異世界で気ままにダンジョン運営!

秋山龍央

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第八話

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「ウィル。おれたちは大丈夫だからさ、すこし落ち着いて」

「兄ちゃん、でもよ」

 ひとまず今はこの事態を収集する方が先だ。
 なのでおれはウィルの肩を叩いて、穏やかな笑みをつくってみせた。

「子どものしたことだし、初犯なんだろう? こっちはもう気にしてないからさ」

「そう言ってくれるのはありがたいが……本当にいいのか? ガキのやったこととはいえ、盗みは重罪だ。証人だっている。本当なら自警団に突き出されても……」

 ウィルの言葉に、メイナちゃんがおびえたようにびくりと肩を震わせた。
 そんな彼らに、おれは首を横に振って笑ってみせる。

「そんなことしないよ。だって、ウィルは友達じゃないか。メイナちゃんはウィルの友達なんだろ? なら、おれにとっても友達だ、自警団に突き出すなんてできないよ」

「兄ちゃん……」

 ウィルが感激したようにまじまじとおれを見つめてくる。
 見れば、ウィルだけではなく周囲にいた野次馬の人たちも「おお……」「なんてできた人なんだ」と感激したような声を上げていた。

 うん、だってメイナちゃんを自警団に突き出したりして、その自警団からおれたちの身元とかを尋ねられたらかなりやばいからね!

 おれとヴォルフが使用してる身分証明書は、かつて魔獣から手に入れたものだ。魔獣が身分証明書をどうやって手に入れたのか分からないが、もしかすると正規の手段で手に入れたものではないのかもしれない。
 都市に入る時は、身分証明書はざっと確認されただけだった。でも、もっと細かく確認をされたらまずいことが起きるかもしれない。

 それに、おれもマスターもまだまだこちらの社会的情勢に疎い。自警団なんてものに引き合わされたら、どんなボロが出るかわからないし。

 そんなこちらの思惑を知らないウィルと野次馬の方々は、感激したようにおれを見つめてくる。
 あまりにもいたたまれなくなり、おれは彼らの視線から逃げるようにしゃがみこむと、顔を俯けているメイナちゃんへ話しかけた。

「メイナちゃん。ごめんね、この袋に入っているはお金じゃなくてご飯なんだ。それでもよかったら、持って帰ってお家の人と一緒に食べてね」

「えっ……」

「おい、兄ちゃん!?」

 ウィルが大きな声を上げているが、それを無視して、さきほどメイナちゃんに盗まれかけた紙袋を、そのまま再び彼女へ手渡そうとする。
 だが、どうしたことか、彼女はびっくり顔で硬直したまま、紙袋を受け取ろうとしてくれない。
 まだこちらを警戒しているのかな?

「あ、よかったら一つ試食してみる? 開け方が少し変わってるんだよね」

 中身を実際に見れば受け取ってくれるかと思い、おれは紙袋の中に入っていたものを一つ取り出す。
 けれど、おれが取り出したものをみて、メイナちゃんの顔はさらに困惑の色を深めた。

「それ、食べ物なの? 見たことない形だけど……」

「これはおにぎりって言うんだよ。周りの透明なのは食べ物じゃなくて包装紙だから、絶対に食べないようにね」

 おれが取り出したのは、コンビニやスーパーで売られているものと同じように、透明なフィルム包装をされたおにぎりだ。

 昨日、この町の市場では玄米が売られていた。なら、こっちにも米食の文化があるはずだ。

 日本のお米の品質は、あちらでは世界的にも高く評価されていた。こちらの世界にはない食料品で、魔獣の素材以上の価値が見込めそうなもので、なおかつ調理の必要がなく手軽に食べられるもの……それを鑑みた結果、おにぎりがいいのではないかと考えたのだ。

 なお、透明なフィルム包装は、もちろんこちらの世界には存在していないものだ。この世界の人々が、初めて見るフィルム包装に対してどんな反応をするかも見ておきたいところだ。

 魔獣の死体と引き換えに食料をドロップさせるとなれば、食料は地面へと落ちてしまうことになる。
 どんな美味しいご飯でも土と泥に汚れてしまったら意味がない。そういった要素も踏まえて考えた結果、このフィルム包装されたおにぎりがドロップ品としていいのではないかと考えたのだ。

 そんなことを考えつつフィルム包装の一片を外し、おにぎりをメイナちゃんへ手渡した。

「はい、どうぞ」

「…………」

 メイナちゃんはおそるおそる、おれの手からおにぎりを受け取る。
 彼女は困惑したようにおれの顔とおにぎりを交互に見つめていたが、その表情を見る限り、今にもおにぎりへ口をつけたいと感じているのは明らかだった。なにせ、メイナちゃんは頬もこけて髪もボサボサで、満足にご飯を食べているようにはとても見えない。

「……っ、ごくり」

 そして、誘惑に勝てなかった彼女は、しばらくしてから意を決したように、おにぎりへパクリとかぶりついた。
 瞬間、その瞳が大きく見開かれる。

「これ……米? こんなの初めて食べた……」

「味はどうかな?」

「なんか、すごく甘くて、今まで食べてたのと全然ちがう。それに、色もすごく真っ白できれい……!」

 メイナちゃんは最初の戸惑いはどこへやら、そのまま魅入られたようにガツガツとおにぎりを頬張り、あっという間に完食してしまった。

 おお、よかった。この調子なら、おにぎりはこの町の人たちに受け入れられそうだな。
 見た感じ、フィルム包装を不思議そうに見てはいるものの、嫌悪感や抵抗感といった感情も感じられないし、問題なさそうだ。

 そういえば、もともとおにぎりを持ってきたのは、ウィルに味見をしてもらうのが目的だったんだよな。そう考えると手間が省けたかもしれない。

 そんなことを考えていたら、不意にぐう、といお腹の鳴る音が背後から聞こえた。

 思わず背後を振り向くと、野次馬のおじさんの一人が、食い入るようにしてメイナちゃんのおにぎりを見つめている。
 いや、一人だけではない。いつの間にか周囲にいた人々が羨ましそうにメイナちゃんの持つおにぎりに熱い視線を注いでいた。

 おれはメイナちゃんへ紙袋を手渡すと、立ち上がってヴォルフへ声をかけた。

「ヴォルフ、そっちの紙袋にも同じおにぎりが入ってるだろう? それ、今まわりにいる皆さんに配ってもらってもいいかな?」

「うむ、いいぞ」

 おれの言葉に、沈黙していた周囲から一気にどよめきが起きる。そんな彼らに対し、おれはさらに大きな声で呼びかけた。

「皆さんをお騒がせしてしまったお詫びです。よかったらお一人二個ずつお持ち帰りください」

 そう言った瞬間、周囲にいた人々がいっせいにわっとヴォルフへと群がった。

 しかし、ヴォルフは体格もよく、放たれているオーラには強者の風格が滲み出ている。そのおかげで、みんなヴォルフの周囲へ詰め寄りはしたが、強引におにぎりを奪うような真似は誰もしなかった。一列に整列とまではいかないが、ちゃんと順番ずつおにぎりをもらっている。

 けれど、ヴォルフの元へ向かわなかった人物もいた。ウィルだ。
 彼は眉間に皺を寄せた気難しい表情を浮かべ、荒い歩みでおれの前へとやってきた。

「兄ちゃん……アンタ、一体なにを考えてるんだ?」

「全部話すよ。でも、ヴォルフが配り終わるまで待っててくれるかな」
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