異世界で気ままにダンジョン運営!

秋山龍央

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第二十話

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 その後、乱闘はウィルと仲間たちの仲裁によってなんとかおさまった。
 話し合いの結果、ダンジョン一階の入口回りに小屋を建てて住み始めた一団は、ひとまず処分などはせずにそのまま据え置くことに。

 ただし、狩りをする時間をわけることになった。
 ダンジョン内に勝手に住み始めた人たちは、原則は、ダンジョン内でのミニゴブリン狩りは三時過ぎから夜半にかけてのみ。
 対して、町からやって来る者たちは、原則は早朝から昼過ぎにミニゴブリン狩りを行う。

 また、ダンジョン内に住みついた人たちは、ダンジョンでの監視の仕事も請け負うことになった。
 ダンジョンに来る人間が、商業都市バルガの住民ならそのまま通してよし。しかし、町民以外の人間が訪れた場合、あるいは中へ入ろうとした場合は『この洞窟は商業都市バルガの資源採掘場であり町有財産である』という旨を説明し、中へ立ち入らせないようにする仕事だ。
 また、ダンジョン内で異変が起きた時はすぐにバルガへ報告にいくこと。

 町からダンジョンにやってくる者たちは「自分たちの狩りの邪魔をしないのなら、むしろ時間をわければ自分たちの取り分が増えるのならそれでいい」と大いに納得したし、ダンジョンに住みついた一団は「自分たちも得られる食料品を独占しようと思っているわけではなかったし、むしろ仕事を貰えるのは助かる」と大変喜んだ。

 この一団は、先の戦争で仕事も家も失ってしまった人たちだそうだ。どうせ町にいても仕事も家もないのだし、むしろこのダンジョンの中の方が雨風もしのげるのだから、と一階に引っ越すことを決めたらしい。引っ越しというか不法占拠というか。

 モニターでそんな彼らのやりとりを眺めながら、おれはウィルの手腕に感心していた。

 町民たちの争いをみごとに仲裁したのももちろんすごいけれど、この一件で、彼はダンジョンの入口を警備する人員まであっさりと確保してしまった。
 これから先、このダンジョンが合法的に商業都市バルガの町有財産となれば、ダンジョンの内外を監視する人員は必要になってくる。

 ケンカの仲裁をしただけでなく、監視役を確保した上、職のなかった町民たちに新たなお仕事を与えたのだから、一石二鳥どころか一石三鳥。
 町の人たちがウィルや、そのお父さんのロックネスさんを頼りにしているのも納得の敏腕っぷりだ。

 その一件から、おれは引き続きモニターでウィルの様子を眺めることにした。
 ヴォルフも隣で新たなシュークリームをほおばりながら、一緒にモニターを眺めている。とはいえ、ヴォルフはちょっと面白くなさそうな表情だ。

「貴様はこの若造のことをずいぶんと気に入っているようだのう」

「うん。ウィルのおかげで、町の皆さんにダンジョンがを受け入れてもらえる期間がぐっと縮まったからね。彼、本当に優秀だよ。あんなに若いのにすごいよなぁ」

 おれがそう言うと、ヴォルフはますます面白くなさそうな顔になってグルルルと唸り声をあげた。

「ふん、あんな若造なんぞ全然たいしたことはない。強さなら俺の方が断然強いし、優秀さでいえば貴様の方がぜったいに上だぞ!」

「あはは、ヴォルフはともかくおれは優秀なんかじゃないよ」

「なにを言う! 見よ、貴様のおかげで今日もダンジョンは一階も二階も人間がうようよとひしめいておるではないか! この調子なら半年で三階層ができそうだぞ!」

 ヴォルフがびしっと指さした先――モニターの横にかけられているのは、電子黒板だ。
 そこには今日、ダンジョンを訪れている人数が数字で表示されている。

 数字の隣には、ダンジョン来訪者の男女比や年齢別、前日と一カ月間の入場者数、そして回収できた魔力量がグラフになって表示されている。

 もちろん、この電子黒板もおれがダンジョン魔法で出したものだ。
 ありがたいことに、この入場者数や魔力量は電子黒板がリアルタイムでカウントし、記録してくれている。おかげで、これを見れば計算をせずとも、今日のダンジョンの来訪者数や必要な魔力量がぱっと見で分かるようになった。

「そうだね、この調子なら本当に半年くらいで三階層ができそうだ」

「うむうむ! 三階層ができたあかつきには、褒美をとらせるゆえ、今から欲しいものを考えておくがよいぞ。マンティコアでもワイバーンでも、貴様の望む魔獣をこの俺が直々に狩ってきてやるからな!」

「……か、考えておくよ」

 ヴォルフの気持ちは嬉しいのだけれど、もっとマイルドな方向のご褒美でお願いできないだろうか。

「あっ、ほら見てヴォルフ! ウィルたちが工事を始めたよ」

 ひとまずおれは話題を逸らすべく、モニターを指さした。
 そこに映っているのは、ダンジョン内の照明工事をするウィルたちの姿だ。

 ただし、工事といっても現代日本のように、ダンジョン内に電気ケーブルを通して照明を取り付けるということではない。
 この世界には『蛍明花』という花が存在している。この花は、湿気があって日の当たらないところで白い花をつける。そして、この花はなんと、暗闇の中で蛍のようにぽうっと発光する性質をもっている。
 この花の種や苗をダンジョンの壁や地面へと植えておくと、花が発光して、薄暗いダンジョンの中を明るく照らしてくれるのだ。

 ウィルたち一行は今日もそんな蛍明花をせっせと植えながら、思い思いにおしゃべりをしていた。
 一階層の植え付け作業は昨日で終了したようで、今日は二階層での作業だ。

『そういえばよ、昨日ウィルが話してた若い二人組が、このダンジョンを発見した冒険者なんだろ?』

『おい、伝えておいたろ? ダンジョンとは言うな。ここはあくまでも「ちょっと珍しい資源がとれる洞窟」なんだぜ』

『あっ、悪い悪い。そうだったな』

 ウィルたちの様子をモニター越しに窺っていると、話題がおれたちのことに及んでいだ。
 そういえば、ウィルや議員さんたち以外の、バルガの町民の皆さんにはおれたちの評判はどんな感じなのだろう。気になるし、ちょっと聞いておこうかな。

『おいら、あの黒髪の細っこい兄ちゃんにこのダンジョンから出たおにぎりを譲ってもらったことがあるよ』

『冒険者ギルドにダンジョンのことを報告すりゃ、報奨金も貰えて冒険者ランクだってひとっとびに上がったっていうのに、ウィルに譲ってくれたんだろ?』

『冒険者にもいい人がいるんだなぁ』

『聞いたところによると、あの兄ちゃんたちだって戦争で家も財産も失っちまったっていうじゃねぇか』

 ふむ、この先遣隊の人たちはおれたちに悪印象は抱いていないようだ。
 まあ、ダンジョンを発見した手柄を譲ったという話も知っているようだし、それはそうか。

 ……そういえば、ダンジョンを発見したのはおれたちだという情報は、バルガの皆さんにはどこまで箝口令が敷かれているんだろう?

 まさかとは思うけれど、このダンジョンと同じく、公然の秘密状態になっているんじゃないだろうな……? なんか先遣隊の皆さんの様子を見る限り、おれたちの話が美談みたいになって伝わってないか?
 ダンジョンを発見したのはおれたちだっていう話は、伏せておいて欲しいんだけれど。

 なお、おれが昨日、市議会議員の皆さんの前で意見を述べたのは、あくまでもこれからのダンジョン運営を円滑にするためだ。商業都市バルガの市政に深くかかわるつもりは毛頭ない。
 今度ウィルに会ったら、ダンジョン発見者がおれたちだっていう情報はちゃんと伏せておくようにと、改めて釘を刺しておこう。なんだか手遅れな気もするけれど。

 そんなことを考えていたら、モニターの向こうでウィルが胸を張って答えた。

『ああ、そうだ。あの兄ちゃんたちは、このダンジョンをオレたちに気前よく譲ってくれた。冒険者だっていうのに、冒険者ギルドじゃなくてオレたちの味方になってくれたんだ!』

『おお、そうなのか……!』

『しかも、あの黒髪の細っこい兄ちゃんはかなり頭がいいぜ。このダンジョンを王国法でバルガの町有財産にしておくことで冒険者ギルドが手を出せないようにする、なんてとんでもねぇ方法を言い出したのはあの兄ちゃんだしな!』

『あんな可愛い顔してるのに、ずいぶんえげつねぇ方法を考えるもんだなぁ』

『もう一人の銀髪の獣人の兄ちゃん――ヴォルフの兄貴はかなり腕が立つみたいだな。なにせ、うちの親父が『俺でも勝てないだろう』って言ってたくらいだ』

『うそだろ、あのロックネスさんが!?』

 ウィルの言葉に、一同が大きくどよめく。
 どうやらウィルのお父さんのロックネスさんは、かなりの手練れで知られているようだ。

 きっと昨日、ヴォルフが会議室で皆を一喝した時に、ロックネスさんはヴォルフの実力の一端を垣間見たのだろう。
 あの時のヴォルフのオーラはすごかったもんなぁ。部屋の温度が十度くらい一気に下がったように感じたし。

『だからオレの予想だと、あの二人は冒険者とはいっても、戦闘はヴォルフの兄貴が担当してるんじゃねぇかな』

『まあ、確かにあの細い兄ちゃんの方はあまり強そうには見えなかったしなぁ。頭脳担当かあるいはサポート役ってことか』

 それにしても、ウィルはやっぱりすごいな。
 おれたちとウィルはそこまで長い付き合いじゃないし、対面して会話をしたのだってまだ数えるくらいなのに……なかなか的確におれたちの関係を言い当てている。

『にしても、不思議な二人組だなぁ? 獣人族の、しかも犬牙族は同族以外とはあんまりパーティーは組まねぇって聞くぜ?』

『そうだな。だからオレの予想だと、多分あの二人はもともと主従関係だったんじゃねぇかなって思うんだよ』

 へぇ、すごい。おれがヴォルフの眷属――つまりヴォルフの部下であるってことまで、ウィルは見抜いたってことか。すごい観察力だ。

『たぶん、あの黒髪の兄ちゃんは裕福な商家か、あるいは貴族の三男坊とかだったんじゃねェかな。で、あのヴォルフの兄貴はその家に仕えていた護衛の剣士だったんだろう。今は冒険者で対等に見えるけどよ、もともとは兄ちゃんの方が主人だったんじゃねェかな』

 せっかくウィルの観察力に感心していたところ、話が思わぬ方向に行ってしまい、おれはソファの上で思わず頭を抱えてしまった。

 おいおい、逆だよ逆!
 主人なのはヴォルフの方だって!

 なんでウィルはおれが主だと思ったんだ?
 どう見ても、ヴォルフの方が主人でおれが従卒だろ。見た目的にも立ち位置的にも。

『ヴォルフの兄貴は無口で不愛想だけど、兄ちゃんが話しかけると嬉しそうにするしな。それに、いつもさりげなく周囲を警戒してるしよ。だから、もともとヴォルフの兄貴は兄ちゃんの家か、あるいは兄ちゃん自身に護衛として仕えていた剣士だったんじゃねェかと思うんだよ』

 ……そうなの?

 全然気づいていなかった。
 ヴォルフはいつもおれと町にいる時、そんな感じだったのか?

 い、いや、でもウィルの観察眼が間違っている可能性もあるよな。

 おれは本当のことを確かめるようと、隣にいるヴォルフへ顔を向けた。
 しかし、そこでおれはぎょっと硬直してしまった。ヴォルフがあまりにも憎々しげに、モニターを睨んでいたからだ。

 も、もしかして、ウィルの発言が気に障ったのか……!?
 おれの従者扱いをされたことが逆鱗に触れたのだろうか?

「あの、ヴォルフ……」

「この髭のはえた男、貴様のことを可愛いとか抜かしていたぞ。今から噛み殺しにいってもいいか?」

「気になるのそっちなの!?」

 予想外のヴォルフの言葉に思わずがくりと身体の力が抜ける。
 しかし、ヴォルフはいまだに怖い表情でモニターを睨んでいた。

「気になるに決まっているだろう。貴様はこの俺の眷属であり、俺のものだ。つまり、貴様を愛でるのは、この俺だけが持つ権利なのだぞ」

「えーっと……いろいろ突っ込みたいことはあるけれど。ひとまず解説すると、このおじさんがおれに対して言った『あんな可愛い顔してるのに』っていう言葉は、愛でるっていう意味の可愛いじゃないから安心してほしいかな」

「なに、そうなのか?」

「うん。この場合の可愛いは、軟弱とか若いって意味合いだと思うよ」

「ふむ……それはそれで思うところがあるが。しかし、この俺のものに手を出すつもりではないのなら、噛み殺すのはいったん保留にしておいてやるか」

 ヴォルフは納得してくれたようだ。
 ようやくモニターを睨むのをやめて、普通の表情に戻ってくれた。

 ……でも、キャンセルじゃなくて保留なんだね。噛み殺し。

『――じゃあ、戦争で仕えていた家も、財産もなくなっちまったのに、それでもまだあの獣人の兄貴は仕えていた主を見捨てず、いまだに護衛をやってるってわけか……』

『今どき珍しい、泣ける忠義話じゃねぇか!』

 そして、ちょっと目を離していた隙に、ウィルの勘違い考察がどんどん皆さんに伝播していた。なんかいつの間にか、感動的な忠義者設定がヴォルフに加えられちゃっている。

 あーもう、めちゃくちゃだよ! 今日2回目!

「ああ、どうしようこれ……ウィルに会ったら、主人なのはヴォルフの方だってちゃんと訂正しておかないと」

「ふむ? べつに、こやつらには好きなよう思わせておけばよいのではないか? この話を否定したら、新たな設定を考える必要ができてしまうのではないか?」

「え、ヴォルフは勘違いされたままでいいの?」

 おれはびっくりしてヴォルフと見つめた。

「この人たちは、ヴォルフがおれの従者だって思い込んでるんだよ? それでもヴォルフはいやじゃないの?」

「かまわないぞ。とはいえ、この件で貴様が俺に対して横柄な態度をとるのであれば、もちろん俺も出方を変えるが……貴様はそういうことはせぬだろうしな」

「もちろんそんなことしないよ!」

 おれがぶんぶんと首を横に振ると、ヴォルフが嬉しそうに笑った。

「ならよいのだ。大事なことは、貴様と俺が分かっていればよいではないか。人間がどんな噂や憶測をしようが、それは空想というお遊びに過ぎぬ」

「……ヴォルフは大人だなぁ」

 なんというか……この数日の間に、ヴォルフの成長っぷりが激しいぞ。
 最初の日に「人間のことは人間に聞けばよいではないか」と言って、人間を殺すダンジョンに人間のおれを召喚したヴォルフと同一人物とは思えない。

 そりゃあ今だって少しは、世間知らず的な言動をすることもあるけれど……昨日だって、おれが言葉に詰まったら、すごく的確なタイミングでフォローをいれてくれたし。
 もしかして、ヴォルフって地頭はかなりいいんじゃないかな?

「そういえばさ、改めて聞きたいんだけれど。ヴォルフ的にはこのダンジョンが、商業都市バルガの町有財産になるって件はどう思ってるの? ダンジョンは自分のものだって人間たちに主張されるのは、じつは嫌だったりする……?」

 おれが恐る恐る尋ねると、ヴォルフはすぐに首を横に振った。

「そんなことはないぞ、前にも言っただろう? 俺の第一の目的は、このダンジョンの階層を増やすことだ。貴様の行動は、その目的に向かって着実に歩みを進めている。嫌なことなぞなにもない」

「そっか、それなら良かった」

「人間どもがどんな思惑を抱こうが、この俺がダンジョンマスターであるという事実が揺らぐことはないしのう。ならば、人間共にはせいぜい我らの掌の上で踊ってもらうとしようではないか」

「おお、なんだか本当にダンジョンマスターっぽい台詞だ……!」

 おれがパチパチと拍手をすると、ヴォルフは得意げに胸をえへんと張った。

 いや、でも本当にすごい。
 この数日の間のヴォルフの成長っぷりが、本当にめざましい。

 もちろん、ヴォルフにはまだまだ世間知らずなところもある。けれど、それはずっとダンジョンの中で一人きりでいたからだ。

 これから先、人間の価値観や社会観を学んでいけば――それこそ知恵でも力でも並び立つ者のない最強のダンジョンマスターになるだろう。
 そして、その日が来るのはそんなに遠い未来ではないのかもしれない。

 おれたち二人がそんな会話をしていると、ふと、モニターの向こうがにわかに騒がしくなった。
 ふと見れば、二階層に新たにやってきたと思わしき男女二人組――かなり若い、まだ十代前半くらいじゃないだろうか――が、ウィルたち一行に何事かを必死に訴えかけている。かなり切羽詰まった表情だ。

『――おい、それはいつ頃の話なんだ?』

『今日の朝だよ! メイナのやつ、早朝に家を出てからずっと家に帰ってきてないんだって! 配給にも来てないし!』

『どうもメイナちゃん、このダンジョンのことを誰かに聞いたみたいで……お母さんにもう一度おにぎりを食べさせてあげたいって、町からこのダンジョンに一人で向かったみたいなのよ』

『でもよ、ここのダンジョンにいる人たちに聞いても、誰もメイナを見てないっていうんだよ!』
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