完結 弄ぶのも大概に

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
4 / 12

哀れな男

しおりを挟む
再びオーストン侯爵邸に集まった両家での話し合いの場で、愚かなクレッグは弁明に必死だった。

「違う、違うんだ!俺は浮気などしたことはない!そりゃ経験くらいはあるが……娼館でのことだし」
要らん事を暴露したクレッグは言ってしまってから口を押さえるも遅い、彼女から軽蔑の眼差しを向けられ青くなる。
「気持ちが悪い……汚れたその手で私に触れていただなんて最低最悪だわ。もうお帰り下さい、これ以上の話し合いは必要ありません」
「そ、そんなナタリア!お願いだ、俺にはキミしかいないんだ!」
どの口が言うのかと呆れる両家の人々、そして世迷言を並べる彼に益々と彼女は不機嫌になっていく、今後は会うことは遠慮したいとナタリアは言うと応接間から去るべく立ち上がった。

「待って待ってくれ……ほんとうにもう駄目なのかい?」
みっともなくこの期に及んで縋ろうとするクレッグの姿は醜い化物のように彼女の目に映った。
「……しつこい男が一番嫌い虫唾が走るわ、そして0.0000000001%でも可能性が残っていると思っているなら彼方は脳の検査を受けるべきよ」
慈悲の片鱗もない言葉を投げられた彼はガクリと床に膝を着いてジメジメと泣きだした。「矜持はないのか」と彼の父が怒鳴る。それから慰謝料を払うとオーストン側に頭を下げて来たが「婚約してもいない娘が慰謝料を受け取るのは外聞が悪い」とナタリアの父は断った。

「清い交際だった、それだけが救いね」
彼女はその言葉を残して部屋から出て行った、ドアが閉じたその瞬間にクレッグの赤子のような泣き声が屋敷中に轟いたことは後の笑い話である。そしてアルバーン家の醜聞が瞬く間に社交界に広まったのは言うまでもない。


***


「惨めに泣き叫んだのですって、あぁ嫌だ。見目だけの男ってことでしょう?雑草のほうが余程役に立つじゃない、だってそうでしょ虫の餌にはなるもの。虫はやがて鳥の糧になるそして猟師がそれを屠る、自然界は尊いわ」
やや脱線気味の感想を述べるのは、かつてクレッグに纏わりついていた令嬢である。

破局劇に遠からず関わりがある一人ではあるが、クレッグとがあったわけではないので咎めようがない。
王城での立国記念パーティに顔を出していた貴族たちは、早速と転がって来たスキャンダルを喜ぶ。
ナタリア・オーストンは痛くも無い腹を探られる覚悟で参加したが、標的にされていたのはアルバーン侯爵家だけであった。
記念祝賀に顔を出さないわけにいかなかった彼らは会場の隅に縮こまって誰とも視線を合わせない。しかし、クレッグの姿は見当たらない。屋敷の奥で隠遁生活をしていると噂された。



肩の荷が下りたと溜息を吐き壁の花を決め込んでいたナタリアに、とある令嬢が親し気に声をかけてきた。クレッグに御執心だった女子の一人で先ほどクレッグのことを雑草以下と嘲弄していた人物である。
「こんばんは、良い夜ですわね」
「……はぁ建国500年に乾杯ですわ」

当たり障りない挨拶を交わすと令嬢は聞かれてもいないのに、彼に群がっていた頃の事を話してきた。
クレッグのお気に入りだったらしい彼女は、赤髪の派手な容姿をしており取り巻きの中で目立つ存在で、ナタリアなどよりも恋人らしい立ち位置だった。しかし……

「彼に対して恋心などなかったわ、所詮は社交界で目立つためのアクセサリーのようなものよ」
「恋してなかったですって?貴女は誰よりも親し気だったわ」
驚くナタリアに彼女は蠱惑な微笑みを浮かべて答える。
「だって見目だけは良かったもの、誰よりも美しい顔と整った肢体を持ったクレッグ。少なくともこの国では一番の美男子だわダンスもまあまあ上手くて優雅だったし」
見た目ばかりを褒められるクレッグは、いまこの場にいたらなんと言うだろうか。

「彼自身も言ってたように花と同じ引き立て役だったの、貴女には悪い事をしたと思っているわ。でも空っぽのダメ男と破局して良かったでしょ?」
「あぁ……そう言う点では感謝しかないですわ」
ナタリアは苦笑してそう答える他なかった、思う所はあったが別に令嬢を恨む気はサラサラない。

言いたい放題だった令嬢は気が済んだのか暇する礼をして噂雀が屯するそこへ向かって行く。まるで戦場へ赴く騎士のようだとナタリアはその背中を見送る。自分にはない女の強かさを彼女に見た。

「前を向くって難しいものだわ」
どこかまだ過去に捕らわれている己に恥じる彼女である、未練はなくとも彼に恋焦がれて過ごした無駄な日々を悔やんでいるのだ。嫌いから無関心に変わるのは何年後だろう。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

真実の愛は水晶の中に

立木
恋愛
学園の卒業を祝うパーティーの最中、レイシア・マレーニ侯爵令嬢は第三王子とピンク髪の女、その取り巻きたちによって断罪されようとしていた。 しかし断罪劇は思わぬ方向へ進んでいく。 ※AIイラスト使用 ※「なろう」にも重複投稿しています。

代理で子を産む彼女の願いごと

しゃーりん
恋愛
クロードの婚約者は公爵令嬢セラフィーネである。 この結婚は王命のようなものであったが、なかなかセラフィーネと会う機会がないまま結婚した。 初夜、彼女のことを知りたいと会話を試みるが欲望に負けてしまう。 翌朝知った事実は取り返しがつかず、クロードの頭を悩ませるがもう遅い。 クロードが抱いたのは妻のセラフィーネではなくフィリーナという女性だった。 フィリーナは自分の願いごとを叶えるために代理で子を産むことになったそうだ。 願いごとが叶う時期を待つフィリーナとその願いごとが知りたいクロードのお話です。

 怒らせてはいけない人々 ~雉も鳴かずば撃たれまいに~

美袋和仁
恋愛
 ある夜、一人の少女が婚約を解消された。根も葉もない噂による冤罪だが、事を荒立てたくない彼女は従容として婚約解消される。  しかしその背後で爆音が轟き、一人の男性が姿を見せた。彼は少女の父親。  怒らせてはならない人々に繋がる少女の婚約解消が、思わぬ展開を導きだす。  なんとなくの一気書き。御笑覧下さると幸いです。

愛されない妻は死を望む

ルー
恋愛
タイトルの通りの内容です。

冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件

水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。 以後、 寝室は強制統合 常時抱っこ移動 一秒ごとに更新される溺愛 妻を傷つける者には容赦なし宣言 甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。 さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――? 自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。 溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ

だって悪女ですもの。

とうこ
恋愛
初恋を諦め、十六歳の若さで侯爵の後妻となったルイーズ。 幼馴染にはきつい言葉を投げつけられ、かれを好きな少女たちからは悪女と噂される。 だが四年後、ルイーズの里帰りと共に訪れる大きな転機。 彼女の選択は。 小説家になろう様にも掲載予定です。

処理中です...