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愚策
「命拾いしたよ、ありがとう。このお礼をどう返そうか」
トバイアスは涙を浮かべて彼女の手を取り礼を言う、その指先は少し冷たいが確かに命を繋いだ。彼は心臓の病に勝ったのである。
「そんな殿下、私は過去の記憶を披露したまでです。私の叔母が……というか叔母だったものが似たような症状で苦しんでいたので」
アメンティーナは恐縮した面持ちで俯いた。
彼女の名までは思い出せないが、確かに狭心症で苦しんでいた事を思い出したのだ。二人がお茶をしている際に症状が現れ「胸が痛い」と王子が苦しみだした。その症状を知るや「もしかして」とアメンティーナは機転を利かせた。
「たまたまというが私は運が良い。今の技術では心臓脇にある血管に問題があるとは到底思いつかなかったよ」
「殿下、それならば血管の詰まりを解した治癒魔術師に感謝すべきですわ。彼が尽力したからで」
アメンティーナはあくまで治癒した魔術師の手柄であると遠慮するのである。原因を知っていたとはいえ、彼女は治療出来なかった。
「あぁ、それにしても胸の痛みがすっかり消えた。生まれ変わったようだよ」
彼は目を細めて今ある自分を見つめ直し、生きている喜びに感謝するのだ。そして、血色が良くなった自分の顔を見てふっと笑う。時折襲って来た胸の痛みはすっかり消えて、安堵の表情を浮かべる。
「大事に至らなくて本当に良かったですわ。生きてくれてありがとう殿下」
「ふふ、そんな風に言われると擽ったいなぁ」
再び彼らは両手を出して握り合い、命の尊さを実感するのだった。
***
「ゴホッ!なんだって!?不治の病と言われる狭心症が治ったというのか!」
呑気に午後茶を嗜んでいたロドリゲスの叔父ボセンティ・アルバニアは今しがた飲み込んだ茶にむせ返る。虚弱と聞いていたトバイアスが健康になったと聞いて泡を食う。放っておいても自ら地位を失うだろうと高を括っていた叔父からしたら口惜しいことだ。
「くそう……手を出さずとも消え失せると思っていたのに、なんという事だ!」
「はい、叔父上。俺も同意見さ」
情報を持って来たロドリゲス本人も口惜しそうに歯噛みしている。
病を抱えるトバイアスは王の座から遠いと思っていた、恐らくロドリゲスの従兄達から候補を選ぶだろうと牽制を仕掛けていたところだ。
「これは拙いぞ、一気に劣勢になったではないか……」
「どうしよう叔父上、このままでは兄上が王の玉座に乗ってしまうよ」
2歳上の兄は病に伏せがちで弟のロドリゲスと同学年に落ちていた、それを見て兄を侮蔑の目で見て来たのだ。体の弱さは頭の悪さを下回ると思っていた。
「そうだな、やはり実力行使と行こうか。なぁ我が甥よ……いいや、我が子と言おうか。私はお前と養子縁組しようと思う」
「それでは叔父上!いいえ父上いよいよ反旗を翻すおつもりですか?」
「うむ、内部告発を皮切りに国崩しを実行するぞ!何、騎士団には私の息が掛かったものも多いのだよ!」
不敵に笑うボセンティは自分の駒になるだろう者の名を指折り数えた。その数は少々少ないが金に物を言わせればどうとでもなると思っていた。その中には兄ブロッケンを良く思っていない大臣らも含まれている。
トバイアスは涙を浮かべて彼女の手を取り礼を言う、その指先は少し冷たいが確かに命を繋いだ。彼は心臓の病に勝ったのである。
「そんな殿下、私は過去の記憶を披露したまでです。私の叔母が……というか叔母だったものが似たような症状で苦しんでいたので」
アメンティーナは恐縮した面持ちで俯いた。
彼女の名までは思い出せないが、確かに狭心症で苦しんでいた事を思い出したのだ。二人がお茶をしている際に症状が現れ「胸が痛い」と王子が苦しみだした。その症状を知るや「もしかして」とアメンティーナは機転を利かせた。
「たまたまというが私は運が良い。今の技術では心臓脇にある血管に問題があるとは到底思いつかなかったよ」
「殿下、それならば血管の詰まりを解した治癒魔術師に感謝すべきですわ。彼が尽力したからで」
アメンティーナはあくまで治癒した魔術師の手柄であると遠慮するのである。原因を知っていたとはいえ、彼女は治療出来なかった。
「あぁ、それにしても胸の痛みがすっかり消えた。生まれ変わったようだよ」
彼は目を細めて今ある自分を見つめ直し、生きている喜びに感謝するのだ。そして、血色が良くなった自分の顔を見てふっと笑う。時折襲って来た胸の痛みはすっかり消えて、安堵の表情を浮かべる。
「大事に至らなくて本当に良かったですわ。生きてくれてありがとう殿下」
「ふふ、そんな風に言われると擽ったいなぁ」
再び彼らは両手を出して握り合い、命の尊さを実感するのだった。
***
「ゴホッ!なんだって!?不治の病と言われる狭心症が治ったというのか!」
呑気に午後茶を嗜んでいたロドリゲスの叔父ボセンティ・アルバニアは今しがた飲み込んだ茶にむせ返る。虚弱と聞いていたトバイアスが健康になったと聞いて泡を食う。放っておいても自ら地位を失うだろうと高を括っていた叔父からしたら口惜しいことだ。
「くそう……手を出さずとも消え失せると思っていたのに、なんという事だ!」
「はい、叔父上。俺も同意見さ」
情報を持って来たロドリゲス本人も口惜しそうに歯噛みしている。
病を抱えるトバイアスは王の座から遠いと思っていた、恐らくロドリゲスの従兄達から候補を選ぶだろうと牽制を仕掛けていたところだ。
「これは拙いぞ、一気に劣勢になったではないか……」
「どうしよう叔父上、このままでは兄上が王の玉座に乗ってしまうよ」
2歳上の兄は病に伏せがちで弟のロドリゲスと同学年に落ちていた、それを見て兄を侮蔑の目で見て来たのだ。体の弱さは頭の悪さを下回ると思っていた。
「そうだな、やはり実力行使と行こうか。なぁ我が甥よ……いいや、我が子と言おうか。私はお前と養子縁組しようと思う」
「それでは叔父上!いいえ父上いよいよ反旗を翻すおつもりですか?」
「うむ、内部告発を皮切りに国崩しを実行するぞ!何、騎士団には私の息が掛かったものも多いのだよ!」
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