そうだ。クロがいつも言っている……ゼンリツセン、だったか。それは君にもあるのか?」
「う、うん? 男なら誰でもあるけど……」
「そうなのか。じゃあすまないが、それが君のどこにあるか教えてくれないか?」
「っ……! わ、悪いけど、おれも自分の前立腺がどこにあるかは、知らないから……」
「そうか。では、宝探しだな」

どこか楽しげなロディの声は、まるで他人の声のようですらあった。
こんなロディの声、聞いたことがない。

ロディは片手でおれの太腿や陰茎をやわやわと触りながら、反対の手の人差し指をゆっくりと後肛から抽送しはじめた。
意外にもロディは器用に陰茎と後孔の両方を弄ってくるので、おれの陰茎がだんだんと昂ぶってくる。陰茎が勃ちあがり始め、先端から透明な雫がじわりと滲み出すと、ロディはますます嬉しそうな声を上げた。

「可愛いな、クロ。君はよく俺を可愛いとか綺麗だって言ってくれるけど……君の方がずっと可愛いし、素敵だ」
「な、なに言ってっ、ぁ……ひゃっ!」

熱に浮かされているようにうっとりとしたロディの声に、思わず顔に熱が集まるのが分かった。
思わず振り返ろうとした瞬間、ロディの指先がおれの胎内にあるしこりを人差し指で擦りあげて、びくりと背中を震わせて甲高い声をあげてしまう。
う、うわ。なんだ今の声。マジでおれの声?

「ああ、本当だ。君にもあるんだな」
「ちょ、ロディっ……ひ、ぅあッ!」
「どうだ? 気持ちいいか、クロ?」
「ぁ、んっ……く、ぅッ……あぁっ!」

質問におれが答えなかったからか、ロディはおれが満足していないと判断したらしい。
その後も「こういう触り方の方がいいか?」と聞きながら人差し指でこりこりとナカのしこりを押しつぶし、「これだと強すぎるか?」と尋ねながら爪先でカリカリとしこりを引っ掻いた。

「ひっ、ぁ、ロ、ロディ……ん、ぁっ!」
「大丈夫かクロ? 気分が優れないなら、俺に遠慮しないでいつでも言って欲しい」
「き、気持ちいいっ。気持ちいいから、もうそこ……っ!」
「ああ、良かった。ちゃんと気持ちよくなってくれてるんだな」

ロディはおれを腹上死寸前の拷問にかけている自覚はないようだ。そのため、指先の責め立てとは裏腹に、おれにかけられる言葉は慈愛と真摯さに満ちている。

――なにこれ?
答えないとより一層責め立てられて、答えればセルフ羞恥言葉責めプレイって、マジでなんの拷問?
おれは一体何を白状すればいいんだ?


……そんな後孔への愛撫が、何十分続いただろうか?

ロディのあたたかい気遣いと、怒涛のような快楽への責め立てによって、愛撫が終わった頃にはおれの下肢は先走りによってしとどに濡れ、後孔はロディの指を数本は飲み込むことができるほどになった。
もはや、足に力が入らない。明日、ちゃんと出勤できるんだろうか?

「クロ……すまない。もう、その……」

ロディがおれの背中のあちこちにキスを振らせながら、おずおずとそう尋ねてきた。

見れば、ロディのターコイズブルーの瞳はすっかり情欲に濡れている。そして、陰茎は脈打つように血管を浮かせて、びくびくとそそり立っていた。

「す、すまない。君の感じてる姿を見ていたら、もう我慢できそうになくて……」
「ん……いいぜ。まだキツいかもだけど、力抜いてるから」

アレが自分のナカに入るのかーと思うと、まだ少し怖い気持ちもあったが、まぁ、ロディに求められるという状況は悪いものではなかった。
おれは頭の方にあった枕を腰の下にいれると、身体の力を抜くように意識する。

「ロディ……いいよ、来て」
「っ、クロ……ッ」

陰茎の先端が、ほぐれて口を開き始めた後孔にぐっと押し当てられる。

「……ッ!」

指とは違う圧倒的な質量がゆっくりを胎内を割り開いてくる感覚に、反射的に身体に力が入りそうになる。が、なんとか意識して身体から力を抜く。
と、そっと「クロ」とおれの名前を呼ぶ声がした。
振り向こうとしたおれの頭を、そっと、やさしく大きな掌が撫でてくる。

「っ……クロ、大丈夫か? 痛いか?」

おれに尋ねてくるロディの方が、つらそうに眉根を寄せている。おれもキツいが、胎内でしめつけられるロディもキツいのだろう。
それでも、おれの頭や背中を撫でて、おれへの気遣いを忘れないロディに、自然にふふっと笑みが溢れる。

「ん、大丈夫……ロディのがおれのナカに入ってるって不思議な気分だな」
「クロ……」
「でも、悪い気分じゃないよな。こう……いつもとは違う感覚っていうの? なんかちょっと征服されてる気分っていうか、ロディのモノにされてる感覚がする」

場をなごませようと笑いながら言った言葉に――なぜか、胎内に埋められていたロディの陰茎が一回り大きくなった。

「ちょっ、なに大きくしてんの!? おれを殺す気か!?」
「ク、クロが悪い」
「はい!?」
「まさか君がそんなに可愛いことを言ってくれるなんて、思ってもみなかったから……ああ、くそっ。ちゃんと我慢してたんだぞ、俺は」

おれの腰をロディの両手ががしりと掴む。
そして、太くて熱い陰茎がぐっと奥まで押し込まれた。それと合わせて、カリ首の部分で先程のしこりを抉るように擦られると、ひときわ甲高い声が溢れた。

「ぁ、ああァっ! ロ、ロディ……ッ!」
「んっ……! クロ、どうだ? もっとゆっくり突いた方がいいのか? でも、君のココはさっきの突き方の方がすごく反応していたよな」
「っ~~……!」

またこのパターンかよ!!!
ああ、それでもロディに強く言えないおれ……!


――その後。
おれは案の定、答えなければ一層責め立てられ、答えればセルフ羞恥言葉責めプレイになるという地獄のベッドタイムを改めて満喫することになった。


……今日のこの件は、ぜったいに今度、ロディにも同じやり方で仕返ししてやろう。






「――で、どうだった?」

散々抱かれた後。おれとロディはベッドに二人で裸で寝そべって、お互いの身体を触れ合ったりくすぐり合ったりしながら、微睡むような時間を過ごしていた。
先程はとんでもない恥ずかしさと快楽責めをダブルで味合わされた地獄の時間だったけれど、今のこの時間は悪くなかった。
昼間の休日に、恋人と二人で裸で寄り添い合う時間というのは、何よりの至福の時間だ。

「ああ、うん。……すごく良かった。その、クロの見たことがないような顔が見れて、声が聞けて良かったし、そんな事をしているのが自分だと思うととても興奮したし、満たされた。あと……」
「そ、そこまで詳細に答えなくてもいいよ! まぁ、ロディが満足してくれたなら良かったよ」
「……それで、そのことなんだが……」
「うん?」
「その……君にお願いした時に、『一度だけでいいから』と言ったと思うのだが……」
「…………」
「……前言を翻すようで申し訳ないんだが、一度では満足できそうにないんだ。むしろ、より一層、君を抱きたいという気持ちが強くなった気がする。いや、君に抱かれたくないわけではなくて、抱かれて一つになりたいという気持ちも勿論あるんだが、それとは別種の感情というか……」
「…………」
「……クロ? その……ダメだろうか?」

潤んだ瞳と赤らめた頬の、まるで捨てられた子犬のような表情でこちらを見つめる恋人に、ノーと言える男がいるだろうか?

いるかもしれないが、おれは言えない男だった。


……これ、おれの愛を試す試練とかじゃないよね?

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