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愛情のない親子

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「妹君は恐らくキミを国へ連れ戻しにやってきた、副産物としてテビィル公爵令息と婚約をしたようだ。婚約発表の夜会の招待状が届いたよ。呆れた者さ」
「な、なんで今更私を……また利用されるの?そんな事、私は……」
酷く青い顔をしたノチェは震え上がり、絶対に嫌だと言って泣き腫らす。

「そんな身勝手なことはさせやしない!ボクが護るよ!」
「俺だってそうだ!ノチェは大切な……愛しい人だから絶対に渡しはしない!」
「まぁ、ティア……」
彼女は惚けて、涙に濡れた目を輝かせ「嬉しい」と呟く。マードの愛の告白の時はとは明らかに違う反応だ。
ムッとしたマードは「僕だって愛している!」と付け足す。

「んん……えーと兎に角だ、ノチェは彼女らに渡さないそれは揺るぎのないことだ」
「え、ええ。ありがとうマード様」
彼女は涙を拭い気を取り直して礼をした、どこかぎこちないが致し方ない。マードは今度は気にせずに彼女の両手を握りしめて「必ず護るよ愛しい姫」と宣った。麗しい見目をフル活用して。
これには流石のノチェも真っ赤になってしまう。

「ちょいちょい!なんだお前は!いちいちと手が早いな!王族ってのはそういうもんなのか?」
割って入るティアは二人を引き剥がしてプリプリと怒った、自分ですら手を握ったことがないからだ。
「王族っていつから知ってた?まぁ、もうすぐ籍は抜いちゃうけどさ」
「パウドが見破ったよ、たくっ市井に下るのかお前」
「いや、身分は貴族だが……そうか平民に落ちてしまえばノチェと対等だな」
「んな!?てめぇ!許さないぞ」

くるりとノチェに向き合う彼はシレっと言う。
「わが愛は常しえに、これは揺るぎのないことだよ愛しい姫」
「え……あわ……私は」
「やーめーろー!」


***

婚約発表の夜会の準備に追われるテビィル公爵家は、慌ただしく侍従達が駆け回っていた。それを尻目に余裕顔のマルベルは生家からの返事を開いてほくそ笑む。
「ふふ、お父様らしいこと……亡命してくるなんてね。母の容態が悪いのは知っていたけれど思い切りが良いわ」
名目上は婚約の祝いで駆けつけるらしい、近頃は国境砦では出奔を嫌う国王が牽制して通行証を発付しなくなっている。
幸いに外交目的で来ている彼女の伝手でなんとか入国できた。しかし、裏切りを知った国王はなんと言って抗議してくるのか見ものである。

「マルベル、わが愛しいキミ。ドレスの選別はできたのかい?」
「えぇ、もちろんよグアトロ。ほら、見て!ちなみに宝石は我が家から持参するの、きっと驚くわ」
「そうか、それは楽しみだ」
鉱山で栄えていると聞き及んでいたマルベルの生家のことを彼は知っていた。彼女の身に着けるものの全てがその賜物であるということも。
当初は渋っていた彼の両親も「鉱山を有する富豪」と聞いて、あっさりと婚約の許可を出した。互いに旨味を味わうためならばいくらでも手を結ぶ。

「約一年後にはキミは私だけのものさ」
「ふふふ、そうね。待ち遠しいわ」
二人は熱い口付けを交わして夢見心地だ、裏にある思惑を見ない振りするのはさすが貴族である。



そして、三週間後。テビィル公爵邸前。
「さて、舞台は整った……行こうか」
「ええ」
着飾ったノチェは震える体を叱咤してそこに立っていた。一矢報いるために。マルベルの花舞台は彼女の戦いの場でもある。
「だいじょうぶ?ノチェ、気分が悪くなったらいうんだぞ」
「わかっているわ、ティア私は大丈夫よ」
この日はティアも特別に参加していた、庶民ではなくいち貴族として身分を偽ってのことだ。

「僕の従兄という体で付き合ってくれよ。ティア、粗雑な対応は駄目だ」
「へいへい、わかっているさ」
黒髪を撫でつけた彼は紳士然としていて、とても平民のようには見えない。加えて甘いマスクは余計に貴族らしくみせていた。
「素敵だわ、ティア。見惚れてしまう」
「そ、そうか?えへへ……慣れない服は着心地悪いけどな」
「んん!二人とも行くぞ!」

会場は煌びやかにして厳かな雰囲気だ、妹のマルベルならば絢爛豪華にして当然といえる。
「どこか、ぎらついていて下品な気がする……」
こういう席に慣れているマードことマガワード王子は早速と何かを嗅ぎつけたらしい。金をふんだんに使った装飾品がやけに目立つのだ。

「言われてみればなるほど、確かにギラついていやがる」
「……はぁ、あの子ったら」
夜会について早々に感想を述べる面々はかなり辛辣だ、無遠慮に飾りについてイチャモンを付けていた。他の貴族も同様らしく、なんて品の無いなどと口さがない。
当人はというと早速お出ましになり、賓客に対して愛想笑いを浮かべていた。マルベルの胸元には大粒のアレキサンドライトが煌めきコレルアーニ侯爵家の財を見せつけていた。

「お、お父様……」
マルベルに近しい所にかつての父親が立っていた、少々老け込んではいたが気障ったらしい面相は相変わらずだ。
だが、相手は知ってか知らずか全くこちらを向きはしない。
「あぁそうか、岩お化けの姿しか見せていないもの」
二人は親子としての縁は切れており、それ以前に情さえ霧散していた。彼女は断罪にこの場を選んだが、名乗りをあげるのは如何なものかと考えた。





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