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壁際のひと騒動から二日後の事、マルガネット・シュナイザ伯爵令嬢は仏頂面で王城に来ていた。例の褒章授与を辞退したのにも拘わらず強制的に受けることになったのだ。
「そんな顔をするなシュナイザ嬢、そんなに王城が嫌いかね」
いま場面は王に謁見している所なのだが、王の方が恐縮して気を使っていた。もちろん、平伏しているのはマルガネットである、にも拘わらず不機嫌オーラ全開で挑んでいた。眉を顰め鼻にも皺を作っている様はとても喜んでいるようには見えない。
噛みつきそうな勢いのマルガネットは「グルルル」という声が出そうである。
「王に置かれましては、ご健勝そうで何よりでございます……ふふ」
如何にもな定型文で挨拶をする彼女は不敬ギリギリの態度である、共に登城してきたシュナイザ卿は蒼くなるばかりだ。近頃は御髪の様子が枯れてきた。
「まぁ良い、褒章を授ける事は自由であるというのに些か無理をさせた。ゴホン、時に輿入れ先はもう決まったのかね?先の縁談では後れを取ったが我が息子ガダインとザーガがおるのだがどうだろう?特にガダインは貴殿に好意を寄せているようだ」
「はい?」
何故、あった事も無いガダイン王子が自分を見初めていると聞いてキョトンとする、確かに夜会では挨拶をしたことはあるがあれを出会いと呼べるとは思えない。
「うん、貴殿の戦いぶりを目の当たりにして惚れこんでおるのだ。どうだろう?」
「まぁ……そんな」
先のスタンピードでの事を言われて何となく記憶に掠めた程度には覚えがあった、『あぁ、追い込まれた時のあの騎士か』と……確かに身形の良い騎士がいたと思い出し彼女は額に手をやる。無理矢理な呼び出しの理由はこれだったのだ。
「おそれながら……」
断わるつもりで口を開いたマルガネットだったがその言葉を遮る鋭い「待った!」が轟く。驚いた彼女が振り向けばそこに佇んでいたのはレイだった。
「レイ?」
縋るように見つめる彼女を無視して彼は御前に跪く、そして真っ直ぐに王を見つめてこう言う。
「王よ、私の褒章の件ですが、是非にシュナイザ嬢との結婚をお許し願いたく存じます。婚姻期日は明日でございます」
「な!?レイ何を言いだすの」
二度驚いた彼女は目を見開いた、貴族間の婚姻は少なくとも半年はかかると言うものそれを明日などと申し入れを出すとは信じ難い。しかもレイは氏名さえ持たない平民である、いくら褒章とはいえ強引すぎた。
「レイ、貴方……どうしちゃったの」
「しっ、マルガネットここは俺に任せてくれないか?」
そう言ってウインクしてくるレイはどこかお道化ていて楽しそうにしている。先日のブレンドンの奇行を思い出し渋面になった。
「そうか、相分かった。すでに思い人がおったのだな、済まなかったぞシュナイザ嬢」
「は、はい。申し訳ごいざい……ません?」
「なんで疑問形なの、酷いなぁ」
クツクツと笑うレイは呆ける彼女の額を突いた、これにはマルガネットも笑うしかない。
「貴方ってとっぴもないことを言うのね、婚姻は明日だなんて貴族の習わしなんて完全無視?」
帰りの馬車の中で彼女は彼の言った事を反芻して言う、それから婚姻衣装はどうしようと頭を捻る。
「何も心配ないさ、俺に任せてくれと言ったでしょう?このクレイグ・ベレット侯爵の名にかけて、申し分のない結婚式を上げるよ」
「え?は……はぁあああ!侯爵ですって!?聞いてない!」
「うん、教えてないもん」
最高の悪戯が決まって、それは嬉しそうに笑うレイの顔があった。
*申し少しだけお付き合いください
「そんな顔をするなシュナイザ嬢、そんなに王城が嫌いかね」
いま場面は王に謁見している所なのだが、王の方が恐縮して気を使っていた。もちろん、平伏しているのはマルガネットである、にも拘わらず不機嫌オーラ全開で挑んでいた。眉を顰め鼻にも皺を作っている様はとても喜んでいるようには見えない。
噛みつきそうな勢いのマルガネットは「グルルル」という声が出そうである。
「王に置かれましては、ご健勝そうで何よりでございます……ふふ」
如何にもな定型文で挨拶をする彼女は不敬ギリギリの態度である、共に登城してきたシュナイザ卿は蒼くなるばかりだ。近頃は御髪の様子が枯れてきた。
「まぁ良い、褒章を授ける事は自由であるというのに些か無理をさせた。ゴホン、時に輿入れ先はもう決まったのかね?先の縁談では後れを取ったが我が息子ガダインとザーガがおるのだがどうだろう?特にガダインは貴殿に好意を寄せているようだ」
「はい?」
何故、あった事も無いガダイン王子が自分を見初めていると聞いてキョトンとする、確かに夜会では挨拶をしたことはあるがあれを出会いと呼べるとは思えない。
「うん、貴殿の戦いぶりを目の当たりにして惚れこんでおるのだ。どうだろう?」
「まぁ……そんな」
先のスタンピードでの事を言われて何となく記憶に掠めた程度には覚えがあった、『あぁ、追い込まれた時のあの騎士か』と……確かに身形の良い騎士がいたと思い出し彼女は額に手をやる。無理矢理な呼び出しの理由はこれだったのだ。
「おそれながら……」
断わるつもりで口を開いたマルガネットだったがその言葉を遮る鋭い「待った!」が轟く。驚いた彼女が振り向けばそこに佇んでいたのはレイだった。
「レイ?」
縋るように見つめる彼女を無視して彼は御前に跪く、そして真っ直ぐに王を見つめてこう言う。
「王よ、私の褒章の件ですが、是非にシュナイザ嬢との結婚をお許し願いたく存じます。婚姻期日は明日でございます」
「な!?レイ何を言いだすの」
二度驚いた彼女は目を見開いた、貴族間の婚姻は少なくとも半年はかかると言うものそれを明日などと申し入れを出すとは信じ難い。しかもレイは氏名さえ持たない平民である、いくら褒章とはいえ強引すぎた。
「レイ、貴方……どうしちゃったの」
「しっ、マルガネットここは俺に任せてくれないか?」
そう言ってウインクしてくるレイはどこかお道化ていて楽しそうにしている。先日のブレンドンの奇行を思い出し渋面になった。
「そうか、相分かった。すでに思い人がおったのだな、済まなかったぞシュナイザ嬢」
「は、はい。申し訳ごいざい……ません?」
「なんで疑問形なの、酷いなぁ」
クツクツと笑うレイは呆ける彼女の額を突いた、これにはマルガネットも笑うしかない。
「貴方ってとっぴもないことを言うのね、婚姻は明日だなんて貴族の習わしなんて完全無視?」
帰りの馬車の中で彼女は彼の言った事を反芻して言う、それから婚姻衣装はどうしようと頭を捻る。
「何も心配ないさ、俺に任せてくれと言ったでしょう?このクレイグ・ベレット侯爵の名にかけて、申し分のない結婚式を上げるよ」
「え?は……はぁあああ!侯爵ですって!?聞いてない!」
「うん、教えてないもん」
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