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彼女の秘密

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ペネロペ・ペンディエル公爵夫人は憤慨していた、可愛い娘から反抗されたからに他ならない。蝶よ花よと育ててきた愛娘カメリアに『大嫌い』と言われたことにショックを隠せない。

「あああああ!なんてことかしら!この私に反抗するなんて、あの子は可愛く微笑んで我儘を言っていれば良いのよ、そのように躾たのだから!」
彼女はそう言ってテーブルを叩いた、紅茶の器がカチンと音を鳴らす。それすら気に入らないのか今度は茶器を床に打ち撒けた。

兎に角、夫人はカメリアの変化に疑問を抱く、どうして急にルアナに懐き始めたのかと只それが気に入らない。ルアナは公爵家において孤立して虐げなければ気が済まないのだ。
「そうよ、あの子は私の敵なのよ!先妻が産んだ忌み子なんだから!なのに王太子の婚約者に納まって……キイー!気にらない!気に入らないわ」

いくら虐げても彼女は頭が良く、品行方正で何もかもに恵まれていた。美しく育った彼女は王家に望まれた女性なのだ。
「ああ、王太子様はカメリアちゃんを選んでくれないかしら、愛らしさなら負けていないのだから」
それとなくカメリアを煽り垂らしこむように仕向けた、だが近頃は王太子殿下に媚を売ることもしやしない。

「どうしてカメリアちゃん、貴女は私のお人形さんなのよ。可愛く我儘で媚びていれば良いのに……華やかに美しく笑っていてよ」
彼女は再びダンッとテーブルを叩いて行き場のない怒りをぶつける。


***


母の思惑を知ってか知らずか、カメリアは曲がらず真っ直ぐに生きていた。
姉を慕うその瞳はキラキラと光り、他人の意見など聞きはしない。父のペンディエル卿の言葉すら撥ね退ける。

「なあ、カメリアや、近頃お前は姉と近しいと言うではないか。どうしてなんだい?」
「あらあ、お父様ったら!姉妹が仲睦まじくして何か問題でも?」
「うぐ、しかしだな」
質問を質問で返された卿は口籠る、カメリアの目は真っ直ぐでなんの汚れもない。後ろめたいところがある卿にとってそれは眩し過ぎた。

「……まあ良い、仲良くすることは悪いわけではないからな」
「ええそうです!私はお姉様が大好きなんですから!」
彼女は無邪気な顔で微笑みそう伝えた、さすがの卿もそれ以上なにも言えず放免した。

「仲良くか……私は間違っているのか、いいや間違っているのだな」
今更ながら愛のない先妻との子を虐げてきた己に反省する兆しを見せるのだ。



「お姉様!お茶を御一緒しましょう!」
「まあ、カメリア……お母様に知れたら怒られるわよ」
先日の事を蒸し返した姉に彼女はそんなことはさせやしないと頬を膨らませる。

「ねえ、聞いてもよろしくて?どうして急に私に優しくなったの?」
「え……それはですねぇ、思い出したんです。あの日の事を」
「あの日?」
カメリアは寂し気に笑うとポツポツと告白した。




それは父と母が不在で大雨の日であった、次第に激しくなる雨と雷鳴が遠くから聞こえていた。彼女カメリアは微熱を出して寝込んでいた。侍女たちは主が不在ということで怠惰になり碌に世話もしなかった。

「おかあさま……コンコン……ゴホゴホ……苦しい」
4歳になったばかりの少女は病気で心細くて涙が止まらない。侍女を呼んでもちっとも反応してくれなかった。そのうち大泣きしてしまい益々熱が上がって行った。

その時、優しい声がして「大丈夫よ」と頭を撫でてくれる人がいた。


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