完結 歩く岩と言われた少女

音爽(ネソウ)

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消える指輪

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「ノチェ、こちらはどうかな。キミの蜂蜜色の髪に似合いそうだ」
「いいや、ノチェ。こっちのリボンのほうが愛らしいと思うのだけど」
次々とアクセサリーをとっかえひっかえに宛がおうとする彼らに、ノチェは引き気味で対応していた。

「あ、あのぉ……ご指導は嬉しいのですが、私が欲しいのはそういう煌びやかなものでは」
今現在において彼女は求めるものは戦闘用の補助になるアクセサリーであって、見た目は度外視なのだ。装具店において装飾品もおいてあるが、それは冒険者たちが家族や恋人に贈るための土産用のものである。
「いやいや、小物は可愛らしいものが良いと思うんだ。これなんてどうだろう」
「はぁ」
「待て待て!それならばこちらはどうだ、猫を形どったものだぞ」
「は……あ」

一歩も引かないティアとマードことマガワード王子はやいやいと喧しくノチェに付いてくる。うんざり気味の彼女は右から左へと聞き流す。そうでもしないと決まりそうもないからだ。
「すみません、防御魔法に特化したものはどれですか?できれば増幅できる機能があれば」
「はい、そうですね。こちらなどいかがでしょうか、大幅増幅であるならば金地に紫の石がお勧めです」
おっとりした感じの男子店員に聞いているノチェに愕然とするふたりである。

「うう~ん、困りました。決定打に欠けますね」
「ならば、こちらはどうでしょう。アルスルの指輪です、彫金は不格好ですが中々な機能があるのです」
「中々な機能?それはどういう……」
すると店員はニッコリと微笑み「姿を消す機能が備わっている」と言うではないか。

「姿を消すですって!それは凄いわ!」
「はい、ですが伝承のアルスルマントの紛い物ですので、一日に一度切りのものです。翌日には回復します」
「なるほど、えっと効果について聞いても?」
「はい、対峙した魔物の目を眩ます効果がありまして――」
すっかり蚊帳の外になってしまった二人はがっくりと肩を落とした。


「はぁ~良い買い物をしたわ、あの店員さんはいろんな事を知っていて頼もしいわ」
それを聞いた二人はギョッとして振りかえる、ただでさえライバルが増えてヤキモキしている所へとんだ伏兵がいたものだ。
「そ、それはどういう意味ですか!」
「そうだぞ、聞き捨てならない!」
「……どうしてそんなに必死なんですか。意味がわからない」
ちなみに王子からのプロポーズは熱病から回復したばかりで混乱されていた。つまり無かったことにされている。

***


城へ戻ったマガワード殿下は晩餐の席において、興奮気味に市井の生活について語っていた。
「いやぁ、目から鱗の事だらけで自分は若輩ものなのだと思うことしきりです」
一時は目を覚ますことはないだろうと思っていたテンツフィール王は、そんな我が子を眩しそうに見て「うんうん」と嬉しそうに頷く。

「はぁ、こんなに楽しそうにしかも頼もしいことを……こんなことならば王籍を抜くことを許可しなければ良かったわ」
「なにをいいます、母上。第一王子の兄君がいるではないですか。なんなら優秀な弟たちも」
「それとこれとは違うんです~!まったく貴方ときたら」
母親にして王妃はプリプリと怒るが、当人はどこ吹く風だ。第三、第四までいる王子たちは揃って苦笑していた。



夜が更けた頃。
第二王子マガワード王子が就寝のために居室に戻り、寝具に沈んだ。夜通し世話をする遅番の侍女と護衛騎士を除外した者以外は誰も通らない。時折、警邏巡回の騎士が1時間に一度だけ徘徊しているだけである。
その僅かなタイミングで動く者がいた……。

護衛騎士が一人でドアの前に立っていた、だがその者の目は濁っていて何も映さない。意図したわけではなくただ俯瞰で見ていただけなのだ。
刹那こそりと現れたのは静かな音だけだ、こそこそと僅かに歩く音だけ。
ドアが僅かに開いた、ギョッとした騎士は注視した。だが、なにも無い。何者も通った形跡はないのだ。

「気のせいか……?いやしかし、確認してみようか」
寝室のドアは二重構造になっており、内部のドアの前には侍女が控えている。ホッしたのもつかぬ間で侍女はうつらうつらと船を漕いでいてた。
「おい、起きろ。いましがた何か通らなかったか?」
「え!?あっはい!別になにもございませんが」
寝ぼけ眼の侍女に舌打ちしてから騎士は内部の確認へ移る、広い寝室には天蓋付きのベッドが一台だけだ。

取り立てて変わった様子もない、就寝中の殿下を起こすべきか悩んだが、静に聞こえる寝息に起こすことは躊躇われる。一応は天蓋を開き、カーテンを確かめた。だが、やはり可笑しな点はみつからず肩を竦めて退散することにした。
「眠るなよ、ではな」
「は、はい。ご苦労様です」侍女に警告を落として騎士は再びドアの外に立つ。

再び静寂を取り戻した寝室は、しばらくしてから微かな衣擦れの音が揺らぐ。スースーと擦るように確実に寝具に横たわる主に向かっている。そして、天蓋の衣が揺れた。
物言わぬ何者かが小瓶を取り出して揺らめく、そしてその小瓶から怪しい液体が一筋零れ落ちた。

「ふふ、王子……私だけの王子……あぁ一度は失敗したけれど、今度こそは間違いない。またあの小娘がなにかしても二度と起きない呪いをしたわ」
愉悦に浸たるその人物は誰にも覚られないほど小さく呟いた、ただそこに眠る者だったならば別だが。

「そうか、それは残念。だってこの度は飲んでいないからな」
「な!?」
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