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それからも時々屋敷を抜け出しては彼女の様子を伺う彼の様子があった、侍従らは見て見ぬふりをしていたがこうも頻繁だと目立ってしまう。
「坊ちゃま、あまり離れには近づかれませんように」
「……な、なんの事か!ボクは知らないぞ!」
「さようでしたか、ですがこれ以上は旦那様に報告せねばなりません」
「わかったよ!行かなければ良いんだろう!」
そっぽを向いて逆切れしたクレマンはプリプリと怒って居室へと逃げて行った。その後も何かと外出するおり離れの側を通った、後ろ髪を惹かれる想いであったが、クレマンは我慢をして縁遠くなった。
しかし、三年後の冬先の頃だった。
離れに住まう愛人アリーヌの容態が悪化したようだと噂が立つ。元より身体が丈夫ではなかったために具合の悪さが危惧されていた。
「ふぅん、愛人がねぇそれは気の毒な事だよ」
さして興味もなさそうにしているクレマンは十七歳になり社交界デビューを果たしていた。上背も大分高くなり大人びた顔をして澄ましていた。
そんな時、珍しく父親が書斎に息子を呼び出した、訝しむ彼は「お呼びでしょうか」と能面顔で対応する。今更に親子ぶってなんになるのだという感じだ。
ジロリと睨みを利かせてくるがもう以前のヒョロガリではない、身長も父親に負けてはいなかった。
「家督について話がある、お前にその才があるのか見極めたいと考える」
「なるほど、領民を護る度量があるか見たいのですね」
「……そういうことだ、今すぐということではないが覚悟しておけ」
「はい、仰せのままに」
一応は腰低く礼をしてその場は去った、腹の底では「色呆けジジィが」と悪態をついていたがそれは報せる必要はない。
「お父様の話はなんて?」
母のマチルドは少々退屈気味に聞いて来た、相変わらず毒々しい爪色をしてヤスリをかけている。まさにカマキリ夫人という感じだ。
「僕に領民を護る度量があるか見極めたいらしいですよ、一応は世襲のことを考えていたらしい。色事ばかりの能無しかと思ってました」
嫌味たっぷりに言ってやれば母はくつくつと笑い「口が悪い子」と言って扇を広げた。
「思っても言ってはいけないわ、特に家令の前ではね」
「わかっていますよ、母上。どこで聞き耳を立てているかわかりませんからね」
「ふふふっ」
母親は分厚い何かの書類を出してきて、これを見るように言って来た。どうやら帳簿のようだ。
「これは?」
「……オドラン家の収支報告書の写しよ、やっとここまできたわ。やっとね、はぁ長かったわ、概ね黒字になっているわ。これで憂うことはなくなった、あの人に大きな顔をされなくて済むわ」
「で、では!愛人に一矢報いるということですか!」
「ふふ、慌てることはないわ。これからじっくりと返していきましょう」
夫人はまたヤスリを掛け直して「グラデは紫色がいいかしら」と言った。
「坊ちゃま、あまり離れには近づかれませんように」
「……な、なんの事か!ボクは知らないぞ!」
「さようでしたか、ですがこれ以上は旦那様に報告せねばなりません」
「わかったよ!行かなければ良いんだろう!」
そっぽを向いて逆切れしたクレマンはプリプリと怒って居室へと逃げて行った。その後も何かと外出するおり離れの側を通った、後ろ髪を惹かれる想いであったが、クレマンは我慢をして縁遠くなった。
しかし、三年後の冬先の頃だった。
離れに住まう愛人アリーヌの容態が悪化したようだと噂が立つ。元より身体が丈夫ではなかったために具合の悪さが危惧されていた。
「ふぅん、愛人がねぇそれは気の毒な事だよ」
さして興味もなさそうにしているクレマンは十七歳になり社交界デビューを果たしていた。上背も大分高くなり大人びた顔をして澄ましていた。
そんな時、珍しく父親が書斎に息子を呼び出した、訝しむ彼は「お呼びでしょうか」と能面顔で対応する。今更に親子ぶってなんになるのだという感じだ。
ジロリと睨みを利かせてくるがもう以前のヒョロガリではない、身長も父親に負けてはいなかった。
「家督について話がある、お前にその才があるのか見極めたいと考える」
「なるほど、領民を護る度量があるか見たいのですね」
「……そういうことだ、今すぐということではないが覚悟しておけ」
「はい、仰せのままに」
一応は腰低く礼をしてその場は去った、腹の底では「色呆けジジィが」と悪態をついていたがそれは報せる必要はない。
「お父様の話はなんて?」
母のマチルドは少々退屈気味に聞いて来た、相変わらず毒々しい爪色をしてヤスリをかけている。まさにカマキリ夫人という感じだ。
「僕に領民を護る度量があるか見極めたいらしいですよ、一応は世襲のことを考えていたらしい。色事ばかりの能無しかと思ってました」
嫌味たっぷりに言ってやれば母はくつくつと笑い「口が悪い子」と言って扇を広げた。
「思っても言ってはいけないわ、特に家令の前ではね」
「わかっていますよ、母上。どこで聞き耳を立てているかわかりませんからね」
「ふふふっ」
母親は分厚い何かの書類を出してきて、これを見るように言って来た。どうやら帳簿のようだ。
「これは?」
「……オドラン家の収支報告書の写しよ、やっとここまできたわ。やっとね、はぁ長かったわ、概ね黒字になっているわ。これで憂うことはなくなった、あの人に大きな顔をされなくて済むわ」
「で、では!愛人に一矢報いるということですか!」
「ふふ、慌てることはないわ。これからじっくりと返していきましょう」
夫人はまたヤスリを掛け直して「グラデは紫色がいいかしら」と言った。
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