完結 歩く岩と言われた少女

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
1 / 30

禊の巫女

しおりを挟む
「お、終わりました、王妃様……」
かちこちに固まったままで動けずにいた王妃はやっとの思いでその呪縛から解き放たれた。
「はぁ、良かった。このまま醜いままかと思ったわ」
彼女はそれだけ呟くと開放に尽力した者を見返すことなく神殿を後にする。彼女を崇拝していた女官たちも似たような反応をした。

「ようございました、王妃様」
「左様ですとも、さぁ王が待ち兼ねておられます」
「ええ、そうね。早く美しく輝く私を見て戴かねば」
結局彼女たちはこの作業過程に尽力してきたその人を丸っと裏切る形で足蹴りにしたのだ。さも当たり前のように。


只ひとり、そこに放置された彼女は打ちひしがれて佇む。
「はぁ……今日もありがとうございます、女神様。今日この日もなんとか生きております」
ゴツゴツの岩のようになった己の皮膚を省みずソヒィニアはそこにいた。まるで団子虫のように人の目を避けている。

「ソフィニア、ご苦労様。こちらにおいで」
「あ……第一王子様、いけません。私のような醜女などに」
「なにを言っているの、そんなことを気して」

彼は彼女の腕を引っ張り上げると無造作に腕を絡め取った、そして「美しい見事な手さ」と言うではないか。彼は見た目で人を判断しないと何度も言う。
「キミの手は柔らかなんだよ、ほら、こうしていると安心するんだ」
「王子……あぁ、私には貴方が女神様のような気がいたします」

彼が呟く柔らかな手はゴツゴツの猥らな手であると知っている。彼女は彼に触られる度に恥ずかしい気持ちになった。羞恥を知りはにかむ様子がいじらしいのだ。
「おっといけない、思わず……ごめんよ」
「いいえ、第一王子。どうかお忘れくださいませ」

彼女が王子から離れようと身を捩る、するとそこへ無遠慮な声がやってきて彼女を辛い現実を叩き込む。
「あらやだ、まだそんな所にいらしたの?」
「……あ、マルベル、いいえお暇するところで」
「ふぅん、どうでもいいけどガルディに何かしたのなら許されないことだわ」

マルベルと呼ばれた少女はさも当たり前のように王子に擦り寄り腕を取る、それを見たソフィニアは悲し気に俯いてしまう。仮にもガルディ王子の婚約者であるソフィニアを差し置いてそのようなことを平気でやらかす。
「これ、いけないよ。ソフィニアは私の婚約者だからね」
「そんなことを言って王子ったら、期待をさせては駄目じゃなくって?ねぇ姉様ァ」
「……そうね、そうかもしれない」

打ちひしがれる彼女はそう呟いて数歩離れた、その仕草さえも何処か醜いのだと理解していた。だが、王子は続けてこういうのだ。
「人の価値は姿形ではない、其方の魂に惹かれている」
「王子……私は」

「もう、どうでも良いでしょう!さぁ、ガルディ行きましょう」
ふたりを裂くように妹が割って入る、いつもこのようにして邪魔をしてくるのだ。この日も当然のように振る舞う。
「あ、また会おうソフィニア」
「はい、ガルディ王子」

華奢なドレスを着こみ寄り添うように、王子を連れだって歩く双子の妹を見送るのはいつも彼女の仕事となっていた。いつからかこのような待遇が辺り前になったいたのだ。
「あぁ、私は……貴方様の側にいれるだけで……そうなれば良いと」
彼女はそう呟いてゴツゴツとした顔をそっとなでつけた、そのまま腕へと移動していく。やはりどこの皮膚も歪になていて醜い姿をしていた。

「また醜い姿になっているのね。どうしてこうなのかしら、まだ禊は終わっていないの?」
部屋の中央には醜いであろう己の姿が黒く反射している、その様子だけで岩の化物の姿であるとわかってしまう。

北にある大陸から風に乗り流れてくる瘴気のせいだと聞かされている、それを良しとしない王国は、唯一浄化魔法を駆使できる少女に押し付けた。
彼女は皮膚が爛れ堅い岩のようになっても従事しなければならなかった。醜女になっていく過程で家族や民に忌み嫌われるようになっても……。

「あぁ、女神様、アルシエンデ様どうか我が国を御救いください」



しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

自滅王子はやり直しでも自滅するようです(完)

みかん畑
恋愛
侯爵令嬢リリナ・カフテルには、道具のようにリリナを利用しながら身体ばかり求めてくる婚約者がいた。 貞操を守りつつ常々別れたいと思っていたリリナだが、両親の反対もあり、婚約破棄のチャンスもなく卒業記念パーティの日を迎える。 しかし、運命の日、パーティの場で突然リリナへの不満をぶちまけた婚約者の王子は、あろうことか一方的な婚約破棄を告げてきた。 王子の予想に反してあっさりと婚約破棄を了承したリリナは、自分を庇ってくれた辺境伯と共に、新天地で領地の運営に関わっていく。 そうして辺境の開発が進み、リリナの名声が高まって幸福な暮らしが続いていた矢先、今度は別れたはずの王子がリリナを求めて実力行使に訴えてきた。 けれど、それは彼にとって破滅の序曲に過ぎず―― ※8/11完結しました。 読んでくださった方に感謝。 ありがとうございます。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

悪役令嬢発溺愛幼女着

みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」  わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。  響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。  わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。  冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。  どうして。  誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

「きみは強いからひとりでも平気だよね」と婚約破棄された令嬢、本当に強かったのでモンスターを倒して生きています

猫屋ちゃき
恋愛
 侯爵令嬢イリメルは、ある日婚約者であるエーリクに「きみは強いからひとりでも平気だよね?」と婚約破棄される。彼は、平民のレーナとの真実の愛に目覚めてしまったのだという。  ショックを受けたイリメルは、強さとは何かについて考えた。そして悩んだ末、己の強さを確かめるためにモンスター討伐の旅に出ることにした。  旅の最中、イリメルはディータという剣士の青年と出会う。  彼の助けによってピンチを脱したことで、共に冒険をすることになるのだが、強さを求めるためのイリメルの旅は、やがて国家の、世界の存亡を賭けた問題へと直結していくのだった。  婚約破棄から始まる(?)パワー系令嬢の冒険と恋の物語。

最優秀な双子の妹に婚約者を奪われました。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 第2章、後日談と悪女の陰謀反撃を書くことにしました。

番いに嫌われて薬草を煎じるだけの私が、竜王様を救う唯一の希望でした

八尋
恋愛
星詠の祭りの夜。 薬師の少女ユーファは、竜王ヴァルクスと“番い”の証――光るアザを分かち合った。 けれど、竜王は彼女を拒んだ。 理由は語られず、ユーファは「薬師」として宮殿に迎えられる。 それでも、彼を想う心だけは捨てられなかった。 嫌われても、言葉すら交わせなくとも。 ユーファは薬を煎じ続けた──ただ、この国を、彼の命を守るために。 やがて明かされる、竜王を蝕む“魂の病”。 それを癒せるのは、禁忌の地に咲く幻の花。 運命に背を向けた竜王と、命を賭して愛を貫くユーファ。 魂をかけた恋の物語の結末は──。 完結済みなので定期投稿になります。 作者の考える架空世界の話しなのでご都合主義となります。 他サイトにも掲載予定。

処理中です...