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哀れな男
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再びオーストン侯爵邸に集まった両家での話し合いの場で、愚かなクレッグは弁明に必死だった。
「違う、違うんだ!俺は浮気などしたことはない!そりゃ経験くらいはあるが……娼館でのことだし」
要らん事を暴露したクレッグは言ってしまってから口を押さえるも遅い、彼女から軽蔑の眼差しを向けられ青くなる。
「気持ちが悪い……汚れたその手で私に触れていただなんて最低最悪だわ。もうお帰り下さい、これ以上の話し合いは必要ありません」
「そ、そんなナタリア!お願いだ、俺にはキミしかいないんだ!」
どの口が言うのかと呆れる両家の人々、そして世迷言を並べる彼に益々と彼女は不機嫌になっていく、今後は会うことは遠慮したいとナタリアは言うと応接間から去るべく立ち上がった。
「待って待ってくれ……ほんとうにもう駄目なのかい?」
みっともなくこの期に及んで縋ろうとするクレッグの姿は醜い化物のように彼女の目に映った。
「……しつこい男が一番嫌い虫唾が走るわ、そして0.0000000001%でも可能性が残っていると思っているなら彼方は脳の検査を受けるべきよ」
慈悲の片鱗もない言葉を投げられた彼はガクリと床に膝を着いてジメジメと泣きだした。「矜持はないのか」と彼の父が怒鳴る。それから慰謝料を払うとオーストン側に頭を下げて来たが「婚約してもいない娘が慰謝料を受け取るのは外聞が悪い」とナタリアの父は断った。
「清い交際だった、それだけが救いね」
彼女はその言葉を残して部屋から出て行った、ドアが閉じたその瞬間にクレッグの赤子のような泣き声が屋敷中に轟いたことは後の笑い話である。そしてアルバーン家の醜聞が瞬く間に社交界に広まったのは言うまでもない。
***
「惨めに泣き叫んだのですって、あぁ嫌だ。見目だけの男ってことでしょう?雑草のほうが余程役に立つじゃない、だってそうでしょ虫の餌にはなるもの。虫はやがて鳥の糧になるそして猟師がそれを屠る、自然界は尊いわ」
やや脱線気味の感想を述べるのは、かつてクレッグに纏わりついていた令嬢である。
破局劇に遠からず関わりがある一人ではあるが、クレッグと特別な何かがあったわけではないので咎めようがない。
王城での立国記念パーティに顔を出していた貴族たちは、早速と転がって来たスキャンダルを喜ぶ。
ナタリア・オーストンは痛くも無い腹を探られる覚悟で参加したが、標的にされていたのはアルバーン侯爵家だけであった。
記念祝賀に顔を出さないわけにいかなかった彼らは会場の隅に縮こまって誰とも視線を合わせない。しかし、クレッグの姿は見当たらない。屋敷の奥で隠遁生活をしていると噂された。
肩の荷が下りたと溜息を吐き壁の花を決め込んでいたナタリアに、とある令嬢が親し気に声をかけてきた。クレッグに御執心だった女子の一人で先ほどクレッグのことを雑草以下と嘲弄していた人物である。
「こんばんは、良い夜ですわね」
「……はぁ建国500年に乾杯ですわ」
当たり障りない挨拶を交わすと令嬢は聞かれてもいないのに、彼に群がっていた頃の事を話してきた。
クレッグのお気に入りだったらしい彼女は、赤髪の派手な容姿をしており取り巻きの中で目立つ存在で、ナタリアなどよりも恋人らしい立ち位置だった。しかし……
「彼に対して恋心などなかったわ、所詮は社交界で目立つためのアクセサリーのようなものよ」
「恋してなかったですって?貴女は誰よりも親し気だったわ」
驚くナタリアに彼女は蠱惑な微笑みを浮かべて答える。
「だって見目だけは良かったもの、誰よりも美しい顔と整った肢体を持ったクレッグ。少なくともこの国では一番の美男子だわダンスもまあまあ上手くて優雅だったし」
見た目ばかりを褒められるクレッグは、いまこの場にいたらなんと言うだろうか。
「彼自身も言ってたように花と同じ引き立て役だったの、貴女には悪い事をしたと思っているわ。でも空っぽのダメ男と破局して良かったでしょ?」
「あぁ……そう言う点では感謝しかないですわ」
ナタリアは苦笑してそう答える他なかった、思う所はあったが別に令嬢を恨む気はサラサラない。
言いたい放題だった令嬢は気が済んだのか暇する礼をして噂雀が屯するそこへ向かって行く。まるで戦場へ赴く騎士のようだとナタリアはその背中を見送る。自分にはない女の強かさを彼女に見た。
「前を向くって難しいものだわ」
どこかまだ過去に捕らわれている己に恥じる彼女である、未練はなくとも彼に恋焦がれて過ごした無駄な日々を悔やんでいるのだ。嫌いから無関心に変わるのは何年後だろう。
「違う、違うんだ!俺は浮気などしたことはない!そりゃ経験くらいはあるが……娼館でのことだし」
要らん事を暴露したクレッグは言ってしまってから口を押さえるも遅い、彼女から軽蔑の眼差しを向けられ青くなる。
「気持ちが悪い……汚れたその手で私に触れていただなんて最低最悪だわ。もうお帰り下さい、これ以上の話し合いは必要ありません」
「そ、そんなナタリア!お願いだ、俺にはキミしかいないんだ!」
どの口が言うのかと呆れる両家の人々、そして世迷言を並べる彼に益々と彼女は不機嫌になっていく、今後は会うことは遠慮したいとナタリアは言うと応接間から去るべく立ち上がった。
「待って待ってくれ……ほんとうにもう駄目なのかい?」
みっともなくこの期に及んで縋ろうとするクレッグの姿は醜い化物のように彼女の目に映った。
「……しつこい男が一番嫌い虫唾が走るわ、そして0.0000000001%でも可能性が残っていると思っているなら彼方は脳の検査を受けるべきよ」
慈悲の片鱗もない言葉を投げられた彼はガクリと床に膝を着いてジメジメと泣きだした。「矜持はないのか」と彼の父が怒鳴る。それから慰謝料を払うとオーストン側に頭を下げて来たが「婚約してもいない娘が慰謝料を受け取るのは外聞が悪い」とナタリアの父は断った。
「清い交際だった、それだけが救いね」
彼女はその言葉を残して部屋から出て行った、ドアが閉じたその瞬間にクレッグの赤子のような泣き声が屋敷中に轟いたことは後の笑い話である。そしてアルバーン家の醜聞が瞬く間に社交界に広まったのは言うまでもない。
***
「惨めに泣き叫んだのですって、あぁ嫌だ。見目だけの男ってことでしょう?雑草のほうが余程役に立つじゃない、だってそうでしょ虫の餌にはなるもの。虫はやがて鳥の糧になるそして猟師がそれを屠る、自然界は尊いわ」
やや脱線気味の感想を述べるのは、かつてクレッグに纏わりついていた令嬢である。
破局劇に遠からず関わりがある一人ではあるが、クレッグと特別な何かがあったわけではないので咎めようがない。
王城での立国記念パーティに顔を出していた貴族たちは、早速と転がって来たスキャンダルを喜ぶ。
ナタリア・オーストンは痛くも無い腹を探られる覚悟で参加したが、標的にされていたのはアルバーン侯爵家だけであった。
記念祝賀に顔を出さないわけにいかなかった彼らは会場の隅に縮こまって誰とも視線を合わせない。しかし、クレッグの姿は見当たらない。屋敷の奥で隠遁生活をしていると噂された。
肩の荷が下りたと溜息を吐き壁の花を決め込んでいたナタリアに、とある令嬢が親し気に声をかけてきた。クレッグに御執心だった女子の一人で先ほどクレッグのことを雑草以下と嘲弄していた人物である。
「こんばんは、良い夜ですわね」
「……はぁ建国500年に乾杯ですわ」
当たり障りない挨拶を交わすと令嬢は聞かれてもいないのに、彼に群がっていた頃の事を話してきた。
クレッグのお気に入りだったらしい彼女は、赤髪の派手な容姿をしており取り巻きの中で目立つ存在で、ナタリアなどよりも恋人らしい立ち位置だった。しかし……
「彼に対して恋心などなかったわ、所詮は社交界で目立つためのアクセサリーのようなものよ」
「恋してなかったですって?貴女は誰よりも親し気だったわ」
驚くナタリアに彼女は蠱惑な微笑みを浮かべて答える。
「だって見目だけは良かったもの、誰よりも美しい顔と整った肢体を持ったクレッグ。少なくともこの国では一番の美男子だわダンスもまあまあ上手くて優雅だったし」
見た目ばかりを褒められるクレッグは、いまこの場にいたらなんと言うだろうか。
「彼自身も言ってたように花と同じ引き立て役だったの、貴女には悪い事をしたと思っているわ。でも空っぽのダメ男と破局して良かったでしょ?」
「あぁ……そう言う点では感謝しかないですわ」
ナタリアは苦笑してそう答える他なかった、思う所はあったが別に令嬢を恨む気はサラサラない。
言いたい放題だった令嬢は気が済んだのか暇する礼をして噂雀が屯するそこへ向かって行く。まるで戦場へ赴く騎士のようだとナタリアはその背中を見送る。自分にはない女の強かさを彼女に見た。
「前を向くって難しいものだわ」
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