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毒のような婚家
「ごめんねぇ、私はどうしてもテリアス兄様が……テリーが他所の女と同衾するだなんて耐えられなかったの」
エイマーズ伯爵家の客室で散々愛し合った後で義妹アニタは括れた腰をくねらせて言う。まだどこか物足りない様子だ。己の我儘のせいで正妻エメラインに関係がバレたことを謝罪するが、口先だけである。
「良いんだよアニタはなにも気にすることはない、俺とてキミが別の男と抱き合ったりしたら烈火の如く嫉妬の炎を燃やすに違いないからな」
「んふ、愛しているわテリー」
「俺もさアニタ」
彼らはブチュリと水音を立てながら互いの唇を貪って絡む、夜明け近くまで爛れた愛を堪能したはずだが身を離すのが名残惜しいようだ。
結婚を理由に1週間ほど休暇を取ったテリアスは、妻のために時間を使う気などサラサラない。
たとえバレなくとも彼はそうしたに違いない。普段から仲睦まじい兄妹で伯爵家で通してきた。今更ゼロ距離で戯れたところで「いつものこと」と家族と侍従達には流されることだろう。
案の定、食事時や茶の時間も兄妹愛と偽った彼らはエメラインの目の前でもベタベタと触れあって過ごした。
妻エメラインは当初こそ悲しみと苛立ちを滲ませていたが、それはやがて怒りの感情だけが蓄積されていくだけに変化した。そして、嫁いでたった一日で家人らは全員あてにならないと気が付く。
兄妹たちが恋人のように振る舞っていようと見て見ぬふりを貫いていたからだ。食事を互いに食べさせ合い、庭園では抱き合って接吻している。
そこには付かず離れずに見守る侍女がかならず場にいる、だというのに誰も無関心なのだ。
義両親に至っては「良いご縁が結べて幸運だ」と言いながら正妻が蔑ろにされていようと兄妹を窘める素振りは一切しない。ようするに裕福なエメラインの生家オルドリッチ伯爵家の財を好ましく思っているだけなのだ。
彼女の家は五百年続くワイン醸造所を経営している、オルドリッチワインは国内はもちろん海外でも有名なブランドだ。
その心根の厭らしさは食事時に度々披露される。
ワイン瓶の下に残る澱は廃棄するものだが、彼ら家族はそうではなかった。デキャンタを使用せず捨てるべき雑味までも飲み干すのだ。これにはエメラインは酷く驚いたがエイマーズ家では当たり前のことらしい。
食欲が減るばかりの彼女は肉をゆっくりと切り、食べるフリをしていると義母から声がかかった。
「ところでねぇエメライン、貯蔵していたアイスワインを切らしそうなの」
エメラインは『それがどうした』と突っぱねたいのを我慢して「さようで」と答えた。
「義母様、収穫期はまだまだ先です。新酒はお待ちください」
猫額ほどしか領地を持たない婚家の懐事情を察してそう進言したのだが、義母は方眉を吊り上げた。
「あらやだ、青臭い安物ワインを秋まで待てと言うの?なんて気が利かないのかしら!」
「はぁ」
安価で美味しい新酒を進めたのだが通じなかった、ようするに貯蔵している物を寄越せと言っているのだ。彼女の家のワインはかなりの高値がつく、それだというのに身の丈に合わないものを所望する義母に嫁は呆れる。
「母上、仕方ないさ。彼女は箱入りだからね、機転がきかないのさ」
「あら、そうね。遠回しでは通じないなんてとっても愚鈍だわぁ家が大きくても駄目なのねぇ」
夫まで同調してワインが欲しいとゴネ出した、その横で下品に笑う義妹アニタはワザと口周りを汚して「拭って」と義兄にオネダリをしている。
「もちろん融通(無料)してくれるでしょ?」
「はい、融通(身内価格)しますわ、近いうち父に話を通します」
「あら、嬉しい!とっても楽しみだわ。なんなら明日にでも行ってらっしゃい!」
「……」
まだ新婚ほやほやの嫁に対して言う言葉ではない、家格が同じだからとオルドリッチ伯爵を舐め過ぎである。
エメラインは渋々の体で了承したが、これは好機と見てさっそく先触れを出すことにした。
『お父様と兄様にお願いがあったのよね、ふふふ……見てらっしゃい』
居室に戻った彼女は昏い笑顔を見せて文を認めるのだった。
エイマーズ伯爵家の客室で散々愛し合った後で義妹アニタは括れた腰をくねらせて言う。まだどこか物足りない様子だ。己の我儘のせいで正妻エメラインに関係がバレたことを謝罪するが、口先だけである。
「良いんだよアニタはなにも気にすることはない、俺とてキミが別の男と抱き合ったりしたら烈火の如く嫉妬の炎を燃やすに違いないからな」
「んふ、愛しているわテリー」
「俺もさアニタ」
彼らはブチュリと水音を立てながら互いの唇を貪って絡む、夜明け近くまで爛れた愛を堪能したはずだが身を離すのが名残惜しいようだ。
結婚を理由に1週間ほど休暇を取ったテリアスは、妻のために時間を使う気などサラサラない。
たとえバレなくとも彼はそうしたに違いない。普段から仲睦まじい兄妹で伯爵家で通してきた。今更ゼロ距離で戯れたところで「いつものこと」と家族と侍従達には流されることだろう。
案の定、食事時や茶の時間も兄妹愛と偽った彼らはエメラインの目の前でもベタベタと触れあって過ごした。
妻エメラインは当初こそ悲しみと苛立ちを滲ませていたが、それはやがて怒りの感情だけが蓄積されていくだけに変化した。そして、嫁いでたった一日で家人らは全員あてにならないと気が付く。
兄妹たちが恋人のように振る舞っていようと見て見ぬふりを貫いていたからだ。食事を互いに食べさせ合い、庭園では抱き合って接吻している。
そこには付かず離れずに見守る侍女がかならず場にいる、だというのに誰も無関心なのだ。
義両親に至っては「良いご縁が結べて幸運だ」と言いながら正妻が蔑ろにされていようと兄妹を窘める素振りは一切しない。ようするに裕福なエメラインの生家オルドリッチ伯爵家の財を好ましく思っているだけなのだ。
彼女の家は五百年続くワイン醸造所を経営している、オルドリッチワインは国内はもちろん海外でも有名なブランドだ。
その心根の厭らしさは食事時に度々披露される。
ワイン瓶の下に残る澱は廃棄するものだが、彼ら家族はそうではなかった。デキャンタを使用せず捨てるべき雑味までも飲み干すのだ。これにはエメラインは酷く驚いたがエイマーズ家では当たり前のことらしい。
食欲が減るばかりの彼女は肉をゆっくりと切り、食べるフリをしていると義母から声がかかった。
「ところでねぇエメライン、貯蔵していたアイスワインを切らしそうなの」
エメラインは『それがどうした』と突っぱねたいのを我慢して「さようで」と答えた。
「義母様、収穫期はまだまだ先です。新酒はお待ちください」
猫額ほどしか領地を持たない婚家の懐事情を察してそう進言したのだが、義母は方眉を吊り上げた。
「あらやだ、青臭い安物ワインを秋まで待てと言うの?なんて気が利かないのかしら!」
「はぁ」
安価で美味しい新酒を進めたのだが通じなかった、ようするに貯蔵している物を寄越せと言っているのだ。彼女の家のワインはかなりの高値がつく、それだというのに身の丈に合わないものを所望する義母に嫁は呆れる。
「母上、仕方ないさ。彼女は箱入りだからね、機転がきかないのさ」
「あら、そうね。遠回しでは通じないなんてとっても愚鈍だわぁ家が大きくても駄目なのねぇ」
夫まで同調してワインが欲しいとゴネ出した、その横で下品に笑う義妹アニタはワザと口周りを汚して「拭って」と義兄にオネダリをしている。
「もちろん融通(無料)してくれるでしょ?」
「はい、融通(身内価格)しますわ、近いうち父に話を通します」
「あら、嬉しい!とっても楽しみだわ。なんなら明日にでも行ってらっしゃい!」
「……」
まだ新婚ほやほやの嫁に対して言う言葉ではない、家格が同じだからとオルドリッチ伯爵を舐め過ぎである。
エメラインは渋々の体で了承したが、これは好機と見てさっそく先触れを出すことにした。
『お父様と兄様にお願いがあったのよね、ふふふ……見てらっしゃい』
居室に戻った彼女は昏い笑顔を見せて文を認めるのだった。
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