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禊の巫女
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「お、終わりました、王妃様……」
かちこちに固まったままで動けずにいた王妃はやっとの思いでその呪縛から解き放たれた。
「はぁ、良かった。このまま醜いままかと思ったわ」
彼女はそれだけ呟くと開放に尽力した者を見返すことなく神殿を後にする。彼女を崇拝していた女官たちも似たような反応をした。
「ようございました、王妃様」
「左様ですとも、さぁ王が待ち兼ねておられます」
「ええ、そうね。早く美しく輝く私を見て戴かねば」
結局彼女たちはこの作業過程に尽力してきたその人を丸っと裏切る形で足蹴りにしたのだ。さも当たり前のように。
只ひとり、そこに放置された彼女は打ちひしがれて佇む。
「はぁ……今日もありがとうございます、女神様。今日この日もなんとか生きております」
ゴツゴツの岩のようになった己の皮膚を省みずソヒィニアはそこにいた。まるで団子虫のように人の目を避けている。
「ソフィニア、ご苦労様。こちらにおいで」
「あ……第一王子様、いけません。私のような醜女などに」
「なにを言っているの、そんなことを気して」
彼は彼女の腕を引っ張り上げると無造作に腕を絡め取った、そして「美しい見事な手さ」と言うではないか。彼は見た目で人を判断しないと何度も言う。
「キミの手は柔らかなんだよ、ほら、こうしていると安心するんだ」
「王子……あぁ、私には貴方が女神様のような気がいたします」
彼が呟く柔らかな手はゴツゴツの猥らな手であると知っている。彼女は彼に触られる度に恥ずかしい気持ちになった。羞恥を知りはにかむ様子がいじらしいのだ。
「おっといけない、思わず……ごめんよ」
「いいえ、第一王子。どうかお忘れくださいませ」
彼女が王子から離れようと身を捩る、するとそこへ無遠慮な声がやってきて彼女を辛い現実を叩き込む。
「あらやだ、まだそんな所にいらしたの?」
「……あ、マルベル、いいえお暇するところで」
「ふぅん、どうでもいいけどガルディに何かしたのなら許されないことだわ」
マルベルと呼ばれた少女はさも当たり前のように王子に擦り寄り腕を取る、それを見たソフィニアは悲し気に俯いてしまう。仮にもガルディ王子の婚約者であるソフィニアを差し置いてそのようなことを平気でやらかす。
「これ、いけないよ。ソフィニアは私の婚約者だからね」
「そんなことを言って王子ったら、期待をさせては駄目じゃなくって?ねぇ姉様ァ」
「……そうね、そうかもしれない」
打ちひしがれる彼女はそう呟いて数歩離れた、その仕草さえも何処か醜いのだと理解していた。だが、王子は続けてこういうのだ。
「人の価値は姿形ではない、其方の魂に惹かれている」
「王子……私は」
「もう、どうでも良いでしょう!さぁ、ガルディ行きましょう」
ふたりを裂くように妹が割って入る、いつもこのようにして邪魔をしてくるのだ。この日も当然のように振る舞う。
「あ、また会おうソフィニア」
「はい、ガルディ王子」
華奢なドレスを着こみ寄り添うように、王子を連れだって歩く双子の妹を見送るのはいつも彼女の仕事となっていた。いつからかこのような待遇が辺り前になったいたのだ。
「あぁ、私は……貴方様の側にいれるだけで……そうなれば良いと」
彼女はそう呟いてゴツゴツとした顔をそっとなでつけた、そのまま腕へと移動していく。やはりどこの皮膚も歪になていて醜い姿をしていた。
「また醜い姿になっているのね。どうしてこうなのかしら、まだ禊は終わっていないの?」
部屋の中央には醜いであろう己の姿が黒く反射している、その様子だけで岩の化物の姿であるとわかってしまう。
北にある大陸から風に乗り流れてくる瘴気のせいだと聞かされている、それを良しとしない王国は、唯一浄化魔法を駆使できる少女に押し付けた。
彼女は皮膚が爛れ堅い岩のようになっても従事しなければならなかった。醜女になっていく過程で家族や民に忌み嫌われるようになっても……。
「あぁ、女神様、アルシエンデ様どうか我が国を御救いください」
かちこちに固まったままで動けずにいた王妃はやっとの思いでその呪縛から解き放たれた。
「はぁ、良かった。このまま醜いままかと思ったわ」
彼女はそれだけ呟くと開放に尽力した者を見返すことなく神殿を後にする。彼女を崇拝していた女官たちも似たような反応をした。
「ようございました、王妃様」
「左様ですとも、さぁ王が待ち兼ねておられます」
「ええ、そうね。早く美しく輝く私を見て戴かねば」
結局彼女たちはこの作業過程に尽力してきたその人を丸っと裏切る形で足蹴りにしたのだ。さも当たり前のように。
只ひとり、そこに放置された彼女は打ちひしがれて佇む。
「はぁ……今日もありがとうございます、女神様。今日この日もなんとか生きております」
ゴツゴツの岩のようになった己の皮膚を省みずソヒィニアはそこにいた。まるで団子虫のように人の目を避けている。
「ソフィニア、ご苦労様。こちらにおいで」
「あ……第一王子様、いけません。私のような醜女などに」
「なにを言っているの、そんなことを気して」
彼は彼女の腕を引っ張り上げると無造作に腕を絡め取った、そして「美しい見事な手さ」と言うではないか。彼は見た目で人を判断しないと何度も言う。
「キミの手は柔らかなんだよ、ほら、こうしていると安心するんだ」
「王子……あぁ、私には貴方が女神様のような気がいたします」
彼が呟く柔らかな手はゴツゴツの猥らな手であると知っている。彼女は彼に触られる度に恥ずかしい気持ちになった。羞恥を知りはにかむ様子がいじらしいのだ。
「おっといけない、思わず……ごめんよ」
「いいえ、第一王子。どうかお忘れくださいませ」
彼女が王子から離れようと身を捩る、するとそこへ無遠慮な声がやってきて彼女を辛い現実を叩き込む。
「あらやだ、まだそんな所にいらしたの?」
「……あ、マルベル、いいえお暇するところで」
「ふぅん、どうでもいいけどガルディに何かしたのなら許されないことだわ」
マルベルと呼ばれた少女はさも当たり前のように王子に擦り寄り腕を取る、それを見たソフィニアは悲し気に俯いてしまう。仮にもガルディ王子の婚約者であるソフィニアを差し置いてそのようなことを平気でやらかす。
「これ、いけないよ。ソフィニアは私の婚約者だからね」
「そんなことを言って王子ったら、期待をさせては駄目じゃなくって?ねぇ姉様ァ」
「……そうね、そうかもしれない」
打ちひしがれる彼女はそう呟いて数歩離れた、その仕草さえも何処か醜いのだと理解していた。だが、王子は続けてこういうのだ。
「人の価値は姿形ではない、其方の魂に惹かれている」
「王子……私は」
「もう、どうでも良いでしょう!さぁ、ガルディ行きましょう」
ふたりを裂くように妹が割って入る、いつもこのようにして邪魔をしてくるのだ。この日も当然のように振る舞う。
「あ、また会おうソフィニア」
「はい、ガルディ王子」
華奢なドレスを着こみ寄り添うように、王子を連れだって歩く双子の妹を見送るのはいつも彼女の仕事となっていた。いつからかこのような待遇が辺り前になったいたのだ。
「あぁ、私は……貴方様の側にいれるだけで……そうなれば良いと」
彼女はそう呟いてゴツゴツとした顔をそっとなでつけた、そのまま腕へと移動していく。やはりどこの皮膚も歪になていて醜い姿をしていた。
「また醜い姿になっているのね。どうしてこうなのかしら、まだ禊は終わっていないの?」
部屋の中央には醜いであろう己の姿が黒く反射している、その様子だけで岩の化物の姿であるとわかってしまう。
北にある大陸から風に乗り流れてくる瘴気のせいだと聞かされている、それを良しとしない王国は、唯一浄化魔法を駆使できる少女に押し付けた。
彼女は皮膚が爛れ堅い岩のようになっても従事しなければならなかった。醜女になっていく過程で家族や民に忌み嫌われるようになっても……。
「あぁ、女神様、アルシエンデ様どうか我が国を御救いください」
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